150 神を創った男
男の名はライゴ・アルカディア。
彼の生家はオーソン大陸イチの大企業であるアルカディア工業を経営していた。
アルカディア工業の始まりはライゴの祖父が営んでいた町工場だ。
オーソン大陸で盛んであった宇宙開発事業の打ち上げロケットや衛星を構成する部品を製造する下請け工場。
祖父は生粋の工業職人であり、妥協を一切許さない人間。そんな彼の仕事ぶりが評価され、小さな町工場に舞い込む仕事は次第に増えていった。
ライゴの父が23の時、アークエルにあった魔法科学技術院を卒業して帰ってくると技術院で学んだ事を活かし、宇宙開発部門以外の部門を開設。
祖父と同じく優秀であった父も新事業を成功させてアルカディア工業の業績はメキメキと上がった。
ライゴの父がトップの座を受け継いでから10年後、オーソン大陸で一番の総合技術企業として名を馳せる。
どこにも負けないと自負する祖父から受け継いだ技術力。常に先を読む経営手腕を持ったライゴの父。
しかし、3代目と呼ばれるライゴには祖父や父と同等の『力』は無かった。
魔法科学技術院の受験に失敗し、アークエル国内で2番手となる技術系学院に入学するも成績は中の下で卒業。
父のもとで経営を学ぶが失敗。祖父のように現場で技術を磨けと父に言われ、工場に出向くが碌に仕事に付いていけなかった。
彼がこうなった理由は簡単だ。
ライゴ・アルカディアは努力が嫌いだった。
人より何倍も裕福な家庭で育てられたライゴ。だが、彼の家族――祖父と父と母の3人は常に仕事で家にいなかった。
幼少の頃から家政婦に育てられ、家では何でも命令を聞く家政婦が彼の傍にいるのだ。
勉強を怠っても叱る大人は存在せず、友人からは大企業の息子としてチヤホヤされた。
彼は常にこう思っていた。
自分は選ばれた人間だ、と。
しかし、大人になって社会の一員になった時。彼の抱いていた幻想はバキバキに破壊された。
父には溜息を吐かれ、現場の社員からは親の七光り、コネ、3代目は無能などと陰口を叩かれる。
ライゴは現実を認められなかった。己の怠ってきた人生を直視できなかった。
幼少の頃より肥大したプライドがそれを許さなかった。
そんな時、彼に手を差し伸べる者が現れたのだ。
彼の目の前に現れ、手を差し伸べたのは当時何かと有名だった宗教組織。
真の自由を謳い、真の人間は我等だ、という過激な思想とテロリズムで世界を変えようと企む者達。
彼等は大企業の息子を組織に取り込み、金を搾取しようと考えていた。
しかし、ここでライゴが思わぬ才能を発揮する。
彼は幼少期から行ってきた『金で人を操る』という行為。
これによってライゴは宗教組織の下層にいる信者達を次々に取り込んでいった。
他にも自分よりも上の者に対して臆せず交渉するなど、肝の据わった交渉術を披露。
いつしか彼は宗教組織の幹部にまで登り詰め、甘い汁を吸っていた上層部を全て駆逐するにまで至った。
ライゴ・アルカディアが40歳になる頃には組織の代表者を影で操る者に。
生家のアルカディア工業にも宗教組織の信者を潜り込ませて邪魔者を排除。
代表取締役だった父親を事件に巻き込ませて殺害。
こうしてアルカディア工業の代表としての表の顔。宗教組織の影の代表としての裏の顔を持った怪物がオーソン大陸に生まれた。
一度はどん底に落ちたものの、頂点まで這い上がったライゴは歳を重ねる度に常々思うことがあった。
『何故、自分は世界を手にしていないのだろう?』
なぜ様々な国があって、各国に代表がいるのだろうか。
なぜ自分が世界全てを動かしていないのだろうか。
歪みに歪んだ彼の果て。それは全てを手に入れたいという強欲の果て。
女も金も地位も名誉も、全て欲しい。
自分が世界で一番でなければ嫌だ、と考えるだけで苛立ちが込み上げてくる。
どうすれば良いか、いい方法はないか、と考え続けて1年。
アークエルにあるマナデバイス開発企業から新製品のお披露目パーティに呼ばれ、その帰りにアークエル大陸の北東にあるリゾート地でバカンスをしようと立ち寄った。
パーティ終了後の夜、マナカーでの移動中に運転手が突然マナカーを停車させた。
何事か、とライゴが問えば道に人が倒れていると運転手は言う。
運転手と秘書が道に倒れている者に駆け寄るが、倒れていた者の意識は無かった。
中々戻って来ない運転手と秘書にイラついたライゴは外に出て、意識不明の男がどんな顔をしているのか覗き込む。
道に倒れていた者。意識不明の男性。
この男性との出会いが、ライゴの『世界征服』を進める為の『装置』を作り出す運命の出会いとなった。
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3人のトッププレイヤーが聖樹をぶっ壊すまで