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24 王家親子の小会議


 秋斗がアレクサによって部屋へ案内されていた頃、ルクス達は執務室で王妃と合流していた。


「アナタ。ソフィア。リリ。お帰りなさい」


 ルクス達が執務室に入ると、ソファーに座っていたのはルクスの妻で王妃となるセリーヌ。

 ソフィアの綺麗な金髪と翡翠のような瞳は彼女からの遺伝だろう。セリーヌもソフィアと同じく金髪と翡翠の瞳を持ち、ソフィアの母である彼女は王妃と呼ばれるに相応しい凛々しさと美しさを兼ね備え、国内外問わず女性の間では憧れの的になるほど美しいと有名である。


 エルフ特有の若々しさも相まってソフィアという200を超えた娘と王子となる100歳の息子がいるにも関わらず、ソフィアと並ぶと親子ではなく姉妹と間違われる程である。

 

 そんな美しき王妃はルクス達が入室すると同時に立ち上がって出迎えた。


「セリーヌ。準備はどうだ?」


「こちらは順調よ。そちらはどうでしたか?」


「ああ……。あの御方は本当に凄まじい。首輪を一瞬で外して、医療院にいる被害者全てを救って頂いた。本で語られるお姿そのものだ」


 ルクスは目を閉じて秋斗が首輪を外した瞬間を思い出し、目の前で起きた奇跡を脳内で再生する。


「そうですか……。やはり、賢者様は素晴らしい御方だわ」


 セリーヌもルクスの言葉を受けて、やっと被害者達が忌々しい呪いである首輪から開放された事実に目尻に涙を浮かべる。


「お母様。秋斗様はスゴイのですよ。王都に来る前もスゴイ魔道具を簡単に作ってしまうのです」


 ソフィアは秋斗に作ってもらったシールドマシンを抱きしめながら母に自慢するように語る。


「そうだわ。王都に来る前のお話を聞かせて頂戴。秋斗様の好きな料理とか分かるかしら?」


 セリーヌがそう告げた時、執務室のドアがノックされる。ルクスが応えると、入ってきたのはロイドとロイドの妻であるルル。

 

「兄上。お待たせしました。リリの件があったので妻も連れてきました」


「皆様。お邪魔致します」


 ロイドの横に立つルル。リリの母親である彼女は銀髪をした褐色のエルフ。彼女は魔人王国出身のエルフで、あちらの国ではダークエルフと呼ばれる種族の女性。


 ルルは魔人王国の貴族の娘で、エルフ王国に学生留学をしていた際にロイドと出会って結婚した。

 リリの褐色肌と銀髪は彼女からの遺伝。ロイドは白い肌のエルフだが、瞳の色は青。リリの青い瞳は父親譲りだった。


「おお、丁度良いタイミングだ。ソフィア達から王都へ来る前の話を聞こうと思ってな」


 ルクス一家とロイド一家はソファーに座り、ソフィアとリリが秋斗と出会った際の話を3人に聞かせる。

 まずはリリが首輪を嵌められ、秋斗に助けられた時の状況から始まり、ソフィアとの出会ってから王都へ向かっている時に馬車の中で話した事など。特に問題無く秋斗と合流したソフィアの親であるルクスとセリーヌは秋斗と婚約した事に驚いただけだったが、リリの父親であるロイドは終始頭を抱えていた。


 リリが秋斗に助けられたという話は聞いていたが、原因が見合いが嫌で家を飛び出した事。さらには助けてもらった秋斗への妻宣言。

 お転婆娘の仕出かした出来事にロイドの精神は磨り減る一方だった。もはや頭の中では秋斗へどう詫びればいいのか、という考えで埋め尽くされていた。


 母親のルルも家を飛び出した娘の行動や首輪を嵌められてしまった事には眉間に皺を寄せてしまう。だが、妻宣言の件は特に娘への怒りや呆れなどは無いようだ。

 因みにルクス一家は頭を抱えるロイドの心情を察して苦笑いしか出来なかった。


「というわけで、私とソフィアは秋斗の妻になる」


 ムフーと胸を張って〆るリリ。そんな娘にロイドは額に青筋を浮かべてブチギレた。


「馬鹿者!! リリ、お前は賢者である秋斗様になんてご迷惑をおかけしたと思っているんだ!!」


 ロイドはソファーから立ち上がり、リリを阿修羅のような顔で見下ろした。


「でも、目覚めた秋斗と出会えた。私が出会ってなかったら秋斗はここには来なかったかもしれない。ということは私の行動の結果に繋がる。運命。ですてにー」


 父親の怒りに対し、自分の行動の結果を淡々と告げるリリ。娘の言葉にロイドは確かにそうだが、と言ってしまいそうになるのをグッと我慢した。


 元々はケビンとの出会いがあって秋斗が発見された訳だが、そんな事実は忘却の彼方に葬られていた。それに気付かないロイド達にも責任はあるが。

 そんな中、リリの母親であるルルが動く。


「リリ」


 ルルは真剣な顔で娘であるリリをじっと見つめる。その様子に、ロイドは母親であるルルからも叱りの言葉が飛び出してお転婆な娘を反省させてくれるのだろうと期待していた。

 が、現実は非情である。


「あなたも私みたいに運命的な出会いをしたのね~!」


 ルルはそう言いながらリリへガバリと抱きつく。娘の頭を抱きかかえて頬ずりしてしまう程のテンションの高さだ。ロイドは期待していた言葉とは全く正反対の言葉に唖然としてしまった。


「もう! しかも相手が賢者様だなんて! どうだった!? 助けてもらった時はカッコ良かった!?」


「うん。本みたいに一瞬で帝国の人族を倒してた。カッコ良かった。見た瞬間、この人しかいないって思った」


「キャー!!」


 母親と娘の恋バナ(?)が炸裂したところでロイドは思い出す。自分の妻も御影秋斗英雄譚の大ファンだという事を。


「待て待て! 秋斗様にご迷惑をお掛けしたところを叱るべきだろう!?」


 ロイドは己の妻を仲間に引き込もうと必死に説得する。

 ルルは夫の言葉を聞いて、娘に頬ずりしている顔を離し、再び真剣な表情で娘を見つめる。


「確かにそうです。一歩間違えればリリは帝国に連れて行かれ、奴隷として死んでいたかもしれません。それは事実です。秋斗様がいなければ……心配しました」


 めっ! とルルは娘に叱る。


「でも、秋斗が今後は私を守ってくれるって言った。私も秋斗から離れないから問題無い」


「キャー!!」


 せっかく叱ったのにも拘らず、娘の放った秋斗の言葉にテンションアゲアゲになって再び抱きしめてしまった。

 もう何を言ってもダメだ、とロイドは諦めて力なくソファーへ崩れ落ちた。


「ううむ。まぁ、リリを助けてもらった事も含めて謝罪と感謝を秋斗様に伝えるしかあるまい」


「そうねぇ……。リリとソフィアの話によれば秋斗様も嫌々結婚の話を受けたというワケでもなさそうだし」


 ロイド達を見守っていたルクス達も結果オーライとなったようだ。


「今回の件を帝国に抗議してもどうせ無駄だろうしな」


 ルクスの言うように、東側の国々が奴隷の件で帝国や西側の国に抗議しても全て無視されるか、知らないと回答されるのみだった。


 それ故に、レオンガルドによる救出作戦が行われているのが現状だ。

 帝国側が救出された奴隷達について恥ずかしげも無く東側へ文句を言ってくるが、東側も無視している。


 奪われたモノを奪い返して何が悪い。こちらが抗議してもロクに回答もしないのだから、こちらもそうするというスタンスを東側でも取っている。

 その為、国境付近では緊張状態が続く時もあるが致し方ないと東側は協力して防衛に力を入れている。


「お父様。私が結婚するのは賛成ですか?」


 ソフィアが父親を見つめてモジモジと問う。


「ああ、秋斗様が受け入れて下さるのであれば何も問題無いよ。世継ぎはリデルがいるから、ソフィアは秋斗様と幸せになりなさい」


 王家と大公家の長女が結婚するとなれば、王位継承の件や大公家の家督を譲る件もあるので本来は婿養子だろう。


 しかし、王家にはレオンガルドに留学しているソフィアの弟が存在しており、王位継承権1位はソフィアの弟にある。大公家にはリリしかいないのだが、そちらもあまり問題視されていない。

 長寿種であるエルフは最大まで長生きすれば1000年も生きると言われている種族で、記録上では1000年生きたエルフも存在している。


 そして、ロイドとルルは現在400を超えた年齢で、まだまだ子供を作ろうと思えば作れる年齢なのも理由の1つ。

 さらにはリリが秋斗と結婚し、賢者の家系が増えた際に、2人の子供が大人になった時に大公家とすれば良いともルクスとロイドは考えていた。


「ソフィア。秋斗様と結婚するのならば、しっかりと秋斗様を支えなさい。夫を支えるのが妻の役目ですよ」


 ルクスとセリーヌは笑顔でソフィアに告げる。

 

「はい! 頑張ります!」


 親公認となったソフィアも嬉しそうに気合を入れる。


「はぁ……。私も結婚には反対はしない。むしろ、こんなお転婆娘で秋斗様にご迷惑が掛からないかが不安だが……。リリ、しっかりと秋斗様を支えるのだぞ」


 ルルの反応とルクス達の反応を見て観念したのかロイドも全てを受け入れる。

 

「うん。任せて」


 リリもようやく折れた父親に満足気に頷く。


「というか、そもそも結婚相手が賢者様だったら反対する親なんていないわ。秋斗様はお優しいようだし、親としては安心ね」


 セリーヌの言葉に親である4人全員が頷く。

 ケリー監修の賢者物語に登場する賢者達は、皆凄まじい知識と力を持った英雄として語られる。ケリー自身が東側の人々へしてきた事もあるが、東側の人々全てにとって賢者は王よりも偉大で神のような扱いをされている。


 そんな評価な上に、秋斗は英雄譚が本屋の店先に並んだ当時から変わらぬベストセラーで誰もが憧れる人物だ。しかし、ルクス達もさすがに本と現実の人格には多少の違いはあるだろうと理解している。


 だが、出会ってから少なくとも数日は一緒に過ごした娘達が優しいと評価するのだから、本での憧れ補正 + 娘達の意見 が合わさって反対意見など微塵にも沸かない。


「そうだな。賢者様の嫁になるなど東側では一番の名誉だろう」


 これにはルクスも笑顔を浮かべてしまう。自分の子供が憧れの人物の嫁になり、自分は義理の父となるのだから。


「お父様。秋斗様を政治に巻き込むのは……」


 ソフィアは秋斗が懸念しているだろう事態を父親に念を押すように伝える。

 もちろん、本気で自分の父親が賢者を政治利用する事は無いと思っている。だが、しっかりと言葉にしておかないとそういった事態になった際に秋斗との婚約が白紙に戻る可能性もある。


 ソフィアは他の何かを犠牲にしたとしてもそれだけは絶対に避けたい。


「ああ、わかっている。他国もそうだが、賢者様は自由に暮らして頂くと決まっている。敬愛すべき賢者様を政治利用など恥ずべき事。王として断言しよう」


「わかっていますけどね。でも、安心しました。これで堂々とイチャつけます!」


 ぐへへとだらしない顔をしながらソフィアは頬を赤く染める。


「まぁ、我々だけでは済まないだろうがな」


 ソフィアのだらしない顔を見ながら、ルクスはポツリと呟く。


「え?」


 父親の呟きを聞いたソフィアは、顔を父親に向けて呟きの意味を聞き返す。


「きっと妻となるのはソフィアとリリだけじゃないだろう。少なくとも、ガートゥナとレオンガルドの姫は婚約を申し込んでくるかもしれん」


「確かに。ラドールは……姫はまだ幼子だしレオンガルドの王子と婚約してましたな」


 レオンガルドとガートゥナの2国には王の子の中に姫が存在する。どちらの姫も少しクセがある女性ではあるが、どちらの国にもそれぞれ1人姫がいる。年齢的にも秋斗にはピッタリの人物であり、結婚適齢期な2人の姫の嫁ぎ先としてはこれ以上にない相手である。


 エルフであるソフィアとリリは2人の姫よりも長く生きているので実際年上だが、人の年齢に換算すれば同年代くらいだろう。

 2人とも2国の姫とは顔見知りであり、2国の姫がまだ小さい時に他国交流の一環でエルフ王国にやってきては抱っこして一緒に遊んでいた思い出もあるので、2人にとっては妹のような存在だった。


 ラドール魔王国の姫はまだ生まれたばかりで現在は2歳。なので秋斗の嫁候補としては外れるだろう。

 将来的にどうですか、という可能性も有り得るのだがレオンガルドの王子と許婚なので可能性は低い。


「大丈夫」


 2人の父親がそんな話で盛り上がっていると、リリが自信たっぷりの声色で告げる。


「嫁が増えようと、私が秋斗の妻である事は変わらない」


 ドーン! と背後で効果音が鳴るかの如く、リリは胸を張ってドヤ顔で言い切った。


「あら、リリちゃん。1番目の妻である自信?」


 母親であるルルは笑顔を浮かべて、リリの頬をツンツンと人差し指で突きながら娘の自信の根拠を探る。


「私が秋斗にメロメロなように、秋斗も私に夢中にさせれば良いだけ」


「キャー!」


「わ、私だって!」


 ファンタジー小説のような性に淡白なエルフはいないのだ。秋斗の妻になる2人のエルフは今までのスキンシップから分かる通り、肉食系なのだ。


 秋斗自身は、親への挨拶前にそういった関係になるのは…と思っているので手を出さないが。2人の妻、特にリリは隙あらば猛攻撃をしてしまう程に肉食エルフなのだ。

 ※ ただし、秋斗に限る。


 2人の娘が肉食発言をしていると、コンコンと執務室のドアがノックされる。

 ルクスが室内から応えると、ドアを開けて現れたのは執事長のマルク。


「陛下。秋斗様がお話したい事があるようです」


「そうか。私達の方も娘から大体の事は聞いたしな。今話している件もあるし、秋斗様の部屋へ行こうか」


 ルクスの提案に、部屋にいる全員が賛成する。

 そして、全員揃って秋斗の待つ部屋へ向かった。

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