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15 2人目

 秋斗とリリ、ソフィア達の食事が終わると騎士達は遺跡周辺に天幕を張って寝床を用意し始める。

 特にソフィア用の天幕は、王族に相応しい一番大きく広い天幕。中で数人一緒に寝ても安心できる程の大きさ。


 秋斗は自分のテントで寝る気満々でいた。

 護衛の為に寝ずの番をするという騎士達に礼を言いながらアラン達との談笑もそこそこにテントで寝袋を整えていると、テント内に入ってきたリリに声を掛けられる。


「秋斗。ソフィアも交えて話をしよう?」


「ん? ああ、今後の話か?」


 秋斗は王都へ向かう道中や王都に着いた後の予定などの確認等をするのだろうと予想する。

 向こうは王族なワケだし、客を迎えるのに色々とあるのだろうなぁ。偉いのも大変だなぁ、と暢気に考えていた。


「うん。今後の話(・・・・)


「わかった。行くか」


 秋斗は自分のコップとインスタントコーヒーを持ってテントを出る。

 向かう途中で、外で周辺を見張っている護衛騎士達の休憩所になっている一角で飲み水を出してあげると頭が地面に埋まるんじゃないかと思うくらい恐縮されながら頭を下げられた。


 自分はどれだけオカシイ存在になってしまったんだと評価の高さに頭を抱えつつ、ソフィアの天幕へと辿り着く。


「ソフィー。秋斗を連れてきた」


「どうぞ。お入り下さいませ」


 リリが天幕の外から声を掛け、ソフィアの返事を待ってから天幕の中へと入っていった。


「秋斗様。ご足労ありがとうございます。ささ、こちらへお座り下さい」


 中に入るとソフィアの出迎えを受けて、天幕内に設置されたテーブルとイスへ誘導される。食事の時と同じように、秋斗とリリは隣同士に座って秋斗の対面にソフィアが腰を下ろした。


「ご丁寧にどうも。メシの時はすまなかった。あまりの美味さに食う事に夢中になりすぎた」


 久々のレトルト以外の料理に無我夢中でがっつき、対面に座っていたソフィアの存在を思い出したのは全てを完食した後だった。


 せっかくお姫様自ら作ってくれたのだから、もっと感想などを伝えて話しながら食事するべきだったのではと後になって後悔している。


「いえいえ。あれだけ美味しそうに食べて頂けるなんて、作った者としては嬉しい限りです」


 秋斗の言葉を聞いてソフィアは嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「リリやアランさんから料理が得意と聞いていたが予想以上だったよ。また食べたい」


「は、はい!! いつでも、どこでも、毎日でも作ります!!!」


 秋斗が感想を言い切る前に、対面に座っていたソフィアは身を乗り出して答える。目はキラキラ。とても前のめりに身を乗り出しているので秋斗の目の前にはソフィアの美しく整った顔がズズイっと寄せられる。


 勢いよく接近してきた美女フェイスに目のやり場に困っていると、リリの咳払いが聞こえる。

 リリの咳払いにハッと気がついたソフィアはほんのりと頬を赤くしながら席に戻った。


「と、とりあえず今後の話がしたいと聞いたんだが」


「は、はい。秋斗様がお考えになっている今後の予定をお聞かせ願いたいのです」


 お互い姿勢を戻してから改めて会話に戻る。


「荷物をまとめてお姫様と一緒に王都へ行く提案に乗ろうと思う。王都に着いた後は……一先ずは今の時代の様子を知る為にもエルフの国を観光したいな。後はケリーの子孫に会うって事か」


 秋斗は大雑把に頭に浮かんだ予定をソフィアに告げる。

 同僚だったケリーの子孫に会って彼が見せたいという物を見るというのは決まっているが、他の事を決めるには現代の情報が足りない。


 現代の人々がどう生活を送っているのか。技術レベルはどれ程なのか。自分は正確にどのような立場にあるのか。


 現代の法も知らなければ通貨や物価などの基本的な事さえも知らない。

 様々な情報が秋斗には無さ過ぎた。


 ケリーの子孫に会いに行ったらエルフの国へ戻ってくるのはしばらく後になってしまうだろう。まずはエルフの国を少し観光して現代の様子を見た後に会いに行きたいと考えた。

 

「ふむふむ。まずは王都で私の父……現在のエルフ種の王である陛下にお会いして頂ければと思います。観光も全力でご案内させて頂きますので任せて下さい。……あ、あと、私の事はソフィアとお呼びして下さいませ」


 途中まではキリッとしていたソフィアだが、最後のあたりでモジモジとしつつ頬を赤く染めてしまう。


「いや、お姫様だし……王様と会う件もだが、こんな言葉遣いで不敬罪とかにならないか?」


 秋斗は今更ながら自分の言葉遣いと態度を思い返す。

 王族にめっちゃタメ口してるよ! とか 礼する時にちょこっと頭下げただけじゃね? とか色々マズそうな部分を思い返す。


 そんな心配をしていると、ソフィアは慌てたように秋斗の考えを否定する。


「いえ! 不敬罪とかありえません! というか、秋斗様……古の賢者であるアークマスターの方々は王族よりも立場が上ですから!」


「えぇ……」


 秋斗に告げられる新事実。自分は王族よりも偉かった。

 

「豊穣の賢者ケリー様から伝わるアークマスターの方々は、東側に存在する各国のトップよりも上の立場です。ですから、秋斗様は今のままで大丈夫ですから!」


「秋斗。私にお嬢様とか言ってたけど、自分の方がもっと偉い。王様よりも偉い」


 ソフィアの言葉にリリも加わって、秋斗に事実を突きつける。


「マジかよ……。ケリー何してくれちゃってんの……」


 秋斗の脳裏には嘗ての同僚であるケリーが「アハハ」といい笑顔で笑う姿が浮かぶ。


「ケリー様は我々にとって救世主であり、東側の国々が出来上がった礎でもありますから。賢者様に感謝していない者などおりません。ですので、私の事も気にせずソフィアとお呼び下さい」


「ああ……。わかった。ソフィア」


 秋斗は告げられた事実に観念してソフィアの名前を改めて口にする。


「はい!」


 名前を呼ばれたソフィアはとても嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 美女の笑顔というのはヤバイなと思いつつ、秋斗は話を戻す。


「とりあえず、王様に会うのも決定だな。後の事は、王都に着いてから考えよう。……ケリーがやった事は王都に着いたらゆっくり聞かせてくれ」


 秋斗は自分の立場というものにどっと疲れを感じて、今後の予定を決める事を先送りにした。

 ケリーがやらかした事を今聞いたら本気で倒れそうだ、と溜息を零す。

 

「じゃあ、私から。1つ良い?」


 リリは、疲れ顔の秋斗を見つめつつ服の袖を引っ張る。


「ん? なんだ?」


 じっと見つめてくるリリを見返しながらリリの言葉を待つ。


「秋斗はお互いを知ったら私を妻にしてくれるって言った」


 リリは、そうだよね? と言うようにじっと秋斗を見つめながら過去の約束を確認する。


「ああ。そうだな」


「私の身分もわかったし、王都に行ったら奥さんにしてくれる?」


 リリは変わらずじっと見つめながら、きゅっと袖を掴む力が強くった。


 秋斗は袖を強く掴む力が強くなったのを感じながら、彼女の瞳を見返しながら思考を巡らせる。

 出会ってリリの嫁宣言に困惑して決めた約束だが、もうそんな約束などいらないんじゃないかと思う。自分から約束を決めておいて、こんな短時間で何言ってるんだ……と自分でもあきれ返ってしまう。


 しかし、彼女との関係について考えれば考えるほど、自分はどんな状況に陥っても彼女を手放す事は出来ない。彼女がもう嫌だと言わない限りは離れる事など出来ないだろう。エルフ狩りとやらが再び彼女を狙うのならば、自分は全力で守る。彼女の事を帝国が狙うのならば、国さえも滅ぼしてみせるだろう。


 それほどまでに、御影秋斗という男の心の中にはリリ・エルフィードという女性の存在が強くなっていた。

 たった数日というのに、秋斗の心にはリリという存在が必要不可欠になってしまっている。

 

 今更考えなくても、御影秋斗はリリ・エルフィードに惚れているのだ。心の底から愛してしまった。

 だから、秋斗の答えは決まっている。


「リリ。王都に着いたら結婚してくれ。リリの両親も俺が説得するから」


 秋斗は己の心に従う。

 この女性を手放したくない。

 秋斗は傍に居て欲しいという欲求を押さえつける事無く開放する。

 

 秋斗の言葉にリリは目を潤ませながら、秋斗の抱きついて胸元に顔を埋めて呟く。


「絶対幸せにする」


 胸元に埋まるリリの言葉に笑いながら


「ハハ。そりゃ俺のセリフだ」


 そう告げて、リリの頭を撫でた。

 頭を撫でていると、リリは秋斗の腕の中で上目遣いで秋斗を見つめる。


「それでね」


「ああ」


「ソフィーも奥さんにしてほしい」


「ヒョ!?」


 自分の腕の中からじっと見つめてくる嫁の言葉に、秋斗はぶっ壊れた。


-----


 秋斗がぶっ壊れた後、リリは秋斗の対面に座るソフィアの横に座り直してから説明を始めた。


「ソフィーも秋斗が好き。小さい頃から憧れの存在だった。私もソフィーが秋斗の妻になるのは賛成。だからソフィーも嫁にしよ?」


 とても簡潔に。そして淡々と告げる。さぞ当たり前のように。説明するリリの横にいるソフィアは頬を赤く染めながらもじもじしながらチラリと秋斗の顔を見ていた。

 説明の終わったリリは肘でソフィアをトントンと叩くと、ソフィアは勢いよく立ち上がって秋斗に向けて自分の気持ちを発する。


「ずっと前から決めてました。秋斗様の妻にして下さい!」


 ぶっ壊れた思考が徐々に回復してきた秋斗はリリとソフィアの言葉に頭を抱える。

 リリと出会った時とまるで同じような急すぎる告白と求婚。


「待て待て……。リリの時もそうだったが、ソフィアとは出会ったばかりだろう。リリにも言ったが、結婚というものはお互いよく知ってからだな」 


 秋斗は頭痛が起きそうな頭を押さえつつ、2人に待ったをかける。


「いえ。私は秋斗様の事をよく知っています!」


「というか、秋斗と会った人はほとんどいないけど、秋斗の事を知らない人はいない」


「どういう事だ?」


「秋斗様や他のアークマスターの方々の事は賢者ケリー様から伝わっているのです。アークマスター伝説は物語として本になっていますし、王都ではもっとも有名な劇の演目として毎年何回も公演されますよ?」


「は?」


 ソフィアの言葉に唖然とする。本? 劇? ナニソレ、と突きつけられる事実。今日だけで判明した事実だけで秋斗の心はグサグサと滅多突き状態。


「本は出版された年から常にベストセラーです。子供から大人まで1度は読んだ事があって、小さい子供は夜寝る前に親に読んでもらう本第1位です。私も読んでもらいました」


「劇でアークマスター役になった役者は超人気になる。何人もいる役者の中から1番の実力がある者が選ばれて初公演の時は王族や貴族も見に行く」


 ザクザクと心に突きを食らう秋斗へ、追加攻撃とばかりにソフィアはさらに畳み掛ける。


「因みに秋斗様は一番人気です。秋斗様の本や劇には戦う描写があるので。実際にお目覚めになり、各国の礎となったケリー様は憧れというよりは、恵みを与えてくれる神様のように信仰されている感じでしょうか?」


「本の監修はケリー様本人がしたって伝わってる。あとがきにケリー様本人が直筆した文で、本人と友人だった事実に基づき性格や態度も忠実に描いていますと書かれてる」


「あの野郎!!」


 秋斗は2人の言葉にいよいよ頭を机に叩きつける。アイツ絶対、自分が持ち上げられてるのを逸らすために話しやがったな!! と、既にいない同僚へ恨み言を心の中で叫んだ。


「アークエルの戦い~下巻~ で描かれている、秋斗様がお1人で万の軍を相手に戦うシーンなど、初めて読んだ時は興奮で眠れませんでした!」


「話盛りスギィ!!」


 秋斗は「イヤアアア!」と叫びながら顔を手で隠して机に突っ伏す。


「だから、秋斗が思っている以上に秋斗の事を知らない人はいない。だからソフィーは知らないってワケじゃない」


 秋斗はどうにか引きつる頬を手で元に戻そうとしながら顔を起こす。もはや変えられない事実を嫌々受け入れ、落ち着きを取り戻す事に専念するが取り戻すのに10分以上掛かった。


「ケリーの野郎のせいで俺のしてきた事が出回っているのはわかった。でも、俺の性格とかさぁ……。嫌な奴だったりしたらどうするんだ? というか今の時代は一夫多妻制なのか?」


 リリと約束した時と同じように、ソフィアが嫌いというような理由ではなく『こんな簡単に決めてしまっていいのか』という過去の倫理感や結婚に至るまで慎重だった過去の常識的な考えからの発言である。


「はい。王族や貴族は複数の伴侶を娶りますね。ですので、法は問題ありません」


「秋斗が嫌な性格だったら、きっと私は今頃秋斗にめちゃくちゃにされちゃってる。私とソフィーの求婚をすぐに受け入れないで考えてくれてるのがいい証拠。秋斗は優しい。だから好き」

  

 ソフィアの真剣な表情と、机の上に置かれた緊張で強く握り締める手を見ていると、結局はリリの時と同じかと秋斗は心の中で思う。


 リリという存在を受け入れた事で、この件に関しては寛容というか甘くなってしまっているというか。ともかく、秋斗の心に隙間のようなモノが出来上がっていた。

 そして、心に出来上がった隙間にパズルピースのように埋まろうとするソフィア。


 ソフィアとリリを見ていると受け入れても良いんじゃないか、という気持ちが徐々に強くなっていく。


「あー……。俺に2人も面倒見れる甲斐性があるかはわからんし、嫌な思いをさせたら申し訳ないんだが。それでも良いなら……」 


 過去の時代の倫理観や結婚に対する考えの違いに戸惑いがあるのは事実だが、既に過去の時代は氷河期の到来によって終わっている。

 彼女達が自分を騙しているような気配は全く無い。純粋に好意を寄せてくれているのを感じてしまう。これで騙しているのだったら主演女優賞待った無しだ。


 正直に言うならば、彼女から向けられる好意も嫌ではない。性格も良さそうで作る料理も美味い美人に好意を向けられて嫌がる男がいるだろうか。

 ならば、この時代に合わせた考え方をしないとダメだろうと思い至り、ソフィアを受け入れる事に決めた。リリの時と同じようにこれからお互いの事を知っていけばいいかと結論に至る。


 自分に複数の女性を満足させる甲斐性があるかは不明だが、愛想を尽かされないよう努力し、愛され続ける男になればいいのだ。


 そう決意して、これから頑張ろうと心の中に刻む。


「大丈夫です! 妻として秋斗様をしっかり支えさせて頂きます!」


「嫌な事があったら嫌って言う。それに、ソフィーと一緒ならサイキョーでヨユー」


 涙目で喜ぶソフィアと、どういう根拠なのかわからないが胸を張ってムフーと気合を入れるリリ。

 2人との人生はどうなるかは、秋斗にはわからない。


 だが、受け入れたからには彼女達と楽しく過ごそうと心に決めた。

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