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147 ヨーゼフの夢


 リアクターの小型化が成功してから1年後、未だマナフレームは稼動実験中であったがヨーゼフが遂にマナリニアを完成させた。

 完成させた、と言っても動力源である魔石炉の燃費効率化を図り、コストに見合った運用が可能になったと言う方が正しいのかもしれない。


 運用するにあたり最終的な課題は魔石炉の燃費問題だけで、既に車体やレールの工事はだいぶ前に終わっている。

 課題がクリアされ、政府からの認可も下りたので運用実験等でしか稼動する事の無かったマナリニアは遂に東側住民が使用できる『足』へと昇華された。


 という報告を先日聞いた秋斗達は来週の開通式典に先駆けて、御影邸の庭に集まってバーベキュー大会を開催していた。

 何故バーベキュー大会なのか。


「たまには肉を豪快に食べたい」


 ヨーゼフを祝おうと催し事を企画していた際にオリビアの発言に皆が乗り気になったからだ。

 ドワーフ族のヨーゼフを祝うのであれば上等な酒と上等な肉料理は必須、という事もあってオリビアの案が採用された。


 よって御影邸の庭ではバーベキューセットが配置され、その脇にはジャイアントボアが火にかけられながらグルグルと回転する、物語お馴染みの丸焼きが用意されている。


「ガハハ! 美味い! 夢が叶った後に飲む酒は格別だ!!」


 一生に一度しか味わえん、と言いながらヨーゼフはジョッキに入ったビールをゴクゴクと一気に飲み干す。

 ビールで喉を潤した後には、メイドが持ってきた皿に盛られた骨付き肉を掴んで一口。


 彼の浮かべる笑顔からは心から喜んでいる様子がよくわかる。

 

 一方、家主でもある秋斗はというと料理の補助を担当するメイドと共に鉄板で焼きそばを作っていた。


「御義父上! 私がやりますから!」


 だが、そんな秋斗を慌てながら止めるのは娘であるミミの婿殿である。

 彼の名前はケイ・オルソン。彼はケリーの子孫であり、カールの孫であった。


「パパ~? みんなが緊張して落ち着かないからこっちでゆっくりして~?」


 娘婿に鉄板前のポジションを奪われ、娘であるエリスに腕を引っ張られて庭の一角に連れ出される。

 日当たりの良い一等席にはヨーゼフと現アークエル代表のイザーク、グレン一家と王家一行にアドリアーナが交じり、談笑しながら運ばれてくる料理を楽しんでいた。


「ほっほっほ。ようこそ、秋斗殿」


「焼きそばでも作ろうかと思ったら、追い出されてしまったよ」


 秋斗を迎えたのは嘗ての王達。

 まだ若いエリオットや寿命の長いエルフ種であるルクスの姿はあまり変わりないが、フリッツとセリオは違う。

 

 セリオは年老いた将軍のような……まだ眼光が鋭く「若者には負けん」と言っても通用しそうな老人といったところだ。

 しかし、フリッツは人族だ。


 既に足腰は悪くなり、今では一人で満足にも歩けない状態。昔の異名でもあった『鬼人』と呼ぶには老いすぎた。

 最近は外を出歩くのも厳しくなり、王城の庭の隅に建てられた隠居用の離宮の縁側で妻と日向ぼっこするのが楽しみ。カワイイ孫やひ孫が遊びに来てくれれば他は何もいらない、といった感じだ。


「仕方なかろう。偉大なる賢者が鉄板の前で焼きそばを作っている光景など、彼らから見れば目を疑いたくなる光景だ」


 秋斗とアドリアーナの人気は未だ衰える事が無い。

 新作の魔道具で生活を豊かにし、最新医療で人の命を救うのだから当然と言えば当然なのだろう。


 特に娘婿や息子嫁達は秋斗に家事すらさせないほどだ。

 彼ら曰く、賢者に家事をさせるなど恐れ多い、と。


 屋敷を取り仕切っていたソフィアに相談もしたが、今では御影家当主となった息子のフィルと彼の嫁に全権限を渡しているので口は挟めない、と言われてしまってからは素直に受け入れる努力を続けている。

 

 息子や娘は既に全員家庭を持ち、それぞれの仕事をしながら自立。

 当初、当主を息子へ譲った際に秋斗と嫁達は屋敷を出て行こうとしたのだが息子夫婦に全力で止められ、未だオヤカタの作った屋敷に住んでいる。


「オリバーはどうだ?」


 息子の1人であるオリバーの事をグレンに問う。


「オリバーはジーベル要塞で指揮を執っている。前に視察へ行ったが見事なものだった」


 オリビアとの子であるオリバーは軍人になった。

 母と祖父がアレなので当然の結果なのだが、今では対西側防衛指揮官としてジーベル要塞に赴任している。


 因みにオリバーは既に結婚しているのだが、相手がなんとグレンの娘だ。

 オリバーがグレンの娘を娶る際、秋斗とグレンがガチの殴り合いをしたのはアークエル王都の新たな伝説として語り継がれる程の激しい闘いだった。


「エリスも優秀だし、ミミもアドリアーナ様の弟子として名高い。優秀な子達だ」


 イザークが娘達の評価を口にし、うんうんと頷きながら笑顔を浮かべた。


 エリスは王城で財政局の局長に就任し、国の財布を管理するエリート文官。

 ミミはアドリアーナのもとで医療技術を磨くベテラン医師。


 2人とも嘘か本当かわからない噂が1つや2つあるくらいには優秀であった。


「孫ものびのびと育ってくれると良いが……」


 秋斗が抱える最近の心配事は『孫』についてだ。

 祖父である秋斗が有名で、自身の父や母も有名人。


 最近通うようになった教会学校で苛められてないだろうか、と気が気じゃない。


「もう、心配しすぎ」


 隣にいたリリに頬をツンツンされる。

 相変わらず何かと密着してくるリリだが、容姿は秋斗と出会った頃と全く変わっていない。

 

「旦那様。エリザベス様がいらっしゃいました」


「アキト~ン! お肉とお酒を持ってきたわよぉ~ン」


 友の到着を知らせにきたメイドに礼を言って、秋斗は手を振りながら庭へやって来たエリザベスへ視線を向ける。

 リリとソフィアはエルフ種なので容姿の老いが遅いのは理解できる。


 だが、秋斗と同じような年齢のエリザベスが老けていないのは何故なのだろうか、と会う度に疑問に思っていた。

 アドリアーナ曰く、エルフの遺伝子も持っていないという。


 アークエル一番の謎かもしれない……。



-----



 開通式典当日。

 アークエル首都にある駅構内、車体を背にヨーゼフを真ん中に、左右には秋斗とイザークが並んでテープカットをすると式典参加者や式典を見学に来ていた住民から拍手が送られる。


「それでは、これより1時間後に運行を開始します。チケットをお持ちの方は駅構内にある特設窓口へとお願い申し上げます」


 プレオープンとなった今日行われる運行は2日間掛けての、テスト運行を含んだ東側1周の旅だ。

 この旅に参加できる者達は、ヨーゼフの家族と秋斗の家族はもちろん、王家とマナリニアを開発した技師と技師の家族は優先的に乗車、そして余った席の200席を一般販売した際に行った抽選会で選ばれた幸運な一般参加者達。


 1日目は北上してガートゥナ区の旧王都駅へ向かい、ガートゥナで3時間滞在。

 乗客が下車して観光している3時間の間に車体のチェック、問題無ければ再び乗車して次はエルフニア区の旧王都へ向かう。


 エルフニア旧王都駅に到着したら乗客は用意された宿で1泊。

 担当技師とヨーゼフは車体チェックと魔石炉のチェックをする。秋斗が同行するのは万が一の際に備えてという事もあるのだ。


 エルフニアで一泊した後は大陸東へ向かってラドールへ。

 秋斗の主導で作られたラドール大橋という本土とラドール区を繋ぐ橋の上を走り、絶景を堪能しながらラドール区旧王都駅を目指す。


 ラドールでも3時間の観光時間を取った後にアークエル王都へ帰還する予定だ。


「最高速度で走れないのは残念じゃ」


「そりゃそうだろう……」


 ヨーゼフの作ったマナリニアはスペック上、時速600km以上のスピードが出るのだが、そんなスピードを初回運行で出して壊れでもしたら大問題だ。

 それに加えて、まだ住人達が高速で移動する乗り物に慣れていない。


 レール内に人が侵入しないよう、セキュリティ面はかなり気を使っているので問題は無いと思うが……。

 まずは100km以下の速度で走りながら運行し、徐々にマナリニアの走るレール周りの環境を整えながら速度を上げていく計画になっている。


 しかし、それでも東側では大革命と言えるだろう。

 今までは馬車に荷物を積み、何日もかけて輸送してきた。


 しかし、マナリニアの登場でアークエルから一番遠いラドール間でも1日で到達できる。

 ケンタウロス馬車も長距離を走る必要が無くなり、駅がある街で荷物を受け取って目的地まで走れば良い。


 新鮮な物は新鮮なうちに。長い距離を魔獣に襲われる事無く安全に届けられる。

 歴史に存在するドワーフの中でも最も貢献した者の名前にヨーゼフという名が刻まれるだろう。


「さあ! 乗車して出発するぞ! 各駅で販売している限定駅弁を買うのも忘れるな!」


 ヨーゼフは王達や秋斗を急かしつつ、財務局のエリスにおすすめされて導入したアークエル国営鉄道の目玉商品でもある『超特急駅弁』の紹介も忘れず行った。


読んで下さりありがとうございます。

明日も投稿します。


新作の連載始めました。

MMO系のゲーム内に入ったと思ったら違う、戦闘と軽いノリが多いかもしれない冒険モノです。


3人のトッププレイヤーが聖樹をぶっ壊すまで

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