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火花

「そもそもさ、本当にこの世界はヘレンのいうゲームの世界なの?だってゲームの世界の話だと僕はヘレンとの婚約を嫌々受けているわけでしょ?でも僕今結構楽しんで君との婚約うけてるよ?」

 その証拠に僕は婚約破棄しないって言ってるでしょ?


 ルイスはコテンと首を傾げた。

 ルイスの動きにあわせて暮色のさらさらな髪が揺れる。

(サラサラヘアーとかどんだけ王子なんだろうか)


「そんなの今だけかもしれないじゃないですか。現にまだゲームは始まってないんです。でも、一応シナリオ通りに私たちは5歳の時に婚約を結んでいますし、私がルイス様と別れたいと日々言っているせいで私はお屋敷の中ではわがままで、王子よりもいい人を望んでいると世間知らずな高飛車お嬢様と陰口されているんですよ。今のままでは十分シナリオ設定どうりすぎるんです」

「だったら婚約破棄とか言わないで、僕のものになりたいって言ってればいいんじゃないの?」


 その言葉にヘレンは深くため息をつく。

「あのですね、私前にルイス様にいいましたわ。お子さまのものになりたい女子はいませんから、嘘をいいふらすのはよくないです。それに、今は私と婚約破棄しないのは王子はまだお子様ですし、暇つぶしとして現状を楽しんでいるからです。もう何年かしてゲームが開始されれば王子は真実の愛に気づき私とのお遊びの婚約にうんざりしますよ」

 だから婚約破棄をとヘレンは再びルイスを見つめた。



 ルイスとヘレンはまだ9歳。

 王子と侯爵令嬢という立場のおかげで二人とも大人びてはいるが、確かにまだまだ色恋とは程遠いお子様だ。

 真実の愛を語るには幼すぎる。


「……お子様じゃないつもりなんだけどなあ」

 ヘレンの言葉を受けてルイスはうなだれる。

「いや、9歳なんて十分お子様ですから。大体、先程もいいましたが私は前世の16歳の記憶がある分ルイス様なんて子供すぎて恋愛対象になりません」


 16歳が9歳に恋なんてできるかと、ヘレンはおもう。

「そもそも、何度も言うように貴方が無難攻略キャラなせいで婚約している限り私はラスボス悪役令嬢になるんです。だからどんなことがあっても、ゲームが始まる来年迄には婚約破棄していただきます」


 テデンと効果音でも付きそうな程にヘレンは仁王立ちしてどや顔になる。

 そんなヘレンにルイスは極上の胡散臭い王子スマイルで立ち向かう。

「絶対どんなことがあっても婚約破棄しないから。それにさ、ヘレンが言うように君と婚約者のままならば僕は運命の愛を知ることが出きるんでしょ?それって僕にとってはメリットだよね?」

ね?破棄は僕のメリットにならないでしょ?とでも言いたそうに言ってのけるルイスの顔は胡散臭いを通り越してどす黒い。


(お子さまの癖に意外にしたたかね腹黒王子)


 ヘレンは心のなかで本日何度目か、ルイスをコテンパンに毒づいて胡散臭くどす黒い王子スマイルを睨み付ける。


 まさに2人の間に見えない火花が静かに、けれど確かにバチバチと飛び散っていた。






「お帰りなさいませ殿下。本日の勝負はいかがでしたか」


 ヘレンとの不毛なやり取りを終えルイス王子は宮殿に戻ってきた。するとすかさず執事兼世話役のデュランがルイスに言葉をかける。


「ちゃんと勝ったよ。余裕、圧勝」

 ルイスは上着をポンと自室に置いてある椅子の背もたれに投げ、自分はベッドに飛び込んだ。

「おや、殿下。せっかく婚約継続になったのに今日はいつになく荒れておられますね」


 椅子に投げられたルイスの上着をデュランは丁寧にシワをとるとハンガーにかけ直す。

「荒れてない」


 荒れてないとは言うものの、頬を膨らましてベッドでうずくまるルイスを見て十分荒れてるじゃないかとデュランは思わず苦笑いしてしまう。

 多分原因はお忍びで行った彼女の元で勝負には勝てたものの、何かに負けたのだろう。大概は彼女からでる容赦ない発言なのだが。


「……なあ、デュラン。僕はそんなにお子様か?」

 デュランの動きを尻目にしつつルイスが問えば、デュランは作業の手を止めルイスに向かい合う。


 なるほど、今日は年齢について何か言われたようだ。大人びているもののまだ9歳だ。

 さしずめお子様には興味ないとでも言われたかとデュランは思案する。ルイスはおっとりとしたまさに本に出てくるような王子さまの外見そのものである割には、顔に似合わず負けず嫌いだ。

 だから本来乗り気でなかった無理やりの政略婚約も密かに抵抗していたのは知っている。それなのに王やライラットのものに無理に手続きを進められ、怒って婚約破棄を相談しに行った日に、その婚約者に貴方と絶対結婚したくないんですと泣きつかれ、負けず嫌いな性格に闘志の炎を灯して帰ってきたのは記憶に新しい。


「ルイス様は大変ご聡明でいらっしゃり、一般的なお子様の様には見えませんよ」

「いや、そういうことじゃなくて。9歳とはそんなにお子様だろうか?」

 ポツリとルイスが溢せば、デュランはそれに答える。

「年齢的な事でお答えするならば、9歳はまだ子供ですね」

「じゃあいつから大人だよ」

 デュランの答えに思わずムッとしてしまい、ルイスはデュランから顔を背ける。

「大人は成人と認められる18才からですかね。お酒が飲めるか飲めないかは境界線ですね。」

「そうか……」


 小さく呟くとルイスはゴロンと寝返り顔を枕に押し当てた。

(子供で有ることはどうすることもできないだろ)

 そんなルイスを尻目にデュランは簡単にお茶の支度を始める。


 やはり彼女にお子様扱いされたのが気にさわったのだろう。読みがあたりデュランは小さく吹き出す。



「デュラン……」

 チラリと枕から顔を除かせてルイスはデュランに呼び掛ける。

「はい」

 ルイスの呼び掛けに穏やかに微笑んでデュランは答える。


「僕は大人になりたい」

 そう呟けばデュランが我慢しきれず、小さく笑うのが視界に写る。

「なにがおかしい?」

「いや、殿下は変わられたなとおもいまして。あれ程最初は婚約破棄したいと憤っていたじゃないですか。僕はあんな女と婚約しなくても、王子であれば他に言い寄ってくる女は腐るほどいるっていってたし。それが、いざ自分より先に婚約破棄したいと言われたら絶対しないとむきになっているんですもの」

 尚も笑うデュランにルイスは枕を投げつけた。


「うるさい!僕はちゃんと一人の女性を愛して大切にできる。僕は父様達とは違う。それなのにヘレンは……僕が簡単に婚約を覆して他の女に鞍替えする尻軽男だといったんだ」

 しかも、僕は子供だから異性には見れないって。自分だってまだ9つの癖に。ブツブツとルイスが呟くのをデュランは微笑ましくみていた。そして枕をそっとルイスにもどす。

 現王とその妃は政略結婚だった。

 2人の間にはルイスと言う子供こそあれど、愛はなくお互い口も聞かねば、顔も会わせない。それだけならまだしも互いに子を成さない制約こそあれ思い思いに愛人を囲っている。

 その為愛なくしてそだったルイスには、政略結婚自体が到底受け入れられるものでもなかったし、愛のない結婚など考えられるものではなかったのだ。ゆえに、尻軽と言われたのは現王を彷彿とさせたのだろう。


「殿下をからかいすぎましたね。私も殿下がそんな尻軽だなんて思っておりませんよ。はやく殿下のお考えがライラット様に伝わるといいですね」



 さて、本日はお疲れの様でもありますのでここにお茶をご用意しておきますね。そういって笑いながら軽く頭を下げるとデュランは退室した。

 一人部屋に残されたルイスは再び枕に顔を埋め、僕は父様達とは違うと、漆黒の髪をどや顔で払いのける婚約者を思いだし目をつむった。

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