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74 戦友との再会


 ジーベル要塞で新たな賢者が目覚めた報告を受けた秋斗達一行はガートゥナの伝令と共に一先ず要塞都市へ帰還した。

 秋斗も王家の皆もすぐさまガートゥナへ向かいたい気持ちはあったが、夜間の移動は魔獣もいるこの世界ではリスクが高すぎる。

 逸る気持ちを押さえ、翌日の早朝から向かう事に。ジーベル要塞都市にある伯爵邸で、レオンガルド王国滞在の最後の夜を過ごした。


 伯爵邸で一晩過ごし、早朝からガートゥナに向けて出発。伯爵家の人々に見送られながら秋斗達は全速力でサンタナ砦に向かった。

 全速力で向かいながらも、途中で中継器を埋め込むのも忘れない。

 しっかりと仕事を済ませながら向かい、サンタナ砦に到着したのは昼を過ぎた頃であった。


 サンタナ砦の北側には北西から東へ横に伸びた背の高い山脈がいくつも聳え立ち、一番西側にある山脈の麓から1時間程度離れた場所にサンタナ砦が建設されていた。

 山脈は鉱物資源や珍しい薬草などが取れる宝の山とされており、西街の傭兵ギルド所属の者が度々採取依頼を受けて訪れる。

 砦背後にある西街まで繋ぐ街道も綺麗に整備されているので交通の便も悪くない。砦に補給を運ぶ商人が頻繁に行き来しているのがよく見られる。

 

 だが、ここまで街道が整備されているのには訳がある。


 1つ、砦の西側が見晴らしの良い平地である事。そこには小規模であるがヴェルダ帝国軍が攻めて来て戦いの舞台となるからだ。

 大規模な戦闘はジーベル要塞の方で行われるが、こちらは宣戦布告すらされない小規模な戦闘が展開される。ガートゥナ王家曰く、相手は演習のつもりで攻めて来ているのだろうと迷惑そうに語っていた。


 2つ、山に生息する魔獣の等級も比較的高く、さらには西側からの人攫いが潜む絶好のポイントと化しているのが現状。

 近年の被害率増加を鑑みて、誰でも山に入る際にはサンタナ砦に入山の手続きを取らなければならない。

 特に被害に遭う確率の高い採取依頼で訪れた新人傭兵や山に詳しくない者などには騎士団の者が無償で随行するサービスもしている。

 そこまで手厚いサービスを行っているにも拘らず被害が起きてしまうのは、腕を過信した新人傭兵がサンタナ砦を無視して入山してしまうからだ。

 そういう者達は被害に遭う前に巡回隊に発見されれば良いが、大体は魔獣に殺され食われた後が見つかるか人知れず西側の人攫いに囚われ奴隷にされ、身内や知り合いから姿が消えたと報告をされる。

 近年は王家の通達と無断で入山した際の厳しい罰則が浸透してきて、被害は減っているが油断はできない。

 

 それらの理由からサンタナ砦に所属する騎士団は常に巡回隊を組んで見回りを行っていて、彼らの装備や食料などの消費が激しく補給頻度が高い。

 かと言って被害に遭う者達を放置するわけにもいかないので、サンタナ砦を指揮するサンタナ侯爵によって砦建設の際に併せて周辺の街道が整備された。


 サンタナ侯爵家が整備した街道の恩恵を受けて到着した秋斗達の馬車はゆっくりと砦の前に停止する。

 馬車から降りて外に出れば、今まで訪れた2箇所の要衝と同じように騎士団が整列して一団を迎えていた。

 砦の入場門中央に立つ獣人の男性。恐らく砦の指揮を取っているサンタナ侯爵であろう人物の隣には、秋斗にとって懐かしい人物が立っていた。


「グレン!!」


 秋斗が駆け出した先にはアークエル軍の軍服を着こなし、秋斗と同年代と思われるくすんだ金髪を頭に生やした男。

 

「秋斗! 秋斗なのか!」


 共に戦場を駆けた戦友との再会に、2人は抱き合い肩を叩きながら再会の喜びを示した。


「まさか、お前と生きて再会できるとは思わなかった」


「全くだ。睡眠カプセルで眠って起きたらこんな状況なんだ……。詳しい事を教えてくれ」


「ああ、まずはみんなを紹介――」


 と、2人で再会後の会話をした後に秋斗が現代で知り合い、仲間になったみんなを紹介しようと背後を振り返るとその場にいた全員が片膝を付いて頭を下げていた。


「偉大なる賢者。魔工師 秋斗様。そして、新たにお目覚めになられた賢者様。お会いできて光栄でございます」


 イザークが代表して挨拶を述べる中、秋斗は固まりグレンは状況が理解できずにいた。


「おい、秋斗。どういうことだ?」


「あー……その……俺達、現代だと偉人扱いなんだよね……」


「はぁ!?」


 秋斗とグレン以外が跪く中で、秋斗はどこから説明しようかと頭を悩ませた。



-----



「つまり……氷河期を生き延びた者達は失われた技術と知識を持った賢者と言われ、現代の王族よりも身分が上だと?」


「そういうことだ。最初の5人と呼ばれた者達とケリーの功績と英雄譚でな……」


 全員に跪かれて狼狽するグレンを宥め、王家やサンタナ砦の者達に「現状について一度2人で話す」と告げて会議室へグレンを連れて行った。

 そこで自身の状況や国の現状など、今まで知った事と体験した事を話し終えたのだが、グレンは想像以上の現実を受け止めきれずゲッソリしている。


「だから秋斗の名を出した時に騒がれたのか……」


「お前はまだいいよ……。俺なんて王族の前で儀式やら式典なんてものをやったうえに国中から英雄扱いだぞ……」


 秋斗は今までの事を改めて思い出すと心労がどっと押し寄せる。

 賢者時代でアークエル軍に所属していた時でも、ここまでの英雄扱いは無かった。


「いや、お前が英雄だというのは昔も変わらないんじゃ?」


 確かに秋斗はメディアなどで英雄扱いはされていなかったが、アークエル軍では有名な存在だった。

 本人には伝わっていなかったが、実のところ軍内部では秋斗を英雄視する軍人は数多くいたし、軍務長官ですら秋斗を切り札扱いしていたのだから。

 その事を知っているグレンは英雄扱いについては不思議に思っておらず首を傾げる。


「ふざけんな! お前も英雄扱いされるんだからな!」


 が、アークエル軍内部の件について知らない秋斗は「お前も道連れだ!」とグレンの身分を現代人に隠す気は無いようだ。


「ばっか! 私は後方支援と人材育成がメインだっただろうが! お前みたいに1人で敵軍にミサイルをバンバン撃ちまくるようなドンパチ専門じゃない!」


「はぁー!? 嘘つくんじゃねえ!! 作戦の立案だとか情報収集はお前の専門だろうが!! お前の作戦に沿って戦ったんだからお前も同罪だ!!」


 お前が英雄! いいや、お前も英雄! と意味不明なやり取りをする2人は、傍から見れば確かに戦友と呼べる仲であった。

 実際、秋斗の言う通り敵軍の情報を集め、それをもとに作戦の立案したのはグレンであり、立案された作戦に沿って敵軍に想像以上の多大な損害を与えるのが秋斗だった。

 2人の言っている事はどちらも正しくアークエル軍内部における2人の評価はどちらも最高評価を得ていて、秋斗は切り札扱いであり、その破壊力の高さから畏怖されるが一部からは英雄扱い。

 同様にグレン本人も情報収集から導き出される相手の動きを予測した精度の高い作戦立案で英雄扱いされている。それを知らないのは本人達ばかりであった。


 2人がどったんばったんと暴れていると、会議室のドアが開かれリリがにょきっと顔を出して内部を窺う。

 未だ暴れている2人であったが、じっと見つめるリリの視線に気付いてようやく大人しくなった。


「……ケンカ?」


「ち、違う。意見の食い違いだ。大丈夫」


「……そう」


 リリは秋斗とやり取りをした後、パタンとドアを閉めた。

 秋斗とグレンは扉に視線を向けたまま会話を再開する。


「あの女性は?」


「……婚約者」


「はぁ!? マジか!?」


 この研究ばかりで女の影すら無かった男に婚約者が!? と意外な事実を知ったグレンは驚愕を隠せない。秋斗の顔と扉に顔を行ったり来たりさせた。


「マジ。もう1人婚約者がいて恋人もいる……」


「…………」


 戦友であり、友人である秋斗の突然上昇した色男っぷりにグレンは口をパクパクさせて言葉が出てこない。

 グレンは数十秒間の沈黙の後にとっておきの言葉を秋斗に送った。


「このハーレム野郎!!」


「言うと思ったよ! 馬鹿野郎が!」


 このあとめちゃくちゃ胸倉を掴み合った。



-----



「俺の婚約者でリリとソフィア。恋人のオリビア。友人であるイザークとヨーゼフ。イザークの妹でエルザ。エルフニア王国近衛騎士団所属のジェシカ。ペットのハナコ」


 秋斗が1人1人紹介し、グレンは紹介された相手と「グレンです。よろしくお願いします」と言いながら握手を交わしていく。


「グレン様。まずは我が国、西街の入場門門番が失礼を働き、誠に申し訳ありませんでした」


 オリビアがグレンに対し、跪き頭を下げる。

 秋斗は「あの脳筋女子がまともな事を」と若干びっくりしていたが、オリビアがグレンに謝罪するのは当然の事であった。

 

 秋斗がグレンにこの時代の情報を話している最中、オリビア達は別室でグレンがサンタナ砦にやって来た経緯をサンタナ侯爵と連れてきたガートゥナ王国西街警備隊隊長から詳しく聞いていた。

 

 この時代に賢者と呼ばれる人物が目覚め、現代人の街へやって来る可能性がある事はケリーの残した英雄譚を読んでいる者ならば大人だろうが子供だろうが誰もが知っている。

 仮に読んでいなかったとしても、賢者の保護は各王国の王から正式に全住民へ宣誓されている事であり、親から子へ必ず伝えられるモノだ。

 だというのに、何故グレンは賢者であって賢者に該当する特徴を持っていながら西街の門番に信じてもらえなかったのか。

 それは最初の5人という人物が現れた後、現代社会が出来上がってから目覚めた賢者がケリーと秋斗の2人以外の存在を確認できなかったからだろう。

 ケリーが賢者だと認められてから1000年も経過して、ようやく次に現れたのが秋斗だ。住民の間では賢者という存在はそう簡単に現れる存在じゃないという認識であった。


 さらには賢者教が唯一の宗教的存在となっており、豊穣の賢者 ケリー・オルソンは神格化されている。

 そんな状況で「僕は賢者なんです。秋斗君の友人です」と一般人に言っても信用されないだろう。むしろ、神を冒涜するなと門番のようなリアクションをする者の方が多い。まずは牢屋に入れられた後に尋問で賢者だと判明するのではないだろうか。

 秋斗が賢者として簡単に認められたのはリリを救って一緒に居た事、従属の首輪を解錠したという実績があったからだ。


 今回のケースは、大人から子供まで東側では知らない人がいないほど有名な『賢者』というワードをグレンが知らず、隊長から見ても本当に知らないように見えて演技ではないと隊長の脳内で判断された。

 それでも西側からのスパイという線も捨てきれず半信半疑であったが、警備隊隊長がマナマシンと写真を見て「もしかしたら本当に賢者様かも?」と秋斗に確認を取ろうと判断したのが幸いした。


 もしも、入場門を訪れた時点でグレンを問答無用で放逐したり牢なんぞに入れていたら、賢者だと判明後は西街は各国全街からブーイングの嵐を浴び、ガートゥナ王国は批判されていただろうし何かしらの国際的な罰もあり得た。

 最悪の事態にならなかったのは偏に警備隊隊長のファインプレーのおかげだ。

 

 今回の経緯を別室で一緒に聞いていた王家達も青い顔をするくらいにマズイ出来事だ。今回の件に関しては、いくら脳筋女子であろうとも事の重大さは簡単に理解できた。

 秋斗とグレンが情報交換する裏で、現代の王家達は「どうしようどうしよう」と慌てふためき、西街領主であるサンタナ侯爵は「自分の首で許して頂けるだろうか」と大真面目に王家達へ相談していたのだ。

 

 途中、会議室から揉める声がしたのを切っ掛けにリリが会議室を覗いて声を掛けたのは、賢者の様子を偵察に行くという事情も含まれていた。

 戻って来たリリから賢者達の様子を聞き、まずは誠意ある謝罪をしよう、と話がまとまったのだが秋斗に会議室へ呼ばれるまで、まるでお通夜のような状態。彼らは誰も一言も喋らずうな垂れていた。

 

 そんな訳で、オリビアが現在謝罪しているのだが、そんな背景を知らない秋斗とグレンは困惑しっぱなしである。

 既に身分は現代の王族よりも上なのを知っているグレンは、オリビアの謝罪に対して国としての対応が間違っていた、というのは理解出来た。

 だが、グレンは門番は不審者を見つけて街を守護することが仕事であるというのも分かっている。故に、今回の自分への対応は間違いではないと思っていた。

 

 グレンが秋斗へチラリと視線を向けると秋斗は首を左右に振る。既にグレンから西街で起こったことを聞いている秋斗も、今回の件をグレンと同様に思っている。

 オリビアの謝罪に当の賢者達は――


(お前の恋人だろう! どうにかしろ!)


(お前がどうにかしろ)


 と視線と首を振るリアクションで責任の擦り付け合いをしていた。

 秋斗のリアクションに諦めたグレンは軍人らしく背をピンと伸ばし、相手に敬意を持って対応する。


「頭をお上げ下さい、オリビア殿。私は気にしておりません。むしろ、あの門番は職務を全うしたのだから謝罪するような事ではありませんよ」


 さすがは軍の上層部で仕事をしていたヤツだと秋斗は感心するが、むしろ研究に没頭するだけでコミュ力を磨いてこなかった秋斗のコミュ力が低いだけだ。

 

「ハッ! 賢者様の寛大なお心に感謝致します! 我が父である国王からも改めて謝罪させて頂きます!」


 グレンとオリビア、サンタナ侯爵は何度か謝罪と許しのやり取りをした後、賢者の言う事を何度も否定してはいけないとオリビア側が折れて、どうにか事態は収まったようだ。


「オリビア、大丈夫だ。コイツは本当に気にしてない。だからオリビアとサンタナ侯爵も立ち上がってくれ。皆、一旦席に着こう」


 ようやく秋斗も助け舟を出し、全員が会議室の椅子へと着席。お茶を持って来てもらって重苦しい雰囲気をリセットさせた。

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