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5年後

 ヘレンがルイスに一方的に八つ当たりに近い物言いをして逃げ出して……。


 それからあっという間に何事もなく5年の月日は簡単に流れた。


(いよいよ本編での攻略スタートかぁ……)


 ヘレンは誰も居ない教室で夕日をぼんやり見ていた。

 15才を迎えたヘレンの容姿は、見事にうららの知るゲームのヘレン・ライラット嬢そのものになっていた。

 人よりも少し低めの身長でありながら、女性らしさを誇張する胸の突起2つに、抱き締めたなら折れてしまうのではないかと思わせる腰の括れ。

 そして夜闇の様な漆黒の腰にまで届く長髪を後ろで束ね、少しきつめにみえてしまうキリリとした赤い燃えるような瞳で、相手を見つめれば思わず誰もが凛としたその美しさに目を止める。

 そんな美しい令嬢になっていた。


 もちろん他のキャラも同様にゲーム本編とだいたい同じ容姿になっていた。


 あの雨に当たった日からヘレンは完全にルイスおよびヒロイン、アクシルとは極力遭遇しない&出会ってしまっても逃げるを繰り返してきた。ルイスはあの日以降ヘレンを無理に追いかけることはしなかったけれど、婚約破棄もしてはくれなかった。

 婚約破棄云々はあれからルイスとは直接逢いたくないので、婚約破棄したいとかきしたためた手紙をヘレンから送ってみただけだ。勿論破棄の同意に関してはルイスからは返事はなく、代わりにカモミールの小さな花束だけが送られてくることが数回繰り返されたのでヘレンは早々と手紙を出すこと自体をやめた。


(カモミールって花言葉は確か苦難よね?)

 なぜ毎度カモミールが送られてくるのか不思議で花言葉を調べてみたらこれだった。


(なによこれ、私に苦難の道を歩けってこと?)

 嫌みなやつだとヘレンは送られてきたカモミールは毎度飾らずに紅茶に入れて飲んでしまっていた。

 送られてきた花には罪はないし、もったいない精神をもつ元日本人としてはきちんと有効利用しなけばいけないという義務感が多少あったから。


 他にもこの5年間はたいして進展はなかった。数少ない進展と言えば着実にヘレンとルイスとの間に距離ができ、かわりによく一緒にルイスとカトリシア嬢が過ごすようになったようだ。その為周りはカトリシアがルイスの次期婚約者として相応しく、2人はお似合いだと言う噂をたて、それはヘレンの耳にまで届くようになっていた。


(ほらね、あの2人はくっついたわ。最初からこうしておけば良かったのよ)


 小さくため息をついたあと、ヘレンは魔力玉を制服のポケットから取り出すとそっと意識を集中させ魔力を注ぐ。この5年間でヘレンは魔法玉を入手し、自分の属性である闇の魔法を多少覚えた。中でも今一番のお気に入りの魔法をヘレンは自分にかける。


(こうすれば過ごしやすくなるし、誰にも逢わなくてすむ)


 ヘレンのお気に入りの魔法。

 それは存在感を薄くする魔法。


 これを覚えてからヘレンがルイス達と遭遇する率はぐんと減ったのだ。

(この魔法さえ有れば私は当初の目的通り災厄回避のためにカビのように、キノコのように過ごせてもしかしたらラスボスの役目も回避出来るかもしれない)


 やっぱり理不尽には倒されたくもないのでヘレンは自己防衛と称してこの魔法だけは自分にかけつづけていた。

(まぁ、この魔法便利だけど唯一効かないヤツも居るのが難だわよねー)

 この5年間あまり進展はなかった……いや、やっぱり若干の進展もあったわと、ヘレンはため息をつきつつも周りに注意しながら寮に足をすすめた。

⭐️閑話休題:カモミール⭐️

「全く、わかりにくいことして。殿下はヘタレですよね」

ヘレンにカモミールの花束を届けたあとデュランはベッドに沈んだ主君をみてため息を隠すことなく盛大についた。


「……デュラン、ヘレンは……その……」

ベッドに沈んだまま顔をあげようともせずルイスはモゴモゴ呟いていた。

その姿はいつになったらみなくても良いのだろうか。幼い頃から見ていたその姿を再度見直してデュランは眉を下げた。体はあの頃より大きくなったのに、ヘタレ具合はかわらないものだ。

「多分ライラット様は違う意味の方で受け取っておられましたよ」

苦笑いと共に先程みた主君の婚約者の苦虫を潰したような顔を思い出し正直に言えば、ルイス様のベッドはそんなに柔らかかっただろうかと頭を捻りたくなるほどベッドに沈んでいる。

全く……。

まだまだうちの殿下はお子様のようだ。

あとでカモミールティーでもお出ししようとデュランはルイスの部屋を後にした。


カモミール。

代表的な花言葉は苦難に耐える。

けれど、それとは別に『仲直り、君とずっと仲良くしていたい』と言う意味もある。


「まあ捉え方次第と大事なことは直接言わなきゃ行けないってことなんですけどね」

苦笑いと共にお茶の準備をするデュラン。


爽やかな香りと共に『頑張れ』の意味をこめたこのお茶の意味を彼は気づくだろうかと沈みきった主君の顔を思い浮かべてしまった。





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