表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/160

87 触れ合い / レオンガルドでは


「ふふふ、ふふふ」


 母であるオクタヴィアと戦い、力を示したオリビアは一先ず泥だらけになった体を綺麗にした後に皆と共に食事を摂る。食事中も秋斗の隣の席に座って、終始嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 食事が終わり、お茶を楽しんでいる最中にオクタヴィアは娘へ釘を刺すように告げる。


「まだ、婚約者としてしか認めていない。賢者様の守護者になるにはまだ足りない。教えと今日放った一撃を忘れず、修練を怠るな」


「もちろんです!」


 顔はキリリとしているがパタパタ揺れる尻尾に感情が現れすぎて説得力が無い。それは対面に座るオクタヴィアも同じなのだが。


「なぁ、リリとソフィアもオリビアみたいに誰かと戦うのか?」


 秋斗は既に婚約者となっているリリとソフィアへ顔を向けて問う。


「私達は既にエルフニアでも他国でも認められてますので」


「うん」


 2人は余裕の表情。なんでも、リリとソフィアは既に一流魔法使いとして認められており並ぶ相手はいないとされているようだ。

 確かに何度か2人の魔法行使を見た事があるが、マナデバイス無しでもスムーズに使っていたな、と思い出す。

 リリが秋斗と出会う切っ掛けとなった奴隷狩りの件を問えば、単身でAA等級魔獣と戦った直後の疲弊している瞬間を狙われたので囚われたと言っていた。囚われてしまったのは置いておいても、単身でAA等級魔獣と戦えるのだからリリの実力は高い。

 

 ソフィアはどちらかというと戦うよりも内政に力を入れているので、守るというよりも彼女の言う通り支える、だろう。故に、オリビアのように実力が問われる事はない。

 だが、彼女達も今日のオリビアの奮闘を見て魔法使いとしての訓練を更に積もうと決めたようだ。秋斗的にも何が起きるかわからない現代では自衛できる力は必要だと思うので、特に反対はしない。


 一方で、エルザは何も言わないが内心決意の炎を燃やしている。

 彼女の気持ちを既に見抜いているリリとソフィアであるが、特に何も言わず見守っている状況。リリとソフィアとしては一先ずオリビアを嫁として迎え入れられた事を祝福したい。

 エルザが動いた際はサポートできるよう準備はしている、といった感じである。


「さすがハーレム野郎だ。応援してるぞ」


 グレンも軽口を叩きながら祝福していた。ニヤニヤと笑うグレンに秋斗はいつかお前も同じようになるぞと、からかえる日を夢見てぐっと我慢した。


 そんなわけで、今夜から秋斗と同じ部屋で寝る人物の中にオリビアが加わった。

 今まではリリとソフィアの3人で寝ていた。そこにオリビアが加わることでベッドの大きさから一緒に寝るのはローテーション制になるかと思いきや、秋斗に割り当てられた部屋のベッドが昨日よりも一回り大きくなって4人で寝ても余裕なくらい巨大化していた。

 誰だ、こんな気を回したのはと思いながら部屋の外にあるトイレに行こうと部屋を出た際に、満面の笑みを浮かべたサンタナ侯爵が秋斗へサムズアップしていた。


 3人の美女と同じベッドで寝る。そう考えれば大半の人たちがイタしてしまうだろう。だが、この賢者は違う。

 サンタナ砦の客室の壁はどう考えても防音性など考えられていない。

 右の部屋はエルザ、左の部屋はイザーク。イザークにイタしている声を聞かれれば「夕べはお楽しみでしたね」と言われるだろう。彼と友人になって1ヶ月程度だが最近は遠慮が無くなってきた。秋斗的には良い事なのだが。

 エルザは恐らく何も言わない。言わないが、翌日顔を合わせた際に気まずそうに顔を逸らされる。何故そうなるのが分かるのか、と問われればジーベル要塞の時にそうなったからである。


 だが、イタさない代わりに好奇心を満たすのは止めない。


「尻尾と耳をじっくり触っていい?」


 秋斗は常々不思議に思っていた獣人最大の特徴について探求を始める。

 エルフの長い耳、獣人の動物尻尾、魔人族の角や羽。これらは勝手に触るとセクハラ扱いになる。故に、賢者時代には存在しなかった異種族という人達の特徴的な部分に触れるのは我慢してきた。

 リリとソフィアは婚約者なので耳は触り放題であるが、秋斗が特に気にしているのは獣人の尻尾と耳だった。尻尾に骨はあるのか? 耳は4つあるけどどうなってるの? 本当に賢者時代にいた動物のようなモノなのか? 肌触りは? などと知りたい事は沢山ある。


「えっち」


 秋斗の発言に反応したのはベッドの上でハナコを抱いてもふもふしていたリリだった。

 

「違う。昔は獣人なんていなかったから興味があるだけだ。人と違うのか、耳はどうなのか――」


 秋斗君の必死なセクハラじゃないんですよアピール。


「別に構わない。や、優しく頼む!」


 同じくベッドにいたオリビアが少し緊張しながら秋斗の隣へススス、とやって来る。

 秋斗の体にピタリとくっついた彼女の服装はパジャマ用のキャミソールに下はパンツ1枚。リリとソフィアよりも胸のサイズは小さいが、立派な谷間がコンニチワしているし密着すればむにゅりと潰れる。

 その感触におほっと鼻の下を伸ばしつつ、秋斗はまず尻尾に触れた。


「ひゃうっ」


 獣人にとって尻尾とは敏感な部分と言われている通り、軽く握って骨があるのか確かめるとオリビアの口からは普段の勇ましい彼女からは想像できない可愛らしい声が漏れる。

 尻尾に骨は……ある! と思われる。思いの外、筋肉のようなものがついているのでよくわからない。

 秋斗は続いて耳に触れる。


「あふぅ……」


 頭を撫でながら耳をわしわしと触ると、オリビアの顔はとろんと蕩けたような表情をして尻尾をぱたぱたと動かす。どこかで見た事ある表情だと思ったらハナコに似ていた。

 狼系の獣人であるオリビアの耳はハナコの耳に触れた時と同じような感触。犬系だからだろうか。

 次に、オリビアの人と同じ位置にある耳を手で塞いで「聞こえる?」と問う。


「聞こえる」


 次に獣耳の方を両手で押さえて同じ質問。


「聞こえる」


 どちらの耳にも聴力はある。かもしれない。お遊びのように手で押さえただけなので、もっと詳しく調べないと正確な答えは出せない。

 触り心地の良い耳と尻尾に触れられたので秋斗的には十分満足だった。


「ん」


 オリビアを撫で回して満足していると、リリが頭をスッと秋斗へ向ける。撫でろ、という意味を察して撫でてやると「んふふ」と言って寝ながら腰に抱き付いてきた。


「あ! ズルイです!」


 長い髪を櫛で整えていたソフィアも秋斗に突撃。秋斗の腕を持ち上げて自らの頭の上にぽん、と乗せる。

 せっかく髪を整えてたのにいいのか? と疑問に思いながらも撫でてやるとだらしなく笑って、秋斗の肩に頭を乗せた。


「もう一回撫でてほしい」


 オリビアのリクエストに応えてわしゃわしゃと撫でる。また蕩けたような表情になって満足気に尻尾をパタパタと揺らしていた。


「キャウ」


 ハッハッハッ、と舌を出して尻尾をパタパタ振るハナコ。その目には私も撫でて、という要望が浮かんでいた。

 最近、ハナコと満足に触れ合う時間が無かった秋斗は、ここぞとばかりにハナコを膝の上に乗せて頭からお腹まで撫でまくってやった。


「ハナ、ズルイ」


 4人のふれあいは深夜まで続く。






 その翌日の昼、レオンガルド王城にて。


 レオンガルド王国現国王フリッツとガートゥナ王国現国王セリオは会議室でエルフニアより届いた手紙を読んでいた。

 フリッツの読んでいる物はエルフニア王国国王であるルクスからの魔道具開発の進捗や既に壁を設置し終えたウエストン砦からの報告なども含めた近状報告。


「ふむ。秋斗様から教えて頂いた技術を活かした新型魔道具の製作と普及は順調なようだ。既に街の給水魔道具は前よりも格段に良くなり、一般販売向けの魔道具に着手したと書いてある」


「おお。さすが賢者様の技術ですね」


 フリッツは読み終えたルクスからの手紙を宰相であるアーベルへ渡す。アーベルもフリッツの言葉を聞いて笑みを浮かべた。

 

「イザークからの報告も読んだが、旅は順調なようだ。あと1週間もすれば秋斗様はレオンガルドへやって来る。歓迎の祭りを開催せねばな!!」


 フリッツはワクワクする気持ちを隠そうともせずにゴキゲンな様子で会議室に集う貴族達へ告げる。

 普段、フリッツの暴走に振り回される貴族達であるが今回ばかりは大賛成の声を上げた。

 偉大なる伝説の賢者、英雄譚の登場人物。誰もが憧れる人物が自分達の国へやって来るのだ。賛成しないはずがない。


「盛大にやりましょう!! 1週間くらい!!」


「歓迎式典!!」


「料理は!? どのような料理をご用意すればよろしいか!?」


 ギャアギャアと盛り上がる貴族達とフリッツ。彼らが話し合う内容を秋斗が聞けば全力で拒否するようなモノばかりだった。

 10分程度貴族達と盛り上がったフリッツは話し合いに参加せずに息子からの手紙を未だ読みながらニマニマと笑みを浮かべるセリオへ顔を向ける。


「セリオ。どうした?」


 不審に思ってフリッツが問うとセリオはようやく手元の手紙から顔を上げて、持っていた手紙を何も言わずにニンマリと笑みを浮かべながらフリッツへ差し出す。

 フリッツは頭に疑問符を浮かべながら差し出された手紙を読んでみると――

 

「な、なんじゃとおおおおお!?」


 会議室にフリッツの絶叫が響き渡る。


「ガァーハッハッハッハ!!! 我が娘よ!!! よくやった!!!」


 フリッツの絶叫を聞いたセリオは厳つい顔を愉快そうに歪ませる。顔が歴戦の戦士のような厳つい顔をしたセリオは嬉しそうに笑っても怖い。だが、彼の声は心の底から歓喜するのが分かるほどのものだった。


 セリオが読んでいた手紙は息子のダリオから届いた物で、内容は要約すると「姉が賢者様と恋人になりました。僕の部屋に突撃して来て婚約許可を父上に貰うよう手紙を書けと脅されました。助けて」と書かれていた。

 最強の名を持つセリオの機嫌も最高潮に達する人生最高の報告。笑わずにはいられない。

 何故なら自身が敬愛し、尊敬し、憧れる最強の英雄と娘が恋人同士になったのだから。オリビアが結婚すれば賢者が義理の息子だ。セリオにとっては夢のような話だった。


「エ、エルザは!? エルザはどうなのじゃ!?」


 親友でもある獣王セリオの娘、オリビアが賢者と恋人になった。ならば、自分の娘はどうなのだ!? と目を血走らせながら既に読み終えているイザークからの手紙を再び読むが、そんな報告は1行も無い。

 賢者と友人になりました。ジーベル要塞の設置作業は終えました。ガートゥナに向かいます。くらいの内容しか書かれていない。

 兄であるイザークからの報告も無ければ、エルザ本人が父へ向ける文字すら無い。全く無い。皆無。


「エルザアアアアア!!! エルザなんでええええ!!?? キエエエエエ!!??」


「陛下!? 落ち着いて下さい!?」


「ガーッハッハッハッハ!!」


 会議室にはフリッツの奇声と落ち着くよう宥めるアーベルの叫び、そしてセリオの放つ勝者の笑い声。

 混乱と歓喜が充満する中、セリオが勢いよく椅子から立ち上がる。


「こうしてはいられんな!! 娘のもとへ行って早速許可を出さねば!!」


「ま、待て!! セリオ!! 抜け駆けは許さんぞ!?」


「ガーッハッハッハ!! 聞こえんなぁッ!!」


「セリオォォォォッ!!」


 フリッツが勝者の笑い声を響かせながら会議室の扉へ向かうセリオの背中に腕を伸ばすが彼を制止する事は出来ない。これが勝者と敗者の差なのか。

 

 セリオが王城の入り口から外に出て、丁度傍を通った家臣に馬を用意するよう告げる。

 ルンルン気分で馬を待つ事10分。レオンガルド王城にガートゥナ王家の紋章を掲げた馬車と馬車を護衛する騎士が馬に乗ってやって来た。

 しかもやって来た馬車はガートゥナ王家の物。護衛の騎士達も自分達の王に気付き、下馬して騎士礼を取る。

 セリオが何事か? と気を引き締めると馬車から降りてきたのは自分の嫁、ガートゥナ王国第一王妃イネスだった。


「あら、アナタ。お出迎えしてくれたの?」


「イ、イネス? 留守を任せたお前が何故? まさか、国内で問題が? それとも賢者様に何かあったか!?」


 国を任せた妻――オクタヴィアとは従姉で同い年である紅狼族の女性イネス――が目の前にいる事態にセリオは少々取り乱す。騎士達の顔には疲労の色が窺える。恐らく夜通し走り続けてここまでやって来たのだろう、とセリオは予測する。

 しかも、書状や手紙ではなく妻が直接やって来るほどに大きな何かが起きたのかと思えば、長年国を治める王であるセリオにも緊張が走ってしまう。


「大丈夫よ。慌てないで。問題というか……。詳しくはフリッツ陛下も交えてお話しましょう。それよりも、アナタは何故王城の入り口に?」


「いや、ダリオから手紙が来てな。オリビアが賢者様と恋人になったと言うではないか。婚約の許可を求めてきたので向かおうと思っていたところだ」


 セリオが王城入り口にいた理由を話すと、妻イネスの目がスッと細くなってセリオを睨みつけた。

 イネスもその件は聞いていないが、オリビアのいるサンタナ砦にはオクタヴィアが向かったのは知っている。そちらは彼女に任せ、イネスはイネスで役目があるのだ。夫の手綱を握って仕事をさせるという妻としての役目が。


「アナタ? そっちはオクタヴィアが向かったからアナタは向かわなくていいの。レオンガルドでお仕事があるはずよね? それは終わったの? それとも……終わらせていないのに向かおうとしていたのかしら?」


 イネスの態度と言葉に、セリオの背には冷や汗が流れると同時に股間がキュッとなる。


「わ、我は……」


「あ?」


「終わってないですッ!! 戻ります!!」


「よろしい。フリッツ陛下のいる場所までエスコートして下さいね」


 セリオはぷるぷると震えながら愛する妻の手を取って、来た道を引き返して行った。



-----



 おまけ話 ~ガートゥナ王国 2人の王妃~



 セリオの幼少期


 セリオの息子であるダリオのように、幼少期のセリオは今の厳つい顔とは想像できないほど容姿は愛らしく可愛らしかった。

 さらにその愛らしい容姿をしながらも、勇ましく子供用の木剣を振って「ぼくがみんあをまもりゅ!!」と言うのだからガートゥナのお姉様方からの人気は絶大だった。


 そんな彼を見つめる一人の少女。後のガートゥナ王国王族の正室となる、ガートゥナ王国侯爵家の娘イネスは愛らしいセリオに幼いながらも母性を刺激され、将来は彼の妻になると公言していた。



 イネス10歳 (セリオちゃん、かわいい)


 イネス10歳「セリオちゃん。将来、お姉ちゃんと結婚してくれる?」


 セリオ 5歳「けっこんしゅる!!」



 翌日



 イネスと同じく紅狼族でガートゥナ伯爵家、イネスとは従姉同士のオクタヴィアは彼女の隣で必死に剣術を学ぶ弟分が可愛くて愛しくて仕方なかった。

 将来は彼の妻となって、共に戦場を駆け、彼の背中は自分が守ると公言していた。

  


 オクタヴィア「セリオ。将来、結婚しよ?」


 セリオ「けっこんしゅる!!」



 結婚という意味、重さがまだ理解できていないセリオは2人の提案を受けてしまう。その様子を2日連続で柱の陰から見守っていた先代の王は思う。



 先代獣王(息子よ……。将来、どうなっても知らぬぞ……。我と同じ命運を辿るか……)



 獣王セリオ 18歳の夏



 イネス & オクタヴィア「どっちと結婚するのよ!!」


 セリオ「……どっちともする!! 同時にする!!」


 

 こうしてガートゥナ王国の王セリオ・ガートゥナは同時に2人の女性を娶った。

 先代獣王に「ごめんなさい」と、うな垂れながら告げるセリオに、先代獣王は慈愛の眼差しを向けながら彼の背中を優しく摩った。そして、彼はセリオに小さく呟く。「我も同じだった」と。


 因みに正室、側室はジャンケンで決めるという王国始まって以来の珍事件であり、ガートゥナ王家と重鎮達によってその事実は歴史から消される事となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ