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35 秋斗先生のプチ授業


 秋斗達が魔道具について話し合っていると、ガチャリとドアが開いてアランが戻ってきた。

 アランの後ろには白い鎧を装着した中年のエルフが続き、手には秋斗の材料や試作品が入った大きな木箱を持っていた。


「お待たせしました」


「失礼致します」


 アランが挨拶すると、木箱を持った中年エルフ騎士も挨拶した後に床へ木箱を下ろす。


「どうして騎士団長が?」


 ルクスがアランの後ろにいた中年エルフを怪訝な様子で見つめる。どうやら、木箱を持って来てくれた中年エルフは騎士団長だったらしい。

 騎士団長と聞いた後に改めて彼を見ると、確かに装備している白い鎧は豪華な装飾がされているし、結構な量が入った木箱を軽々と持っているのにも頷ける。


「いえ、途中でアラン殿に会いまして。何やら賢者様の技術を拝見できるようなので着いて参りました」


 冷静かつ平常心に言って見えるが、彼はどこかソワソワしている。それもそのはず。彼は秋斗の英雄譚を読んで騎士を志した1人であり、パーティーの日にしっかりと握手とサインを貰っている。

 秋斗も、パーティーで自己紹介されたのを思い出していた。確か、アンドリュー・エルロン伯爵……だったかな? と心の中で彼の名前を検索する。

 右目の記憶領域に現代人の名前を登録するのを怠っていた事が今になって悔やまれる。


「改めまして、賢者様。アンドリュー・エルロンです。よろしくお願い致します」


「こちらこそ。改めてよろしく」


 アンドリューは敬礼をして自己紹介をしてくれた。

 秋斗は彼の二度目の自己紹介に感謝しつつ、名前が合っていた事に安堵を覚える。


「さて、さっそく始めよう」


 そう言って、秋斗はもって来てくれた木箱の蓋を開けてガチャガチャと中に詰められた物から目的の物を探す。

 これとあれと、と呟きながら木箱から使う物を見つけ出してテーブルに並べていく。


「工作機で制御装置を作る前に、過去の時代ではどうやって魔道具を作っていたかを軽く説明しよう。ああ、座って聞いてくれ」


 秋斗の言葉通り、ヨーナスを始めとした製作室の全メンバー。それに加えて王族一行と騎士団長であるアンドリューが椅子に着席する。

 

「まず最初に、賢者時代では『魔力』のことを『魔素』と呼び、魔道具の事を『マナマシン』と呼んでいた。これは総称であり、細かく名称を決められた物もあるんだが、大体はマナマシンと呼ばれている。家庭で使う魔道具は大体は家庭用マナマシンと呼ばれていた」


 秋斗が説明を始めると、アランは秋斗の言葉をメモする。ヨーナスは腕を組みながら静かに耳を傾けていた。

 今回は魔素については後日詳しく説明するので今日は説明を省く、と前置きして説明を続ける。


「マナマシンとは別の名称で呼ばれる物の代表作がある。それは専用の道具を使わず、自らの手で様々な魔法を行使する為に補助するマナマシンを『マナデバイス』と言う。これは、魔法を発動するための補助装置。リリから聞いたが、遺跡から発掘されたという杖はマナデバイスだ」


 皆はうんうんと頷きながら秋斗の話を真剣に聞く。

 秋斗は目の前にいる者達を見渡しながら、魔法科学技術院で授業していた様子を思い出し、懐かしさを覚えながら次の説明に入る。


「じゃあ次はマナマシン、マナデバイスどちらにも使われる装置や部品の説明をしよう」


 まず、テーブルの上に並べられた物の中から秋斗が手に取ったのはマナマシンを作る際に絶対欠かせない魔法基盤。


「これは魔法基盤。さっきの台座を取り付けていたミスリルの板のような役割で、この基盤に様々な部品を取り付けてマナマシンを動かす。人でいう体みたいなもんだ」


 説明しながら目の前に座るヨーナス達に基盤を手渡して各自自由に実物を見てもらう。

 一通り見たのを確認し、次へ。



「次はさっき言っていた制御装置。制御装置と他の装置を組み合わせた物をコアユニットと言う。これを詳細に説明すると長くなるので簡単に説明するが……これを搭載する事により、複雑な動きや適切な魔素使用量を使うように制御する。あとは、マナマシンが暴走しないようにリミッターとしての役割もある。人で例えるなら脳だ」


 ICチップのように小さく薄い形状。大きさは10cm程度。この中には制御、演算装置とマナ・システム・ソフトウェア(MSS)がインストールされた専用の記憶媒体が組み合わさっている。

 製作するには専用の工作機を使い、プリント魔道基盤にそれぞれの機能をプリントする。そして、それらを1つに組み合わせればコアユニットの完成。

 MSSも工作機でプリントする際に一緒にインストールするのが主だが、秋斗に限ってはリリの腕輪を作った時のように右目でリンクアクセスし、コンソールからインストールができる。

 コアユニットが搭載されていないマナマシンも存在するが、それは簡単な一定の動作のみに限定されたマナマシンに限る。例に上げるならば、安い照明マナマシンは決められた光を発してON OFF の動作しかしないので制御装置のみが搭載され、コアユニットは搭載されてない物が多かった。



「こんな物を作るのか……。やはり賢者時代の技術は凄まじいな」


 秋斗の説明を受けた皆は、実物を掌の上に乗せてまじまじと見つめる。現代では到底作れない、薄くて小さい部品に対して特にヨーナスとアランは眉間に皺を寄せて真剣な表情で観察していた。


「次に記憶媒体。これは情報を保存しておく物だ。保存するには専用のマナマシンが必要だが、紙に書かれた情報から魔法までありとあらゆる情報を保存できる。先ほどの制御装置が記憶媒体内部に保存された情報を読み取って、魔素を制限したり、製作者によって決められた動きをするようになる。これは脳の中にある記憶や経験と言えばいいか。制御装置である脳が、記憶媒体内部にある記憶と経験を引き出して使う……といったイメージだな」


 記憶媒体は5cm程度の薄い長方形をした板状の物で、魔道体と呼ばれる魔素に反応する材質で作られた装置である。魔道体は錬金術と呼ばれた、魔素エネルギーを用いて物質の性質を変化させる魔法技術によって開発された。

 賢者時代に存在した素材のほとんどは錬金術で製作されており、魔道体や魔素水溶液が代表的である。錬金技術には、鉄から金を作るような技術も存在するが当時は条約で禁止されていて、個人で使えば終身刑、国によっては死刑になる。国が使えば国際連盟の皆様からボコボコにされて地図から消える。



「もう驚きを通り越してわけがわからん……」


「む、むう……! 我ら5兄弟の頭脳を持ってしても不可思議な技術である……」


「ハナホジー」


 秋斗の説明を受けて、理解が追いつかない様子。5男なんぞ考えるのを放棄して鼻をほじり始めた。王が隣にいるけどいいのか。



「最後に、魔素充填貯蔵ユニット。これは、賢者時代には無かった魔石と同じくマナマシンを動かす動力だ。これは大気中に含まれる魔素を吸収して蓄える物だ。蓄えた魔素を、マナマシンを動かす為の動力……エネルギーと呼ぶ物に変換する。マナマシンにおいても心臓と呼べる部分で、このユニットの容量によって使える魔法と使えない魔法が決まる」


 魔素充填貯蔵ユニット。正方形をした部品で、小さな空気穴が開けられた物。ユニットの大きさ = 魔素容量 となっているので大型化すればするほどマナマシンの稼働時間が長くなる。

 外装をミスリルでコーティングして中央に魔心針N型と呼ばれた針を上部側面に設置する。魔心針N型は魔素を引き付けるモノで、例によって錬金術で作られた材質。これが大気中の魔素を集めてユニット内に充填貯蔵する。

 そして、ON OFF で引き付けられた魔素をエネルギー化させるための魔心針S型が基盤からユニット内部の下部側面から差し込まれる。差し込まれたS型とN型間の魔素が反発しあってエネルギー化する。

 この魔心針の性能によってエネルギー変換効率が上がる。


 マナデバイスに使用されるユニットには魔素を充填貯蔵させるためのN型のみで、人の『魔法を使おう』という意志とイメージで魔素を魔法に変換する。

 この違いには家電製品などのスイッチ1つで結果を出す物に対し、魔法行使のように『米を炊くのに使うぞ~』などとモヤモヤ考えるのは面倒だからだ。科学しか無かった時代の流れで家電は家電らしくスイッチぽちーで動けば良い、という事でマナマシン用とマナデバイス用で構造が違う。



「賢者時代ヤバイ」


「魔石より高性能でヤバイ」


 ルクスとロイドはヤバイヤバイ呟き、ヨーナスとアランは既に無言で目が虚ろだ。


「ただ、これには欠点があってな。作るのに物凄くコストが掛かるんだ」


 賢者時代では貴重だったミスリル、さらには錬金術で作り出し、工作魔法で加工した部品。マナマシンの値段のほとんどは魔素充填貯蔵ユニット代と言っても過言ではない。家電などにはサイズを小さくした物やユニットを搭載せず、公営の大型充填貯蔵ユニットから地下ケーブルを各家庭に通し、供給口に有線ケーブルを挿してエネルギーを取得していた物もあったが。


「ああ、この部品の代用を目指して魔石の研究をするのですね?」


 正気に戻ったアランが秋斗へ問いかける。


「そうそう。魔石を研究すれば代用できるかもしれない。エネルギー源を魔石で代用できればコストも下がるはずだ」


 日常的に使う家庭用マナマシンは魔石を使って、マナデバイスや大きなエネルギーを使用する物は魔素充填貯蔵ユニットを使えば良い。

 そうなれば、人々の手に魔道具という物が安価で手にする事ができ、普及率も上がるはずだと秋斗は考える。つまりは、魔石という未知素材の研究に魔道具の未来が掛かっている。


「じゃあ、部品の説明は終わったから、実際に制御装置を乗せた氷を生成する魔道具を作ろう」


 実際は魔金などのマナマシン製作に使う材料が他にもあるが、一度に紹介しても混乱してしまうだろうと思って今回は割愛した。


 秋斗はヨーナス達が作った魔道具を手に取り、いつもの手際でササッと作っていく。かなり雑ではあるが、制御というものが伝わればいいので適当にも程があるくらい簡単に作る気だ。


「はい。完成。動かすから見ててくれ」


 秋斗の早業に全員がザワついているが、秋斗はスルーして作った魔道具の上に手を乗せて魔素を活性化させるよう念じる。

 魔石内の魔素が活性化したのを確認し、スイッチを順番に入れながら動作を見せた。


「このスイッチで氷のサイズを変える。今回は、サイズを指定する事でエネルギーを制限して無駄を無くそうって事ね。もちろん本格的に改良する時はもっと複雑な制御をしてエネルギーの効率化を図るよ」


 今回はお試しの簡単な仕組みなので100% 無駄が無いというわけではないが、イメージが伝われば良い。

 そして、秋斗の狙い通りに大中小のサイズの氷が生成されるのを見て全員が声をあげる。


「なるほど、こういう事なのか。確かに使用者の望むサイズが指定できれば無駄が無い」


「これならば魔石を頻繁に変えなくて良いのでコストダウンになりそうですな」


 ヨーナスとアランは魔道具を見つめて、秋斗の指摘した部分を納得出来たようだ。


「これで完璧ってわけじゃないから、やはり魔石の研究は必要だろう。魔石のエネルギー変換と魔石の詳細な性質を調べないとコストについては断言できないな」


 皆が魔道具を見ている中、秋斗は今回の制御装置を作る為にも使用した魔法基板を作る工作機『プリンター』と呼ばれる物を紹介する。


「これが制御装置を作る工作機でプリンターと呼ばれるマナマシンだ」


 長テーブルに置いたプリンターは正方形50cm程度の大きさで、底面には引き出し型のキーボードがついている。今回取り出したプリンターは制御装置のみ製作できる物で演算装置などコアユニットを構成する他の部品は作れない。


 起動すれば空中投影型のディスプレイが表示される。プリンターの上面には白紙のプリント魔法基板を挿入・排出する部分があり、設計された物を印刷すると白紙の基盤に自動で書き込んで排出する。

 ただ、秋斗の取り出した物は旧式のタイプで家庭用などに使用する小型サイズのプリント魔法基板しか印刷できない。車などに使うコアユニットを作るにはワンランク上のサイズのプリンターが必要であるが、彼らに対しての入門用としては丁度良いサイズだと思えた。


「これであんな小さな物が作れるのですかー」


 プリンターに一番興味を示しているのはエリーナ。最前列でペタペタと触りながら、色々な角度でプリンターを観察している。


「これが電源スイッチね。そうすると画面が出て、ここを押すと使い方が表示されるから」


「ええええ!? 空中に文字が!?」


 秋斗が電源を入れて、空中投影ディスプレイに表示されたマニュアル表示ボタンを押してマニュアルを表示させると一番近くにいたエリーナは仰け反りながら驚き、彼女の背中越しにプリンターを見ていたヨーナス達にもどよめきが広がる。

 表示されたディスプレイの前に皆が集まって、恐る恐る指でディスプレイをツンツンし始めた。


「私の腕輪と同じ?」


 リリは腕輪の時に空中投影ディスプレイを見ているし、実際に魔法創造の際に使っていたので特に驚いていない。クイクイと秋斗のシャツを引っ張って質問していた。


「同じだね。賢者時代のディスプレイといえばこれが普通だったから、他のマナマシンに搭載されているのもリリの腕輪と同じだよ」


 リリは「そうなんだ」と言いながら秋斗と一緒にディスプレイをツンツンしている皆を後ろから眺めていた。


「腕輪? そういえば、ずっとつけていると思ってましたけど、リリの腕輪って秋斗様が作ったマナマシンなのですか?」


 リリと合流した時から腕輪を着けているのには気付いていたが、ただ単にリリが街で買った装飾品だと思っていたらしく特に聞かなかったという。


「んふふ。秋斗に作ってもらった。私専用のマナデバイス」 


 リリがソフィアに腕輪の事を説明する。

 リリから説明を受けたソフィアは、マナデバイスという事よりも『秋斗お手製』だとわかると涙目でズルイズルイと言い出した。


「わかったわかった。今度作ってあげるから」


 嫁は平等にせねばならぬ、という謎の閃きが脳内を駆け巡った秋斗は、涙目のソフィアの頭を撫でながら約束する。


「絶対ですよ……?」


「うん。ソフィアに似合うのを作るよ」


 秋斗がそう言うと、ソフィアはようやく笑みを浮かべて秋斗に抱きつく。


「えへへ。楽しみに待っています!」


 秋斗達がみんなの背後でイチャついているのにも関わらず、他の皆は相変わらずプリンターに釘付けだ。


 その後10分程度経つと、ようやく一通り皆がディスプレイをツンツンし終える。そして、騎士団長であるアンドリューが秋斗の方へ振り返って口を開いた。


「秋斗様。もしも、秋斗様の教えによって魔道具技術が進めば魔法に対抗できる魔道具も作れるのですか?」


 騎士団長という任に着いている職業柄か、アンドリューが秋斗へ質問する。

 秋斗自身も、現代では魔法に対抗する手立てがあまりないというのをリリ達から聞いているのでアンドリューが対魔法について質問するのも頷けた。


「作れるよ。というかマナマシンだけど王都に来る前、既に作ったね」


 秋斗がそう言うと、ソフィアが頷く。


「作ってくれたシールドマシンですね?」


「シールドマシン?」


 アンドリューが、それは何ですか? と言いたげな表情を浮かべてソフィアに顔を向ける。


「すごいんですよ! 魔法や剣を弾くんです! リリの魔法もジェシカの剣も防いでしまうんです!」


「リリ様の魔法とジェシカの剣を……!? 見せて頂ける事はできますか?」


 アンドリューは魔法の天才と言われたリリの実力と部下であるジェシカの実力、両方を知っている。知っているからこそ、2人の攻撃を防いでしまう魔道具に興味津々だった。 

  

「秋斗様、いいですか?」


「うん。いいよ」


 ソフィアの問いに、秋斗は二つ返事で許可する。

 

「私達も見に行こう」


 王家と製作室組も秋斗の作り出したマナマシンに興味津々。アランは既に見ているが、もう一度見ると言っていた。

 プリンターは後で戻って来て教える事になり、全員でシールドマシンを見に行く事になった。


「では、騎士団の訓練場に参りましょう」


 全員で製作室を後にし、アンドリューを先頭に訓練場へ向かって行った。 

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