32 最初の5人
昔々、あるところにエルフ族の集落がありました。
彼らは50人程度の集団で、森の中で暮らしています。自分達で作物を育てたり、森の恵である木の実を取って平和に暮らしていました。
しかしある日、魔獣と呼ばれる獣がエルフの集落を襲います。
魔獣は強く、非力だったエルフ達は倒す事は出来ませんでしたがなんとか撃退するも、作った畑は荒され、木の実がなる樹木も薙ぎ倒されてしまいました。
「どうしよう。このままでは飢えてしまう」
エルフ達は集落を放棄し、森の中を移動して、新たな集落を作ります。
しかし、またもや魔獣に襲われてしまいました。
どこに行けば安全なのか、とみんなで相談している時、1人のエルフが現れたのです。
現れたエルフは男性で、青い髪をして見た事も無い綺麗な白い服を着ていました。
「こんにちは。あっちに安全な場所があるよ」
現れたエルフは、みんなに安全な場所を教えてくれて連れて行ってくれました。
連れて行ってくれた場所は、森の中でありながらも丸くて広い、広場のような木が生えていない場所でした。
エルフ達は不思議に思いながらも、そこで暮らし始めます。
現れたエルフに集落の長を勤めていたエルフがお礼を言うと、彼は去って行ってしまいました。
彼の言う通り、新たに住み始めた場所では今まで襲ってきた魔獣は現れません。みんなは安心して畑を作ったり、木の実を集めたりして暮らしました。
しばらく暮らしていると、青い髪のエルフが再び現れました。
「こんにちは。森を出たところに、お友達がいるよ」
お友達って誰だろう? と疑問に思いながらも、彼に言われた通り、森の恵を持った集落の長と1人の若いエルフが青い髪のエルフに案内されて向かいます。
森を出てると荒れた大地があり、そこには人族の集落がありました。
青い髪のエルフは人族の集落に入ると、黒い髪の人族と何やら話します。
話し合いが終わると、エルフの長のもとへ戻って来て言いました。
「ここの人族は優しいよ。食べ物を交換したらいいと思うよ」
そう言われたエルフの長は、人族の長と話し合って食べ物を交換しました。
エルフは森の恵を、人族は狩った動物の肉を。
エルフ族と人族の長達は交換した物をお互いに食べると、おいしいおいしいと言って笑い合いました。そして、エルフ族と人族は友達になったのです。
2種族が友達になると、青い髪のエルフと黒い髪の人族は去って行ってしまいました。
それから、別の日にエルフと人族が食べ物を交換していると、別の種族が現れました。
「俺達は獣人。食べ物を交換しよう?」
「俺達はドワーフ。道具を作るのが得意なんだ! 道具と食べ物を交換してほしい」
彼らもまた、現れた獣人とドワーフに導かれて来たと言います。
エルフ族と人族は獣人族とドワーフ族を歓迎して、みんなでお友達になりました。
特に、ドワーフの道具は暮らしを豊かにしました。
エルフは道具を使って多くの畑を肥やす事で野菜をいっぱい作ります。人族は道具を使って食べ物を長持ちさせる方法を思いつきました。獣人はドワーフの道具で動物を狩って多くの肉を得る事ができました。
4種族達はお互いの集落を行ったり来たりして食べ物や道具を交換し続けます。すると、また別の種族が来ました。
「こんにちは。僕は魔人族です。海を越えてきました」
海を越えてきたお客さんにみんなはビックリします。彼もまた、突然現れた魔人族に導かれて食べ物を交換をしにやって来たようです。
彼らは海のお魚を持って来たのです。もちろん魔人族を歓迎し、みんなで食べ物や道具を交換します。
時々魔獣が現れる事もありましたが、5種族達はドワーフの作る道具で追い払います。
どの種族も笑顔で暮らしていました。
しかし、楽しく暮らしていると別の人族が現れて言いました。
「お前達はここを出て行け。食べ物は俺達の物だ」
現れた別の人族は西からやってきた人族でした。
彼らは集落を荒したり乱暴してみんなを困らせます。
どうしようとみんなで考えていると5人の異種族が現れました。
それぞれの種族を導いてみんなを引き合わせてくれた、5人が現れたのです。
彼らはみんなに言いました。
「みんなで協力すれば怖くないよ! みんなで手を取り合って、平和な暮らしの為に戦おう!」
「理不尽な侵略に屈してはいけない! 異種族の兄弟達よ! 共に戦おう!」
彼らの言葉を聞いて、引き合わされた種族達は協力して西から来る人族達と戦いました。
そして、みんなの力で西の人族を追い払いました。
みんなは5人にお礼を言います。みんなと出会わせてくれた事や友達になれた事など、今までの教えてくれた全てに感謝して、沢山のお礼を言いました。
そして、5人も一緒に暮らそうと誘います。しかし――
「僕達は賢者様の従者なんだ。一緒に暮らせない」
「私達は最初の5人。もう時間は残されていない」
そう言って、みんなの誘いを断りました。そして、去る前にみんなに言いました。
「ここに、過去から訪れる賢者様が現れるかもしれない。もし、賢者様が現れたら優しくしてあげてね。きっと、賢者様も君達を助けてくれるよ」
そう言い残し、去って行きました。
みんなは何の事かサッパリわかりません。しかし、みんなは最初の5人に言われた事を忘れずに覚えていたのです。
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「そして、みんなが仲良く暮らして1000年後、ケリー様という偉大な賢者に出会うのでした。めでたしめでたし」
木枠に差し込まれた木の板には『おしまい』の文字と、種族達が手を繋いで笑っている絵が描かれていた。
パチパチパチと室内にいる者達の拍手がアランへ送られる。
秋斗はアランの話を聞き終わると、拍手しながら一番気になる点について考えを巡らせる。
「最初の5人ねぇ……」
各地に点在していた種族を導き、引き合わせた最初の5人。
そして彼らが伝えたという『過去の世界から訪れる賢者』は間違いなくケリーや秋斗のような、賢者時代を生きていた者達だろう。
一緒に暮らそうと誘った際に言った『賢者の従者』というのも気になる。
氷河期が訪れた後、生き残った人間がいたとしても不思議ではない。
しかし、最初の5人が従者として仕えた賢者は誰なのだろうか? 最初の5人はどこからやって来たのだろうか? 異種族は氷河期の後に自然に生まれた新たな人類なのだろうか?
考えれば考える程、謎は深まるだけだ。
もしも、異種族が自然発生した人類だと仮定するならば、賢者時代の生き残りがどこかで暮らしていたとして、新人類が持っていない高度な技術を持っていたらその生き残りが『賢者』と呼ばれていてもおかしくはない。
最初の5人は生き残りと暮らしていた新人類なのだろうか。
何にせよ、最初の5人と異種族の発祥が世界の変化を解き明かす鍵なのは間違いない。
「これが、エルフニアに伝わる最古の伝承です。そして、東側に存在する他3ヶ国でも同じ内容の伝承が残されているので事実だという確証はかなり高いと思っております」
アランは木枠と木の板を片付けながら告げる。
「この後にケリーが現れて国を興すのか」
「はい。最初の5人と出会ったそれぞれの種族の長の子孫が今の王族です。ケリー様が現れたのは人族の集落……今のレオンガルドです。当時の格好とは異なった衣服を纏い、高度な知識を持ったケリー様を見た長が最初の5人に言われたという賢者の言い伝えを思い出した、と伝わっております」
アランもソファーに座り、お茶を飲んで一息入れながら説明する。
ケリーが現れるまでは特に何も大きな出来事は無かったのか記録も言い伝えも見つからなかったらしい。
「なるほどね。まぁ、ケリーの件は一先ず置いておいて。最初の5人と呼ばれた者達が気になるな」
「確かに、秋斗様の疑問はもっともでしょう。しかし、彼らについてはこの言い伝えでしか残っていないのですよ。今より原始的な生活をしていた為か、当時の様子を残した資料も存在していません。私も、最初の5人の話は長く生きたエルフから聞きまして、その方も祖母から聞いた話だと言っておりました。他の国に伝わる最初の5人の話も同様でした」
各地で言い伝えとして伝わっており、内容も語られる種族がその土地に暮らしていた種族の視点となっているが各種族を導いたのが最初の5人というのは変わらない、とアランが付け足す。
「そもそも、現在が賢者時代が終わって2000年後というのも正確ではないのですよね。記録に残る最初の月日から数え始めてから2000年前なので……。最初の5人が現れたのはもっと前かもしれませぬ。ケリー様が現れた当時は既に月日を数え始めていたのもあり、今から1000年前で合っているのですが」
「う~ん。これも一旦置いておこう。調べようにも言い伝えのみだしなぁ……。次に聞きたいのはエルフ族の生まれについてなんだが、何かわかるか?」
時間は有限。わからない事は一旦保留として、秋斗は次の話題に移る。
「生まれですか?」
秋斗の質問にアランが聞き返す。
「うん。エルフや他の種族がどう生まれたのか。俺が眠る前は『人』以外存在しなかった。エルフや獣人などの種族は、それこそファンタジー、物語の中にしか存在しなかったんだ」
「ああ! ケリー様から伝わっております。ケリー様も見た事が無い様々な種族に大層驚かれたと言われております。歴史学者として恥ずかしいとは思いますが、エルフの発祥や他の種族の誕生。これらも謎に包まれております。ただ――」
アランは一拍置いて説明を続ける。
「魔人族の王家に伝わる石碑の中に気になる事が書かれていました。書かれていた内容は『我ら異なる姿』『極東より来たれり』と断片的に。残りの文字は潰れて読めませんでしたが」
「異なる姿、極東……」
「はい。異なる姿という単語は魔人族も色々な種がいますから、その事なのかと思いましたが。極東というのが気になります。極東に何かあるのか、極東に魔人族の発祥があって、魔人族の始まりが解明できればエルフや他の種族の事もわかるかもしれません。それに、賢者様達が暮らしていた『賢者時代』から最初の5人が現れるまでの『空白時代』と呼ばれた時代の謎も何かわかるかもしれませぬ」
秋斗は顎に手を当てて考える。
アランの言う通り、極東という地で魔人族の発祥がわかればそこから他の種族もわかるかもしれない。
特に記録が残っていない空白時代の事が判れば、様変わりした世界の謎を解き明かす大きな手がかりになるだろう。
「魔人国は大陸の東にある島なのですが、それより東には海が広がっていて目視では見えません。船を出した事もあるみたいですが、他の大地を見つける前に海の魔獣によって調査が難しい状態です」
「魔獣か。魔獣なんて存在も昔はいなかったしなぁ。まぁ、すぐにわからん事を今議論してもしょうがないか。そのうち時間を見つけて世界の謎に挑もう。今は先にやる事が多すぎる」
まずは目先の事を優先しよう。そう決めて、カップに残ったコーヒーを飲み干す。アランに貰ったクッキーとコーヒーの相性は抜群だった。
「謎に挑む時は是非ともお供したいですな」
秋斗の提案に、アランは楽しそうに笑った。
「当然、私も行く」
「わ、私もです!」
リリとソフィアはそう言って、秋斗の腕に抱きつく。上目遣いで同行を告げる2人と少し恥ずかしそうにする秋斗。
アランやルクス達は仲の良い3人の様子を微笑ましそうに眺めていた。
6/6 0:40 投稿した内容の一部を修正しました。




