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75 全力で道連れ


「さて、落ち着いたとこで一旦整理しよう。まずは俺とグレンの関係だが……」


 秋斗が仕切る中、グレンが賢者時代でどのような存在だったのかを伝えていく。


「グレンは賢者時代に存在していたアークエル軍の大佐であり、俺と共に戦場で戦った事もある戦友だ。彼は敵の情報を収集し作戦の立案を主にしていた。後は人材の育成だな」


 まずはそこまで伝えると、イザークが挙手。


「軍というのは秋斗も賢者時代に所属していた騎士団のようなものですよね? タイサ とは何でしょう?」


 軍の存在は英雄譚でも出てきているので、どんなものなのかは知っているのだろう。しかし、軍における階級や役職などの部分は描かれていないようだ。


「軍の認識は合っている。大佐というのは階級や役職だな。東側で言うと……騎士団長位の階級か? とにかく階級としてはかなり上だ。俺のように平時は研究者で戦争時のみに軍に参加する者ではないな」


 イザークは秋斗の答えに、なるほどと頷き納得したようだ。

 オリビアやサンタナ侯爵は騎士団長クラスと聞いて、ピクピクと反応していた。獣人という強さを求める戦闘種族の性だろうか。


「なるほど。秋斗様とは違った知識を持った賢者様なのですね」


 ソフィアもグレンが賢者時代においてどのような立場だったのかは理解できたようだ。


「秋斗から現代に伝わる賢者の話を聞いたが、私は軍人であり秋斗のような失われた知識を持った者ではない。ケリー博士や秋斗のように現代魔法工学の発展には力になれないだろう。なので、賢者としては当て嵌まらないと思うし身分的には貴方達王家よりも格下だと思うのだが……」


 グレンは秋斗から話を聞いている時も、王家より上だというのが納得できないようで何度も頭を抱えていた。

 賢者時代では大統領が常に上位にいて、グレンの階級は上から数えた方が早くても偉そうに振舞うようなモノでもないと思っているし、秋斗のように実績も現代に貢献できそうな魔法知識も無い。

 彼にとっては現在の立場は少し過剰な気がしてならなかった。


「いえ。そのような事はありません。どのような知識をお持ちになっていても失われた技術に触れていた御方であり、ケリー様や今目の前にいて我々を助けてくれる秋斗と同じ時代を過ごしていたのです。偉大な事には変わりありません」


 イザークがグレンの言葉をキッパリ否定する。他の皆も同様のようでイザークの言葉に頷いていた。

 ケリーが残した言葉や賢者時代の記憶はそれほどまでに強い力を持っているのだ、と理解できる光景であった。


「しかし、秋斗と同様に賢者というのは……」


 グレンにとって、賢者 = 秋斗のような研究者 = 技術を修めた賢い人 というイメージが強いようだ。

 それ故に、自分は違うと思う気持ちが強いのだろう。だから自分は敬われる存在ではなく、何か職に就いて普通に暮らせれば良いとグレンは思っているようだが、秋斗がそれを許さない。

 ニヤリと笑みを浮かべて秋斗は全員に告げる。


「じゃあ呼び方を変えよう」


 秋斗の魂胆を瞬時に理解したグレンは「余計な事を言うな」と顔を向けて睨みつけるが秋斗は「自分が敬われてムズ痒い思いをしているのだからお前も道連れだ」と譲らない。


 ケケケ、と悪い笑い声が聞こえそうなほど、秋斗の顔は邪悪になっていた。


「賢者、とは別の呼び方ですか?」


「そうそう。……呼び名は『軍将』にしよう。そうしよう、そうしよう」


 軍将と秋斗は名付けたが大佐であるグレンでは将を冠するには階級が足りないように思える。

 しかし、王より上の身分で軍事指導者となるのだから軍将もおかしくないかな? と思っていたし、2000年も軍属のままなのだから将官や元帥階級に昇進してもいいだろう、と結構適当に考えていた。

 それに折角現代に目覚めたのだから各王国の騎士団に対して軍で養った知識を活かして西に負けないよう強くしてほしい。万が一、シールドタワーが壊れた際の防衛と秋斗の考える将来的な奴隷問題への対策も含まれている。 

 故にグレンには秋斗と同じように発言力が無いと困る。決して道連れにしようと思っているだけではない。思っているわけではないのだ!


「軍将様ですか。良いですね」


 イザークは笑顔で頷く。

 

「俺がアークマスターと呼ばれる集団の一員だったように、グレンも賢者時代ではウォーロードと呼ばれる軍の上位集団の一員だった。グレン、お前は今日から軍将でウォーロードだ」


 良かったな、と秋斗はニヤニヤしっぱなしだ。

 王家達も秋斗の提案に同意しながら軍将様、軍将様、と言いながら繰り返し頷いていた。もはやグレンに逃げ場は無い。


「ウォーロード! 賢者時代にいたアークマスターとは違った英雄ですか!?」


 その中でも、特に歴史の語り手を担う種族として賢者時代には特に関心が高いエルフ族であるソフィアは賢者と同等である新たな英雄の件をメモし、戦闘に関して強い関心を持つ獣人族のサンタナ侯爵が鼻の穴を大きく膨らませながら大興奮していた。

 メモを終えたソフィアはアランに教えてあげよう! と、喜んでいるが彼に教えたら3日はグレンが軟禁状態になりそうだ。


 他の者達も賢者とは違う新たな呼び方に賛成なようだ。イザークの話では、新たな呼び名を採用するとなると賢者教幹部と各国の王が会議を行って可決されなければ正式には決まらないとのこと。

 しかし、今回の名付けは賢者である秋斗であり、秋斗のような『アークマスター』とは違うカテゴリーの『ウォーロード』と呼ばれていた軍人の上位者――イザーク達にしてみれば賢者と同等に値する偉人のような扱い――が秋斗によって示されたので、ほぼ決まりなようなものだと言っていた。


 そんな周囲の期待や興奮度に押され、グレンは口元を引きつるのを感じながら抵抗は完全降伏した。


「……わかった。従おう」


 はぁ、とグレンは溜息を零して全てを諦めた。



-----



「なるほど。……奴隷、か」


 グレンの身分や秋斗との関係性を説明し終えた後は、秋斗とグレンが現代でどのような扱いをされるのかをイザーク達に改めて説明してもらった。

 その後、話題は自然と秋斗が現代で行っている活動へと移り、グレンは東側の現状を説明。秋斗と同様、西側の奴隷というに制度に顔を顰め西側への嫌悪感を顕わにしていた。


「お前は今後どうする?」


 秋斗はグレンの今後どう動きたいかを問う。出来れば軍で養った知識を活かして欲しいがグレンの人生はグレンのモノだ。秋斗であっても強制は出来ないし、しない。

 彼がのんびり暮らしたいと言うのであれば、秋斗も王家もそれを全力で支持するしサポートする気であった。


「勿論、協力する。秋斗同様、奴隷問題は放置できない。それに……秋斗。お前もわかっていてやっているのだろう?」


 グレンは秋斗へ視線を向ける。グレンの放った曖昧な問いに秋斗は全てを理解して頷きを返す。


「ああ。ヴェルダの前身はグーエンドで間違いない。周辺国を飲み込んで大きくなっていくのは奴等のオハコだ。恐らく俺達のような者か生き残りがいたんだろう。賢者時代に息の根を止め切れなかった俺達の責任でもある」


 アークエルと地続きで存在していた嘗ての隣国グーエンド。その国の蛮行は国名を変えても賢者時代から変わっていない。

 賢者時代に奴隷制度は無かったものの、周辺の小国を侵略して土地と人、技術を奪って大きくなった大国であった。賢者時代では隣国であったアークエルに戦争を仕掛け、大陸制覇を目論み続けた国。

 そして、秋斗が初めて戦争に参加した際の敵国もグーエンドである。秋斗とは因縁深い国であり、アークエル政府も本気で滅ぼそうとした国であったが結果的には大打撃を与えた際、国連と呼ばれる平和団体に介入されて滅ぼすまでには至らなかった。

 

 秋斗とグレンには過去、国連に介入されてグーエンドという国を完全に潰せなかったツケが、アークエルの未来の姿である現在の東側に及んでいると考えていた。

 その考えもあって秋斗は奴隷問題に介入しているし、グレンも放置できないと判断したのだ。


「私もその考えには同感だ。秋斗と同じように、東側の政治には介入しないが相談は受けよう。しかし、奴隷問題には積極的に関わるつもりだ。今後、秋斗と相談しながら私も貢献していきたいと思う」


 グレンは会議室にいる全員を見渡しながら己の意思を告げる。


「承知致しました。軍将様のご好意、ありがたくお受け致します」


 会議室内にいる秋斗とグレン以外の全ての者達は立ち上がってグレンへ頭を下げる。

 こうして、賢者時代から目覚めた2人目の英雄が奴隷問題解決に加わる事となった。



 会議室でグレンに対しての今後の話し合いが大体終わり、時間も既に夕方。夕飯の時間も近いので、残りの細かい事は随時疑問に思った時に聞いてくれと秋斗が言ってから話し合いは終了した。

 夕飯が出来上がるのを待っている間、秋斗とグレンは引き続き現代について話し合う。その際、持ち歩いていたケリーの手帳をグレンへ見せた。


「このグレゴリー博士の残したメモは確かに気になるな……」


「だろ? 氷河期について何故気付かなかったってのがな。俺達は何か見落としていたのか?」


 あの時、人類史上最悪の氷河期到来の予報がされた際、秋斗を含む技術院は様々な事を試して氷河期を回避しようとしていた。

 それはアークエルのみならず、別の国も氷河期に対して手段を模索し実行していたのだが、結果はごらんの有様だ。

 

「それはわからんが……アルカディア工業は知っている」


「確かオーソン大陸にあった総合技術企業だよな」


 オーソン大陸。それはアークエル大陸の西にある別の大陸。オーソン共和国という国が大陸を統一しており、アークエル大陸から船で3時間。空港には毎日定期便があり、飛行機で1時間程度の距離にある。

 オーソン共和国は魔法技術に力を入れており、魔法のオーソン、マナマシンのアークエルと賢者時代では技術の覇権を争う良きライバルでもあった。

 国同士の交流は盛んであり、特別仲が悪いなどという事も無かった。むしろ、お互いに技術交流で人を派遣し合い切磋琢磨して来た仲だ。


 そのオーソン大陸に本社を構えるアルカディア工業とは、元々重金属加工の小さい町工場から始まり賢者時代では金属加工部門から記憶媒体に魔法を記録させる魔法部門、医療薬品部門や日用品部門まで広く扱う世界でも5本の指に入る大企業であった。

 

「ああ、氷河期が来る2、3年前だかに問題を起こしてたからな。よく覚えている。確か魔法事故だったか……。とにかく、オーソン大陸で大事故を起こして大きな工場ごと街が1つ吹っ飛んだとか」


 グレンが腕を組みながら過去の記憶を脳内から掘り起こす。


「へぇ。魔法部門も持ってたし……あり得ない事故ではないな。兵器は生産していなかったけど、参入するつもりだったんじゃ?」


「いや、さすがに兵器開発は街中でしないだろう。オーソンも安全管理は結構厳しかっただろうし」


 魔法事故というのは記憶媒体に魔法を記憶させる際、記憶作業中に魔法が暴走して記憶させようとした魔法がその場で発現してしまう等の誤って起こる事故を指す。

 小さな規模では秋斗が起こしていた室内爆発、大きな規模では街すら吹き飛ばすものだ。

 秋斗の場合はそこまで脅威ではなく、設備で対処できる範囲であるし厳しい審査等もパスしているのだが、兵器系の生産工場で事故が起きれば記憶させる魔法が大量殺戮するようなものなのでシャレにならないし、街を1つ吹き飛ばすのも頷ける。

 

 しかし、兵器系の生産工場は国や国連から厳しい安全管理規定があり、規定違反や安全基準に達していなければ即工場を停止させ解体される。

 故に、兵器開発系は決められた人の気配の無い場所に設置されるのが常識であった。それ以外の理由で街が吹き飛ぶ規模だと、秋斗もすぐには思いつかない。


 兵器開発以外だとすると新技術を用いた何かを開発していたのだろうか、とアタリはつけたがその『何か』は不明だ。だが、グレゴリーはアルカディア工業の文字を残している。

 彼はその『何か』について正体を掴んだのだろうか。


「部屋が荒されてた痕跡があったのも気になるが……ともかくヒントは東だな。奴隷の問題が落ち着いたら調査を進めたいと思ってる」


「そうだな。まずは奴隷問題だろう。目覚めているのが私達以外見つかっていないというのなら、過去の不始末は私達の手で終わらせないとダメだろう」


「ああ……。わかっている」


 秋斗とグレンは、過去の時代の人々がやり残した事を清算するべく動き始める。

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