ストーリー
「やってもうた……」
ヘレンは一人部屋で頭を抱えていた。
確かに、カトリシアの出現に動揺はしていた。カトリシアのあの物言いにもカチンときたのは認める。
しかし……これでヒロインに対して悪役を披露するのは2回目だ。
「あれじゃあ、完全に見事な悪役令嬢してるって言ってるものじゃない!!いや、悪役だけど!」
なんだったらラスボスよ!
というよりアクシルは何を企んでるのよ!
「わかんない!」
鼻息荒くヘレンは自室の鏡の前で仁王立ちすると、先ほどカトリシアを前にしてしたように冷ややかな目つきになり、鏡の自分を見下すように自身の言葉をまねる。
「貴女のお兄様は止めましょう。ただし、貴女が私を裏切ることは許さない――って、どうやってアクシルをとめるのよおおお!ばか!私は馬鹿なのね!ええええ、私は馬鹿よ!」
あれだけ近づかず、自分はキノコのように運命から忘れ去られるようにカビのように、キノコのように生きようと決めていたのに!
バスンと勢いよくヘレンはベッドにダイブして転がりまわった。
はあ……と小さくため息を吐けば、小さいはずなのにヘレン以外いない部屋にはその音が響きわたる。
「いやだってさ……」
『運命は必ずひとつだけなのでしょうか?』
(一つじゃない、かも……しれない?)
デュランの言葉が過る。
でも、もしかしたらこれは運命を変えるチャンスかもしれないと少しでもおもってしまったのも事実だ。
それにゲームにはこんなストーリーはなかったはずだ。
ゲームではアクシルルートの場合ヘレンは、カトリシアにラディ家に拾われた平民のくせに貴族面するなと言いがかりをつけていたし、アクシルはひたすらカトリシアを庇うだけで間違ってもルイスとくっつけようと等していない。
ルイスとのアクシルの接点はカトリシアを排除しようとするヘレンについて、アクシルがルイスにヘレンの行いを止めるように助言することだけだ。ちなみにその助言で、ルイスとヘレンは溝を深めてしまい、それに怒ったヘレンがアクシルとカトリシアにラスボスとして立ちはだかるのだ。
完全な八つ当たり設定でヘレンはラスボスとなる。
そしてゲームではその勝負に勝つか、負けるかも大事だが、なによりもアクシルに対するヒロインの好感度でその後のストーリー展開は変わっていく。
(今のままなら好感度マックスに近いかしら?)
それならと、うららの記憶を久々に探る。
好感度マックス★アクシルルート。
断罪イベントはアクシルの卒業の日に行われる。
勝負になった際アクシルとヒロインの勝ちならば、二人はハッピーエンドとなる。ヘレンは二人に勝負を挑んだことがルイスとの婚約破棄の決定打になり、挙げ句呆れたルイスに辺境の爺の後妻に追いやられる。ヘレンが勝った場合はアクシルへの好感度が少し下がり、二人はノーマルエンド、いわゆる友情エンドになってしまう。ただし、ヘレンの学院追放は変わりない。
そして好感度が低い場合は話が変わってくる。
マックスルートのようにやはり勝負が発生してしまうのは変わらない。しかし、その勝負に勝とうが負けようが、一度ヘレンは覚えてなさいと捨て台詞を吐き引き下がるのだ。
そして最終断罪はヘレンやカトリシア達の卒業式ともちこされ、今度は好感度の一番高いキャラとカトリシアの2人と対戦という2段仕込みに変化するのだ。
(それに、この間のデュラン様の言葉を合わせれば、もし万が一のアクシルルートで負けたとしても……)
『もう少し殿下のお心を信じて―』
信じていいのだろうか?
信じてルイスにお願いすれば少なくとも辺境のジジイの後妻は免れるだろうか。せめて平民位にはして貰えるだろうか??
ヘレンは思わずうつむいてしまう。
今まで散々婚約破棄をかけて勝負してきたというのに。
なんだったら、いつぞやは殿下の腹部に拳までふるってしまったというのに。
(それこそ虫のいい話だわ)
私は、私の破滅だけを回避したくて殿下を避けていたとヘレンは思い直す。
それに、もしかしたらアクシルルートと見せかけて、やっぱりルイスルートかもしれない可能性だってある。
「アクシルを慕ってるとカトリシア様は言っていたけれど、兄として慕っているのかもしれないし。それなら好感度はマックスじゃないからね」
異性としては無難攻略キャラでこそあるが、ルイスだってなかなかのイケメンだし。無難攻略なだけあって好感度もそこそこ上げやすい設定だったはずだ。カトリシアだってかわいいし、お互い惹かれていないわけがないわとヘレンは一人ごちる。
何より、今までの二人が寄り添うシーンを見せつけられてきているのだ。
もしかしたらカトリシアにその気がなくても、ルイスはもう好感度がマックスになっているかもしれない。
「どちらにしてもとりあえずは16歳の学園生活を乗り切らないとだわ」
アクシルは妹のため、カトリシアのために姫にすると言っていた。
カトリシアが姫ルートになれる道はただ一つ。
ルイスルートのみ。
(それにヒロインからの好感度が高かったとしてもそう簡単に彼がルイスルートをあきらめて、アクシルルートを認めて入るとは限らないわね)
だからカトリシアは、アクシルが何かを企てていると言っていた。
「うーーー。私はどうすればアクシルを止めることができるのよお!もう、いっそのこと、カトリシアがアクシルを完全に落としちゃえばいいのにー!って、うわぁ!」
鈍い音とともに本棚が揺れて本が落ちる。
ヘレンが自身の黒髪を掻きむしって頭を振ると軽くめまいを起こし、近くの本棚に突進してしまったのだ。
加えて運の悪いことに、日頃本を適当に重ねておいていたがゆえに、本は見事に全てヘレンの頭に降ってきたのだ。
「いったー。なんで、本が降ってくるのよ!なんで本を重ねておくのよ!」
自分が悪いのにヘレンは本に対して怒りをぶつけながら、本棚に戻し始めたその時、うららの記憶がヘレンの脳内によぎる。
一瞬だけ、ゲームに出てくる本。
奇抜な題名。
いかがわしい内容。
しかし、その本を見たヒロインは振り向いてほしい兄にあえてそれを見せるのだ。
その本を見て、顔を真っ赤にして妹に注意する兄に対してヒロインはこういう。
『私は、お兄様……いいえ、アクシル・ラディ様のお心をナンパしたいんです』と。そうしてアクシルは兄としてではなく、一人の女性として見ないように自身の心にセーブしていた枷を外しカトリシアを妹ではなく一人の女性とみてルートに入っていくのだ。
そこまで思い出し、ヘレンは目を見開く。
「あ、あ、あれは!あれはアクシルルート好感度マックスにする鍵だったのよ!!」
あの日、あの時ヘレンが借りようとしていたあの本。
あの時アクシルに会ってしまい、アクシルの不穏な発言等のせいですっかり頭から抜け落ちてしまっていた。
(あの時アクシルが借りていってしまったが……)
あれから数年たってるし、もしかしたらあの時はたまたまアクシルも見たくて借りていたのかもしれない。
彼だって健全な男の子だったのかもしれないし。
そうであってほしい。
いや、むしろそうだろと若干興奮で混乱した頭のままヘレンは思い立ったら吉日と、学院の図書館へ急いだ。
不定期すいません
カモミール再びでヘレンがあと2年あるーを3年に変更しました。
前話後半を少し変えました。
作者ポンコツなため設定変更があって、すいません。
そして、やっと出せた。
あの本の価値。
そう、100パーセントナンパ成功読本です。
やっと使えた小道具伏線。
無事回収できて、ホットしてます。




