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34 魔道具製作室


 魔道具製作を見学するため、アランに案内されたのは城内にある魔道具製作室と呼ばれた研究室だった。

 アランの執務室から徒歩3分。廊下の曲がり角を曲がった先にあった部屋で丁寧にも部屋のドアには魔道具制作室と書かれた板が貼り付けてある。

 ノックと室内にいる者へ声を掛けてから、アランが部屋のドアを開けると――


「賢者様! ようこそいらっしゃいました!」


 ぢゃぢゃーん と効果音が背後で鳴り(幻聴) チョビヒゲを生やし、背の小さいモリモリマッチョメンが中央でポージング。その左右1名ずつと背後に3名の男性エルフ。彼らは中央のチョビヒゲ男性に合わせるようにそれぞれポージングしていた。

 まるで戦隊モノのようなポーズを決めた男達。その横では女性エルフが1人笑顔を浮かべて、こちらを見ながら拍手していた。


「…………」


 案内人であり、宮廷魔法使い筆頭であり、彼らの上司であるアランはドアを開けた状態で固まってしまう。


「あれはエルフの伝統的な何かか?」


「違います! 違います!」


 アランの後ろにいた秋斗は、コソコソ声でルクスへ確認した。一方、ルクスは全力否定。


「うちの魔道具製作者は変な人が多い」


 リリの容赦無い評価。


「どうぞ、お入り下さい」


 ようやく現世に戻ったアランが入室をおすすめする。どうやら彼は見なかった事にしたらしい。でも無理だろう。秋斗達の方へ振り返ったアランの背後には、まだポージングしている奴らがいる。

 

 室内に入室し、秋斗は部屋内部を見回す。

 制作室はなかなかの広さで、賢者時代の学校にあった教室のようだ。奥にもドアがあるのが見えるので奥にも何か別の部屋があるのだろう。

 特徴的なのは、ベランダのように透明な引き戸が設置されて城の庭へ出れる構造になって、外には休憩用に使っているのか、円形のテーブルと椅子があり、テーブルの上にはティーセットが置かれていた。

 室内には鉱石類や布や革のようなモノが置かれた棚が多数あって、本棚も多く設置されている。後は何故か壁に立てかけられた大きなハンマー。

 部屋内にいくつも並べられた作業台らしき長テーブルの上にはゴチャゴチャと物や紙が置かれていて、部屋の住人である彼らの性格が表現されている。

 

「まさか生きている間に賢者様とお会いできるとはな! 俺は運が良い!」


 ガハハと笑うのはチョビヒゲの生えた背の小さい男性。お出迎えのポージングを止めた彼はムキムキで毛深い腕を組みながら豪快に笑っている。

  

「彼は制作室の班長である、ドワーフのヨーナスです。彼は獣人王国ガートゥナの魔道具製作所で長を務めるドワーフ、ドワーフ族の長であるヨーゼフ殿の子息でありまして。我が国に技術指導を行ってくれています」


「ガハハ! よろしく頼む! 賢者様!」


「周りにいるエルフは――」


 アランがチョビヒゲの生やしたドワーフを紹介し、他のエルフを紹介しようとすると端にいたエルフが口を開く。


「私はワンロー。隣がツロー、スリロー、フォウロー、ファウローです」


 1人1人紹介されて顔を見ていくと、全員髪色も薄緑で顔のパーツも雰囲気もどこか全員似ている。


「お察しの通り私達は5つ子です。長男から1、2、3……と腕章をつけているのでそれで判別して下さい。我々は似すぎているので」


 先ほどから紹介してくれている彼は1の腕章をつけている。長男。ワンロー君。

 紹介が終わったかと思うと、次男がクールな表情をしながら口を開く。


「フッ。我らエルフニア王国5つの頭脳」


「我らが揃えば賢者様に匹敵する叡智を捻り出す」


「………」


「5人だぞ! 5人の天才だぞ!」


 次男から順番にクールな顔をしながらキメた。どこかアホっぽい空気が部屋内を充満する。特に5男。3男の捻り出すも怪しい。4男は眠そうな目でぼーっとしていた。

 秋斗が何とも言えない顔をルクスへ顔を向ける。


「違います! あれが変なだけです! エルフは普通です! たまに変なのがいるだけです!」


 コソコソと言いつつも、首をぶんぶんと振って再び完全否定するルクス。


「私はエリーナです。普通です」


 横で拍手していた薄い青色をした髪のエルフ女性。エリーナさんは普通 (自己申告) だった。



-----



「皆、今日は魔工師である秋斗様と陛下が見学に来て下さった。いつも通り仕事に励むように」


 自己紹介が終わり、気を取り直してアランが部下達に告げる。ヨーナスを残して、彼らは返事をして自分達の持ち場へ戻っていった。


「ささ、ご自由に見て下さい。説明はヨーナスがしてくれますので」


「おう! 好きに見てくれ!」


 アランとヨーナスに促され、秋斗も自由に動き出す。棚に並べられた素材にも興味はあるが、やはり最初に見るべきは彼らの作る魔道具である。

 長テーブルに近づき、置かれた魔道具を手に取る。


「ふむ……」 


 秋斗が最初に手に取ったのは、片手では持ちきれない大きさで箱のような魔道具。賢者時代にあったファミレスというレストランにある氷が出てくる機械を小さくしたような物だった。見た目ほど重くないそれを両手で持って、クルクルと回しながら観察する。


「それは氷を作る魔道具の試作品だ」


 ヨーナスに言われて観察を続けると、箱型の魔道具には取っ手付きの開け口があり、開けてみれば中は空洞となっている。


「その中に氷が生成される構造なんだが、使用回数が極端に限られていてな。実用化まで至っていないんだ」


 ヨーナスはううむと唸りながら眉間に皺を寄せて、魔道具の欠点を告げる。


「中を見てもいいか?」


 秋斗は魔道具を構成する部品が収められている魔道具の上部を指差しながらヨーナスに許可を求める。


「もちろんだ」


 ヨーナスは二つ返事で許可すると、それを聞いた秋斗はさっそく内部構造を見るべく箱の上部を開けた。箱を開けると、中には魔道具を構成する部品が露見する。

 だが、収められている部品はパッと見ても秋斗の使う技術と違う事がわかる。

 中に収められた物を丁寧に引き出し、テーブルの空いている場所に置いて観察する。

 

 取り出された魔道具の構成。まず、特徴的なのは魔石。

 男性の握り拳程度の大きさがある魔石が金属製の台座の上に設置されている。

 台座の下に敷かれた板はミスリル製の薄い板で、魔石を乗せる台座もミスリルで作られており、ミスリルを溶かしたモノで接着されている。コスト問題に悩まされていた賢者時代の生活用マナマシンにはありえなかった、まさかの総ミスリル製。

 そして、台座の裏側には窪みがあり、そこには指の第一関節程度の大きさである魔石がはめ込まれている。

 賢者時代で使用していた記憶媒体やコアユニットなどは存在しないから仕方ないのだろうが、金属と魔石のみの構成。

 見た目の観察が終わった秋斗は、次は分析を使用して調べる。


 分析をしてわかった事。まずは台座に置かれた大きな魔石だが、これは以前に魔石を調べた際に判明した通り魔素の結晶。この結晶化された魔素を使ってエネルギーにしている。

 魔石のエネルギーがミスリルで作られた台座と板に伝わり、裏側にくっつけられた魔石に伝わる。

 そこまではわかったが、どこに魔法を記憶しているのかというのが不明だった。

 恐らく、板の裏側にはめ込まれた魔石が記憶装置なのだろうと推測するが、微弱な魔素が検出されるだけでわからない。


「これ、どうやって氷の魔法を発動させるんだ? 裏側の魔石を使ってる?」


 秋斗がヨーナスに質問すると、ヨーナスは秋斗から魔道具の中身を受け取って解説し始めた。


「うむ。裏側に装着された魔石はスノーカメレオンの子供の魔石でな。魔力を通してスノーカメレオンが使う氷玉を使用するようにしておる」


「魔石は魔石の持ち主である魔獣の使う魔法を記憶しているのか?」


「んん? そうだぞ?」


 ヨーナスの話を聞いて秋斗は驚愕する。

 まさか魔素の結晶化だけでなく、魔法まで記憶するとは。賢者時代には無かった新素材がさらなる特性を持っていた事に、秋斗の魔石に対する研究熱がグングンと上がる。


 だが、ここで1つの疑問が生じる。

 裏側の魔石がスノーカメレオンとやらの魔石で、氷の魔法を記憶しているのであれば、台座に乗った大きな魔石は何なのか。

 台座の上に乗る魔石にも魔法が記憶されていたら大変な事になるのでは? とヨーナスへ質問する。

 すると、ヨーナスは部屋に設置された素材棚から魔石を持ってくる。 


「魔石の核を突くのだ。この中心にあるのが核。これを破壊すると残っている魔法が消え、魔力だけが残る」


 ヨーナスは魔石の中心にある核を指差し、別の方の手には長い金属製の爪楊枝のような針を持っている。

 爪楊枝をハンマーで叩いて壊すらしい。ヒビが入って割れないのか、という心配も脳裏を過ぎったが秋斗はそれどころではない。


「マジかよ」


 ありえねえ、と呟きながらも、この世界はどうなってしまったんだと頭を抱える。魔法を記憶したエネルギー源。まさか2000年後には、科学技術で補っていたモノが天然素材となっていた。


「魔石って魔獣の体内にあるんだよな? まさか人の体内にも……」


「ないない。魔獣だけだ。魔石は、魔力を溜め込んだ魔獣が魔石を生成する。さらに、別の魔獣が生成した魔石を喰らうと大きくなると言われておる。その辺は謎だ」


 現代人も解明できていないらしい。もちろん秋斗も謎だろうよ、と納得する。もはや魔法という奇跡がある時点で何が起きてもおかしくない。

 賢者時代でも魔素水溶液を作り上げた錬金術師が「意味わからんけど実験したらできた」と言っているのだから、魔石という素材の性質には無理矢理納得せざるを得ない。


「はー。魔石ってスゴイ」


「賢者様の時代には、魔石は無かったのか?」


 秋斗が核がある状態の魔石を眺めていると、ヨーナスが質問する。


「無かったよ。こんな素材あったら大騒ぎになってたな」


 もしも、賢者時代に魔石があればコスト問題が解決され、もっと市場価格は安くなっていただろう。

 何せ、一番コストが掛かっていたのが魔素充填貯蔵ユニットだ。高価で製造に手間が掛かる充填貯蔵ユニットを魔法宝石の上位互換とも言える魔石に置き換える事が出来ればコストは大幅に削れる。


「しかし、さっきも言ったが欠点もあるのだ。氷を生成するには台座に乗った核無しの魔石の魔力を使って発動させるが、大体4~5回で魔石の魔力が切れてしまう」


 魔力が切れる毎に魔石を交換すれば再び使えるが、このサイズの魔石は高価で本体の価格よりも魔石の交換代の方が高くて売れないとヨーナスは説明する。


「時間はかかるかもしれないが、魔石って使って減少した魔素――魔力は自然に回復するだろう?」


 分析結果は魔法宝石と同じ性質である。つまりは空気に触れるところに置いとけば勝手に内部エネルギーは少しずつであるが回復する。


「なに? そんな事聞いた事無いぞ?」


 ヨーナスにそう言われ、ん~? と考える秋斗。


「最初に見た小さな魔石を分析して魔素の結晶体と分析結果が出たが……。核を壊してないヤツだったからか……? いや、結論を出すには魔石を研究してからだな。一旦忘れてくれ」


「わかったら、是非教えてくれ。……と、まぁそういう理由で売り出すには至っていないんだ」 


「これ、今使える?」


 秋斗には他にも原因がありそうな気がしたので、実際に動いているところを見たかった。


「うむ。使えるぞ」


 ヨーナスはそう言うと、中身を箱に収めてから蓋を閉じてから箱に手を置く。

 秋斗は右目で分析術式を起動しながら魔道具を見つめる。


「使うにはどうするんだ?」


 一見、魔道具の外装にはスイッチなどは見られない。


「自身の魔力を少しだけ箱に流すんだ」


 そう言ってヨーナスは少し力んだ表情を浮かべる。すると、箱がガタガタと箱が振動して動き出した。

 しばらくすると箱の振動は止まり、ヨーナスが取っ手付きの開け口を開けると、中には空洞部分のサイズに合わせた大きな氷が出来ていた。

 ヨーナスは箱を横にして持ち上げて、箱の背中をコンコンとノックするとゴロンと四角い氷の塊がテーブルに落ちてくる。


「この氷よりも小さいのは作れないのか?」


「このサイズだけだな」


 秋斗はヨーナスの答えを聞き、なるほどと呟く。


「内部構造を見たが、魔法を制御する部分が無かった。魔道具の動きを分析してみた結果としても魔石に蓄えられた魔素枯渇の原因は、魔石の魔力を無駄に使っているからだ」


「制御装置とはなんだ?」


「仮に、この氷を作るのに必要な魔力が10だとしよう。だが、現状では10あれば済む魔力を20使って氷を生成してるんだ。そして、制御装置とは適切な魔力量を使うようにする部品だな」


 賢者時代ではコアユニットと呼ばれていた部品集合体の内部にある一部の装置が制御装置と呼ばれている。賢者時代のマナマシンであれば、記憶媒体にインストールされた魔法をコアユニット内の専用記憶媒体にインストールされているマナ・システム・ソフトウェア(MSS)と制御装置が連動して制御する。

 その際にMSSの機能でディスプレイなどに視覚情報を表示して使用者が魔法を強弱を決められるのだが、魔道具と呼ばれる現代の物には制御装置どころかオンオフのスイッチすら存在しない。

 現代の作り方では、発電機に豆電球を繋げて全力運転させているようなモノだ。


「ううむ。無駄を省くわけだな? しかし、そんな物が我らの技術で作れるだろうか?」


「うーん。賢者時代で使われていた制御装置を作るには専用の工作機が必要なんだが、まぁ出来なくはないな」


 制御装置は小さいICチップ状である。精密な作業をするための工作機が無ければ作れない。人の手で自作した物を使おうとなると、とんでもない労力と時間が掛かる。

 だが、秋斗は既に解決策を持っていた。


「そうなのか?」


「ああ、俺が工作機を既に持っているからな」

 

「もしかして、秋斗様の遺跡から持ち出した木箱の中ですか?」


 秋斗の言葉に反応したのはアランだった。用途不明だったが、箱に詰められたマナマシンの中の1つがそうなんじゃないかと推測したようだ。


「そうそう。あの中に旧式のだが工作機があるんだ。それを使って、実際に制御装置を乗せた魔道具を作って見せようか」


「すぐに持って来させます!!」


 アランは秋斗の提案を聞くと、興奮して部屋の外へ飛び出していった。

 室内にいる全員がアランを見送ると、ヨーナスが溜息を吐きながら呟く。


「はぁ。やはり賢者時代の技術は遠いな」


「そうか? こんなシンプルな構成で魔道具を作れるなんて大したもんじゃないか。魔石を研究すれば魔道具全体のコストが下げられそうだし、そうなれば市場価格も下がって皆ハッピーだろう」


 現代の魔道具は魔石の存在があるからこそという見方もあるが、簡単な魔道具であれば賢者時代に開発されたマナマシンよりも安価に作る事ができそうだ。

 それに、技術は未熟でもこれから高めれば良いだけだ。


「俺には賢者時代の魔道具の方が凄いと思うがな。今日聞いた制御装置とやらも使っているのだろうが、構造が意味不明だ」


「賢者時代は科学技術と魔法技術の融合だからな。今の時代には科学技術が無い。それに、魔法を記憶する部品や制御する部品――それらを組み合わせるからコストが掛かる。コストダウンの努力はしていたけど頭打ち状態だったな。俺も含め、どこの研究者もコストの問題には泣いていたよ」


 秋斗も昔を思い出しながら溜息を漏らすと、一緒に聞いていたルクスが呟く。


「ん? という事は、魔石と賢者時代の技術を使えば……?」


 ルクスの呟きを聞いた秋斗はニヤリと笑って告げる。


「そう。大幅に改善されたマナマシン(・・・・・)が作れる」


 秋斗の言葉に、ヨーナスも含めた全員がゴクリと喉を鳴らした。


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