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26 風呂


「ところで、この後は夕食まで特に何も無いのか?」


 アレクサからコーヒーを注いでもらいつつ、リリとソフィアへこの後の予定について問いかける。


「そうですね。この後は秋斗様をお迎えした事によるパーティーが催されます。その後は特にありません。明日は民に向けて秋斗様が目覚めた事が知らされるので、民の前にお姿をお見せしてもらうかもしれません」


「パーティーねぇ。みんなの前に出て何すればいいんだ? 特に明日」


「うーん、そうですねぇ。今日のパーティーでは一言挨拶だけすれば良いのではないですか? その後は人が秋斗様へ寄って来てお喋りするだけですよ。明日は……笑顔で手を振れば良いんじゃないでしょうか?」


「今日は貴族が相手だから1人1人挨拶されながら全員と少し話す感じ。明日がヤバイ。めちゃくちゃ人集まると思う」


 今日のパーティーでは、きっと王城でルクスと出会った時のように、めちゃくちゃ頭を下げられてしまうのだろう。明日の件は、野外コンサートを想像した。

 秋斗は今日明日の場面を想像すると、若干ゲンナリしてしまう。


「それが終われば特に無いですね。各国の人が挨拶に来ると思いますけど、あちらも来るのに準備があるでしょうから。こちらに来るのは1ヵ月後くらいでしょうか?」


「でも、秋斗が各国に送る首輪解除の魔道具の件があるから少し早まるかも。たぶん、結果を携えてすごい急いで来る」


「そうか。じゃあ各国の人達が集まるまではエルフニア王国を見ながらやりたい事やるか」


 秋斗は脳内で今後の予定を整理していく。やりたい事、知りたい事は山積みだ。

 そして、秋斗はもう1つ重要な事を思いつく。


「なぁ、今の時代も結婚式とかあるんだよな?」


 正式に婚約したのだから、その後にあるのは結婚式。

 昔に知り合いの結婚式に参加した経験もあるが、やはり今の時代に合わせた結婚式を挙げるべきだろう。


「私達の結婚式は、各国の王家が来て挨拶が済んだ後ですね」


「それまでは3人でのんびり過ごす」


「そっか。今の時代の結婚式とか全く分からんからなぁ……」


 と、ここで秋斗は更なる重要事項に気がつく。

 今の時代の結婚式や結婚までの流れは不明だが、何か記念になる物を贈るべきなのでは? と。

 昔でいうところの、結婚指輪。


(何か考えて作ろう。後々さりげなく情報収集だな)


 渡すならサプライズの方が喜ぶかな、と恋愛経験値の低い秋斗なりの答えを導き出すのだった。


「大丈夫ですよ。私達に任せて下さい。むしろ、私達は何もしなくともお父様達が気合入れて準備すると思います」


「ん。十中八九そうなるから秋斗は気にしないで良い」


 秋斗は小躍りしていたルクスとロイドの様子を思い出し、あの2人ならあり得るとソフィアとリリの言葉に納得した。


「とにかく、今夜のパーティーに出るには……まず風呂だな」


 シャツの胸元を引っ張って体臭を気にする秋斗。さすがに何日も体を拭くだけではベタベタして気持ちが悪い。そんな状態で大勢の人前に出るのも気が引ける。特に匂い。

 

「そうですね。パーティーまで後2時間程度でしょうか。それまではお風呂でゆっくりするのも良いと思います」


「私もお風呂入る」


 パーティーまでの残り時間は全員風呂に入って身嗜みを整える事で決定した。


「では、ご案内致します」


 アレクサの案内で浴場まで行く事となる。タオルなども用意してくれるというので、何も持たず部屋を出て廊下を進む。


 王家が使う浴場は同じ階にあるようで、廊下を進んで数分後には到着した。

 入り口は2つ。男女で別れている。

 プライベート用と聞いていたから家族風呂のようなモノかと思っていた秋斗は、入り口が2つあって男女別だという事にホッとしていた。


「じゃあ、後で」


 リリが何かを言いたそうな顔をしていたが、秋斗はササッと入り口へ進んで行く。

 中は広い脱衣場があり、衣類を入れる籠と鏡が置いてあるのみ。


 さすがに銭湯のように洗面所にドライヤーが置いてあったり、自販機があったり等の光景は存在しなかった。

 秋斗は服を籠の中に入れて、棚に畳んで置いてあった備え付けのタオルを1枚持って浴室への扉を開く。


 開いた先の空間に、秋斗は「おおっ」と声を漏らしながら、脳内にはよくテレビで見ていた家を匠が工事する番組のBGMが自然と流れてしまう。


 秋斗の目の前には木の壁に囲まれた空間が広がる。壁にはやや大きめの窓があって外の美しい景色を見ることができたり、換気を行ったりもできるようになっていた。

 何より注目すべきは10人は一緒に入れるであろう大きな木製の浴槽。木に囲まれた落ち着きある空間の中で広い浴槽に浸かれば気持ち良いだろう。


 それと、体を洗うスペースと思われる背もたれの無い木の椅子と木桶。その近くの小さな木製テーブルには備え付けの石鹸らしき固形物。

 辺りを見渡す限り、浴場内にはシャワーは存在しないようなので、木桶で浴槽のお湯を汲むのか? と考えながらお湯を汲む。


 テーブルに置いてあった固形物を手に取ってお湯をかけると、透明なヌルヌルしたモノが出てきた。

 手についたヌルヌルを擦れば泡が出来上がる。無臭。

 これが未来の石鹸か、と泡立てていると不意に背後から扉の開く音がした。

 誰か来たのか? と振り返ると、そこには腰まで伸ばした長い銀髪と褐色肌の全裸の女性がタオルを持って秋斗がいる場所へ歩いて来ていた。


 秋斗のよく知る人物。婚約者の1人。リリさん。

 彼女は豊満な胸をぷるんぷるんと歩くたびに揺らし、キュッとしたクビレと触れば程よい弾力をお届けする太ももを隠す事無く堂々と歩く。


「お待たせ」

 

「ナンデ!?」


 何でリリがここに!? 入り口は別れていたのにどうして!? と秋斗の脳内は混乱状態に陥る。混乱しすぎて脳内に流れていたBGMと思考が一緒にぶっ飛んでいった。

 だが、秋斗の目はリリの美しい体を凝視してしまう。混乱状態でも、悲しき男の本能が彼女の裸体から目を逸らす事を許さなかった。


「入り口別れてたよネェ!?」


「脱衣所は別だけど、浴室は一緒」


 混乱状態の秋斗の質問に、リリは首を傾げながら答える。

 何という事でしょう。入り口は別々でも辿り着く場所は一緒だったのです。


 それはつまり、リリがやって来たという事はもう1人もやってくるという事である。

 

 カチャと扉の開く音が聞こえ、音がした方向に目を向ければタオルで前を隠したソフィアが浴室へ入って来ていた。


「す、すいません。お待たせしました」


 ソフィアは背中の半ばまである綺麗で長い金髪を揺らし、秋斗とリリのいる場所へ歩み寄る。

 恥ずかしさからか、タオルで前を隠してはいるが彼女の持つリリよりも豊満な胸は小さなタオルでは隠しきれない。


 むしろ、小さなタオルで隠している事でリリよりも扇情的に見える。

 秋斗は2人が並んで目の前に立つ姿を見て、ついゴクリと喉を鳴らしてしまう。


「体、洗ってあげる」


「お、おう」


 リリは桶で浴槽のお湯を掬って床に置くと、秋斗から石鹸を受け取ってタオルを泡立て始めた。

  

「はい、座って」


 秋斗は木の椅子に腰掛けると、リリがタオルで背中をゴシゴシと洗い始める。


「私も洗います!」


 ソフィアもリリと同じようにタオルを泡立てて、秋斗の腕を洗い始めた。

 美女2人に体を洗ってもらう。なんとも素晴らしき世界。天国は存在したのだ。


 秋斗はしばらく2人に身を任せて体を洗ってもらっていると、むにゅりと背中に柔らかい感触が伝わる。


「ふふ」


 リリは背中に密着しながら腕を秋斗の腹に回して、背中のみならず腹から胸板を自らの手のみで洗い始めた。


「あ! リリ、ずるい!」


 リリの行動を見たソフィアはズルイズルイと言いながら秋斗の腕を胸に抱きしめる。

 背中と腕に伝わる柔らかい感触。その感触に秋斗の下にある小秋斗は世紀末のモヒカン野郎の如くヒャッハーしていた。


 そして、それは当然2人にバレる。

 秋斗のソレに気付いたリリは、背中側から秋斗の耳元へ顔を寄せて囁く。


「ふふ。秋斗、今夜まで我慢して」


 リリの蠱惑的な囁きは秋斗の耳と脳をゾワゾワと刺激する。


「あ、秋斗様。私、精一杯頑張りますから……」


 ソフィアも顔を赤く染めて、恥じらいを隠しながらモジモジと呟く姿も秋斗の中にある嗜虐心をくすぐる。

 

(もう我慢できん!)


 ここまで言われては漢が廃る! もう親公認で婚約者なんだし、2人を手放す気も婚約を破棄する気も無いのだから良いじゃん! と自分に言い訳を重ねる。

 そして、賢者は行動するタイミングを見計らうのだ。

 

「はい。秋斗は浴槽で待ってて」


 秋斗はリリとソフィアに体を洗ってもらった後、気合を入れて浴槽に浸かる。 

 リリとソフィアが髪を洗うところを眺め、洗った髪を束ねてから体を洗うところを眺め、浴槽に入って秋斗の両隣に座ったところで行動に移す。


「あん」


「ふわあっ」


 両隣に座った2人を抱き寄せて、2人の腰から尻を撫でて、肌の感触を楽しむ。

 急に抱き寄せられて撫でられた2人はリリ、ソフィアの順で声を上げる。それと同時に、秋斗が我慢することを止めたのだと認識する。


「もう後悔しても遅いからな」


 秋斗の言葉を聞いて、2人は甘えるように密着しながら嬉しそうに上目遣いで秋斗を見つめた。


「んふふ。秋斗、好き」


「秋斗様……」


 この後、のぼせるギリギリまで風呂でイチャコラした。



-----


 一方、秋斗から首輪解除用のカードキーを受け取ったルクスとセリーヌは再び執務室へと戻って来た。

 ロイドは秋斗の部屋を出てからルクス達と別れ、騎士団長に各国へカードキーを運ぶ手配を指示しに行った。ルルは屋敷へロイドのパーティー用の服を取りに行っている。


 ルクスは執務室に置かれた机の上に、金属製の箱を3つ置く。その中に、秋斗から渡されたカードキーを2枚ずつと仕様書を1枚入れて蓋を閉めた。


 その後、各国の王へ向けた書状を3枚書く。

 書き終えた後に秋斗から渡された仕様書に目を通すと、魔工師という存在が如何に凄まじいのかを何度目かわからない程に再認識した。


「はぁ……。なんというか、あの御方は本当にとんでもないな」


「それはそうでしょう。私達が何百年も出来なかった首輪を外すという偉業を軽々としてしまうのよ。首輪を外す為の魔道具を作るなんて造作も無い事なのでしょう」 


「やはり物語で語られる内容を実際この目で、しかも目の前で見てしまうとわかっていても驚いてしまう」


「それは私もよ」


 ルクスの言葉に妻であるセリーヌも苦笑いを浮かべながら同意する。

 2人とも伝説の賢者の大ファンだ。


 娘であるソフィアが小さい頃から何度も賢者の物語を読んでいたように、幼馴染同士だったルクスとセリーヌも同じように幼少期から何度も読んで2人で賢者について語り合っていた。


 2人は娘以上に本の内容を理解していると自負している。それはもうタイトルとページ数を言われれば一字一句内容を言えるほどに。

 

 だからこそ、本で読む事と実際に自分の目で見る事はまるで違う。やはり実際に見たり体験するということは大切だと改めて思う。

 2人が同じ感想を思い浮かべていると、コンコンとドアがノックされる。


 ルクスが部屋の中から返事を返すと、ロイドが騎士団長と宮廷魔法使いのアランを連れて入室してきた。


「兄上、お待たせしました。各国の王への書状は用意できましたか?」


「ああ、既に用意している。秋斗様から賜った魔道具と仕様書も箱に入れておいた。アラン、これが仕様書と魔道具だ。騎士団長、書状を頼む」


 ルクスはそれぞれに渡すべきモノを渡す。


「陛下。拝見させて頂きます」


 アランは秋斗の書いた仕様書とカードキーを受け取る。


「ハッ! 各国へ派遣する部下は20名としました。まずはレオンガルド王国へ向かわせる予定です」


 騎士団長は敬礼した後に書状を受け取り、派遣する隊の内容を告げる。


「それで良いだろう。これは国宝以上に大事な物だ。万が一にでも紛失しないように。だが、最大速度で向かえ。経費はいくら掛かっても良い」


「ハッ! 承知致しました! それでは、これより出発の指揮を執りますので失礼致します」


 騎士団長は敬礼し、3つの箱と書状を持って退室した。


「それで、アラン。どうだ?」


 騎士団長を見送ったルクスはアランへと視線を向ける。

 声を掛けられたアランは清々しい程の笑顔を浮かべながら首を左右にゆっくりと振る。


「さすが秋斗様です。どうやって製作したのか見当もつきません」


「そうか。やはり失われた技術はまだまだ遠いか」


 ルクスはある程度予想していた通りのリアクションに頷きながら返す。


「王都へ来るまでの道中に、秋斗様が実際に魔道具を作られる工程や製作された物をケビンと見学させて頂きましたが我々の技術とは天と地の差です。秋斗様にお時間があれば師事させて頂きたいのですが……」


「確かに、秋斗様の意見を伺いたいと私も思っている。秋斗様も我が国を見たいと仰っているし、王都にある施設の視察も含め、王城の魔道具製作室の視察も提案してみよう」


「ありがとうございます。皆、喜びます」


 ルクスがアランと話し合っていると、再び執務室のドアがノックされる。


「構わぬ」


 執務室へ入室してきたのはマルク。彼は一礼して用件を告げる。


「失礼致します。陛下。そろそろパーティーの準備をお願い致します」


「わかった。私の私室で待っていてくれ」


 ルクスはマルクへ返事を返すと、セリーヌがソファーから立ち上がる。


「アナタ。私も着替えてきます」


「私も一旦妻のところへ行って準備してきます」


「では、私も一旦戻ります」


 セリーヌに続いてロイドとアランもルクスへ告げる。  


「では、後でな」


 各人の言葉にルクスは頷き、自分も準備をするべく皆と一緒に執務室を後にした。

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