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51 エリザベスと3ヶ国王家


「ハァ~イ。護衛依頼できたわン」


「はい。ご苦労様です」


 王都で秋斗とのお茶会を楽しんだ翌日にエリザベスは王都を出発し、馬で1日の距離にある北街へ到着していた。

 エルフニア王都から北街までは道が整備されているし、他国へ通じる道でもある為に魔獣の駆除も盛んな経路であるので、夜になっても街道の傍で野宿すれば襲われる心配もない。

 途中で馬を休憩させながら進んでも、魔獣という障害に遭遇しない為に目的地までの行程の時間を取られる事が無く、今回も1日で到着できた。


 到着後は北街入場門の列に並び、傭兵ギルドのカードを門番兵に見せればすんなりと入場できる。

 街の内部に入ったら、まずは傭兵ギルドに顔を出して護衛依頼の件を伝える。その後は北街支部長といくつか話しをして、護衛対象との合流場所である領主の館へと向かった。

 北街領主であるブノワ・ホクトー伯爵邸へと訪ねれば、まだ護衛対象である一団は到着していないとの事。

 一先ず領主と面会になり、ブノワ伯爵とお茶会へとしゃれ込む。


「エリザベス殿。本日はありがとうございます」


「いえいえ、王家の方々も知らない仲じゃないし気にしないで~ン」

 

 一団からの先触れで夕方には到着するとの連絡が入っていると言われ、エリザベスはそのままブノワ伯爵と王都での出来事を話題にして時間を潰す。


「アキトったらガルムをペットにしちゃうんだからビックリしたわよン」


「ははは、お噂通りの御方のようですな」


 ブノワ伯爵は北街を治める領主故に街から離れる事は出来ず、まだ秋斗と顔を合わせた事は無い。

 だからこそ、エルフニア王国内で一番の話題である賢者の生活には興味が尽きないようでエリザベスへ質問をぶつけまくっていた。


 そんな和気藹々と雑談をしていれば、空は茜色に染まってすっかり夕方へと変わる。

 

「そろそろでしょうかね」


 と、窓の外に映る茜色の空を見てブノワ伯爵が呟くと同時に一団が街へ入ったとの連絡がタイミング良く知らされた。

 エリザベスとブノワは一団を出迎えるべく領主邸の外で待ち、目的の人物達を無事に迎える事が出来た。

 まず王家よりもいち早く馬車を降りて、エリザベスとブノワ伯爵に挨拶を行ったのはケリーの子孫である、オルソン公爵家現当主 カール・オルソン公爵。


「ブノワ伯爵殿、エリザベス殿。本日はお世話になります」


 人族で45歳のカールは公爵という上位階級でありながらも礼儀正しく腰を折って礼をする。


 東側の住人が崇拝する豊穣の賢者ケリーの子孫であり、レオンガルドの農業局局長というポストに収まる彼はレオンガルド王国全体の食料事情を支える重鎮である。

 賢者の子孫という身分でありながらも、偉大な賢者のように謙虚な態度を重んじるカールの人望は国内外問わず厚い。

 食糧生産事情のみならず、レオンガルド王国で日夜研究される料理関係にも携わっているせいか、外見は少々腹の出た紳士だ。

 若干苦労しているのか45歳にして頭髪が薄いという悩みを抱えている。


「オルソン公爵閣下。ようこそお越し下さいました。少しでも長旅の疲れを癒して頂ければ幸いです」


「オルソン様。ご無沙汰しておりますワ」


 ブノワ伯爵とエリザベスもカールに深々とお辞儀して返答する。

 その後、一言二言挨拶を述べたカールは後ろに王族が控えているのもあって、早々に挨拶を終えて場を譲った。


「やぁ、エリー。元気だったかい?」


「ハァ~イ! イザーク様!」


 挨拶を交わしたのはレオンガルド王家イザーク王子。茶色い髪をした貴公子と呼ぶのがピッタリな爽やかイケメン。

 彼とエリザベスはレオンガルド王都にある王立学院で同級生だったこともあり、既に旧知の仲だった。

 

「エリザベス殿。ごきげんよう」


 次に挨拶してきたのはイザークの妹であるエルザ王女。

 カーテンシーで挨拶する彼女は少し特殊な事情を持っている、と巷では有名であるが、兄であるイザークの友人で凄腕ファッションデザイナーであるエリザベスとは知らない仲ではない。

 

「エルザ王女様。ごきげんよう。今日もステキなお洋服だわン」


 他者を気軽に寄せ付けないようなキリッとした容姿は歳相応の幼さを残しながらもキャリアウーマンのような――否、学級委員長系女子だ。

 彼女はシンプルながら気品のある薄いピンクのドレスを着こなし、兄と同じ茶色い髪に青い華の装飾をつけたリボンをアクセサリーとして身につけている。

 イザークとエルザは挨拶もそこそこに、2人は世話になるブノワ伯爵へ挨拶をするべくエリザベスから離れていった。


「エリー! 久しいな!」


 カチャカチャと腰に収めた双剣を鳴らしながらエリザベスに歩み寄るのはガートゥナの姫騎士と呼ばれたオリビア・ガートゥナ。その後ろには弟のダリオ王子も一緒に近づいて来た。


「あら、オリビア様。相変わらず凛々しいわねン。ダリオ様もごきげんよう」


「エリザベス殿。今回はよろしくお願いします」


「エリー! 出発前に模擬戦しよう!」


 脳筋な姉と真面目な文系弟というコンビはガートゥナ以外の国でも有名だ。彼女達姉弟は紅狼族と呼ばれる種族で、その名の通り紅の髪と紅の毛並みをした尻尾を持つ狼系の獣人である。

 騎士としての訓練で鍛えたモデルのようなスラッとした体型と紅の髪をポニーテールにまとめ、姫騎士と呼ばれるに相応しい美しい容姿を持ちながらも戦闘になれば男性にも負けず劣らず無茶苦茶する姉であるオリビアは、父譲りの武芸で姫騎士という肩書きを持って国の防衛に。

 

 そんな姉を持つ弟のダリオは武芸には乏しいが頭脳明晰で13という歳でありながら既に政治に関わり国を支えている。

 お姉ちゃん想いの弟君可愛い、とガートゥナ出身の獣人お姉さんからもラブコールが絶えないショタなのだ。

 

「もう。オリビア様はしょうがないわねン。美人なのだから、もっと落ち着かないとダメよン」


「ははは……。姉上はいつもこうなので。申し訳ないです。姉上、ブノワ伯爵殿に挨拶に行きますよ」


 ハァ、と弟ダリオは溜息零しつつも姉を促してブノワ伯爵へと挨拶へ向かって行った。


 次に馬車から降りて来たのは魔人族の王、エリオット・ラドールと妻のカーラ・ラドール。カーラの腕には1歳半の娘であるクラリッサ・ラドールが抱かれていた。

 ラドール王であるエリオットは純魔族と呼ばれた種族で頭に羊のような角が2本生えているのが特徴的な種族で、純魔族はラドール王家しか存在しない。

 妻であるカーラは吸血鬼族。ファンタジー小説にあるような血を飲み、日光が苦手などの特徴は無く、血の変わりにワインを愛し、いくらでも飲んでしまう酒豪であり日光にも弱くない。肌はアルビノで髪は白髪、着ている服も白色の物を好む彼女は魔人王国では『純白妃』と美しい容姿も相まって人気が高い。

 そして、彼らの娘であるクラリッサは純魔と吸血鬼のハーフとなる。父譲りの角が小さいながらも生えていて、髪は母親譲りの白髪。肌は父親と同じく肌色だ。人形のように可愛らしくイケメンと美女の子供である彼女の将来は明るいだろう。

 

「やぁ、エリー。わざわざ、ありがとうね」


「エリー。久しぶり」


「エリ! エリ!」


 エリオットともイザークと同じように同級生であり、カーラは一年下の後輩にあたる。ラドール王家がレオンガルドに遊びに来た際にはよく食事をしたり家族ぐるみで付き合う事が多い。

 その為、彼らの娘であるクラリッサもエリザベスを知っており、彼女の着ている子供用の洋服はエリザベスが丹精込めて作った物だった。

 

「長旅お疲れ様。クラリッサも相変わらずカワユイわ~ン!!!」


 愛らしいクラリッサにクネクネと悶えるエリザベス、それを見てきゃっきゃと喜ぶクラリッサ。


「どうしたんじゃ。中に入らんのか?」


 エリオット達の後ろから遅れて現れたのはドワーフ族のヨーゼフ。


「ヨーゼフ様。ごきげんよう」


「おう、エリザベス。久しいな。中で賢者様の事を聞かせてくれ。特に魔道具の件じゃ」


 愛すべき技術馬鹿は長い髭を触りながら、一刻も早く未知なる技術に触れたいとソワソワしっぱなしだ。


「そうねン。伯爵様に挨拶して、中に入りましょうねン」



-----



 今回訪れた全員がブノワ伯爵に挨拶をし、無事にエルフニア王国北街へ到着した一団は伯爵邸のパーティールームにて歓迎パーティーとなった。

 当然、護衛として指名されたエリザベスも参加となる。

 ブノワ伯爵の挨拶と乾杯の音頭でパーティーが始まると、彼はエリオットへ問いかけた。


「本日は来られていないようですが、リデル殿下はお元気ですか?」


 リデルとはエルフニア王国の王子でソフィアの弟であり、ルクス王の息子。エルフニア王家の継承権一位である彼は現在レオンガルドの王立学院に留学中だった。


「リデル君は学院の試験が近くてね。ルクス王からの書状にも学業に専念せよ、と書かれていて今回は来ていないんだ」


「そうでしたか。ソフィア様とリリ様が賢者様と婚約されたので殿下もいらっしゃると思いましたが、賢者様とお会いになるのは後の機会ですな」


 リデルにはエルフニア王家から近状報告などが伝えられていて、もちろん姉と従姉の婚約も知らされている。

 相手が賢者であるし、彼も学院を休んで里帰りする気満々だったのだが父親であるルクスから別の機会に会わせると手紙で伝えられていた。

 

「そうだね。彼も賢者様に会いたかったらしく、フリッツと一緒に項垂れていたよ」


 レオンガルド王家への書状と一緒にリデルへの手紙も届けられ、彼はレオンガルド王城で手紙を読んだのだが、里帰りを止められたリデルと妻に『お前は行くな』と言われたフリッツが一緒になってドンヨリしていた。

 2人が話していると、ヨーゼフの声が響き渡る。


「エリザベスよ! 賢者様の事を教えてくれ!」


「おお! 私も初代様のお仲間である秋斗様のお話を聞きたいです!」


 ヨーゼフはワインをグビグビと飲み干しながらエリザベスに催促し、カールも初代当主であるケリーの同僚であった秋斗の話を是非聞きたいと笑みを浮かべる。

 他の者達も今回のエルフニア訪問の主題となる賢者の事を少しでも先に知りたいのは当然なので、王族やパーティーに参加していた護衛騎士の隊長格達もエリザベスの周りに集まっていた。

 

「いいわよ~ン。私が最初に出会ったのが――」


 エリザベスは初めて秋斗と出会った時から時系列順で話を進めていく。

 そして、話が進むに連れて目を輝かせる者や驚愕する者など様々な表情を浮かべながら秋斗の話を聞き終え、各々感想を零していた。


「ううむ。魔石研究に賢者時代の乗り物か! 早く直接会って話を聞きたいわい!」


 ヨーゼフは失われた技術の塊であるバイクと魔石の新しい応用に目を輝かせ。


「ガルムをペットって……」


 ダリオとエルザはS等級魔獣をペットにするという考えられない行動に唖然とし。


「AA等級魔獣を一撃とは! 是非手合わせして頂きたいな!」


 オリビアは相変わらずの脳筋だった。


「ははは。さすがは伝説の賢者様だね。僕も早くお会いしたいなぁ」


「そうですね。首輪を解錠して下さったお礼も申し上げたいです」


「さすが初代様のお仲間でありご友人。なんと尊い御方か……!」


 エリオットとイザークはお互いに笑みを浮かべながら頷き合い、カールは偉大なる賢者に早くも感涙していた。


「エリオット様とイザーク様に話があるのよン」


 一通り秋斗の行動を話し終えたエリザベスは和やかに談笑していたエリオットとイザークに近づいて声をかける。


「ん? どうしたんだい?」


「実はねェ……」


 エリザベスは秋斗に対して感じていた心情を2人に話して、賢者と友人のように接してほしいと伝えた。

 2人もエリザベスの話を聞いて、なるほどとエリザベスの感じた秋斗への心情を納得する。


「確かに、お仲間であるケリー様は既にお亡くなりになっているし……賢者様の地位を考えると友人と呼べる人はいないでしょうね」


「そうだねぇ。ソフィア姉さんやリリ姉さんと婚約したとなっても婚約者と友人は違うからね」


 エルフニア王国にいる住民達の秋斗への対応や接し方が悪いという話では決してない。彼らは秋斗に敬意をもって接しているし気安い秋斗の態度に、最初に比べて柔らかくなってきている。

 相手が伝説の賢者という国の王よりも上位の者だからか一歩引いて接してしまうのはしょうがない事だろう。

 ルクス王やロイドは王と国の重鎮で、2人の娘と結婚すれば義理の父になる間柄だがそれも対等とは言えない。


「そうなのよォ。お節介かもしれないけど、お二人はなるべく気安く接してあげてほしいのよン」


 2人はエリザベスの言葉を聞いて、少し考えてから笑顔で答える。


「うん。最初からは立場も挨拶もあるから無理かもしれないけど、賢者様とお話しする機会を設けて頂いてからなら大丈夫かな」


「そうですね。僕らは歳も近いみたいですし、賢者様とは仲良くお付き合いしたいですからね」


「助かるわ~ン! アキトは尊敬する人だし大切なオトモダチだから寂しい顔を見たくないのよン」


 エリザベスは2人の返答にホッと胸を撫で下ろす。

 いつか皆で楽しくお茶会が出来れば良いな、と思いながら手に持ったグラスを傾けた。


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