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137 デジャヴ


 S等級魔獣が発見された森の入り口にやって来た秋斗達は同行しているアークエル騎士団3小隊と共に森へ偵察部隊を送る準備をしていた。

 

 到着から既に30分以上経っているが森は不気味なほど静まり返り、森に生息している魔獣の姿は1匹も見られない。

 ハナコの時同様に生息していた魔獣はどこか別の所に逃げてしまったのではないか、と推測されていた。


「1小隊を偵察に送り出します」


 魔人族の隊長が森の入り口を観察していた秋斗とオリビアへ告げると、偵察任務を受けた1小隊が正式採用された魔法剣を携えるのみの身軽な状態で森へと入っていった。

 

「キャウ!」


「あ! ハナコ!」


 秋斗達が森へ入って行った小隊を見送っているとそれを追い越すようにハナコが森の中へ走っていってしまう。

 慌てて止めようとするが小柄な体をしたハナコは茂みの中へと紛れてしまい、すぐにその姿を見失った。


 ハナコを探そうと秋斗とオリビアが森へ行こうとするが、魔人族の隊長に制止される。 


「お待ち下さい。偵察部隊が後を追います。ハナコ様は頭が良い。何かを見つけたのかもしれません」


 そう言った後に偵察部隊へ命令を出すと鼻と耳の良い犬系の獣人族が先頭となって森へ入って行った。


「彼ならハナコ様を見つけられるでしょう。騎士団の中でも偵察任務に優れた優秀な男です」


「大丈夫だろうか……」


 秋斗にとってハナコは家族も同然。

 S等級魔獣と戦って負けてしまったら、と最悪の事態が脳裏を過ぎる。

 

「旦那様、追うにしてもアテもなく探すのは危険だ。準備してから入ろう」


 オリビアが秋斗を宥め、森へ入る為の準備をするよう促す。

 浅い森ではあるが中に入れば方向感覚を失うくらい木々で囲まれた場所である。


 彼女の言う通り、準備もなしに入るのは少々厳しい環境と言えよう。

 秋斗は逸る気持ちを抑えながらマナマシン等の準備を始めた。


「ところで、目撃されたS等級魔獣はどんなヤツなんだ?」


 S等級魔獣といっても種類は複数存在する。

 秋斗ならば対応できるだろう、という信頼もあってかグレンからは詳細な魔獣のデータはもらっていなかった。


「フェンリルです。犬系の魔獣でして、頭が良く人の言葉を理解しているという説があります。母国の研究所でも研究は進んでいましたが、群れを作らない孤高な魔獣として有名でした」


 魔獣との戦いに明け暮れていたラドール騎士団出身の魔人族男性が秋斗へ返答する。


「犬系……ハナコと同じ感じか?」


 秋斗は「おや?」と何か引っかかりを感じる。


「ええ。ハナコ様はガルムの変異種ですからハナコ様の方が格は上でしょう。相手も変異種じゃなければ、ですが……」


 なるほど、と秋斗が頷き、ガントレットを装備しようとした瞬間。

 森の奥からバチバチ、という雷が迸るような爆音が鳴り響いた。


 その後も戦闘音らしき音が森の奥から聞こえて始め、音が鳴り始めてから数分すると森へ偵察に入った1小隊が全速力で森から飛び出してきた。


「何があった!?」


 森から飛び出してきた団員は膝に手をつきながら息を切らせているが、隊長の叫び声に顔を上げて状況を説明し始めた。


「わ、我々を、追い抜いたハナコ様が、森の奥にいた、フェ、フェンリルと交戦したようです」


 答えたのは先頭を歩いていた獣人の男性。

 彼は待機していた団員から水の入った水筒を受け取り、ガブガブと飲んで喉を潤した後に報告を続けた。


「交戦している姿は見えませんでしたが、ハナコ様の放った雷で視界が真っ白に染まって……。S等級魔獣同士の戦闘に介入するのは危険と判断して急ぎ戻りました」


「なるほど。良い判断だった」


 隊長の言う通り、的確な判断だったと言える。

 S等級魔獣は歩く災害みたいなモノだ。


 特に変異種のハナコが放つ雷は強力であり、人よりも大きな魔獣でさえ一撃で黒コゲにしてしまうほどの威力を持っている。

 そんな雷がバンバン放たれている場所に接近するなど確実に自殺行為だ。


「俺が行こう」


 そんな状況の中に突っ込んでいけるのは秋斗以外にいないだろう。

 秋斗はガントレットを装備した後、持ってきたトランクケースからシールドマシンを取り出す。


「私も行こう。ハナコはどの辺りにいた?」


 と、秋斗達が突入準備を早急に進めていると森の戦闘音が鳴り止む。

 まさかハナコが負けてしまったのか? と秋斗は嫌な考えばかりを思い浮かべてしまう。

 

 オリビアが偵察部隊から場所の聞き込みをしている間、秋斗は森の入り口を睨みつけていると何かガサガサと茂みを掻き分ける音が聞こえ始めた。


「キャウ!」


「ハナコ!」


 森から飛び出してきたのは体に葉っぱをつけたハナコ。

 ハナコはそのまま秋斗へと駆け寄り、足元まで来るとハッハッハとベロを出しながらお座りした。


「何しているんだ! 心配したんだぞ!」


 秋斗がコラッ! と叱りつけるとハナコの尻尾と耳がペタンと下がり「クゥン」と謝罪するかのような鳴き声をあげた。


「あんまり勝手なマネしちゃだめだぞ?」


「キャウ……キャウキャウ」


 反省した様子を見せるハナコの頭をワシャワシャと撫でてやると、ハナコが森の入り口に顔を向けて吼え始める。

 すると、再び茂みがガサガサと音を鳴らし顔を出したのは――


「フェ、フェンリル!」


 騎士団員が一斉に抜刀し、剣を向ける相手は凛々しい顔立ちをしたハスキーだった。


「あれ? すごいデジャヴ感……」



-----



 ハスキー犬改めフェンリルは秋斗の前へと歩み寄り、ごろんと横になって腹を見せつけた。

 服従のポーズだ。


 すると、秋斗の足元にいたハナコがフェンリルの傍へと行き、フェンリルの首へカプリと噛み付いた。

 ハナコは尻尾をブンブンと振りながら「この子連れてって良い?」と言いたげな目を秋斗へ向ける。 


 逆に首を噛み付かれながら秋斗を見つめるフェンリルの目からは「いやー逆らえないッス」という哀愁が漂っていた。

 

「フェンリルがハナコ様に服従したのでは?」


 魔獣の生態に明るい魔人族の団員が秋斗の傍にやって来て、ハナコとフェンリルの様子を興味深そうにまじまじと見つめながら口にする。


「どういう事だ?」


「犬系の魔獣は相手を服従させると相手の首に噛み付くって言われているんです。魔獣研究の学者曰く、首に噛み付くのはお前の命は私の物だって示しているって言われていますね」


 相手が抵抗しないという事はそれを受け入れている、という事だと彼は話す。

 つまり、フェンリルはハナコに負けてハナコの下についたという事らしい。


「キャウ!」


 秋斗と魔人族の男性が話していると、ハナコは2人の会話を肯定するように吼える。

 寝っ転がるフェンリルもなすがままの状態で「ワォン……」と力なく1吼え。


「お前、ウチに来るか?」


 秋斗がフェンリルの腹を撫でながら問うとフェンリルはハナコをチラリと見た後、頷くように鳴き声をあげてから秋斗の手を舐めた。


「キャウ! (連れていくー!)」


「ワフ……(もう雷はコリゴリッス。逆らえないッス……)」


 秋斗の手を舐めたフェンリルは立ち上がり、ハナコと共に秋斗の足元にお座り状態となりながら、まるでこんな会話をしているかのようにお互いワンワン言い合っていた。


「フェンリルはハナコのお婿になるのか?」


「さぁ……どうだろう? そもそもオスなのか?」


 オリビアがそう言うので秋斗が確認するとフェンリルはオスだった。

 

「まぁいいか。とにかく、人に危害を与えたりしたらダメだぞ?」


「ワフ」


 フェンリルは秋斗を肯定するように鳴く。


「お前の名前も考えてやらなきゃなぁ」


「帰ったらみんなで決めよう」


 ハナコによって連れて来られたフェンリルは名をタロウとされ、御影家の屋敷でハナコと寄り添いながら尻に敷かれる姿が目撃されるようになった。


読んで下さりありがとうございます。


次回投稿は日曜日となります。

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