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33 ケリー・オルソン

 

「じゃあ、次はケリーの事を聞かせてほしい」


「はい。……お目覚めになった後、ケリー様が人族の集落に現れたのはお話しましたな。それ以降ですが――」




 1000年前。彼はフラフラと歩きながら人族の集落に現れる。見たことがない服を纏う20代の男性は集落の入り口で倒れこんだ。倒れた原因は空腹と脱水症状と言われており、後にレオンガルド初代国王となる集落の長、レオンに保護された。

 保護されたケリーは3日後に目を覚まし、目覚めた後も何日か不調が続いたがレオンと彼の家族による手厚い看護で回復した。


 命を助けてくれた恩を返す、とレオンに言ったケリー。レオンは気にするなと言ったが、ケリーが引かなかったという。そして、自分の得意な事は農業や植物に関する事だとレオンに伝える。

 

 当時の人族の集落がある場所は大地が荒れ、畑を作ってもエルフ達のように作物が上手く育たなかった。

 その事もあり、レオンはケリーに集落の畑を見て欲しいと頼んだ。

 レオンと共に畑に行くと、ケリーは畑の土や道具、作っている作物を観察する。そして、すぐさま行動を開始した。


 まず彼が行ったのは土壌の改善。ケリーは賢者時代の知識を使って畑の状態を少しずつ改善させる。すぐに結果が出るわけではなく、さらには現代人には見た事のない賢者時代の技術という事もあって集落の人達はケリーの行動を訝しげに見ていた。

 

 だが、ケリーの努力が実を結べば評価は一転。痩せ細った畑も回復して収穫時には収穫量が段違いとなり、人族の集落に暮らす人々はケリーを称えて大変喜んだ。

 ケリーはすっかり集落の暮らしにも慣れ、長であるレオンや集落の人々にお願いされて集落全体の畑を監督するようになった。

 そして、数年後。

 

 東側の住人達は最初の5人の導きによって物々交換を頻繁に行っていたが、ケリーの目覚めた年代辺りは西側の侵攻が頻発し、集落の防衛もある為に気軽に集落を行き来できない状況だった。


 それでも、昔から恒例となっていた異種族との物々交換は数年に一回開催され、その1回で普段できない分、大規模な物々交換を催す祭りが開催されていた。

 ケリーの目覚めた年に祭りは開催毎に開催会場が変わる祭りで、今回の開催会場は人族の集落だった。

 祭りには東側に住む異種族の人々が集まり、ケリーは初めて見る異種族を見て気を失った。心配したレオンがケリーに尋ねると、自分の住んでいた場所には異種族はいないと言う。

 異種族がいない? なんじゃそりゃ? 昔から住んでるぞ? とレオンは疑問に思う。そこに、エルフ族の長が尋ねてきた。

 エルフ族の長は人族の畑で栽培した野菜の出来が前回来た時に比べてとんでもなく素晴らしく、どういうこっちゃと聞きに来たという。

 当然、レオンはケリーが教えてくれたと話す。エルフ族の長はケリーに方法を聞いた。聞いたが理解できなかった。理解できなかったが、成功した物を実際に見ている。

 そして、長寿種であるエルフ族の長はレオンに告げた。


「この人、言い伝えの賢者じゃない?」


 言われた当人のケリーは疑問符を頭に浮かべて首を傾げるし、隣にいたレオンも同様のリアクションだった。

 エルフ族の長は言い伝えである最初の5人の話をレオンに話すと、レオンは、あっ! と何かを思い出して自分の部屋へ駆け込む。

 そして、1つの木の板を手にして戻って来た。

 木の板には先祖が残した最初の5人の話が書かれ、過去の時代から賢者が現れるというのも書いてあった。

 レオンとエルフ族の長はケリーに聞くと、彼は観念したように賢者時代を生き、長き眠りについた者だと白状した。本人曰く「言っても信じてもらえなさそうだと思ったし、変な事を言う奴だと追い出されたくなかった」と。


 その後、他の異種族からも賢者認定されたケリーは様々な事に着手する。彼の知識で食料事情や衛生問題などが改善した。

 子供が死ななくなり、人口はどんどん増える。いくつもの村が生まれ、荒れた大地も改善されていった。

 徐々に今までの問題が改善された東側の住人達は昔のように交流を盛んにしていき、楽しい日々を送っていく。

 

 だが、それをよく思わない者もいた。

 西に住む人族達である。彼らは相変わらず東側を侵略しようとしていた。

 追い返し続けていたが被害は出てしまう。ケリーは争い事は苦手だったが侵略者である西の者達に対抗する案を各種族の長達と話し合う。その話し合いの中で、東側の人々をまとめるためにも西側への体面的にも人族を含めた東側の長に国を興さないかと提案した。


 そして、ケリーの提案を受け入れた人族の集落は国となった。東側中央に興されたレオンガルド王国の誕生。

 建国以降、レオンガルドは先頭に立って西側と戦い続けて来た過去の経歴から、東側の守護者となる。大陸中央から異種族達を守るべく国境沿いに陣を広げ、西側の侵攻を止める盾となりながら各種族達の国境整備や砦作りに協力しつつ自国も軍事力に力を入れる。

 レオンガルドに守られながら周辺の異種族集落は協力し合って国を興し始めた。各国が建国以降、政治や運営に関してもケリーの知識があったと伝わっている。


 その後、レオンガルド初代国王は異種族の戦士達と共に戦場で戦いながら民と同胞である異種族を守り、ケリーは農業を通して国の食料生産や食文化に力を入れて東側の発展に尽力した。

 戦争から帰った初代国王はケリーの作った食材と彼から伝わった料理に舌鼓を打つ。その際、レオンガルド初代国王の残した言葉がある。


「親友の考えた料理を妻に作ってもらい、食すのが何よりの楽しみである。戦から帰った後は特に堪らない。これがあれば、俺は後100年戦える」


 レオンガルド王国建国時にケリーは公爵位を得る。ケリーは断り続けたらしいが、初代国王が土下座して頼んだのは有名な話。

 爵位を得た後は精力的に各国を巡って農業指導に力を入れる。そして東側は様々な食材、調味料を作り出した。東側各国の市場に出回ったそれらは新たな料理を生み出し、今の時代でも東側は食文化に対する熱意は尽きる事無く続いている。


 ケリーが目覚めた時から15年後。彼はめでたく1人の人族の女性と結婚した。

 3人の子に恵まれ、ケリーは自分の子供に知識を教えながら家族で各国を周り続けた。そして、各国の食糧事情を改善していくと、ケリーは人々に『豊穣の賢者』と呼ばれるようになり種族問わず愛された。

 特に彼が子供に家督を譲った後に、自ら監修を行いながらエルフ族の歴史の語り手と共に書き上げた『賢者英雄譚』は大ヒット作品となる。


 そして、豊穣の賢者ケリーの晩年の時。彼はレオンガルド王家へ1つのお願いをした。

 

「かつて、私と共に世の中を良くしようとしていた者達がいる。賢者時代から目覚めた者を見つけたら保護してあげてほしい」


 ケリーに恩のある王家は必ず保護すると約束した。各国の王家にも協力してもらう、とケリーに約束する。

 それを聞いたケリーは1冊の手帳を息子に、1枚のカードキーを含めたいくつかの私物をレオンガルド王家に託す。


「英雄譚に出てくる5人の賢者が現れたら保護して、その手帳を見せてほしい。特に魔工師である御影秋斗は必ず保護するんだ。彼らは君達の力になってくれる」

  

 彼の思いを息子とレオンガルド王家に託した3日後。

 愛した家族と親友であるレオンガルド初代国王 レオン・レオンガルドに見守られながら安らかに息を引き取った。



-----



「生涯好きな事が出来たんだ。幸せだっただろうよ」


 アランからケリーの話を聞き終えた秋斗は目を閉じて呟いた。


「ケリー様は我が国、エルフニアにも農業指導をして下さいました。今、我々が飢えることなく過ごせるのはケリー様のお陰です。皆、何年経ってもケリー様に感謝しております」


 ルクスはニコリと笑ってケリーに対する感謝を改めて教えてくれた。


「なら、俺もあいつのように世の為人の為に働くとしようか」


「何をするの?」


 秋斗の言葉に、リリは可愛く首を傾げながら問いかける。


「そりゃもちろん、魔道具だろう」


「どんなモノを作るのですか?」


 ワクワクと目を輝かせながらアランが質問する。


「うーん、朝にルクスさん達に伝えた通り、まずは今の時代の技術を見る。エルフニアで先に指導を行いつつ、改善点を纏めておいて各国の王族が来たら話し合おう。主に作るのは暮らしを豊かにする生活用魔道具をメインにする予定だ」


「はい。かしこまりました」


 ルクスが朝にメモした紙を懐から取り出して告げる。


「あとは魔石の研究かな。それと、奴隷関連に使う魔道具は自重する予定はない。仲間だったケリーが建国に関わった国々を好き勝手に荒されるのを黙って見ているほど、俺はお人好しじゃないしな」

 

 スッと目を細めて秋斗は告げる。東側の人々を守るのに遠慮はしない。自分の持てる技術と力を全て使うと宣言した。


「わかりました。よろしくお願致します」


 秋斗の決意を聞いた国王と王妃のルクスとセリーヌ、それに続いてロイド達も全員が頭を下げる。


「さて、歴史関連は以上かな。また聞きたい事が出来たら教えてほしい」


 秋斗が気持ちを切り替えて話を変えた。


「お任せ下さい」


 アランは笑顔で答える。


「よし、じゃあ次は魔道具開発を見せてもらうか」


 秋斗がそう言うと、アランとルクス達は待ってました、といつも以上に目を輝かせる。

 伝説の魔工師の手腕を再び見れる。それを思っただけで、童心に戻ったかのようにワクワクしてしまう王家と宮廷魔法使い筆頭だった。

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