勝負しよう
眼前の画面に映し出されるのはヒロインとヒロインを抱きしめる美丈夫な王子様。
そして、無音で流れるテロップ。
『どうして?どうしてこんなことを』
『どうして?』
タップして次の画面に進む。
―――――画面はさらに変わって一人の少女が民衆の前で押さえ込まれ地べたに頭をつけている。
その少女の目は鋭い。
『人を操ってまでカトリシアを陥れたかったのか!この悪女め!貴様など、俺やこの国には必要ない!!恥をしれ!ヘレン・ライラット!』
「――っ!?」
がばりと起き上がり、ドクドクと早く脈打つ胸を押さえる。
「……ゆ、め?」
汗が額や背中を伝う。
「気持ち、悪い……」
フルリと身震いすれば、ふと気付く。柔らかい心地よい自分とは違う香り。
(……ん?ここは?)
なんとなく薄暗くて雰囲気が変わっているような気もするが、見覚えがあるような気がすると考えかけつつ、そう言えば私は一体今まで何をしていたのだろうか?とヘレンは違う思考を巡らせた。
(えっと、買い物にでて……帰ろうと思って……)
あぁ、そうだ。帰り際カトリシアが絡まれていたから助けようと思ってたのに……。
チラリと先ほどの夢が頭をよぎりつつ、カトリシアを抱きしめるルイスやヘレンに気づいたあとヘレンを睨むルイスの顔がおもいうかぶ。
そればかりか、なぜか民衆がヘレンがやったと叫んでいる声までも蘇ってきた。
(なぜ……私がしたことになるの?)
ただ、助けようと闇魔法を発動させただけなのに。
なんで、私がけしかけた事になるの?
(なぜ?)
頑張ろうと思ったのに、結局こうなるのはどうして?
運命の強制力。
シーツを握る手には知らず知らずに力がこもり、ヘレンの視界はジワジワと歪む。
「なんで、なんでなのよぉ……」
声に出してしまえば、そのまま感情は一気に漏れ出す。
「助けるために魔法使っただけじゃない!なんで、私がけしかけた事になるのよお!なんで、なんでぇ」
止めどなく溢れる涙は止まらない。
「ルイスだって、あんな顔で睨まなくっても良いじゃない!あんな風に手を締め上げなくったって……。なんで誰も私をわかってくれないの!」
声に出せば感情は次第に嗚咽に変わる。
ヘレンはこの世は絶望と悲しみだけで支配されている気がしていた。そんな時――
「……別にヘレンを睨んだ訳じゃなかったんだ。いや、言い訳だよね。ごめん、多分その……。いや、えっと、手は力加減間違えて、ごめん」
泣きじゃくるヘレンを優しくも辿々しく、けれど柔らかい声と共に力強い何かが包む。それがこの部屋の持ち主であるルイスで、そのルイスに抱きしめられていると理解するまでヘレンは数秒固まってしまった。
「る、る、る……る!」
「あ、えっと……その、ごめん?」
気付いてからはヘレンはバッとおとが出る速度でルイスから離れベッドの隅へと身を寄せる。
部屋が薄暗いためルイスの顔は見えないが、何となく顔を掻いて気まずそうにはしているようだ。
「ああ、る、えっ、あっ、なっ……」
尚も動揺して声に言葉が出せずフルフルと震えるヘレンを前に、ルイスは思わず両手を上に上げ苦笑いしてしまっていた。
ただ、部屋の薄暗さからヘレンからはその表情は見えていない。
「えっと、ヘレン?とりあえず一先ず落ち着こうか。俺もう何にもしないから。とりあえず……気分はどう?ヘレン倒れたんだよ」
そう聞かれれば、ヘレンはハタと思い返す。
(そう言えば……)
倒れた気がする。
……だってあの光景は。
先程の夢が再び頭を掠める。
(やっぱりあれはイベントだったんだわ)
ゲームではヘレンとカトリシアが一緒に買い物をすることはなかった。だから少し気を抜いていたのかもしれない。けれど、よくよく思い出せば街のなかでのイベントは確かにあったのだ。
ヒロインが1人で買い物をしに行き、街で男に襲われる。それを偶々居合わせた王子が助けるのだが、その時僅かにカトリシアが男達を仕向けたと思わせるシーンが出るのだ。
そして、この時ゲームのヘレンも意識操作の簡易魔法を使っていた。けれど、ゲームと違うのは実際のヘレンは意識操作を使って男達を下がらせたかっただけだ。
(アクシルはこれを知っていたのかも知れないわね)
だからカトリシアに追いかけまわされて居たとき、彼はカトリシアに協力してヘレンをはめたのかもしれない。
もしかしたらカトリシアも知っていて……。
(ルイスとカトリシアをくっつけるため……。彼らにとってはどうしても私が悪役令嬢にならないといけないのよね)
この町中イベントの後、ゲームではヘレンは次々にカトリシアに意地悪を展開しますます婚約者であるルイスとの溝を深め敵対する。
「っ、気持ち……悪い」
思わず口を強くふさげば、離れて様子を伺っていたルイスがあわてているのがわかった。
「ヘレン!?大丈夫か!」
此方に近付きルイスの戸惑いながらの手がヘレンの背中を優しくさする。
「ヘレン……無理はしなくていいから。その、俺が……無理させてたらごめんなんだけど……」
「……っ。そん……」
そんなことない、そう言いかけてヘレンは止まる。
直接ルイスが悪いわけではない。いや、多分誰が悪いなどはない。強いて言うなれば、運命が悪い。
ヘレンがゲームのラスボス悪役令嬢だからこうなるのだ。
「ヘレン?」
「……私が、私がラスボス悪役令嬢だから、だからこうなるんです。これはこういう運命なんです。だから、だからどうかこれ以上……」
ワタシニカカワラナイデ……。
優しくさすってくれているルイスをヘレンは力なく押し返し、離れようとすればその手はルイスに捕まれ力強く抱きしめられた。
「……殿下、離してくだ」
「やだ」
ヘレンを抱きしめる力が強くなる。
「殿下……」
「ヘレンは、ヘレンはもう俺の名前呼んでくれないの?そんなに俺が嫌なの?」
その声に悲しみが混じる。
「……ねえ、ヘレン。俺とまた勝負しよう。俺が勝ったら名前で呼んで。ヘレンが、もし万が一ヘレンが勝ったら……」
ルイスはそっとヘレンに耳打ちをした。
⭐️閑話休題:ヘタレルイスとサイコパスサータス
「ヘタレ」
「……」
「ヘタレ」
「……」
無言を貫くルイスにサータスは呆れたように肩をしぼめた。
「まあ、いいや。で、ヘンちゃんに名前をかけた勝負を挑んで勝ち目は?」
「……ある」
「万が一ヘンちゃんが勝ったら?」
「……それはそれでいい」
「……ムッツリスケベ」
「……」
「もっとさ、普通男なら攻めない?」
「いいんだよ!」
ボフンと枕をサータスに投げつけるが、サータスはペシンと払いのける。
「まあ、なんでもいいけど頑張ってね。負けたら僕がスペシャルコースでルイをしばきたお……じゃなくて鍛えて上げるから」
「今、しばきたおすって言おうとしただろ?」
軽くサータスを睨んでもサータスには効果はない。むしろニヤリと笑顔になる
「しばき倒して欲しいならそうして上げる」
「いや、いい」
そっ?とそっけなく返答してサータスはルイスの部屋を後にした。
ここまでお読みくださりありがとうございます!
リアルがワタワタしてて、アフアフしてて
溺れかけているため更新遅くなってます。
すいません。
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