145 御影家の日常3
秋斗が35歳になった夏。
いつも通り秋斗が学園の仕事を終えて屋敷に帰宅するとリビングにはエリオットとイザークがソファーに座っていた。
「やあ、秋斗。お邪魔しているよ」
「お邪魔してます、秋斗さん」
2人は屋敷全体の管理をするソフィアと共に雑談をしながら秋斗の帰りを待っていたようだ。
「どうした2人とも。家で待っているなんて珍しいじゃないか」
彼らが御影邸に足を運ぶという事はここ最近では珍しい部類に入る出来事だ。
秋斗が歳を取ったように彼らも国も歳を重ねている。
アークエル王国は既に新生国としての慌しい年を過ぎ、既に安定した国政を運営するようになっていた。
それに伴い、前代表国王であったフリッツは一線を退きイザークにその役目を引き継がせている。
人族と比べて寿命が長いエルフのルクスやエルフほど長くはないが人族よりも寿命が長いセリオ達は、未だ役職に就き新しい代表となったイザークを支えているがフリッツの仕事は全てイザークがこなしている。
イザークの弟であるアデルとエリオットの娘であるクラリッサも成長し、今ではアークエル王立学園に通って国政に関わる勉強に励む青年と淑女になりつつある。
そんな事もあって、国政の中核を担うイザークとエリオットは以前と同じような自由は無くなった。
会うとすれば2週間に1回ある王城での会議か、彼らが学園長室にやって来るかのタイミングのみだ。
「いや、今日は早く仕事が終わって。久しぶりに皆で夕飯でもどうかな、と思ってね」
そう言ったイザークは自分の父親が孫に未だベッタリな件も併せて謝罪してきた。
フリッツが孫にベッタリなのは特に困っているわけではないが、イザークの息子にもベッタリでデレデレな様子を見ているので身内として少々申し訳なくなったという。
孫といえば、子供達と他の嫁達は? とソフィアへ問うと今はイザークの子も一緒に街へ出かけているとの事。
もちろん、お爺ちゃん達も一緒に。
「孫といえば、秋斗さんの子達は将来どうするんだい?」
エリオットの子は未だにクラリッサのみだ。
あと1人か2人は子を作れ、とラドールにいる父親から常々言われているようで、エリオット夫婦もそれに賛成はしているのだがこればっかりは授かりものなので何とも言えないだろう。
「うちの子か? いやー、まだ教会で基礎学習している段階だぞ? 早くないか?」
秋斗が子供の進路や将来についてまだ早い、と言うが隣に座るソフィアが補足するように告げる。
「ミミは医者、フィルは秋斗様を継いで技師、エリスはお花屋さんでオリバーは軍人らしいですよ?」
秋斗が知らなかっただけで子供達は既に将来の夢を持っているようであった。
いつ聞いたんだ? と秋斗が問うと、昔に自分達の母親と一緒に寝る時や昼を食べている際に子供達の口から告げられたそうだ。
「知らなかった……」
ガックリ、と肩を落とす秋斗。
「う~ん。結構特徴が出ていますね」
ミミの医者というのはアドリアーナの影響だろう。
アドリアーナに可愛がられているリリの子であるミミも彼女に可愛がられているし、頻繁に『アドリアーナお婆ちゃん』と街へおつかいに行くしアドリアーナの勤める医療院へも見学に行っているようだ。
フィルは昔から秋斗にベッタリなところがあった。
特に秋斗に作ってもらったマナカーのおもちゃがお気に入りだったのもあるのだろう。たまにソフィアと共に技術学園へやって来て物作りを見学している。
エリスの乙女チックな夢は完全にエルザの影響だ。
エルザ自身がトラウマのせいで暗く女の子というにはかけ離れた生活を送ってきた。自分の子は自分以上に女の子らしくなってほしい、という願いがあるのだろう。
オリバーは……完全にオリビアとセリオの影響を受けている。
まだ生まれたばかりの頃からオリビアがオリバーを抱いて王城の訓練場へ出向いていたし、物心ついた頃から自分の母親と祖父がガチ戦闘する場面を見せられているのだ。英才教育という名の洗脳に近いのでは……。
「ミミとフィルが技術学園でエリスとオリバーは王立学園か?」
技術学園は名の通り、技術を学ぶ場所。
王立学園は基礎学習の応用や礼儀作法、魔法と武術の基礎を学ぶ場で文官・武官向けの学園とされている。
エリスの言うお花屋さんは商業関連なので実際に商会へ実地訓練として店子をするのが良いのだろうが、一応エリスは位の高い御影家の娘なので嫁ぐ為にも王立学園で淑女になる勉強をしなければいけないだろう。
まだ小さい娘が嫁ぐ、と考えるだけで悲しくなる秋斗は首を振ってその考えを脳内から排除した。
「アデルとクラリッサは最近どうなんだ?」
2人は既に王立学園に通う身であり、子供と大人の中間。
昔は秋斗の事を義兄上様、にいたまと呼んでいたが今ではすっかり『秋斗様』と呼ぶようになってしまった。
2人が成長した証なのだろうが、どこか寂しさを覚える秋斗である。
「2人は学園を卒業したら国の文官ですね。卒業して2~3年勤めたら結婚かな?」
アデルとクラリッサは婚約者同士であり、国が統一されても婚約の件はそのままで将来一緒になる事は既に決まっている。
「ダリオとリゲルは? 最近顔を見せないが元気なのか?」
ダリオとリゲルはそれぞれの出身区に戻っている。
ガートゥナとエルフニアの旧王都で区全体の地方運営をしており、区長として働いている。
リゲルは学友だった女生徒と結婚しているし、ダリオも年上のお姉様文官に囲まれて仕事中。
特にダリオは王立学園に入学すらしていないのだが、小さい頃から母親と共に国政へ関わってたおかげか学園に行かずとも仕事をこなしてしまう天才だ。相変わらず目は死んでいるそうだが。
「また年末年始には集まれるのではないでしょうか?」
弟は影が薄いから心配だわ、とよくわからない事を言うソフィアだが彼女の言う通り、年末年始はアークエル王都に集まって過ごすのが通例だ。
「「「「ただいまぁ~!!」」」
と、そんな話をしていたら子供達が帰ってきたようだ。
ドタドタと子供らしい足音を鳴らしながら両手に紙袋を抱えてリビングに突入して来る。
子供達に続いてリビングへ入って来たのはフリッツ達だ。
相変わらず何年経っても孫にデレデレな笑顔を浮かべながら子供達へ視線を送っていた。
「ぱぱぁ! じいじがお菓子買ってくれたぁ!」
秋斗に駆け寄り、じいじがね、じいじがね、と王達を『じいじ』呼びながら微笑むのはエリスだ。
子供に順位をつけたくはないが、同世代の子供達の中でも一番の美少女でニコリと笑うと本当に愛らしい。
彼女が基礎学習を教える教会で一緒になる男の子へ微笑むと皆、頬を赤らめてモジモジし始めると兄のフィルから情報を得た。
幼いながらも異性を虜にする娘へ母親であるエルザも「娘ながらに恐ろしい」「教育を間違えたのかしら」と将来を心配していた。
「父上……」
イザークは子供達とフリッツ達の護衛メイドが持つ紙袋の量に頬を引き攣らせる。
その量はどう考えても非常識な量で孫におねだりされるがままに買い物して来たのだろう。
「お菓子だけじゃないぞ。本や食材もあるから問題無い」
キリッとするお爺ちゃん達だが、そういう問題じゃないとイザークは苦言を零してエリオットは苦笑いを浮かべた。
「みんなで飯食おうって話なんだが、どうだ?」
毎度買ってもらって申し訳ない、と子供達の父である秋斗が王達へ礼を述べた後に今晩の夕食についての話題を口にした。
「おお、良いですな。場所はどうしますかな?」
「王城にしようか。グレンの家とアドリアーナやカール達も誘おう」
今夜は久々に仲間達と楽しく食べようと提案すると王達も賛成し、子供達も大人数での夕食に「やったー」と声を上げていた。
読んで下さりありがとうございます。
すいません、朝仕事に行く前に昼に予約投稿されるよう設定してたと思ったらされてなかったようで、投稿されていないの今気付きました。
この話以降、ぽんぽんと年代が進んでいきます。
次回は土曜日に更新します。