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67 性格が似ている2人


 イザークとエリオットにオリビアの件を相談した翌日。

 秋斗はいつになく清々しい朝を迎えた。


 ベッドの左右には愛する婚約者が2人。秋斗を含め、ベッドの上にいる3人は全裸である。

 いつもならば、搾り取られた秋斗は2人よりも遅くまで寝ている。もう死んだように寝ているのだ。

 嬉しいようなそうじゃないような、当然のように毎晩迫ってくる婚約者達。今ではケリーが自身の手帳に体がもたない、と書いた理由がよくわかる。

 現代の女性達は肉食系だ。イザークやエリオットにも確認したが、全員が「うちの嫁って実はサキュバスなんじゃないか」と言っていた。

 秋斗も同意見である。そして、何か対策をしなければと常々思っていた。


 オリビアの件を相談した際、合わせて夜の件も相談した秋斗はイザークとエリオットからオススメのドリンクを教わった。

 ビンビン草というエルフニア王国原産の薬草を煎じて、フルーツ類のジュースに混ぜた男性必勝ドリンクだ。

 聞けば現代の男性は皆飲んでいるという。しかも、ビンビン草はケリーによって研究され、彼の指導で量産に成功しているのだと弱き男衆の1人であるイザークは語る。

 秋斗は嘗ての親友に深く感謝した。目を閉じて流石ケリーだ、と何度も何度も感謝した。閉じられた瞼の裏側には、とても良い笑顔で「気にするな、我が親友よ」と笑うケリーの姿が浮かんだ。


(朝というのは、こんなにも素晴らしいものだったのか)


 そんな理由もあって、秋斗の快楽と絶望の夜は昨晩をもって終わったのだ。

 

 その後は婚約者2人と共に清々しい気分のまま朝食を摂り、自室に戻って食後のコーヒーを口元に運びながら、直近の予定でもある国境沿いに設置する壁の詳細を思い出し始める。


(シールド発生装置と防衛機能のための火器も積んで……。あとは対空性能はどの程度にするかが悩みどころか) 


 搭載させるシステムを考えながらズズズ、と熱いコーヒーを口に含んだ時――

 ズドン! と勢いよく扉が開け放たれる。


「旦那様!! 交合(まぐわ)うぞ!!」


「ブフォォォォ!?」


 廊下からノックもせずに部屋の中へ突撃してきたのはオリビアだった。

 彼女は昨日の訓練場から考えは変わらず朝から全力だった。

 秋斗は口に含んでいたアツアツのコーヒーを霧吹きのように吹き零す。


「ほら! 早く行くぞ旦那様!!」


「待て!! 待って!? 力つよっ!?」


 ぐいぐいと腕を引っ張り部屋から連れ出そうとする彼女をどうにか止めようとするが、そんなのお構いなしだ。

 秋斗の何度目かの「待て」にピタッと引っ張るのをやめて、彼女は秋斗へ振り返る。

 尻尾はパタパタ振りっぱなしだった。


「何だ!? 交合うか!?」


「バカかお前は!? 朝っぱらから何言ってやがる!?」


 とんでもなく遠慮の無い彼女に対し、秋斗も遠慮なく接する事がたった今決定した。

 むしろ、彼女にはそれくらいストレートに言わなければ即押し倒されても文句は言えないだろう。


「何を言うんだ? 旦那様との子なら強い子になるから大丈夫だぞ?」


「そうじゃねえよ!? 何おかしいことを言ってんだ? みたいな顔してんだ!」


 話しが通じねえ! と嘆く秋斗。

 何が問題なんだ? と首を傾げるオリビア。

 

 昨日、先輩婚約者であるリリとソフィアに言われた通りにオリビアは行動した。

 だからオリビアにとっては問題など無いのだ。そのまま強くアピールしろ、と言われたのだから。

 

「オリビア。ちょっと待つ」


 と、ここで朝食後に父であるロイドに呼ばれて食堂で別れたリリが戻って来た。


「なんだ? リリ姉様も一緒に交合うか?」


「ふむ。それは魅力的な案。でも、その前にオリビア。ちゃんと秋斗にオリビアの気持ちを伝えた?」


 リリの言葉を聞いた後、オリビアは掴んでいた秋斗の腕を放し、腕を組みながら深く己の行動を思い返す。

 それと同時に昨日2人の姉から言われたことをようやく思い出す。


「ん~? ……言ってない気がする」


「じゃあ言わないとダメ」


 オリビアはリリの言葉に頷き、秋斗の目を真っ直ぐ、真剣に見つめて告げる。


「私、オリビア・ガートゥナは旦那様に恋をしている! 私と交合ってくれ!」

 

 なんとも凛々しい告白だろうか。姫騎士であり彼女らしいド直球な言い方である。

 これまでの騒ぎを何事かと廊下で見守っていたメイドがキャー! と黄色い悲鳴を上げる程に凛々しい。


「オ、オリビアの事は、こ、好ましく思っている。だが、オリビアの父親から許可が出るまでは恋人でお願いします……」


 流石の秋斗も突然の真面目で本気なド直球告白にたじろぐが、しっかりと昨日考えた返事をオリビアへ告げる。

 オリビアを好ましく思っているのは本音だ。彼女の性格も嫌いじゃない。

 しかし、親の許可を得ずに当人同士で婚約というのはダメだ。家族になるのであれば、彼女の親からも最大限に祝福してもらいたい。ここは秋斗の譲れない部分である。


「わかった! 父上の許可さえあればいいのだな! 待っていてくれ!!」


 秋斗が全てを説明し終えると、オリビアは一目散に部屋を飛び出して行った。

 彼女の猪突猛進ぶりに秋斗が口を開けながら唖然としていると、クイクイと服の袖を引かれる。


「私のことも好き?」


「ああ、愛してる」


「なら、いい」


 きゅっとそのまま手を握るリリは満足そうに笑顔を浮かべる。

 

 その後、姉の強襲を受けたダリオの部屋から彼の悲鳴が上がったが、秋斗がその事を知るのは昼食の時だった。



-----



 昼食を食べながらダリオを慰めた後、ヨーゼフに呼ばれて製作室を訪れていた。


「おお、呼んでしまってすまんな」


 製作室内に入れば、さっそくヨーゼフに声をかけられて椅子に座るよう勧められた。


「どうしたんだ? 何か問題が出た?」


 現在進行中の魔道具普及計画に何か問題が出たのか、と首を傾げるがヨーゼフは首を振って違うと言う。


「いや、むしろ問題が無さすぎてな。テストの結果も良好。指定のカートリッジも製作し終えた。これがレポートじゃ」


 ヨーゼフに紙の束を手渡された後、ペラペラと中身を真剣に読んでいく。内容を確認すれば、彼らが行ったテストの結果は秋斗の予想通りの結果になっていた。


「やはり等級が高い魔石ほど容量も多く、再結晶化は遅いか」


「うむ。少々のバラつきはあるが、ほぼ誤差範囲内じゃろう」


 ヨーゼフに頼んでいた事は魔石の等級の違いで魔素貯蔵量の差があるのか、カートリッジのリチャージに必要な時間。それに加え、等級が同じ物でも魔石の取れた魔獣の個体によってバラつきがあるかどうか。


 秋斗が検証していなかった部分をヨーゼフに検証するよう依頼していた。


 結果としては、魔石の等級が高ければ高いほど貯蔵できる量に差がある事。

 貯蔵している魔素を使い切った後、充填装置で魔素が再び結晶化しカートリッジとして再利用できるまでの充填時間に関しては容量に比例して時間が掛かる事。

 この2つの結果は同じ等級の魔石であればバラつきが無く、どれもほぼ同じ量と速度だというのがわかった。

 

 魔石の取れた魔獣の個体によってバラつきが大きければ計画を再検討しなければならなかったが、秋斗の予想通り同じ等級の魔石であれば、どれもほぼ同じ貯蔵量とリチャージ速度。ヨーゼフの言う誤差についても彼が検証済みで、充填装置を使えば1~2秒程の差でリチャージが完了すると書かれている。

 これならば製品として市場に流しても問題無いだろう。

 

 検証方法は、試験用に買い付けた魔石を全てカートリッジに加工した後に、秋斗が新規開発したマナマシン――魔素計測器で内容量を計測。

 渡されたレポートにはC~S等級までの計測量と試行回数などが細かく書かれている。


「市販向けに使うカートリッジは秋斗殿が言っていた通りC等級じゃろう。逆に、AA等級とS等級は凄まじい量じゃな。だが、数が少なすぎる。何か大きな公共施設に使うべきだと思う」


 E・D等級の魔石が除外されているのは、その2つの魔石はサイズが小さくカートリッジに加工しづらい理由からだ。

 逆にこれらの魔石に内包されている魔法は『水を出す』や『火を出す』などのシンプルな魔法が多い。そのため、EとD等級の魔石は核を潰さずに記憶媒体の代わりとして使う事になっている。


「C等級で連続稼動時間が1週間。S等級が連続稼働予想時間(・・・・)は6ヶ月以上かよ……」


 まず市場に流す魔道具の第一号製品は給水魔道具の予定。それに伴い、計測器の使用魔素基準値は給水魔道具と同等の魔素使用値に設定して計測したのだがS等級魔石は未だ計測が続いていた。

 高等級の魔石については他の等級のデータを参考にしつつ、容量から予想した稼働時間がレポートに書かれているのだが、この稼働時間と容量は秋斗も予想外の結果である。


「以前、魔石研究を行った時のS等級魔石は崩壊させちまったからなぁ。勿体無い事をしたな……」


 秋斗が研究の際に仕入れたS等級魔石は、魔石自体に術式を刻んで魔法を発動させられるか、という実験に使用した。

 最初はC等級の魔石に術式を刻んで魔法を使用しようとしたら、発動の兆しは見えたが不発。その後は魔石が自壊してしまった。

 その後、等級を上げて実験していったが全て失敗に終わった。一旦、術式起動の研究は凍結してカートリッジと研究に移っていたのでS等級の容量は知らなかったのだが、知ってしまえば後悔の念が湧き上がる。


「それも必要な実験じゃったんだろう。ならば、仕方あるまいよ」


 ヨーゼフの言う通りだろう。実験には失敗がつきもの。失敗は成功の母だ。


「うーん。一旦、C等級以外のカートリッジは置いておこう。当初の予定通り、流通量の多いC等級までの魔石で魔道具を量産して一般家庭に普及させるのを第一にしよう」


 C等級魔獣はベテランの傭兵ならばチームを組めば難なく狩れる。A等級の傭兵ならば1人でも狩れるくらいだし一番流通量の多い等級なので供給面でも心配は無い。


「わかった。……S等級カートリッジの使い道に何か心当たりはあるのか?」


「ん? ああ、もちろん使うよ。それだけ魔素貯蔵量があるなら大型輸送機に使えそうだしな」


「なんじゃそれは!?」


 ポロリと零した秋斗の発言に、目を血走らせながら全力で食いつくヨーゼフ。


「お、おう……。賢者時代には大量の荷物や人を運ぶ車よりも大きな輸送機、マナリニアってのがあってな」


 魔素エネルギーで動く鉄道、マナリニア。都市間をマナレールで繋ぎ、人も物も大量輸送を可能にする移動系マナマシンの中では最大級の物。

 マナリニアの詳細を説明し、将来的に東側にある国全てを繋げた際の物流・経済発展を併せて話せば、ヨーゼフの体はぷるぷると震えていた。


「ワシは決めたぞ!! ワシの人生はマナリニアを作る為にあったのだ!! 今すぐ計画を話してくる!!」


「待て待て待て!!」


 全て話し終えた後、ヨーゼフはぷるぷる状態から復帰して製作室の扉へ走り出そうとするが秋斗は体を張って全力で止めた。

 まだ一般的な魔道具すら普及していないのに、作れるわけがない、段階を踏むと必死に説得する。

 ヨーゼフを落ち着かせた後、秋斗の胸の中には後悔しかなかった。 

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