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84 砦に無事帰還


「賢者様! 軍将様! お待ちしておりました!」


 秋斗とグレンが梯子を登ると隠密部隊の1人が梯子の前で待っていてくれた。


「分隊長は合流できたか?」


「はい。既に殿下のもとへ被害者達を連れて行っております」


「そうか。ちょっと荷物があるんだ。上げるのを手伝ってくれ」


 グレンは会話を終えると梯子を再び下って地下に降りる。

 秋斗は戻る途中で備品庫に寄った際に回収したロープを地下へ垂らして下にいるグレンが荷物を固定して上に向かって声を掛けたら、地上にいる2人が引き上げた。

 全ての荷物を引き上げ、グレンが戻ったら秋斗は最後の爆発物を地下へ投げ入れる。


「よし、皆のところへ戻ろう」


 秋斗達はそれぞれ荷物を担いでイザーク達の待つ基地北側へ急いだ。



「秋斗様!」


 北側で荷馬車に被害者達を乗せつつ、怪我や病気の症状が酷い者達を応急処置していたソフィアが夜の闇に紛れながら走って来る秋斗達に気付いて声を上げた。


「待たせた。こっちはどうだ?」


「彼らの処置が終わればすぐにでも出発できます」


 秋斗の問いに駆け寄ってきたイザークが答える。


「よし、じゃあ荷物だけ積み込むか」


「それは?」


「ついでだから拝借してきた」


 秋斗の答えにイザークは逞しいですね、と苦笑いを浮かべる。秋斗達が荷馬車に回収してきた荷物を積み終えると丁度猫人族の女性2人の声が後方から聞こえてきた。


「処置が終わりました!」


 振り向くと、騎士達が最後の被害者を抱えて丁寧に荷馬車へ乗せているところだった。


「騎士団は各隊で点呼を開始!」


 オリビアが撤収前の確認を行うよう叫ぶと、その後に「全隊問題無し!」とサンタナ砦の副官が声を上げて報告。


「これよりサンタナ砦へ撤退する! 撤退ルートは行きと同じだ! 出発!!」


 オリビアの合図で荷馬車を引くケンタウロス族がゆっくりと走り始める。そして、徐々にペースを上げて秋斗達一行は東へと進んで行く。

 途中立ち寄った廃村付近で秋斗はイーグルを基地の上空へと飛ばす。そして、念の為に全荷馬車へ持ってきたシールドマシンを飛ばしてシールドを展開してからポケットから起爆装置を取り出してボタンを押した。


 秋斗の押したボタンと連動し、基地の地下に設置された爆発物が一斉に点火。格納庫内にあったマナマシンを全て巻き込んで爆発する。戻る途中に廊下や扉の開く部屋にも設置してあった爆発物も爆発して基地の地下は底が抜けたように崩壊。

 格納庫内にあった爆発物やミサイルも相まって爆発の規模は大きく、壁も爆発で吹き飛んで基地全体の地盤が崩れ落ちて巨大な蟻地獄のような様で全てが沈んで行く。

 その勢いと威力は遠目でも見えるほどの真っ赤な火柱と煙を空まで巻き上げ、キノコ雲とまではいかないが派手な様子が十分離れた場所にいる秋斗達にもわかるほどであった。


 背後で起こった爆発の音や巻き上がる土煙と火柱に一行が驚愕するが、ケンタウロス族は足を止める事無く東へ走る。

 秋斗は飛ばしたイーグルで爆発後の様子を確認し、基地全体が沈んだ映像を見たあとにイーグルへの帰還命令を下す。

 同時にグレンもその結果を見ていて、満足したのかサングラスを外して大きく胸を撫で下ろした。


「一先ずは安心か」


「そうだな。あれなら格納庫にあった物も確実に吹き飛んでるだろう」


 秋斗とグレンは当面の脅威が去った事に対して頷きあう。


「お疲れ様」


 そんな2人にリリが水筒を2つ持って秋斗とグレンに差し出す。2人は水筒を受け取って喉の渇きを癒した。



-----



 基地の爆破を、まるで生まれて初めて花火大会を見た幼子のように唖然と驚愕の気持ちが入り混じる奴隷被害者達を乗せた荷馬車は、朝日が登り始める時間にはガートゥナ領内へと到達していた。

 ガートゥナ領土内へと入ってから30分走った所で一度休憩を取り、その後はサンタナ砦まで一気に駆け抜ける。

 砦が視界内に入るくらいの位置に到達したのは朝の7時頃。

 

 砦には帝国からの攻撃は無かったようで、いつも通り城壁に騎士が数名監視に立っている。しかし、入場門付近には砦内に入りきれなかったのであろう多数の馬や馬車が停まっていた。

 恐らくサンタナ侯爵が街から呼んだ応援や奴隷被害者を介護する為の医療院関係者だろう、皆そう思っていた。

 しかし、秋斗達一行が入場門前に到着するとサンタナ砦内から侯爵と共に入場門へやって来たのは予想外の人物であった。

 

「母上!」


 侯爵と共にやって来た人物――スリットが腰の位置まで入ったセクスィードレスを身に纏った美女を荷馬車の上から見つけたオリビアが美女の正体を叫ぶ。


「ま、まじで?」


「マジ」


 秋斗が隣にいたリリに問うが、リリは真剣な表情で頷く。グレンも口を開けてポカーンとしていた。

 2人が驚愕するのも無理はない。オリビアの母親はどう見てもオリビアと同じか1~3歳程度上の年齢にしか見えない。

 秋斗的にはエルフは理解できる。エルフは寿命が長い種族だし老いも緩やかだ。リリとソフィアが母親と並んで姉妹です、と言っても種族的な特徴があるからそうなんだ、と納得できる。

 だが、オリビアが母と呼んだ人物は彼女と同じ紅色の耳と尻尾を生やした獣人種であり長寿な特徴を持っている種ではない。

 しかし、2人が並んで立てば姉妹で通用するくらい若々しい。どう考えても、逆立ちして考えても1児の母には見えない。何歳の時にオリビアを産んだのか、と聞きたくなる程であった。

 

「姉の間違いでは?」


「はは……」


 種族特徴を軽くではあるが聞いているグレンも目をゴシゴシと擦りながらイザークに問うが、イザークも気持ちは理解できるのか乾いた笑いを出す事しかできなかった。

 ガートゥナの妃は古の秘儀を用いて歳を取らない、と噂されているのを知っているイザークも真相は知らない。謎なのだ。大陸東側の7不思議に数えられる謎の1つだ。

 ただ、興味本位に調べた者が言うにはガートゥナ王妃は1年に一度はエルフニア王妃と密会して何やらしている、という話が王家の耳に入るだけである。それ以上はその者も語らない。語ろうとしなかった……。


 そんな歳を取らない美女、オリビアの母の名はオクタヴィア。ガートゥナ王国第二王妃である彼女は帰還した秋斗達を見るなり、サンタナ侯爵と共に地へ片膝を付けて頭を下げる。


「偉大なる賢者様。偉大なる軍将様。此度は我ら東の民をお救い頂き、感謝申し上げます。我が王からも後ほどではございますが、直接感謝を述べさせて頂きます」


 秋斗はオクタヴィアと共に跪くサンタナ侯爵と騎士達を見て「ああ、またいつもの……」と諦め顔だ。グレンもそんな秋斗の顔を見て「ああ、どうしようもないのね……」と全てを悟った。

 が、今回秋斗には彼女達の態度を早急に終わらせる為の強力な理由があるが、最初は秋斗とグレンは彼女達の前に歩み寄った後、彼女達の後頭部を見下ろしながら初めまして、の挨拶をした後にさっそく切り札を切った。

 

「挨拶はこの辺で終わろう。まずは助け出した人達の治療とゆっくりと休める場所への搬送が先決だ」


 秋斗がもっともな理由を言って跪いていた彼女達を立たせることに成功。


「ハッ! 医療院から医療職員を派遣して頂きました。それと、彼らの食事を作る料理人と食材も。各街で受け入れ態勢の準備中ですのでそれが終わり次第、重症な者から優先的に搬送致します。それまでは騎士の宿舎で彼らを治療します」


 秋斗の言葉に応えたのはサンタナ侯爵であった。

 彼は秋斗達が出発した後、急いでガートゥナ王国王都にある王宮へ使いを出した。


 秋斗達が行う作戦概要と共に医療院から職員の派遣依頼、さらに自ら治める西街で医療用の食事を作る医療院職員の補助をしてくれる料理人と食料を取り扱う商会に食材の手配を行った。夜中に叩き起こされた商会の会長も理由を聞いて全て無償で提供してくれた。

 王であるセリオがレオンガルドへ行っている中、王宮で留守を任されていた王妃の2人は作戦を即可決。事後承諾であるが賢者と軍将の言葉なので何も問題無い。むしろ、偉大なる2人からの提案に張り切り全力を出した。


 オリビアの母であるオクタヴィアは、まだ陽が登っていない時間であったにも拘らず医療院へ突撃して職員へ通達。現在収容されている患者の世話を行っている者達以外で、動ける者達を纏めて馬よりも速いケンタウロス族の引く馬車にぶち込んで、砦に向かう途中にある西街で更に職員を連れて行くように王命も下した。

 その後、正室である第一王妃と共に雑務をこなした後で自身も馬に飛び乗って護衛も付けずに単騎でサンタナ砦へ向かう。事態の大きさから、正室である第一王妃も準備をした後にレオンガルドにいる夫へ直接伝えるべく護衛を連れて出発した。


 因みに侯爵が行った事はグレンが侯爵へぶん投げた部分だ。グレンはこの時代の事をまだ深く知らない。故に、救出後に必要な手配を全て侯爵に一任したのだがグレンが想像していた以上に手厚く配慮されたものであった。

 急な作戦提案と実施にも拘らず移動手段が乏しい中でも迅速な行動にグレンの心の中ではサンタナ侯爵への株が急上昇。もはやスタンディングオベーション級の評価だ。

 しかも兵士の宿舎を開放して被害者に使わせ、騎士達はテントで寝るという。もはや国防を担う者達の鑑だ。人を守る者達はこうでなくては、とグレンはまだ短い付き合いであるが彼らを誇らしく感じた。


「騎士と医療職員は彼らを宿舎へ運べ! ベッドに寝かせて落ち着いた後に治療と食事を行う!」


 オクタヴィアの号令で待機していた騎士と職員達は素早く動き始める。ゆっくりと彼らを荷馬車から降ろして担架で宿舎へ運ぶ。介護食を作る職員と街の料理人達も大鍋や食材が入った箱から食材を取り出して作業に入った。


「賢者様。軍将様。詳しいお話を聞かせて下さい」


 全ての指示を出し終えたオクタヴィアとサンタナ侯爵は秋斗達を連れて司令室へ向かう。

 司令室の椅子に着席して、お茶を1杯飲んで少しリラックスしたところで秋斗とグレンは今回の件を話し始めた。


「なるほど……。賢者時代の軍事施設。それに地下に眠る兵器ですか」


 秋斗とグレンから話を聞き終えたオクタヴィアは腕を組んで娘より大きい豊満な胸を潰しながらも、顔には眉に皺を寄せながら真剣な表情を浮かべる。

 その様は王妃というよりは女将軍だ。王宮から馬で2時間以上掛かる距離を単騎駆けで、しかも最前線の砦に来るくらいだから間違ってはいないだろう。正しくオリビアの母と言える姿と行動力であり、ガートゥナの女は強いと言われる象徴そのものであった。


「既に兵器は無力化したし、基地は爆破して沈めた。基地にいた帝国兵も全て処理したので情報の漏洩は無いだろう。こちらの仕業だと気付かれる可能性もあるが……恐らく兵器が誤作動を起こして爆発したと思ってくれる可能性の方が高い」


 賢者時代に詳しい者、賢者時代に生きていた者であればあの時代にあった兵器の繊細さや取り扱いの難しさはよく分かっているだろう。

 発掘した物は丁重に扱え、と命令を出していたとしても、知識の無い馬鹿な下級兵士か奴隷が兵器を触って事故を起こした。そう思ってくれる可能性は高い。


「他にも西側に同じような施設があるのですか? あるとしたら、そこも奪還しなければマズイのでは?」


 オクタヴィアが問う。一撃で東側全土が人の住めない地になると聞かされたのであれば当然の問いだろう。


「あそこは元々アークエルの領内で敵国であったグーエンドとの要所だった。では何故、敵国の近くにある基地に当時の切り札とも言える兵器があったのかだが、偏にあの基地の防御力の高さが理由だ。あの基地の防衛力と兵器を保管する格納庫の堅牢さはアークエルでも1番を誇るほどだった。だから保管されていたんだ。他に弾頭を保管している施設は西には無く、あるのは今の東側領土内だな」


 グレンの元勤務先であるフィノイ陸軍基地。敵国との要所なだけあって何度も改装を行い、最先端技術を用いた基地の防衛設備はアークエルだけでなく他国と比較してもトップクラスの防衛力を誇っていた。

 何しろ防衛設備や基地の改装には世界屈指の研究機関でもある魔法科学技術院が関わっているのだから。並みの攻撃じゃ崩れないし、非常時には敵に兵器を奪われないよう厳重な封印手段施されている。

 だからこそ、今までヴェルダ帝国に主要兵器を奪われなかったのだ。


「そうですか……。ならば安心ですね」


 グレンの解説を聞いたオクタヴィアはホッと胸を撫で下ろす。眉間の皺も取れて微笑む表情はオリビアそっくりだった。

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