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47 3ヶ国王家出発と解錠の結果


「では、父上。行って参ります」


「うむ。賢者様に失礼の無いようにな。道中、気をつけて行くがよい」


 レオンガルド王国王都の王城前ではフリッツ王とアーベル宰相などの国の重鎮達が見守る中、レオンガルド王家専用馬車に乗り込むイザーク王子が旅立つ前の挨拶を交わしていた。

 そして、彼らと同じように、ガートゥナ王国獣人王であるセリオ・ガートゥナもエルフニア王国へ行く娘と息子へと声を掛けている。


「オリビア。ダリオ。お前達も道中気をつけよ。オリビア。敵が現れれば、お前がガートゥナの誇りにかけて皆を守れ。ダリオは賢者様をお支えする事に集中せよ」


「わかっております。父上」


「はい。賢者様の事、お任せ下さい」


 ガートゥナ王であるセリオは腕を組みながら、険しい表情で2人の子供に声をかけた。2人の子供も、父親の今の表情は通常通りだと知っているからか怖がることなく背筋を伸ばして返答して馬車へと乗り込んでいった。

 そんな2人の王が子を見送る姿に笑顔を浮かべながら声をかける人物がいた。


「2人とも、そろそろ向かうね」


 爽やかな笑みを浮かべて2人の王に気軽な様子で声をかけるのは魔人王国の王、エリオット・ラドール。

 

「うむ。エリオットも気をつけて向かってくれ」


「何かあればオリビアと護衛騎士を使ってくれて構わんからな」


 彼は腕に1歳半になる娘を抱きながら、頼りがいのある友人2人へニコリと笑顔を向けてそれぞれ握手を交わす。

 3ヶ国の王が、にこやかに握手をする姿は最初の5人という人物が現れ、異種族の交流が始まってから脈々と続く仲の良さを表すには十分だろう。


 今回の3ヶ国の王族が集まっている経緯は、エルフニアへ向かって秋斗と会談する件について。

 エルフニア王国へ向かう際はレオンガルドを通る。ならば、向かう前にレオンガルド王都で一度打ち合わせをして一緒に向かわないか? というフリッツ王の提案を聞いて3ヶ国の王家はケリーの子孫を連れて一緒にエルフニアを目指すことになっていた。

 そういった経緯があって、王城には東側のVIP揃いな状況となっているし、それを守護する護衛騎士達も各国の腕利きが集められている。

 賢者への謁見というのが如何に大事なイベントなのかを現すように、王城の外で準備をする一行の様子を見学しに来る一般人の数も多い。


「はは、大丈夫さ。賢者様との話し合いは任せて。ルクスや君達の息子2人としっかり話し合ってくるから」


「うむ。仕方なく! 我は仕方なく行けないがなッ! 本当は行きたくてたまらないのだがなッ!」


「それは俺も同じ事よフリッツ。本当ならッ! 本当なら俺が直接ッッッ!!!」


 何で留守番なんだ! と心底悔しそうに顔を歪める2人の王を見て、息子や娘達は「また始まったよ」と溜息を漏らす。もはや何を言っても無駄だ、と親の様子を無視して各自馬車の窓も閉めて完全にスルー状態に入った。


「なんだか2人に申し訳ないけど、しっかりやってくるから。そちらもお願いね。」


 エリオットは2人の親友に苦笑いを浮かべるが、最後の言葉を発する時は真剣な表情に切り替える。


「何をしておる! 早くせんか!」


 が、待機している馬車の一団からズンズンと大股で歩き、大声で叫ぶ髭もじゃの男がやってくる。

 彼の容姿はどこかエルフニア王国にいるヨーナスに似ている。ヨーナスの髭が長くなったら瓜二つになるんじゃないか、と思われるくらい似ていた。

 

 それもそのはず。彼はヨーナスの父にしてガートゥナ王国技術研究所所長であり、ドワーフ族の長。ヨーゼフ・ライニオ。

 彼は賢者の目覚めを知り、秋斗の作った首輪解錠キーを見てから3ヶ国の王達以上に賢者に会いたがっていた。

 レオンガルドで合流し、纏まっていこうという提案をフリッツから聞いていたセリオが止めなければ、一人で馬に乗ってエルフニアへ突撃していただろう。


「うむ。任せておけ。抜かりなく準備は整えておく。ヨーゼフは……まぁいいだろう」


「フリッツとしっかり調整しておく。賢者様によろしくな。ヨーゼフは……迷惑をかけるなよ」


 2人もエリオットに向けられた言葉と表情に姿勢を正しながら頷きつつ、やってきたヨーゼフに対しては何を言っても無駄だと判断した。この男は技術の事になると周りを見る事ができない。特に賢者時代の技術に対しては尚更だった。


「何を言っておる! 賢者様。しかも魔工師である秋斗様の技術を見れるというのに、何を無駄話しておるんだ!! これ以上時間をかけるならワシは1人で先に行くぞ!!」


「わかった。わかったよヨーゼフ。今行くから……。じゃあ、行ってくるね」

 

 エリオットはヨーゼフを宥めながら2人に挨拶を終えると馬車へと乗り込む。全員が馬車に乗り込んで準備が完了した事を確認すると、エルフニア王国へ向かう一団の指揮を執るレオンガルド王国騎士団副団長が馬に乗りながら叫んだ。


「エルフニア王国へ向けて出発!!」


 彼の出発の合図を聞いた護衛騎士達を先頭に一団はレオンガルド王城から出発していく。

 出発していく一団を見送りながら、フリッツ王とセリオ王は一団の安全を祈るのであった。



-----



「これが ばいく という物ですか」


 レオンガルド王国で3ヶ国の王家が出発した頃、エルフニア王国にいる秋斗は王城の外にある草原で先日使用したバイクのお披露目をしていた。

 お披露目には王族と製作室チームが勢揃いして、賢者時代の代表的なマナマシンともいえる移動用マナマシンを観察している。


「移動用のマナマシンではポピュラーな物だな。賢者時代ではバイクと車と呼ばれる物が現代の馬車の代わりだった」


 他にも列車や飛行機などもあったが、個人の物として持てるのはこの2種類だろう。

 

「すごいですな。この車輪に使われている材質も見た事が無いですし、構造も全然わかりませんな」


 アランが強化ゴムタイヤを指で押しつつ、追加装甲の隙間からフレーム部分を覗き見る。


「これってどう制御してるんでしょう?」


「ヒィッ」


 今では立派な制御女子となったエリーナが車体を見ながら呟けば、エルフ5兄弟達が竦みあがる。どれだけ彼女の暴走でトラウマを植えつけられたのだろうか。


「じゃあ、ソフィア。乗せてあげる」


 先日の約束通り、まずはソフィアから乗せる事に。リリはキラキラを吐き出していたが彼女はどうなるだろうか、と少し心配したが杞憂だった。


「あはははは~! 秋斗様! 風が気持ちいいですね!」


 リリがダメだったスピードを出しても、彼女は綺麗な金髪を風に流しながら楽しんでいた。どうやら、ソフィアはリリよりも乗り物に強いらしい。もっともっと、とスピードを出すよう秋斗に言っていたのでスピード狂の素質があるのかもしれない。

 


 その後、今回集まっている全員の試乗が終わり、リリをもう一度乗せる。

 今度はキラキラを出す事は無かった。本人も慣れたと言っていたのでもう心配はないのだろう。


「秋斗様。これは我々にも作れますかね?」


 ルクスが何やら考えながら秋斗へ質問する。


「作れるには作れるかもしれんが、普及した場合に馬車を取り扱う店や馬の飼育業者の収入が減るだろうし、しっかり道を整備したりルールを決めないと歩行者との接触事故がヤバイ」


 普及させる事に関しては反対はないが、賢者時代に起きていた大きな事故やら問題やら他諸々を教えるとルクス達は眉間に皺を寄せて唸り始める。


「ううむ。準備は必要だとは思っていましたが……我らが開発できたとしても、やはりすぐには無理そうですね」


「そうだな。まずは生活用魔道具を普及させてから、移動系の物を少しずつ作って騎士団でのみ運用を始めたらどうだろう? 国内で何か起こった場合、現場に向かうにはスピードが問われるわけだし……と、そうだ」


 秋斗は皆の後ろに控えるアレクサから紙の束を受け取って、ルクスへ渡す。


「これ。魔石の研究結果ね。まだ研究期間が浅いから他にも技術は確立できるかもしれないけど、現状で使える応用方法はまとめておいた」


「「「 なんですと!? 」」」


 秋斗の言葉に驚くルクスとアランとヨーナス。彼らは顔を寄せ合って秋斗から受け取ったレポートを食い入るように読み始める。

 

「さすが秋斗様ですわね。たった1週間で利用方法も考えるなんて……」


「全くですな。むしろ、我々が秋斗様のもたらす技術改革についていけるかが心配です」


 ルクス達が固まる横で、ハナコを抱いた王妃のセリーヌとロイドが驚愕していた。

 ハナコは主人が褒められているのを理解しているのか、パタパタと嬉しそうに尻尾を振る。


「むふー」


「リリちゃん可愛いわぁ」


 さらにその横ではリリが胸を張ってドヤ顔。ルルはそんな娘の頭を撫でて可愛がる。そんな親子の交流を笑顔で見つめるソフィア。

 いつものパターンだった。


「秋斗様! このカートリッジを使えば魔道具の普及と現状の魔道具の改善が見込めるのですね!?」


 ふんすふんす、と鼻息を荒くしたアランが顔を真っ赤にして秋斗へ詰め寄る。


「そ、そうだな。制御部品と合わせれば魔素の使用効率も上がるし、カートリッジを充填させる専用マナマシンを用意すれば繰り返し使えるからコストは下げられるはず。充填装置は店に置いて、カートリッジ内の魔素が切れたら充填代を払って充填するか、充填済みの物と交換する、とかどうだろう?」


 秋斗の考えを披露すると、そこへヨーナスとルクスも加わる。


「なるほど。とすれば、街にある給水魔道具もオンボードにカートリッジを積めば魔石の交換よりもコストは下がるし、生活魔道具も現状より安く市場に流せそうだ」


「充填するマナマシンを国から商会への貸出品(レンタル)とすれば開発費も回収できそうですな……。ロイド、これは一度話し合わないとだな」


「そうですね。この技術が普及すれば住民の暮らしは良くなり、今まで魔石や開発素材に使っていた財源の節約に繋がります」


 ワイワイとルクス達の話は止まる事無く盛り上がっていく。


「秋斗様はやっぱりすごいですね」


「みんなの暮らしが良くなることに貢献できたなら、それでいいさ」


 ソフィアと秋斗はお互いに顔を見合わせながら笑いあう。

 草原で各自話し合っていると、リリが街道の先に指を差しながら秋斗の服の裾を引っ張った。


「あれ、何かこっちに来てる」


 リリの指差す方向へ顔を向ければ、3人の騎士が馬に乗って猛スピードでこちらへ走ってくる。

 その様子に気付いた皆は「まさか、また魔獣が出たのか?」と予想を抱いていると、向かってくる騎士達は秋斗達の姿を見つけると近づいて下馬した。


「どうした? 何かあったか?」


 ルクスが一歩歩み出て下馬した騎士へと近づけば、騎士達は騎士礼をしてから口を開く。


「陛下。各国への届け物とその結果をお持ち致しました」


 この場に騎士団長であるアンドリューがいなかったので気付けなかったが、彼らは秋斗の作った解錠キーを届けに行った部隊の一員。

 彼らは各国の協力を得ながら解錠キーを届けた後、解錠できなかった者がいたかどうかの報告をいち早く伝えるべく選出された者達であった。


「そうか。ご苦労であった。結果はどうであった?」


「ハッ! 賢者様のお作りになられた魔道具で各国の首輪は全て解錠できました!」


「「「 おおおお!! 」」」


 騎士の報告を聞いてその場にいた秋斗以外の全員が吉報に湧き上がる。

 

(パスワードが全て同じ……? 本当に作ったヤツは何者なんだ?)


 秋斗は腕を組んで少し釈然としない。良い事ではあるが、1人も違うパスワードの者がいなかったという事に製作者への謎が深まる。

 やはり、製作者は現代の者というのが濃厚か、と秋斗の中で考えが傾いていく。


「やりましたね、秋斗様!」


「さすが秋斗」


 そこまで考えたところで、ソフィアとリリが腕に抱きついてくる。

 製作者について考えるのも重要だが、せっかくの良い報告なのだから皆で喜ぶ事も重要だろう、と秋斗も喜び合う皆の中へ加わって行った。

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