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黒曜石のイヤリング

 学院の生徒が見るにしては膨大な量を誇る学院の図書館。


 何度来ても相変わらずここだけは日本と変わらないような気がすると、ヘレンは回りを見渡しながら目的のところまで足を進める。


(あるかしら?)

 と言うよりはあって欲しい。


 まさかあの時からアクシルは自分(アクシルルート)に入ることが無いように考え、処分などしていないといいとヘレンは心のなかで必死に祈る。


(私にはラスボス悪役令嬢という1つの運命しかないけど……)

 アクシルには色んな運命(選択肢)がある。


 かれにとっては選ばれて好感度が高くても運命。

 逆に低くても運命となる。

 だから、きっと運命の強制力などで本を処分出来ないなどと言うことはないかもしれない。


(ある意味羨ましいわよね)


 目的の場所につくとヘレンは棚を探しだす。

「えーっと……確か100%……」

 ひっひっひ……

「ふー?」

「!?」


 突然声がヘレンの背後から聞こえ、驚いたヘレンがバッと振り向けば――


「アクシル……様」


 ヘレンの背後にはにこやかに微笑んだアクシルが立っていた。

「やあ、ヘレンちゃん。何かお探しで?」

 その言葉にヘレンの眉はピクリと反応する。多分ここで何を探しているのか彼に知られてはいけない。


「……別に。ただ、本か読みたくなって来ただけです」

 放っておいてください。とヘレンはアクシルとの会話を切り上げて立ち去ろうとすれば、その退路はアクシルによって塞がれる。


「そう?それなら僕もヘレンちゃんが読みたい本探しを手伝うよ?」


 にっこり笑いかけてくるアクシルに、ヘレンはコイツと内心舌打ちをする。

(……この反応はわかっててしている)

「いえ、読みたいものはなかったみたいだしそろそろお部屋に戻りますわ。退いてくださいますか?」

(これ以上ここにいると嫌な予感がする……)


 ヘレンの脳内で警戒音が鳴り響く。

 しかし、そんなヘレンの心情などお構いなしでアクシルはヘレンに近づくと、あっという間に本棚とアクシルでヘレンの身体を閉じ込める。

「なっ!退いて!退いてください!」

 あわててアクシルを退けようと押すヘレンの両腕をアクシルは力いっぱいに掴むとそのまま本棚へ押し付けた。

「っ!……痛いのですけど」

 男の力に令嬢として育っているヘレンが叶うわけもなく。

 ギリリとさらに強く本棚へ押し付けられ、ヘレンは思わず小さく悲鳴をあげれば、アクシルがそっとヘレンの耳元に顔を近づけささやいてきた。


「ああ、ごめんねヘレンちゃん。でも逃げないでくれる?」

 そしたら痛くしないから。

 そして、彼は続けてこうも言う。

「あとね、ヘレンちゃんが()()()()()をしなければ、俺はヘレンちゃんがちゃんとラスボス悪役令嬢をしてくれれば最悪なエンドを回避させてあげるって言ったよね?」

 耳元で話す彼の声は冷たい。

「……っ。それこそ余計なことです。私は自分で何とかしますし、貴方のいうラスボス悪役令嬢になんてなりません。それに、貴方を思うカトリシア様の気持ちはどう――」

「あーあ」


 突然ヘレンの声を遮りアクシルは大きな音を出したため、ヘレンはビクリと身体を震わせる。

 ヘレンの耳元から少し離れたアクシルの顔は笑みなどなく、瞳は黒く濁っている。

(怖い……)

 思わずヘレンがそう思う程、アクシルの顔からは表情がなくなっていた。


「だから余計なことはどうでもいいんだって。折角君が苦しまないエンドを考えてたんだけど、やっぱりだめだね」

 そういってアクシルは少しだけ口角を挙げる。

「君はなかなか協力もしてくれないし、それどころか余計なことばっかりで迷惑だ」


 アクシルはヘレンを押さえていない空いている片手で自身のポケットを探ると何かを取り出し、ヘレンの耳をそっとさわった。

 その瞬間、ヘレンの耳に一瞬だけ鋭い痛みが走る。


(っ!何を!?)


 ヘレンが痛みで顔を歪ませるとアクシルは興味無さそうに呟く。

「君が悪いんだよ。全くめんどくさいな」

 そう呟きさらに呪文を詠唱する。


(これ、は……)


 アクシルの詠唱に合わせてゆっくり、ゆっくりとヘレンの頭の中で黒い霞がかかるような感じになっていく。

「意識……そ…う………」


 黒いもやのような感じがヘレンの思考回路を邪魔する。



 身体が怠い。

 ……なんだろう?


 ヘレンがボーッとし始めると、アクシルの身体は離れいつの間にかヘレンの腕も解放されていた。


(私は、ここで……なにを?)


 ヘレンは思わずその場でへたりこむと、アクシルがそっと手を差し出して来た。


「大丈夫ですか?()()()()()()?」

 その顔は先程の様な無表情ではなく、心配そうに覗き込むような表情に変わっているも今のヘレンには気づけない。


 何故なら、何故ここにいるのか、自分は何をしていたのかヘレンには全く思い出せなかったから。アクシルの顔をみてかわりに思い出したのは違うこと。


「あら、貴方は平民(カトリシア)に付きまとわれているお兄様でしたかしら?」

(平民?誰が?)


「やめてくださいライラット嬢。妹は平民なんかじゃない、ちゃんとしたラディ侯爵家の令嬢です」


(うん、知ってる。だけど、なんか……わかんない。私は何してるんだろう?)

 黒い霞は相変わらずヘレンの思考を邪魔してくる。

 唯一ハッキリとわかるのはカトリシアを気にくわないと言う思いだけ。どうしてだか、とにかく彼女を罵らなきゃ行けない気がするのだ。


「ふん!所詮平民は平民よ。貴方もルイス様も本当はごみのような平民にまとわりつかれて困ってらっしゃるのでしょう?」

(殿下?ごみ?)


 自分でも驚く様な人を卑下する言葉や、ルイスの名前にヘレンの頭はズキズキするが、その理由はわからない。でも面白くない気持ちは不思議と涌き出てくる。


(何なのこの感情?)

 自分の発言と思いが噛み合っていない気がしてヘレンは小さく首をかしげる。


「ライラット嬢!それ以上妹を貶める様な事を言うのであれば、俺は殿下に貴女について進言させて貰う!」


 目の前のアクシルの表情は再び冷たいものに変わる。

(あれ?その顔……どこかで見た?)


「勝手にすればいいわ、ルイス様もそんな戯れ言信じないでしょうから」

(また殿下?なぜ?)


 若干混乱しつつも、ふんと鼻息荒くヘレンはアクシルに背を向け自分の部屋へと歩みを進める。そんなヘレンの様子を背後のアクシルが口角をあげ、目を細めていたのを知らないままで。








 部屋に行く道中もヘレンの頭の中は良くわからない気持ちと、やはりカトリシアを苛めなくては行けない気持ちで混乱していた。


(私、そもそもなんで図書館に行ったんだっけ?えっと……)

 確か、何かを探しに……

「図書館だから、きっと本を探しに行ったのよね?」


 でも、何の?

 それに何故アクシルが居たのだろうか?

 そして、何故彼にあんなことを言ったのだろうか?


 うーんと首を捻るも全く思い付かないヘレンはため息をつきつつ頬に手を添えると有ることに気づいた。

「ん?あれ?私イヤリングなんてしてたかしら?」


 部屋に戻るとヘレンは鏡を覗き込む。


 ヘレンの耳には小さな黒曜石のイヤリングがされていた。

「私、こんなのあったっけ?」

(小さいし地味だわ)

 外して良く見ようとヘレンがイヤリングに手を伸ばせば、一瞬だけ鋭い痛みがヘレンの耳に走る。


(!?)


「ん?何だったの今の?」

 まあ、いいわとヘレンは鏡から離れる。

 そこにはもうすっかりイヤリングを気にする素振りはない。


「なんか、良くわからないけど変な気分だわ」


 ベットにストンと腰かけるとヘレンは窓の外をみた。

 先程まで快晴だったそらは今にも降りだしそうな雨雲で覆われていた。


「……スッキリしないわね」


 怠い。


 ヘレンはそっとベッドに倒れるとそのまま深く目蓋を閉じたのだった。

不定期すいません!


アクシルが不快なこと連発しとりますが、おおらかな目で何卒見ててくださいね。



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