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私の名前はアカリです。天使やってます。

作者: イワトノアマネ

天使のアカリが冒険者パーティーに雇われ、ダンジョン攻略に……。


※天使の輪って丸型蛍光灯(FCL)ぽいなってコメディのつもりで始めたけど予想外の展開になってしまった。


※東野雪華さま主催「光」企画への参加作品です。


 私の名前はアカリです。天使やってます。


「アカリちゃ~ん。今日もよろしくね」

「うん。まっかせてぇ~」


 私を呼んだのは冒険者パーティーのカナエちゃん。

 魔法使いの元気な女の子。

 私は、このパーティーに雇われて働いてます。


 これから行くのは街にいくつもある地下のダンジョン。そのひとつ。

 ここには何度も入ってボスの部屋まで知っている。

 でも、みんなにはナイショです。


 ダンジョンに入ってすぐに私の仕事が始まります。


「アカリちゃん、お願い」

「うん。それじゃあ点けるね。カチッ!」


 私は前髪をつまんで引っ張った。

 けれど、うっすら光ってすぐに消えちゃった。

 

「アレれっ? あっそうそう、もう一回。長めに引けば大丈夫! カチィーッ」


 私は前髪をつまんで引っ張った。さっきよりも長く引いてみる。

 すると、うっすら光ってパッと明るくなった。


 頭の上にある天使の輪が光を放ちダンジョンを明るく照らします。

 天使らしい仕事でしょ。


「ほらね。点いたでしょ」

「大丈夫かよ、ほんとに~」


 彼は自称勇者のハルト。

 私のことを古臭いと言って他の天使を探そうぜとかいうイヤなやつ。

 でも、口だけ。すっと私を見ていた。選んでくれた。

 ちょっといいやつ。しかも結構強い。装備もいいリッチな人。

 ただ、椅子に座るときもカバンを背負っている、ちょっと変なやつ。


「なあ、アカリ! 天使ってのは明るくするほかに何か出来ないのか?」


 ハルトが先頭を歩きながら、話しかけてきた。

 また呼び捨てかよコイツ。

 初めて会ったときから呼び捨てだった。

 始めはチラチラこっちを見てるだけで、話しかけてこなかった。

 ちょっと変なヤツって思った。

 けれど、ちょっとずつ話しかけてくるようになった。

 最近は、私が他に何も出来ない脳無しみたいに言ってくる。

 やっぱりイヤなやつ。


「ありますよ! 死ぬ人の痛みを取り除いたり、死者を天国の手前まで送れます」

「それ、絶対に見たく無いな」


 二人の話を聞いていたカナエちゃんが会話に割って入ってきた。


「変なこと言わないでください! フラグみたいじゃないですか」

「大丈夫ですよ。天国の手前までですから、蘇生魔法とかアイテムで蘇ります」

「うちに蘇生魔法使える人いないし、そんな超レアなアイテム持って無いよ」

「大丈夫ですよ。私が持ってますから」

「マジかよ!」


 みんなの足が止まって私を見ている。


「聖天使様から預かってます。使ったら入金してもらいますけど」

「そうなのか? それっていくらだ?」

「私にはわかりません。天国の受付から契約成立と言われたら使えますけど」

「売れば遊んで暮らせる超レアなアイテムだぞ」

「非売品で天使にしか使えないって聞いてますよコレ」

「何だよソレ……他になんか無いのか?」


 みんな、残念そうにゆっくりと前を向いて歩き出した。


「羽は飾りで飛べないし……他に無いですね」

「やっぱりな」


 ハルトはやっぱりイヤなヤツだ。


 ダンジョンを順調に進み、モンスターの寄り付かない安全地帯でお食事。

 そこへ、他のパーティーがやってきた。

 そのなかに私と同じガイドとして働いている年下の天使キラリがいた。


「あら、奇遇ですわねアカリお姉さま」

「久しぶりだねキラリちゃん」


 キラリちゃんは私の住んでる天使の家ではなく、天使の城に住んでます。

 城ってのは名前だけで、天使の家と同じ普通の家。

 もとは一緒だったけど、経営方針が違うとか言って別れたらしい。


「お姉さま相変わらず大食らいですのね」

「あなたには関係無いでしょ」

「同じ天使として、一緒に思われては困ります。わたくしのように小食で、明るく長持ちする輪を持つ者としては目障りですの」

「なによ、上半分が光らないくせに」


 キラリの使うLED式と言われる天使の輪は、明かりとしては優秀。

 しかし、見た目は上半分が光らない。

 だから、天使の輪としては不細工と言われている。


「無駄な方向を照らして周囲に迷惑を駆けないためですわ」

「でも綺麗じゃない」

「言いましたわね、点けるのに前髪を引くような仕草が必要な旧式のくせに」

「私は好きよ、だって可愛いじゃない!」

「わたくしは頬に触れるだけですのよ、コチラのほうが可愛いに決まってますわ」

「そうね、それも可愛いわね」

「あら、これについてはお認めになられるのですね」

「どうでもいいじゃない、仲間が待ってるよ」

「そうですわね、それでは失礼」


 とっとと、どっかに行けと言いたかったけど、ここは我慢。


「あっ、そうそう、鼻を押し込むあの子だけはダメですわ」

「あれはあれで、私は好きよ」

「まっ、旧式同士で仲良くしてください、では今度こそ失礼」


 やっと行った。

 鼻を押すあの子とは私と同じ天使の家に住んでいるヒカリちゃんのこと。

 スリムで明るくて、私よりも小食で長持ちさん。

 いつもキラリちゃんに地味っ子扱いされているけどすごくいい子。


「ねえねえアカリちゃん」

「なあにカナエちゃん」


 食事を終えて休んでいると、私の天使の輪をカナエちゃんが見つめていた。


「天使の輪に黒い粒が見えるよ、大丈夫? 病気じゃないよね」

「大丈夫だよ。ちょっと冷たい風に当たっただけ。それに、もうすぐ交換するから」

「交換?」

「そう、交換。点けるとき前髪を長く引かなきゃいけないからコレも交換かな」


 左手で髪をかきあげ、耳飾をカナエちゃんに見せた。


「それってなんなの?」

「点灯石っていう魔法石、天使の輪を点けるときにピカピカって光るんだよ」

「へぇ~、そうなんだ。なんかすごいんだね、天使の輪って」

「うん。すごいけど長く使っていると点かなくなるから交換するの」


 カナエちゃんは何かを考えているらしく、あごに指をあてている。


「そういえば、隣のダンジョンで輪がピカピカ点滅してる子がいたよ」

「それは、すぐに交換だね。ほっとくと入院することになるから」

「アカリちゃんの輪、良く見るとチラチラしてる気がする」

「やっぱり、気が付いちゃったか」

「大丈夫なの?」

「心配してくれてありがとね、このくらいならまだ大丈夫だよ」

「あまり無理しないでね」

「うん。ありがとカナエちゃん」


 二人で楽しく話しているのをハルトがチラチラ見ている。

 やっぱりイヤなやつ。


 休憩のあと、順調に先へ進みボスのいる部屋の前にたどり着いた。

 でも、無理せずに今日は引き返そうとハルトが言って引き返すことになった。

 カナエちゃんとの話を聞いてたに違いない。

 やっぱりイヤなやつ……だけど、ちょっといいヤツなのかな?


 明日はボス攻略だから早めに寝ると言ってハルト達は宿に向かった。


 私も天使の家に帰ってすぐ、聖天使様に新しい天使の輪と耳飾を頼みました。

 明日の昼には届くからと言われてます。


 食事を終えて、部屋に戻って鏡を見ながら天使の輪を見つめた。


「いっしょに寝るのは、今夜が最後だね」


 鏡を見たまま前髪をつまんで引く。


「カチッ」


 鏡の中から光があふれ、まぶしくて目を閉じた。

 ゆっくりと目を開けて、鏡から離れ部屋を見回す。

 いつもと変わらない部屋なのに、いつもと違う気がする。

 ちょっと寂しい気がした。


「カチッ」


 前髪をもう一度引くと少し暗くなった。

 今はこのくらいでちょうどいい。


「カチッ」


 前髪をもう一度引いた。

 天使の輪から光が消えた。

 代わりに右の耳飾が、オレンジ色の小さな光を放ってる。

 いつもと同じ。


 ベッドにもぐりこんで横になり前髪を引く。


「おやすみなさい。カチッ」


 何も言わなくてもいいのに、カチッと口にする癖がついていた。

 私を育ててくれた誰かがそうしていたのをまねしたような気がする。


 実は、ここでの生活以外の記憶がない。

 それは、ここで大きな子供の姿で生まれるからと聞かされた。


 耳飾りの小さな光も消え、窓から指し込む月明かりだけになる。 

 私はゆっくりまぶたを閉じた。


 明日はボス攻略。

 それが終わったらカナエちゃんのいるハルト達のパーティとはお別れかな。


 城壁に囲まれた街。

 天使はこの街にしかいない。ここでしか生きられないから。

 だから、ここが私のすべて。


 でもいつか、ここから出られる日が来るかもしれない。

 そう想いながら眠りについた。


   ◇


「いっしょに帰ろう」


 夕日に照らされた街角で、誰かが手をさしだしている。

 

「いっしょに? どこへ? 何がしたいのかわからない」

「アカリ、やっと君を見つけた」

「見つけたって、あなた誰?」 

「この日が来るのをずっと待ってた」

「何のこと? 何が起こっているの?」


 ハルトが剣を抜いて目の前に立っていた。

 一瞬だった。

 私の頭上にある天使の輪が斜めに薄く切り裂かれ、地面に落ちた。


 私は逃げた。

 ハルトが追ってくる。

 私は必死に逃げたが追いつかれた。

 そしてハルトの剣が私の背中に突き刺さった。


「痛い、痛いけど平気、どうして? 何なのコレ? 答えてハルト!」


 ハルトが黒い霧に包まれ消えてゆく。


「ハルト! ハルト!」


 私は叫んでいた。


   ◇


 目が覚めた。

 私はいつも寝ているベッドの上にいる。

 なんだか背中が痛い。

 どうやら翼をひねって寝てしまったみたい。

 たま~にやっちゃう天使の悩みってやつでした。


 悪夢を見たのはコレのせい。

 夢にまで出てきて私を苦しめたハルト。

 やっぱりイヤなやつ。


 窓の外を眺めると日は昇り、明るくなり始めていた。

 少し早いけど、そのまま起きる事にする。


 そしてハルト達とダンジョンに入った。

 あっさり無事攻略しちゃいました。

 夕食は豪華でした。


 そして、次の日はのんびりしてから、夕方になってお別れ。


「アカリちゃん、また来るね」

「うん、いつでも遊びに来て、カナエちゃんが来るの楽しみに待ってる」


 ほかのパーティメンバーとも別れを告げて握手をしてハグしたり。

 でも、意外と軽い気持ちだった。

 そう、いつもと同じ。

 出会って楽しくて、別れるのイヤだなって思って。

 でも最後はあっさり別れを告げて、また新しいパーティーの人達と出会う。

 その繰り返し。

 イヤなことなんて何も無い。


 これまではずっとそうだった。

 でもハルトだけは違った。


「いっしょに帰ろう」


 夕日に照らされた街角で、ハルトが手をさしだしている。


「アカリ、やっと君を見つけた」


 これは明け方に見た夢?


「この日が来るのをずっと待っていた」


 ハルトが剣を抜いて目の前に立っていた。

 一瞬だった。

 私の頭上にある天使の輪が斜めに薄く切り裂かれ、地面に落ちた。


「何する……のって、あれっ?」


 何がなんだかわからない。


「ここから逃げるぞ、着いて来い!」


 ハルトが走り出す。

 カナエちゃんが駆け寄って来た。

 手にしていたのはハルトと同じ背負いカバン。

 それは、私の翼を覆い隠した。

 カナエちゃんに手を握られ、すばやくベルトに肩を通した。


「大丈夫だよ、すぐに思い出すから」


 何が何だかわからないまま、カナエちゃんに手を引かれ駆け出していた。

 走りながら記憶が蘇って来る。

 私は有翼人。天使なんかじゃない。

 この世界に天使なんか存在しない。


 私達は捕まって、あの輪を着けられ操られていた。


「ハルト!」


 思い出した、私達はもうやつらに捕まったりしない。 


 ヒカリちゃんやキラリも城壁の前に集まっている。

 みんな記憶を取り戻していた。

 街に来ていた冒険者達が門番を倒し、門が開かれる。

 冒険者仲間が馬車を何台も確保して門の前に現れた。


「みんな! 乗れ!」


 私達は馬車に乗って門を抜けた。

 私はハルトが操る馬車に乗っている。

 ハルトは私のとなりにいる。

 私もハルトも笑っている。


「ハルト! 助けに来てくれて、ありがとう」

「あたりまえだろ、アカリは大事な家族だからな」

「あれっ? 家族? ハルトがお兄ちゃん?」

「何言ってんだよ!」


 ハルトは私を片手で抱き寄せ、唇を重ねる。

 なんの説明もないまま、唇を奪われた。

 やっぱりイヤなやつ。

 でも懐かしい。

 

「あれっ? まだ思い出せないのか?」

「うっ、うん」

「これのせいか?」

「あっ!」


 私は耳飾を外した。

 ハルトで頭の中がいっぱいになった。

 

「顔、真っ赤だぞ!」

「やっぱりイヤなやつ!」

 おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初のジワジワくるアイデアの表現も最後の急展開も、いろんな意味でドキドキして、すごく楽しめました。 名前のセンス抜群ですね。 [気になる点] 気を悪くしないでください。これ読まなかったら…
[良い点] 最初は蛍光灯が天使の輪っかって面白いなと思って読んでいたら、最後の展開に一気に引き込まれました。 [一言] とても面白かったです。
[良い点] これ、すごく好きです。 面白かったですよ! 読みやすくて分かりやすくて、笑いのエッセンスも加えられてる。 [一言] 天使(?)の輪が灯り扱いになって、古いタイプや新しいタイプがあるのがいい…
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