08 だーくえるふのおよめさん
前回のあらすじ。
秋斗に嫁が出来た。
「御影秋斗。魔工師。26歳です」
「リリ・エルフィード 207歳。 妻です」
お互いを知るところから始めようという決め事通り、お互いの自己紹介から始まり、他愛も無い話題も織り交ぜつつ会話は続く。
「どれもスゴイ魔道具ばかり。やっぱり魔工師ってスゴイ」
魔工師やマナマシンに関する事を聞いたリリは目を輝かし――
「エルフは長寿なのはわかったが、人間の年齢に換算するのが難しい……」
エルフという種族を知った秋斗は頭を抱える。
魔工師という職業の紹介からエルフの事など、興味がある事を交互に質問して答えるというのを繰り返していた。
秋斗はエルフについて詳しく聞き、長寿種であり、エルフの年齢を人の年齢に換算する事については諦めた。
リリの見た目は自分よりも幼い容姿だが、どう背伸びしてもリリの方が年上だ。
無理やり人間の年齢に換算としたら、20歳くらいだろうか。しかし、寝ていた時間を加味したら秋斗の方がよっぽど年上なのだが。
リリは魔工師とは何かという質問から始まり、氷河期が訪れる前はどのように暮らしていたか、どのような文明だったのかが気になっていた様子。
魔工師としてどのような仕事をしていたのか、過去の時代での暮らしぶりはどうだったのかを一通り話す。
聞き終わったリリの感想は「今は昔と比べたら原始的なんだね」だった。
そして、お互いに一通り話し終えたところで秋斗は一番の問題をリリに提示する。
「一先ず、リリの格好をどうにかしたい」
そう言ってリリを見ると、当人はボロボロの服を見下ろしながら胸元を引っ張っていた。
引っ張った胸元からはリリの大きな胸の谷間がコンニチワしていて、秋斗の精神をゴリゴリと削る。
26歳で魔工師という称号を得た秋斗も、人並みにスケベでアレなのだ。
「それは逃げていた時にボロボロになったのか?」
未だビョンビョンと胸元を引っ張るリリに問いかける。
「ううん。服と防具は取られた。1人の男に服と防具を脱がされて襲われそうだったけど、価値が下がるからやめろって偉そうな男が言ってこれを渡された」
「そうか……。ぶっ殺しておいて正解だったな」
眉間に皺を寄せながら、処理した3人を思い出す。3人のニヤケた顔が脳裏に浮かぶと未だに怒りがこみ上げる。
「首輪を嵌められた時は……正直諦めそうだった。でも逃げ出して秋斗に助けて貰えて、結果的に旦那さんが出来た。結果おーらい」
リリはそう言いながら、身に起こった出来事を気にしていない様子。秋斗の眉間に寄った皺を人差し指でグニグニと弄りながら微笑んでいた。
「気にしていないなら良いが……。まぁ、もう危険な目には遭わせんよ」
「きゅん」
リリさんの好感度ゲージがまた溜まる。
「で、服だが……」
「うん」
「そろそろ陽も落ちるし風邪を引いたらたまらんだろう。代わりの服は何かあったかな……」
そう言って秋斗は立ち上がり、テントの中にあったキャリーバックを物色して自分の洋服を取り出す。
「俺の服だけど着れるか?」
「ん。着てみる」
リリに洋服を手渡すついでに、体を拭く為の濡らしたタオルを渡す。リリはその場で身に付けていた服をガバリと脱ぎ始める。
ボロボロの服の下には下着すらも着ていなかったリリは当然、全裸。
「………」
秋斗の目の前に現れた美女の美しい肢体。
大きな胸にきゅっとしたクビレと程よい大きさの尻。抜群のプロポーションが目の前に晒される。
なんということでしょう。その女神の如く美しいフェイスとボディを持った美女が自身の体をタオルで拭く様子を、秋斗君はガン見してしまったのです。
「下は……ぶかぶかだから上だけで良い」
リリの言葉にハッとする秋斗。
現実に引き戻されると、そこには裸Yシャツという至高の装備を身に付けたリリがいた。
「なんか、着替える前より酷くなってねえ?」
リリよりも体が大きい秋斗のYシャツは絶妙な具合だった。
シャツのボタンを留めていない胸部分はほとんど曝け出しているにも拘らず、大事な突起部分は絶妙に隠れている。下半身の重要な部分はブカブカYシャツの裾で見えそうで見えない。
その代わりに惜し気もなく晒される美しいふともも。至高の肉感を持ったふともも様が秋斗の心のHPは0どころかマイナス点まで抉っていた。
極めつけは手が隠れる程にぶかぶかの袖部分。あざと可愛い。
(ふとももフェチに目覚めそう。いや、目覚めた)
じっとリリのふとももを凝視してしまう賢者。
「触ってもいいよ?」
リリがペラリとYシャツの裾を少しだけ上げて、ふとともとお尻のラインをチラ見せすれば秋斗は新たな性癖を会得した。
「ボ、ボタンを閉めないといけませんよ!」
新たな性癖を得た秋斗は、顔を若干赤くしながらリリが着るYシャツのボタンを閉めて誤魔化す。
「せっかくの開放感が」
「いけましぇえん!」
その後、リリにスラックスも履かせよう試みたが、ぶかぶかで足を引きずるのが着心地が悪いという彼女の感想によって拒否された。
仕方が無いのでリリは裸Yシャツという至高の装備のみで活動する事になった。
秋斗は街に入れたら1番に服屋に行こうと決めた。
洋服問題は一先ず置いておく事にして、夕飯を用意する。
レトルト食品のクリームシチューを2人分お湯で温める。湯煎が終わったら袋を開けてリリに手渡す。
リリは過去の時代で作られた非常食に興味深々で、出来上がった物を手渡された瞬間スプーンを突っ込んで食べていた。
「この料理、街にある」
パクリとシチューを口に入れて味を確認すると、現代でも存在する料理だと告げた。
「え? シチューあるのか?」
「これ、エルフの街によくあるシチュー。というか、シチューみたいなスープは東側の国にはどこにでもある。土地によって味付けが変わるかもしれないけど」
「おお! という事は食文化はそれ程変わっていないのか……? 他にはどんな料理がある?」
「うーん。料理は色々ある。東側の他国とも交流が盛んだから色々な料理が入ってくる」
リリの話では、その土地に伝わる伝統料理などを交流で他国から来た人々が伝えたり、他国で店を出したりしているらしい。
「食文化が盛んなのは良いな。メシは美味い物を食うのが一番だ」
過去の時代でも、秋斗の所属する国は食文化に優れていた。
他国の料理を国の人々に合うように改良したりして、様々な料理が浸透していた。過去の時代での秋斗の楽しみの中には美味い料理を食べる事も含まれていた。
「色々な街に行って料理を楽しむ旅ってのも良いな」
秋斗は、自分が過ごしてきた過去の生活を思い出してポツリと呟く。
行く先々で美味しい料理を巡りながら、ゆっくりと旅をするという過去には出来なかった生活。
そういった出来なかった事を今、この時代で過ごすのも良いんじゃないかと思う。
『秋斗。お前は幸せになれ。夢を果たしてくれよ。俺の分も』
遠い過去で、親友が最後に告げた言葉をこの時代で実現する。
親友の言っていた言葉を思い出していると、そっと秋斗の手に感触が伝わる。
「私も、秋斗と一緒に行く」
感触の元を辿ると、そこには優しい微笑みを浮かべた美女が秋斗に手を重ねていた。
リリの顔を見て、彼女と一緒なら――と秋斗は思う。
「そうだな。一緒に行くか」
「うん」
彼女と一緒ならば、過去に見つけられなかった幸せが見つけられる。
そう確信めいたものが秋斗の心に沸き上がった。
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さて、お分かりだろうか。
秋斗は気付いていないが、墜ちかけている。
リリ・エルフィードという名の美女に墜ちかけているのだ。
一見クールそうな彼女だが、なんとも人懐っこい。助けた事で庇護欲も沸いてしまう。話し始めればポンポンと会話のキャッチボールが続いて心地よい。
容姿はもちろんの事。彼女の性格も良く、会話の心地よさが秋斗の心の隙間にスルスルと入り込んでいく。
さらには今まで1人だった状況だったのと、そこに現れたスキンシップ多めなリリ。
秋斗の人肌恋しいような感情が満たされていく。
お互いを知るまで~。いきなり結婚は~。
などと、自分の口から言っておきながらのこの状況。チョロイのは秋斗だった。
だが、男性ならば理解できるかもしれない。目の前に、自分を好きだと言ってくれる美女が現れたら……。
いとも簡単にチョロ賢者になってしまう。
そんなチョロい賢者はリリとイチャイチャしながら食事をしたあと、周りはすっかり暗くなっていた。
「さて、そろそろ寝るわけだが」
「うん」
今までは秋斗1人だったので気にしていなかったが、存在する寝袋は1つ。
「リリはテント内の寝袋で。俺は外でいいよ」
秋斗がテントを指差せば。
「何で? 一緒に寝ればいい」
リリは指を差した秋斗の腕を掴んでテント内へと誘う。
「………」
「さ、寝よう?」
ぐいぐいと腕を引かれ、秋斗の紳士っぷりなど一切の考慮も無くテント内へ連れて行かれた。
「寝袋は1つしか無いんだぞ?」
「一緒に寝ればいいじゃん」
一緒に寝ればいいじゃん。いいじゃん。とリリの言葉が秋斗の脳内でエコーする。
「いや、リリさん……?」
「さ、寝て」
秋斗の意見を聞く前に、リリは秋斗を寝袋に押し倒す。
「腕はこう」
ささっと押し倒した秋斗の腕を引っ張ってポージングさせる。
腕枕のポーズ!
「そして私がこう寝る。完璧。これ以上無い程に完璧」
リリは秋斗に腕枕されながら、秋斗の胸に顔を埋める形で密着する。
スンスンと秋斗の匂いを嗅ぎながら更にぴったりと密着。
秋斗にはむにゅりと自分の体で潰れたリリの胸の感触が伝わり、気が気じゃない。必死で脳内にマナマシン理論を垂れ流し、煩悩という異物を排除しようと試みるが、ダメ!
「秋斗なら襲ってもいい」
胸元に埋められたリリの頭から告げられる言葉に理性というリミッターを解除しそうになりながらも、リリの体を抱きしめ、頭を撫でる。
「我慢できなかったらゴメン」
「ふふ。好き」
2人は互いの温もりを感じながらまどろみの中へ落ちていった。