05 地下倉庫と
ケビンが街に向かって行った後、改めて掘削作業を続ける為に掘削ポイントへ立つ。
よし! と気合を入れてスキャンを起動して、階段に続く扉がある地面の上に手をつけて掘削の術式を起動する。
初めて起動する魔法なので、最初は右手の機能で最弱威力で開始して、徐々に威力を上げていく。
ガリガリと地面をゆっくり削っていくと、先端に何か金属のような硬い物が当たる感触が右手に伝わる。
一旦、発動している魔法を止めて、掘り起こした地面を注視すると金属製のドアが見えていた。
ヨッシャ! と心の中でガッツポーズを決めて、まだ隠れている部分の土を手でガシガシと掘り起こし、掘削が必要な部分には再び術式を起動していくとドアのレバー部分が見えた。
レバーを掴み、まだ土に埋まっている部分もあるが、それらは右手のパワーで強引に扉を開いて解決させた。
ギギギという油の足りない音をあげて扉が開くと、中には階段が存在していた。
試しに階段へ足を置いてみると、朽ちていそうな階段は意外にも階段としての機能を全うしており、そのまま降りる事が出来た。
一番下へ到達すれば、目の前には倉庫の中へ続く扉が一枚。
倉庫へ続く扉を開けて中に入ると、過去に作った試作品や作りかけの物、材料などが散乱している。
入って左側には過去に研究室に続く扉が存在していたが、研究室側から土が溢れ、倉庫内に流れ出ている様子が目に映る。
これでは研究室は完全に埋まっているだろう。中にあったはずの器具なども土の重みで完全に壊れているに違いないと早々に諦める事にした。
幸いにも倉庫を見渡せば、まだ使えそうな材料やマナマシンが存在していたので、それらを回収して上に戻る事にした。
地上に戻ると、リュックを持ってもう一度倉庫へ降りる。階段を上がり次はリュックの中に詰められるだけ詰めて上に上がる。
それを何度も繰り返して、倉庫に残っていた物は一通り持ち出せた。
「んーむ。とりあえず手当たり次第持ってきたが……」
腕を組みながら、地下から持ち出した物を地面にぶちまけた状態で見下ろす。
ぶちまけられた物には本が数冊と、素材や試作品マナマシン、よくわからない物(思い出せない)から金属製のコップや食器等の様々なジャンルの物が置いてある。
地面に座り込み、目についた物を手に取って品定めを始める。
「うーん……。これは……なんだ?」
四角いキューブ状のマナマシンを手に取って、カチッとスイッチを押しても何も起こらない。
うーん? とこれが何だったか考えているとキューブ状のマナマシンはブルブルと震えた後、バラバラと自壊した。
「………」
手からポロポロと零れる部品を見つめ、見なかった事にして次の物を品定めしていく。
いくつか品定めしていてると、見覚えのあるマナマシンを見つける。
「あれ、これは……」
手に取ったのは文庫本サイズの液晶モニター付きデバイス。
側面には上下に動いてカリカリと鳴るホイールと起動スイッチが付いている。
それは武器庫――シェオールと呼ばれた衛星軌道上にある施設の専用デバイス。
シェオールとは、衛星軌道上に浮かぶ秋斗専用の兵器格納庫だ。
魔工師として何度か戦争に参加した秋斗は、敵側の地形戦略で中型・大型兵器を輸送するのに苦労する場所で戦う事も多かった。
そこで、地上のどこにいても自作した兵器を呼び出す事を可能にしたのがシェオールだ。
運べないなら空から降らせればいいじゃん。の発想で出来たトンデモ施設である。
専用のデバイスで兵器を選択して、ポチリとエンターキーを押せば空からの宅配便が届く。
敵側からしてみれば、冗談じゃないと言わんばかりのモノで、これを使い始めてから秋斗が所属する国に対して戦争を仕掛けてくる国が減るという実績を持つ。
開発した当時は、同僚一同から呆れと尊敬の混じったような視線を送られていたなぁと感傷に浸りながら当時を思い出す。
そして、今手に持っているデバイスは試作品であり、完成品は既に秋斗の右目に機能として組み込まれている。
因みに、衛星軌道上から砲撃するような兵器は条約で禁止されているので使用していない
「そういえば、シェオールはどうなったんだろう」
軌道エレベータが折れていたのを思い出し、シェオールもどこかに落下したか、軌道を外れて行方不明に……なんて事を思いながらも、シェオールの専用デバイス機能をARで表示させる。
<online>
「ハァ!? オンライン!?」
目の前にはシェオールが今も生存している証が表示されている。
慌ててシェオールがどこにあるのか現在地を調べると、眠る前である2000年前と同じく指定された位置で衛星軌道上にシェオールは存在を示していた。
「まぁ、助かるけど……」
宇宙に漂う魔素をエネルギー変換するようにしたリアクターを積んだシェオールは、2000年の時を経ても変わらず稼動していた事実は秋斗にとって、嬉しい誤算でもある。
シェオールがあれば、最悪の事態になったとしても個人で国と戦える。
兵器一覧を表示すれば自作した兵器がズラッと表示される。
一覧には武器や戦車タイプの大型マナマシンまで様々なラインナップ。
ともかくシェオールが使える事がわかった秋斗は、ARに表示された専用デバイスの画面を一旦非表示にして地面に転がった物の品定めに戻ろうとした時、陽が沈みかけている事に気付く。
(メシ食おう)
朝食を取った後に、ケビンと出会ってから何も食べていない事を思い出し、完全に暗くなる前に夕飯の支度を始める。
昨日のように湯煎で作られたレトルト食品を食べながら、今日は色々とあったなぁ。と1日を振り返る。
夕飯を食べ終わった後は試作品等をガチャガチャといじくりながら過ごす。
空が暗くなればテント内に入り、持ってきた本に目を通す。稼動していたシェオールの存在などすっかり忘れて睡魔に導かれながらテント内で眠りに落ちた。
翌日。
テント内で地下倉庫から持ってきた本を読んでいる間に寝落ちしたのに気付き、顔を横に向ければ本の残骸が落ちている。
長い年月の間、魔法による保存をしていなかった事もあって痛んでいた本は、秋斗が寝落ちした際に放り出された拍子にページがバラバラに散乱して酷い有様になっていた。
本をそのまま放置し、テントの外に出てインスタントコーヒーを淹れる。
ビンに入ったコーヒーの粉末は半分程残っているが、出来るだけ早く補充しなければと寝起きでボンヤリしている頭で考える。
コーヒー中毒者の秋斗にとって、コーヒーが無くなるのは食料が無くなるのよりも辛い状況だ。
次にケビンが来てくれた時は一緒に街へ付いていく。コーヒーの為にも。
今日はいらない物を分解し、必要な装備へ再構築させる作業をしようと心で思いながらも、気持ちのいい気温と木々の間を通り抜ける涼しい風に再び眠気を誘われてウトウトしてしまう。
眠気に抗いながら作業をしようと思うが、結局睡魔に抗う事は出来ずリュックにもたれ掛かって二度寝した。
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ガサガサと草を踏み、ゼェゼェと苦しそうに呼吸をしながら彼女は走る。
行く先に生える木を掴みながら倒れそうになる体に激を入れ、止まったら終わりだと自分に言い聞かせて足を前に動かし続けた。
必死に前を行く彼女の耳は長く、エルフだという事がわかる。
彼女の肌は褐色でエルフ種の中でも派生系統である黒エルフやダークエルフと呼ばれる種族だった。ファンタジー小説同様、美形が多いと言われるエルフ種族の系譜であるダークエルフも美しい顔立ちを携えて産まれてくる。
そして彼女はその中でも、とびきりの美女と言える程の容姿をしているが美しい顔は痛みと疲労で歪んでいた。
よく見れば身に付けている服はボロボロで、褐色の肌には傷があり、銀色の髪も汚れている。
そして何よりも目立つのは首に付けられた首輪。
重厚な金属で出来た首輪はきつく彼女の首を絞め、付与された魔法効果によってジワジワと体力を奪う。
(逃げなきゃ……逃げなきゃ……)
今すぐにでも倒れたい。足を止めて休みたい。
身体の限界を察知した脳が発する警告を無視して彼女はひたすら進む。
後ろからやってくるであろう追っ手から逃れる為に。
顔を真っ青にしながらゼェゼェと息を吐き、縺れそうな足を必死に動かして前に進むと木々の間から、遠目に見えるのは何かしらの遺跡のような建造物が見えた。
朦朧とする意識の中、恐らく見えているのは有名な古代文明の遺跡だろうと推測し、隠れられる場所を見つけるべく進む。
ザクザクと草を踏み行く手を阻む木々を抜ければ遺跡がさらに近づいて見える。近づくにつれ、次に目に飛び込んで来たのは古代遺跡の前に設置されたテントらしき物だった。
(テント……? 誰か……。お願い……)
同胞であるエルフがいるかもしれない。
希望の光に見えるテントを目指して最後の力を振り絞る。
ヨロヨロと茂みを掻き分け、テントの全容がわかる距離に到達するとテントの前には気持ち良さそうな顔をしながらリュックを背に寝ている男が1人。
見れば耳は長くなく、普通の人族だというのがわかる。
(レオンガルドの人族……?)
この辺りでは珍しい黒い髪。すぴすぴと寝ている男を見極めようと近づくが、彼女はここで限界を迎えてしまう。
足が縺れ、寝ている男性の腹部めがけて倒れこんでしまった。
男は急な衝撃に「オボォ!」と声をあげ、寝ぼけた様子でキョロキョロとしている。
腹部に倒れこんだ彼女は男がレオンガルドの者であるよう祈り、シャツを掴みながら最後の一欠けらである力を喉に込めて男の顔を見上げながら言葉を発する。
「たす……けて……」