仮装舞踏会
※ヘレンsideからの途中ルイスsideに切り替わります。
「……」
「……」
痛い。
先ほどから飛んでくる視線が痛くて思わず目を逸らせば小さくため息をつかれてしまった。
「あのね、ヘンちゃん」
こちらにかけられた声がいつもより低い。これは、もしかしなくても、おそらく引いているのだろう。
「……ハイ」
本来ならば返事など返さなくてもいいのだろうけれど、突き刺さる視線が痛すぎて思わず返事をしてしまった。
「確かに、僕が仮装舞踏会という招待状は渡しましたよ」
「ハイ」
「けれど、物事には限度っていうものがあると思いませんか?」
「……ハイ」
なぜ途中で敬語なのだろうかと密かに思ったが、声に出せば突き刺さるような視線はきっと射貫くような視線に変わってしまう恐れがある。だから下手に言葉を出さないほうが無難だろう。そうヘレンが思っていれば、再びため息が聞こえてきた。
「大体どこからそんなキノコの着ぐるみ買ってきたの?」
もはやヘレンを光の失った冷たい目で見つめるサータスはため息が入り混じり、なおかつ低い声になっている。
「街のお店屋さんにありました」
「そう。でも普通買わないよね、普通。ましてや君は王子の婚約者であって、侯爵令嬢でもあるんだよ?普通買わないよね、そんなキノコ」
いや、売っていたから買ったんですが……。
(しかも意外に高かった)
心で反論だけしておく。ただし言葉に出さない。心の声として漏れないように口はキグルミの中でもしっかりおさえて。
それなのに徐々にサータスの視線は射貫くようになってきた。
(だって、勝負っていわれたらなんか負けられないんだもの……)
ルイスに持ちかけられた勝負。
それは仮装舞踏会でやろうと言われたのだ。
しかも『かくれんぼ』で勝負だ。
パーティー中にどちらかを見つけた方が勝ち。見つけられた方は敗けだ。
ルイスが勝てばもう殿下を含み、よそよそしく呼ぶのは禁止になる。ヘレンが勝てば……どちらにしても内容としてはどうでもいいものなのだが、やはり勝負となのつくものには負けたくないのが心情だ。
「……これは、ルイス様との勝負なんです」
もはやこれ以上サータスの視線に耐えられないとヘレンは半泣きでサータスを見つめてみるが、サータスからは容赦のない視線と言葉が返ってきた。
「ヘンちゃん。僕もヘンちゃんの衣装一応用意していたからそれに着替えて。今すぐ」
「いや、これは勝負のために……」
「今すぐ着替えて」
「……ハイ」
結局、勝負をする前に勝負に負けてしまった気がする。
(なんで私こんな目に合うのかしら?いや、そもそも何故私の衣装用意してたのかしら?)
ヘレンはサータスに見られないようこっそりため息をつきながら、サータスの使用人に引きずってもらい会場の入り口を後にした。キノコに足はない。そのため移動も人に手伝ってもらわなければならない。
少し前に自室にてヘレンは気合を入れてキノコの着ぐるみに袖を通していた。
鏡の前に立てばそこには巨大なキノコの着ぐるみが映る。そこから眼だけがきらりと見える。
「うん。完璧。これであとは姿消しの魔法をかければもはや会場のキノコにしか見えないわ!」
まさか間違っても仮にも王子の未だ婚約者で侯爵令嬢が、こんなキノコに化けるとは誰も思わないだろう。それに、別に婚約者として彼の隣に立つわけでもないのだから着ぐるみでも大丈夫だろう。
(これでこの勝負は私がもらったも同然よ!)
何よりも、どんなにうららの記憶を探っても角度を変えて考えても今回はゲームに関係するようなイベントは無かったような気がする。
ただひとつ、問題なのは……
ヘレンは着ぐるみを着て初めてその問題に気付くことになった。なぜ買ったときに気付かなかったのか。
リアルを追及されたキノコには足が無かったのだ。
足がなければ歩けない。
仕方がないのでヘレンは買った時同様にサータスが指定していた会場までキノコを担いでいったのだ。人がいないうちに会場で着替えさせてもらおうと思って。
もしくは運が良ければ、最初から会場に居れば最初から設置されていたオブジェとして認識され、ルイスからは見つけられないだろう。ああなんて素晴らしい作戦だとヘレンは心踊らせていたのだ。
しかし、現実は甘くない。
何とか会場入りし、キノコに扮して隅でオブジェに徹していたのにも関わらず、会場に足を運んだサータスに見つかり今に至るのだ。
(私の作戦が……)
ヘレンの心の嘆きは止まらない。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
「……」
「……」
先程会場の下見にいっていたサータスは帰ってくるなり血相を変えてルイスに本日の衣装を見せろと迫ってきたのだ。それなのにいざルイスの衣装を確認すれば、呆れた顔をしている。
「ルイ、何してんの?っうか、その格好なに?」
「え?これ?ミイラ」
包帯で顔を少し巻いて隠したルイスはサータスに向かってヒョイッと本を投げた。
「ほら、そこに書いてあるだろ?これなら顔も髪も多少見えるし、見つけてもらえ……じゃなくて見つかりにくいかもしれないし」
「……いま見つけてもらえるしって言おうとした?まあ、アレよりは、ましか。でもさ、やる気あんのルイ?」
「アレ?」
「ああ、気にしなくていいよ。それよりさ、何でちゃんと巻かないの?何度も言うけどやる気あるの?」
どうしてだろうか、ルイスの包帯は顔に少々巻いてあるだけで他には巻かれていない。
サータスはジト目でルイスを見続ける。
「別に……顔に少し巻いてあれば仮装になるだろ。やる気は……あるに決まってる」
ヘレンとの勝負だしと呟きながらも、ルイスはフイッと顔を背ける。
「……ルイはヘンちゃんに見つけて欲しいんだ。勝負と言いながらヘンちゃんに見つけて欲しいんだ」
更にサータスの目はジットリルイスに注がれる。
「……いや、だってしばらく会って無いからもしかしたらヘレンが気付かないと悪いし……。勝てたら勝てたらで嬉しいんだけど、負けても嬉しいような……」
モジモジするルイスにサータスは遠慮無く盛大にため息を吹き掛ける。
「この間一緒の部屋にいたばっかりじゃん。ねえ、ルイはバカなの?バカだよね。バカだよ」
「……いや、この間は薄暗かったし……」
尚もモジモジを発動させるルイスにサータスは思いっきり再び盛大にため息を吹き掛けた。
自分が将来仕える男は婚約者が相手になるとこんなに腑抜けになる男だっただろうかと思わず上を向いてしまう。
「絶対デュランの育て方が悪い。デュランが甘やかすからこんな風に育ったんだ」
そう呟けば、いつものようにどこからか「俺ばかりに押し付けるお前も悪い」と書かれた紙がサータスに投げられサータスはおもわず頭を抱えてしまったのはデュラン以外誰もわからなかった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
不定期更新でがんばります!
6月15日から更新出来ない可能性有ります。すいません。
出来たらちゃんとします!




