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17 防御用マナマシン

 アラン、ジェシカと話し合った後、秋斗は自分のテントで就寝。

 そして翌日の朝、リリに起こされると朝食を用意したソフィアが出迎えてくれる。


 前日の夕食を食べた時と同じ席に座ると、対面に座ったソフィアは秋斗へ頭を下げる。


「昨晩の事はジェシカとアランからお聞きしました。我々の事を考えて頂き、ありがとうございます」


 起きたばかりで頭の回転が本調子でなかった秋斗はソフィアの言う事が判るまでに時間が掛かり、答えるまで多少の間が開いてしまった。


「……ああ。壁の件か。気にしないでくれ」


 ソフィアは寝惚けた様子で薄く口を開けて何の事か考えていた秋斗を見て、物語で語られる凛々しい賢者とはかけ離れた顔が可笑しくも可愛らしく見えてしまった。


「フフ。物語から飛び出してきた秋斗様の事が少しずつ判ってきて嬉しいです」


 秋斗も自然に笑みを浮かべ、素直に己に向けて好意を寄せるソフィアに少し照れてしまう。

 昨晩の嫁宣言から変にお互いを意識してギクシャクする事もなく、自然体に接する二人。


「ふもふもふも」


 一方で、秋斗の隣に座るもう1人の嫁であるリリは、ソフィアの用意したサンドイッチを全力で頬張りリスのように両頬を膨らませていた。


「もう。リリは相変わらずね」


 ソフィアの苦笑いを浮かべながらの言葉に、リリはゴクリと口に含んでいた物を飲み込む。


「王都には今日向かうの?」


「俺の荷物は準備できてる。後はテントを畳むだけだが……あの材料はどうするかな」


 リリの質問に、秋斗はテントの横に積まれた材料をチラリと見る。

 当初の予定通りに地下に再度納めるか。それともいくつかマナマシンを作ってから向かうか。


 どちらにしようか悩んでいると、近くにいたジェシカが会話に加わる。


「秋斗様。あれは馬車で運びますのでご安心下さい」


「大丈夫か? 結構な量だが……」


「はい。荷台には余裕がありますので積み込めるかと。積めなかった分は見張りに何名か残して、王都から空の馬車を呼んで運びます」


「いや、それは悪いよ」


 ジェシカの提案する対応に遠慮がちになってしまうが、最終的には古の時代に存在した貴重な物なのでとアランも加わり説得されて秋斗が折れる形になった。


「昨日の夜には先触れとして兵を王都へ向かわせたので、昼にでも出発すれば王都での出迎え準備もできているでしょう。なので、昼までにゆっくり準備して頂ければ大丈夫です」


「わかった。じゃあ朝食を食べたら準備しよう」


 秋斗の言葉にリリとソフィアも頷き、3人で雑談しながら朝食を楽しんだ。


 朝食後、騎士達が撤収準備を始めるが秋斗はテントを畳んでキャンプ用品をバッグに詰めるだけなので、出発が予定されている昼まで時間があるので材料の山へ向かう。時間が許す限りだが秋斗は多少の荷物を減らすためにマナマシンを作る事にした。


 ガチャガチャと材料の山から目的の物を漁っているとソフィアとリリに加え、アランとケビンが秋斗の傍へやってきた。


「秋斗様。何をしているのですか?」


 ソフィアが4人を代表して秋斗へ質問する。秋斗は視線を向けず、材料の山から必要な素材を探しながら答える。


「時間もあるし、マナマシンを作ろうかと思ってなー。積み込む量も減らせると思って」


 そう言いながら秋斗はあったあった、と目的の物を探し当てて地面に置かれた他の材料と一緒に並べる。


「ほほう。お邪魔は致しませんので、秋斗様が作る様子を見学させて頂いてもよろしいですかな?」


 秋斗の言葉にいち早く反応したのはアランだった。先日の夕飯が出来る前にしていた雑談の中で過去の歴史や魔道具についても研究したり調べていると言っていたのを思い出し、興味があるのだろうなと思う。


「どうぞどうぞ。特に大掛かりな事はしないけど」


 アランに許可を出すと、他の皆も見学を希望したので秋斗は材料を持って朝食で使ったテーブルへ移動する。

 各自イスに座ったのを確認し、秋斗は持ってきた材料を使って作業を始める。


「今回作るのは自動防衛マナマシンだ」


 秋斗の口にした言葉は4人にとって聞き慣れない言葉だった。4人の中では腕輪を作ってもらい、新しいおもちゃの如くマナマシンに触れる機会が多いリリにとっても想像が出来ない。


 4人は頭の上に ? マークを浮かべながらガチャガチャと弄る秋斗の手元を見つめる。

 その中でもアランは、賢者という存在に教えを請う事などまたと無い機会だと思い直して秋斗へ質問をぶつける。


「秋斗様。マナマシンとはどのような物なのですか?」


「マナマシンってのは今の時代で言う魔道具の事だ。昔はマナマシンという総称だったんだ」


 リリは聞いた事がある内容だったので、あまり反応しなかったが他の3人は違う。それぞれウンウンと頷き、秋斗の次の言葉を待つ。


「自動防衛マナマシン。つまり今から作るのは、使用者に対する攻撃を自動で防御してくれる魔道具だな」


 秋斗は何とも軽く語る。だが4人にとっては衝撃的な内容だった。


「じ、自動で防御? 何ですかそれは……?」


 アランを筆頭に4人とも頭の上に ? マークが増えるだけだった。

 それもそのはず。秋斗以外には荒唐無稽のような話だろう。目覚めたばかりで、この時代の技術レベルを正確に把握していない秋斗は知らないが、現状で自動で何かを行うという物は存在していない。


 どんな戦いであっても現代で言う防御とは、魔法であれ、剣による物理攻撃であれ、盾を構えて防御するのが通常だった。


「うん? どこがわからない?」


 秋斗はアランの質問に何となく懐かしさを覚える。4人が向けてくる視線が技術院の研究所で部下や生徒に対して新技術の解説授業をしていた時の視線に似ていた。


「ジドウというものです。それは何でしょうか?」


 ソフィアも賢者のみが知る技術に興味が尽きない。どんなモノが飛び出るんだろうかと胸がドキドキしてしまう。


「何かを防御する時に、盾を使ったり……己の手で己の体を守るだろう? それを勝手にやってくれるんだ。第3の手が盾を持ち、自分の周りにあって、攻撃を防いでくれる」


「な、なんスかそれ!? 3本目の腕が生えちゃうんスか!?」


 秋斗の説明に、ケビンは驚きと感想を口にする。秋斗は合ってるような合ってないようなケビンの感想に笑みを浮かべる。


「ははは。まぁ答え合わせは完成してからのお楽しみって事で」


 そう言って秋斗は喋りながらも続けていた作業に集中し、作業速度を一段階上げる。

 材料の山から持ってきたのは自動防御マナマシンである『シールドマシン』と呼ばれる魔法の盾を発動させるドローンの試作品。


 長方形の本体に飛行機のような羽が付いており、本体の下部には湾曲した長方形の蜂のようなお尻がある。


 本体部分にはドローンのように飛ぶ為の装置が内蔵されており、下部に装着されているのがシールド発生装置。


 使用者を認識すると自動で周囲を飛び回り、360度の魔法による防御壁を発生させるのがシールドマシンの役割。


 古の時代にあった重火器による銃弾や人が発生させる攻撃魔法くらいなら防げる。

 だが、さすがに戦略兵器と呼ばれるような大型マナマシンによる高威力な攻撃には耐え切れない。それでも現在の戦争レベルであれば十分どころか鉄壁と呼べるような代物だろう。

 

 古の時代には既に効率化や性能が向上した正式採用型とされたシールドマシンが存在しているので、試作品を別の材料を合わせて改修する作業をしていた。


 スペック的には正式採用型に近く、稼動時間に使われる魔素を防御性能に2割当てて防御性能重視に仕上げるつもりでいる。


 余談だが、シールド発生装置部分に重火器のような攻撃武器を取り付けた物をガンマシン。剣のような刃物を付けた物をソードマシンといったバリエーションも存在している。


 4人が見守る中、秋斗の手の中では部品や基盤などが凄まじい速度で作られていく。4人にとって工作系の魔法を駆使して、手の中で形が変わっていく様は正に魔法(・・)だった。


 秋斗の作業速度に目が追いつかず、長年に亘って魔道具を研究・開発や古の技術を調べているアランすらも、もはや何をしているのか判らない。


 ――これ程までの力を持っているのか。


 目の前で行われる作業に驚愕しているアランの額から流れる汗は頬を伝っていく。こんなものを見てしまえば、この御方は正しく賢者である、と再度認識してしまう。


 それは、秋斗を見つめる4人に共通して浮かぶ感想 ――もはや疑う余地もない、と。

 テーブルの上で次々と出来上がっていく物を組み上げ、最終的な形を露にすると秋斗は右目のコンソールでシステムの最終確認を行う。


 そして、コンソール上で問題無しと表示された2機(・・)のシールドマシン。改修作業だったというのもあるが、完成まで僅か1時間程度だった。


「よし、完成」


 秋斗の言葉によって、作業を見守っていた4人は現実世界に引き戻される。

 4人の見つめるテーブル上には2匹の蜂。だが、彼らの知る蜂とは違う。生き物ではなく、金属の体を持つ蜂だった。


「起動」


 秋斗が言葉を口にすると、2機の金属の蜂はヴゥンという重低音を鳴らし、音と同時に取り付けられた1つ目が赤く光る。

 内部の貯蔵ユニットへ充填された魔素がエネルギーとして内部を駆け巡って機体に浮力を発生させる。


 グラグラと揺れながらゆっくりと30センチ程浮き上がると、インストールされたソフトウェアが空中制御を開始して、揺れていた機体はピタリと空中に静止してから更に1メートル程上昇した。

 動き出し、空中で静止する2機を見て4人はポカンと口を開けたまま空を見上げていた。 


 4人を放置して秋斗が初期起動後のログを見てエラーが無い事を確認し、起動の成功に満足していると最初に口を開いたのはアランだった。


「あ、秋斗様!! なんですかこれは!? これがジドウで防御する物なのですか!?」


 アランは血走った目で秋斗に勢いよく迫り、空中に待機する2機に向けて指を指す。


「うお! 落ち着け! 説明してやるから落ち着け!!」


 秋斗は迫り来るアランを押し留めてるが、アランの接近力は年に似合わない程の力強さに少々焦る。

 アランをどうにか落ち着かせ、アランと秋斗のやり取りで我に返った他の3人と、騒ぎに気付いてこちらにやって来たジェシカにも合わせて説明する事になった。


 因みにジェシカは2機を見て「魔獣が!! 皆様お下がり下さい!!」と吼え、剣を抜いていた。

 迫り来るアランと剣を抜いたジェシカを落ち着かせるのに、たっぷりと時間を要した事は言うまでもない。


「申し訳ありません。取り乱しました」


「初めて見る魔道具に興奮で我を忘れました」


「あ、はい……」


 アランとジェシカの謝罪を受けた後、顔に疲れを浮かべた秋斗は気を取り直して解説が始まる。


「この浮いている2機のマナマシン。これが自動で攻撃を防御してくれるシールドマシンという物だ。魔法、物理攻撃問わず許容値を超えなければ防御してくれる」


「許容値?」


 秋斗の言葉に疑問を感じ、口にしたのはリリだった。

 リリに向かって1つ頷くと、秋斗は説明を続ける。


「コイツが防御できるモノには限界がある。例えば、一撃で国を滅ぼすような超高威力の攻撃は防げない」


「それは……そうでしょうな。一撃で国を滅ぼせる魔法が存在するのかは判りかねますが……」


 アランの言葉に秋斗は昔はコイツで防げない戦略兵器はいっぱいあったなぁ、と心の中で思うが口に出すのは止めておいた。


「口で説明するよりも実際に見た方が早いだろう」


 秋斗はそう言った後、皆がいるテーブルから離れた位置に移動する。2機のうち1機のシールドマシンが秋斗に追従し、秋斗の頭上斜め上で待機する。残りのもう1機はテーブルの上で待機していた。


「よし、リリ。そこから魔法を俺に向かって撃つんだ。昨日作った大威力のやつを撃ってくれ」


 秋斗は離れた位置からリリに向かって指示を出す。秋斗の言葉にリリも十分驚いていたが、彼女以上に秋斗の言葉に慌てたジェシカが止めに入った。


「お、お待ち下さい! 危険です!」


「大丈夫大丈夫。リリ、大威力のやつだぞ」


 ジェシカとリリに笑顔を浮かべながら、大丈夫だからと急かすように魔法を撃つよう言い続ける。


「わかった。本当に大丈夫?」


 撃つのを止めるジェシカと撃つように催促する秋斗の永遠に続きそうなやりとりに、威力を大と設定した魔法の威力を知っているリリは念を押して秋斗に確認するが、返ってくる言葉は大丈夫というモノだけ。


 秋斗の言葉を信じ、リリは覚悟を決めて魔法を撃つ体勢に移る。そして、腕輪が装着された腕を上げ、掌を秋斗に向けて叫ぶ。


「ファイアアロー!」


 リリの叫びと共に、男性の腕くらいの太さがある業火の矢が掌の前面に形成され、秋斗に向かって突き進む。人に当たれば確実に火だるまになると簡単に想像できる程の見事な魔法だった。


 本当に秋斗に向けて魔法を撃ったリリに対し、見守る者達が驚愕や悲鳴を上げると同時に業火の矢は秋斗へと到達する――はずだった。

 

 秋斗の頭上斜め上に待機していたシールドマシンが放たれた魔法を瞬時に感知し、1つ目の赤い光を輝かせながら秋斗の前へと高速で移動する。


 すると、放たれた業火の矢はシールドマシンに到達すると、まるで見えない壁があるかの如く炎を散らして霧散してしまった。


「な? 大丈夫だっただろ?」


 見守っていた者達が唖然とする中、結果を知っていた秋斗だけが笑みを浮かべる。


「ま、魔法が……」


「す、すごいッス……。魔法を防いだッス……」


「………」


 アランとケビンはボソボソと呟き、ソフィアは口を手で覆って固まっていた。


「すごい…。やっぱり秋斗は賢者様」


「あわわ…」


 リリも大威力の魔法を難なく防いだ事に目を見開いて驚き、ジェシカは秋斗が怪我をしていない事に安堵しつつも起こった出来事に頭が付いていけずぷるぷると震えていた。


「と、まぁ。このように魔法を防げる。次は物理攻撃だな。ジェシカさん、俺に斬りかかって来て」


「フヒョッ!?」


 ぷるぷると震えるのを継続していたジェシカは、更なる秋斗の発言に思考能力が追いつかない。

 

「ジェシカが壊れた」


 落ち着きを取り戻させようとリリがジェシカの背中を摩り、耳元でダイジョウブダイジョウブと呪いの如く呟き続ける。

 

「ハッ!? 私は何を!?」


 しばらくして、リリの介護のお陰かジェシカは正気に戻った。リリは未だに背中を摩っているが。


「俺に斬りかかってきて」


「何言ってるのですか!? 賢者である秋斗様に斬りかかれるハズが無いでしょう!?」


「大丈夫だよ。さっきの見ただろう? はよはよ!」


 秋斗の催促にジェシカは迷いに迷う。腰に収められた剣と秋斗の顔を何度も往復するが賢者である秋斗の言葉を無視するのも躊躇われ、リリと同じように観念して剣を抜く。


「ほ、本当に大丈夫なんですよね!?」


「ああ」


 何度も何度も交わされたやりとり。

 そして、ついにジェシカは意を決して足に力を入れる。土煙が舞い上がる程に地面を強く蹴り、剣を振り上げ、秋斗に向かって突き進む。

 

「ハアアアッ!!」


 賢者に向けて剣を振るという行為に躊躇いが無いかと言われれば嘘になる。周囲で見守っている他の騎士にも、ジェシカは加減していると目に見えて判る程だった。


 だが、王国の騎士であるジェシカ。そして近衛騎士で護衛騎士隊隊長を務める彼女は決して弱くない。彼女の実力はエルフの国では5本の指で数えられる程の上位者。


 彼女は加減しているが、それでも並の騎士よりも鋭く重い一撃を放つ。並の騎士ならば、剣や盾で防御しても後ろへ押されてしまうであろう威力。もちろん、防御しないで生身で受ければ致命傷になるのは確実。


 しかし、結果はリリの魔法と同じだった。


「!?」


 秋斗の前に高速移動してきたシールドマシン。そして、先程と同じように見えない壁が剣をシールドマシンへと到達させない。

 手に力を入れて、壁を斬るべく剣を押し込もうとしても全く動かない。

 そして、ジェシカは悟る。

 

 ――これは斬れない。

 

 騎士の上位者であるジェシカだからこそ判る、見えない壁の厚さ。

 目の前に浮かぶシールドマシンと剣の間には堅牢な城壁があるような感覚。今まで味わった事の無い感覚に、額から汗が流れる。


「もっと本気で斬りかかっても大丈夫だぞ」


 ジェシカは秋斗の言葉と余裕そうな顔を見て、一度間合いを取ると、今度は己の持つ力を全て発揮して本気で斬りかかった。

 それでも尚、崩れない。


「ほ、本当に……剣がこれ以上進まない……」


 己の実力を過信していた訳でも、秋斗という人物を疑っていた訳ではないが、賢者という者は防御一つとってもこれ程までに凄まじいものなのかと考えを改め直す。


 それと同時に、ジェシカが小さい頃、何度も父親に読んでもらった魔工師の英雄譚で語られる物語は本物だったのだと胸が高鳴ってしまった。


 ジェシカは剣を鞘に納め、笑顔を浮かべて秋斗へ頭を下げる。


「これ以上に無い貴重な経験。ありがとうございます」


「え? あ、どういたしまして……」


 ジェシカの思いの内を知らない秋斗は、突然スッキリしたように笑顔を浮かべたジェシカと彼女の態度に困惑してしまうが、本人が喜んでいるなら良いかと思う事にした。


「すごいです! リリの魔法を防ぎ、ジェシカの剣まで!」


 ソフィアは嬉しそうに椅子から立ち上がり、秋斗へと歩み寄っていく。


「ほ、本当です! これ程とは……。これがあれば鉄壁ではないですか!」


「ヤバイッス! 賢者様ヤバイッス!」


 アランとケビンも小走りでやってくる。


「ははは。まぁ、効果は判ってくれたようで何より。これは1機ずつリリとソフィアにあげるよ」


「「えっ!?」」


 秋斗の言葉にリリとソフィアの反応が重なる。2人は秋斗が使用すると思っていたので、まさか自分達に与えられるとは思ってもいなかった。


「ん? 2人は良いとこのお嬢様だろう。何か危険な事があっちゃ大変だしな。これがあれば、俺がいなくても逃げる時間は稼げるだろう?」


 2人とも王家という良い所どころではないお嬢様。その2人が怪我をするなど言語道断だろう。ましてや、リリが危うくなりかけた奴隷として捕まるなんて事はあっては二度とならない。


 秋斗の意図を理解したジェシカは再び深々と頭を下げる。


「我らが王家のご息女の為に、御守りする騎士を代表してお礼申し上げます」

 

 ジェシカが頭を下げた後、周囲で見守る他の騎士達やアランとケビンも頭を下げて礼をする。

 彼らに笑顔で「気にしないでくれ」と言う秋斗に対し、騎士達は「賢者様はなんとお優しいのだ」と、秋斗が知らないうちにさらに好感度を上げた。


 きっと王都に帰還した後に酒場や家でこの話が伝わり、すぐさま王都中で話題になる事は疑う余地もない。


 その後、リリとソフィアの音声認識をしてユーザー登録を済ませると、無事2人専用のマナマシンとなった。 


「ありがとう秋斗。好き」


「ありがとうございます! 秋斗様! 愛してます!」


 最近、多少慣れてきたリリのストレートな愛情表現に加え、憧れの人物から直接マナマシンを受け取ったソフィアの喜びようは凄い事になっていた。

 普段顔に表情をあまり表さないリリもニコニコと笑みを浮かべる。ソフィアに至っては、胸にシールドマシンを抱いて満面の笑みで優雅にクルクルと回っていた。 


 喜ぶ2人を見ながら、アランはふと思い浮かんだ疑問を抑えきれず秋斗へ質問する事にした。


「秋斗様。もし、敵があの魔道具と全く同じ物を持っていたら対抗できるのですか?」


 アランの純粋な興味で質問された内容に、剣を防がれるという体験を身をもって知っているジェシカも秋斗が答えるであろう回答に耳を傾けるが――


「ん? ああ。殴ればぶっ壊せる」


 何も気負う様子もなく放たれた秋斗の回答に、アランとジェシカは耳を疑うのだった。

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