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「はははっ……」

 決意して学院から逃走した数分後、ヘレンは膝を抱いて体を出来るだけ小さくしながら木の穴に身を寄せて目の前の光景を見ながら乾いた笑いを出していた。

(ここまでするか強制力……)


 再びヘレンは乾いた笑いを漏らす。

 それもその筈。ヘレンが駆け出した数分後、曇り模様の空は急に雷雨となった。駆け出した距離およそ500メートル。そこでバケツの水をひっくり返したような雨がふり、雷が空をかけたのだ。流石に前も見えないためヘレンは急遽近くの木の穴で雨を防いでいた。


 突然の雨のせいで下着までビシャビシャで、雨が止んだら一度学院寮にもどり着替えないと流石にキツイ。ヘレンはそんなことを考えホロリと涙を流した。

 この雨はまるでヘレンをゲームの世界から逃がさないようにしているみたいだ。


(だけど、いつやむかしら?)


 魔法学院は制服制なので、今着ているのは動きやすく飾り気のない薄手で質素な茶褐色のワンピースだ。だから濡れた制服がピタリと肌にくっつき体温を容赦なく奪っていく。

 ぎゅっと自分の体を抱き締めるように、ヘレンはいっそう体を縮めて木の穴の中でうずくまる。


(私、どうしてこんな世界に生まれちゃったんだろう)


 悪役令嬢なんてポジションがなかったら……。

 ルイスの婚約者じゃなかったら……。

 タラレバばかりが頭をよぎる。

「ルイスなんて嫌い、悪役令嬢なんて大嫌い。もう全部やめたい」



 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️





「……レン!ヘレン!」

 肩を揺さぶられてヘレンが目を開ければ、そこにはぐしゃぐしゃに汚れたルイスがヘレンを覗き込んでいるのがうつる。

 いつものきれいな王子様が台無しだ。


「……ルイス、様?」

(あれ?私、雨に当たって……)


 ルイスから視線をずらし回りを見れば、前にも見たことがある景色が視界に広がる。

(ここって……)

「ごめん、見つけた時には木の穴の中でヘレンが震えながらグッタリしてたから。医者に見せるためにも一度僕の部屋に運ばせてもらったんだ」

 また邪魔な虫が飛んでくると悪いから、とルイスが呟いていたのは聞かなかったことにしておく。


 どうやらヘレンは寒さで結局気を失い、それをルイスが見付けてここまで運んで、看病してくれていたようだ。しかもご丁寧なことに医者に見せてくれただけでなく、着替えさせられている。

「あっ、き、着替えは寮母さんがしてくれたんだよ!僕してないから!ふ、服も寮母さんが用意してくれたから」

 ヘレンが制服ではなく、普段着になっていることに気づいて無言で服を見ていると慌てたようにルイスが訂正してくる。


「……ありがとうございます」

 一応助けてもらったのに、そっけなくヘレンがお礼を言えば、ルイスはうん、と小さく答えただけで無言になった。


 しばらく2人の間に漂うぎこちない無言の間。それを最初に破ったのはヘレンだった。


「殿下のベッド汚してしまい申し訳ありませんでした。もう大丈夫なので部屋に戻ります」

 どのくらいルイスのベッドを占領してたのだろうか?それに、ルイスの格好を見れば服はまだ湿っているようだ。

 ヘレンがいつまでもここで寝ていたらルイスが何も出来ずに彼は風邪を引いてしまうかもしれない。そんなこと王子にさせては行けないとおもい、ヘレンがそっとベッドから降りようとすればルイスが慌ててヘレンの手を取る。


「まだ!まだ寝ててヘレン。顔色まだ悪いから」

「いえ、そう言われても……殿下だって服が」

「ルイス!」

「へ?」

 服が濡れているから着替えて欲しいと言おうとしただけなのに途中でルイスに言葉を遮られヘレンは驚く。

「なんで今まで僕をルイスって呼んでたのに、いきなり殿下になるの?ヘレンは学院にきてからなんか変だよ」


 握られた手にギュッと力がこもったのがわかる。それでもヘレンは手を振り払う。

「っ!やめて!離してください!もうやめてください!」

 声をあらげて手を払えばルイスが驚きで目を見開く。


「もう、嫌なんです。貴方の……婚約者でいるのに疲れたんです。私じゃなくても良いじゃないですか?カトリシア様なら侯爵のご令嬢です。身分も私と同じです、それにあの方は本当は隣国の拐われた姫なんです。だから、国の事を考えたらカトリシア様と一緒になった方がいいんです」


 こんなに支離滅裂な事を言った挙げ句に、女の武器を使うのは卑怯だと思うけど。

 けれど、本当にもう色々疲れてしまったヘレンには何もかもめんどうくさくてどうしようもなくて。

 頬に伝う生暖かいものをこれでもかとルイスに見せつけながらルイスが言い返して来ないように言葉を選ぶ。


「私は殿下が嫌いだし、さっさと婚約破棄してくれない貴方が憎い。貴方は絶対この先私を捨てるんです。わかってることなのにどうして婚約破棄してくれないんですか?それに、私は前世の記憶が有るんです。その時は16だったんです。だから私は貴方見たいな子供を好きになんて絶対なりません」


 もう私に構わないでください。


 そう吐き捨ててヘレンはルイスの部屋を後にした。

ここまでお読みくださりありがとうございます。


ルイスの頭のなかはてんやわんや状態。

ヘレンの頭はこんがらがり状態。

そんな2人をみて影に徹しているデュランは頑張れアオハルと2人を応援しております。

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