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子犬な王子

(い、痛い……)

 ギリギリと捻り上げあられた右手が痛くて思わず顔を歪ませてしまう。


「い、痛い。痛いか、らっ!離して!」

 余りの痛みに耐えられなくなり、金切り声をあげ抵抗すればハッとしたのだろう右手に刺激を与えている手は緩められた。

「なんでこんなことするんですかルイス様!」


 ルイスから自分の右手を取り返してヘレンは思わずルイスを睨んでしまった。


「……ごめん。だけど、ヘレンが逃げるから……その、ごめん」

 意外にもシュンと項垂れて素直に謝られるとヘレンもそれ以上の事を強く言えなくなってしまう。


 再びアクシルと遭遇してしまった翌日から一週間。やはりヘレンに対して良くない噂が流れてしまっていた。それはまさしくラスボス悪役令嬢に相応しいような悪どい内容で、ヘレンは再び辟易としていたところにルイスが現れたのだった。

 多分ルイスはヘレンにまつわる噂を聞いたのであろう。そして流石にお飾りであっても婚約者、ヘレンの評価はルイスにつながるため真偽のほどを確かめに来たのだとヘレンは考えた。


 だからと言って別にルイスから逃げる必要はなかったのかもしれないが、ただその時のルイスの顔が怖かった。非常に怖すぎたのだ。いつもは何が起こっても整ったその顔に胡散臭いにこやかな笑顔を張り付けて対応しているのに、今回は全くもって笑顔なんてものはなかった。寧ろどんよりとしていて、目付きも悪く背後には黒いオーラを纏い王子と言うよりは世紀末をつれてきた地獄の使いのようななんとも形容しがたい状態で迫ってきたのだ。


 だから自然と身の危険を察知してしまったのだろう、条件反射でヘレンは思わず逃げてしまった。


(あんなに怖い顔してきたら、誰だって逃げるわよ)

 未だに項垂れているルイスからヘレンも視線をそらす。


 そして同じく条件反射で追いかけてきたであろうルイスに、結果として逃走の道中でヘレンはつかまってしまったのだ。

(しかもよりによってこんなところで……)


 ヘレンはアクシルに指摘されていた心の声を無意識につぶやかないよう、口に手を当てながら周囲を見回す。


 ここは学園の中庭の一つである大樹の間。


 アクシルと遭遇した不人気な中庭と違い、光が差し込みきちんと隅々まで手入れのされた花々が咲き誇る。そんな庭の中央に大樹がそびえる人気の中庭。そう、まさにスチルの背景向けの中庭である。

 この大樹の間と名付けられた中庭は本当にゲームの背景として度々登場する。この背景が出てくる時は大抵ヒロインと攻略キャラがそろう為ヘレンは極力ここを避けていたのに、よりによって今まさにその場にいるのだ。


(ヒロインは……いない、わよね)


 目の前でうつむいているルイスは頭の片隅に追いやり、ヘレンは周囲を見回しながらうららの記憶をたどる。ここでこれがきっかけでイベントが起こってしまったらたまったものではないと、噂をルイスに弁明するよりも保身にはしる自分に嫌気がさしつつも周囲に気をくばる事がやめられない。


 ここで気を抜けば運命の強制力でよりラスボス悪役令嬢道に完全にまっしぐらな運命を許してしまうことになるような気がしてしまう。

 それは本当に勘弁してほしい。


 けれど、そのヘレンの思考を遮るようにうつむいていたルイスが急に顔を上げヘレンの両腕を握った。ただし、今度は先ほどのように力任せにひねりあげられてはいないので痛みはない。

 寧ろ包むようにヘレンの手取り、暁色の瞳を曇らせ初めて見るような切なそうな顔をしていた。


「ねえヘレン、ヘレンは本当に僕じゃない男の人と逢引を……」

 先ほどまでの怖い表情ではなく、ルイスは遠慮がちにいったんは顔をあげるも再びうつむきながらヘレンに聞いてきた。


(ほら、やっぱり噂の内容を確かめにきてたのね)


「……逢引なんかしてないわよ」

 そんなのしてない。寧ろ………

「寧ろ?」

ヘレンの言葉をすがるように見てくるルイスはまるで捨てられた子犬のようだ。

「寧ろ私をラスボス悪役令嬢に……」

「あー、こんなところに()()()()()()いたのかー」

ヘレンが言いかけた時にひょっこりどこからともなくアクシルが現れ、ルイスから剥がすようにヘレンを背後から抱きしめてきたのだった。

ここ最近寝落ちしてて、次話あげられなくてすいません。

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