136 魔獣と戦争
リリとソフィアの妊娠発覚から2週間。
身内(主にロイドとルクス)の盛り上がりもようやく収まり、日常が戻ってきている。
御影邸ではメイドと執事全員がアドリアーナから妊婦の取り扱いを完全に学び終え、彼女達に万が一がないようにという体制が出来上がっていた。
秋斗の心境的には、子供が出来たというのは純粋に嬉しい。
あと夜の相手が2人減ったというのも精神的に楽になった。
だがエルザとオリビアの2人は、やはりリリとソフィアの妊娠が羨ましいのだろう。何が、とは言わないが激しさが増した。
そして、嫁会議の取り決めで決まったのか昼間はリリとソフィアが秋斗を独占して、夜はエルザとオリビアの2人が秋斗と一緒に寝る、といった感じだ。
正式に結婚して2週間。
特に夫婦仲も妻達の仲も問題は起きておらず、順調で平和な日常が過ぎていく。
そんな平和な日常を送っていた秋斗であったが、王城から呼び出しを受けて会議室へ赴いていた。
会議室の中にはアークエル王国のトップたる4人の王族に加えてグレンが席に座って秋斗の到着を出迎えた。
「S等級魔獣の出現とヴェルダの侵略?」
秋斗は会議室の椅子に着席するなり、5人から言われた事を聞き返した。
「ああ。S等級魔獣の件は街道巡回隊が傭兵から報告を受けたそうだ。ヴェルダの件はジーベル砦からだな」
まずはS等級魔獣であるが、王都南東にある森へ魔獣の生息分布調査に出ていた傭兵達が森の中で見つけたらしい。
見つけた森もそこまで深い森ではなく、普段はC等級魔獣が生息する森で王都周辺では傭兵にとって丁度良い稼ぎ場となっている森なのだが、森に入ってから全く魔獣の姿が無いと思いきや最奥付近にS等級魔獣が存在していたという。
傭兵達が見つけたS等級魔獣はその場から動く事無く、傭兵達の気配に気付き彼らを一瞥しても興味ないとばかりに眠っていたとの事。
一方でヴェルダの侵攻の件だが、こちらはジーベル伯爵から届いた報告書にヴェルダ側の砦に動きが見えると書かれていた。
最近、騎士団に支給された偵察用マナマシンのドローンを飛ばして高高度から監視していたところ、ヴェルダの軍隊が砦へ集まっておりその数は1万以上になりそうだ、とのこと。
「なるほど。遂にヴェルダが本腰を入れるのか?」
「今までも奴等は侵略を試みていたがようだが、前回防衛した際の敵はどうだった?」
秋斗とグレンがヴェルダの侵攻について問うと、フリッツが髭を撫でながらテーブルに置いてあった資料を手に取る。
「前回は相手方、1万ですな。ただ去年のヴェルダは周辺の小国を飲み込みましたから……その国の民を軍に組み込んでいる可能性は高いかと。そうなれば、前回よりも倍以上の数で攻めて来るでしょうな」
「ジーベル伯爵からの報告待ちだが、相手の数を5万以上と予想して戦略を組む」
フリッツの答えにグレンが返答。
「勝てますか?」
「余裕だよ」
次に投げかけられたエリオットの問いにも、グレンは間髪いれずに返答した。
「この数ヶ月間、騎士団全体に新戦術と新装備の取り扱いを教えてきた。相手が賢者時代の戦闘用マナマシンを大量投入しない限りは勝てる」
グレンは4人の王族に自信満々の笑みを見せつけ、勝てると宣言する。
そして、グレンは秋斗へ顔を向ける。
「秋斗。お前は戦争に参加するなよ。人工神の件もあるからアークマスターがこちら側にいる、という事はバラしたくない。よって、お前にはS等級魔獣の方を頼みたい」
「それはわかったが……。ヤバくなる前に呼べよ?」
アークマスターがいるとバラしたくないのは理解できるが、秋斗を温存しすぎて砦が落とされるなんて状況は避けたい。
グレンの能力を把握している秋斗は、そこまで心配していなかったが一応口にしておいた。
「ああ。理解している。それで、S等級魔獣の件だが――」
秋斗はグレンからS等級魔獣の発見ポイント等の詳細を聞き終えると一旦準備をする為に帰宅した。
既に騎士団の出動準備は終わっているらしく、準備を終え次第入場門で合流する手筈だ。
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「と、いうわけでちょっと行って来る」
「私も行く」
「待て待て、リリはダメだ。勿論、ソフィアもだぞ」
屋敷に帰り、リビングのソファーで寛いでいたリリとソフィアに出かける旨を伝えると案の定リリが同行しようとソファーから腰を上げたが、秋斗は手で制してリリへ待ったをかけた。
「危険なのがわかっているのに連れて行くわけないだろ。大人しく待ってなさい」
「むぅー」
むぅむぅと不満そうにするリリであるが、秋斗は譲らない。もしも万が一の事があってお腹の子に何かあったら悔やんでも悔やみきれない。
「私は一緒に行くぞ!」
ドタドタと階段を降りてきてリビングに飛び込んできたのはオリビアだった。
彼女は準備万端といわんばかりに、お馴染みの姫騎士装備と魔双剣を腰に差していた。
「オリビアは元々連れて行くつもりだったので良し!」
「やったー!」
秋斗のお許しが出たオリビアは尻尾をぶんぶんと振りながら手を万歳状態でょんぴょん跳ねて喜びを表現する。
彼女の隣ではハナコも尻尾を振りながら「私も行くー!」と目を輝かしていた。
「私はお姉様方を見張ってます。家の仕事もありますし」
そう言いながら秋斗のトレンチコートを持ってきたのはエルザ。
既に4月だが今日は冬のように冷えるのを知ってか、2階にある衣裳部屋から持ってきたのだろう。
彼女はトレンチコートを広げると、秋斗が袖を通すのを補助してから襟を調整。
「いってらっしゃいませ。旦那様」
出かける秋斗の世話をして微笑む姿はまさに良妻と言えるモノだ。
秋斗の頬へいってらっしゃいのキスをするのも忘れない。
「先越された」
「ズルイわ。私もしたいです」
ソファーに座っていたリリとソフィアも秋斗へ近づいて、2人ともそれぞれ腕を絡ませながら頬へキスをする。
それを見ていたオリビアも負けじと頬へキス。
「……オリビアは一緒に行くだろう」
「したかったからだ!」
オリビアは男らしく腰に手を当ててムフーと胸を張る。
秋斗は4人の頬へキスを返してからオリビアとハナコを連れて王都入場門へ向かって行った。
読んで下さりありがとうございます。
あと数話くらいしたらポンポンと時の流れが加速して終わる予定です。
しかし、書く時間がなかなか無い…。
次の投稿は水曜日です。