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135 おめでたい日


 冬の肌寒い日を引き摺るように寒い日が連日続いていたが、今日は空に浮かぶ雲の切れ目から降り注ぐ日の光が温かく、全身に春を感じられて心地良い。

 レオンガルド王都改め、アークエル王都にある賢者教本部の教会の外に参列する人々は今日というめでたい日を祝福しているようだ、と口にしていた。

 

 教会の礼拝堂内では参列者に見守られながら厳かな雰囲気で秋斗と婚約者4名の結婚式が行われていた。


「これで5人は夫婦と認められました。皆様、盛大なる拍手を」


 秋斗が4人の妻に指輪を嵌め終えるとエミルの宣誓で式は終了し、参列者全員が立ち上がって拍手をする。


「ふぐゥ! リリィ……!」


 リリの父であるロイドはお転婆だった娘の晴れ姿を見て号泣。

 ルルに背中を摩られながら拍手していた。


「あなた、見て。ソフィア、幸せそうだわ」


「ああ、本当にな。あの子が心から望む相手と一緒になれて良かった」


 ソフィアの両親であるルクス王とセリーヌはソフィアが幼少期から秋斗に憧れていたのは知っていた。

 しかし、彼女はエルフニアの姫である。憧れは憧れのままに、現実ではどこかの家に嫁がなければならない運命だった。


 しかし、その運命は良き方向へ変わったのだ。愛する娘が望む相手と一緒になれた事にルクス王も一安心といったところだろうか。


「オリビアのこと心配していたけど、ちゃんと女の子らしくしているわね」


「うむ。さすが賢者様だ。しっかりオリビアの手綱を握っておられる」


「ふふん。私の娘なのだ。やる時はやるのがオリビアという娘だ」


 ガートゥナ一家も普段の脳筋一直線なオリビアではなく、女性らしく一緒になる男性を前にして幸せそうな笑顔を浮かべている事にホッと胸を撫で下ろす。

 数ヶ月前までは男性騎士でも敵わない強さを持ったオリビアの結婚相手が見つからずに頭を悩ませていたのが嘘のようだ。


「おおぉぉ! エルザァァァァッ!」


「姫さまああああ!!」


 ロイド以上に大号泣しているのはフリッツと宰相であるアーベルだ。

 彼らはエルザの心に傷を負わせてしまうキッカケを作った事を何年も悔いていた。

 

 男性不信となり、国の姫でありながら嫁げず女性としての幸せを奪ってしまったのでは、と自分を責め立てていた2人。

 しかし、秋斗と出会った事で彼女は幸せを得る事が出来た。


「父上、アーベル……少しは落ち着いて……」


 そう言いながらも兄であるイザークも、妹の幸せそうな笑顔に涙ぐんでいた。


「それでは、新郎新婦が退場します」


 ゴーン、ゴーン、と賢者教本部教会の屋上に設置されている大きな鐘が鳴らされ、王都中に式の終了をお知らせする。

 秋斗と4人の花嫁が教会から出ると、そこには王都の住民達が秋斗達の晴れ姿を一目見ようと殺到していた。


「おめでとー!」


「おめでとうございまあああす!」


 住民達や騎士達は花びらを入れたカゴを持ち、花びらを掴んで宙へ放り投げる。

 フラワーシャワーで秋斗達を祝福し、誰もが幸せそうな5人に見惚れながらも笑顔を浮かべて自分の事のように5人の結婚を喜んでいた。


 秋斗達5人は教会前に停められたオープン馬車に乗り込み、結婚式後のパーティ会場である王城へと向かう。

 王城に向かっている最中(激遅の馬車)は笑顔を浮かべながら馬車から手を振って住民達へ「ありがとう」と言葉を返し続けた。


 因みにこの馬車パレードは秋斗が猛反対したのだが、面白がったアドリアーナと後々被害に遭うであろうグレンによる2人の圧力で秋斗には当日まで内緒の状態で進められていた。


 王城に到着すると秋斗は控え室で私服に着替え、リリ達はウェディングドレスからパーティー用のドレスに着替えて出席する。

 早速着替えてパーティー会場へ向かうと秋斗の一気に増えた身内達がグラスに酒を注いで雑談していた。


「主役の登場じゃぞ!」


 いち早く秋斗の入場に気付いたヨーゼフが笑顔で声を上げて主役の登場を知らせると、皆が拍手して秋斗を迎え入れた。


「お疲れ様でした。いやぁ、本当によかった」


 フリッツが秋斗へ歩み寄り、新しいグラスに酒を注いでから手渡す。


「みんな綺麗だったわね。私もまさか秋斗の結婚式を見れるなんて思っても見なかったわ」


 少女の見た目をしたアドリアーナ――最近は髪型をツインテールにしてて子供にしか見えない――がワインを片手にやって来て、手に持っていたグラスをグビグビと煽る。


 目覚めて王都に来てから彼女はこの見た目でワインを嗜んでいるが法律的に大丈夫なのだろうか、と思う所があったが自宅用のワインはアルフレッドが買って来るらしい。

 本人が買いに行ったら店番のお姉さんに販売拒否されたという。


「最後のパレード、お前等のせいだろう?」


 秋斗はアドリアーナとグレンを恨めしそうに見つめるが、2人は肩を竦めておどけてみせる。


「面白そうだったから」


「私の場合は……どうせ、自分の時にやらされるから先制攻撃したまでだ」


「この野郎……」


 2人と話していると、妻となった4人がパーティ用のドレスに着替え終えて入室してきた。


「お待たせ」


 リリを先頭に秋斗の傍へとやって来て、旦那である秋斗を取り囲む。

 ヒューヒューと茶化されるくらいにはラブラブな5人であった。


「主役も揃ったようだし乾杯しよう」


 フリッツがそう言うとグラスを掲げてゴホンと咳払いを1つ。


「偉大なる賢者、秋斗様と我等が娘達との結婚を祝して乾杯!」


「「「「 乾杯! 」」」」


 パーティが始まると妻達はそれぞれ好きな行動を取り始める。

 真っ先に食事を取りに行く者(2名)、親へ挨拶しに行く者、夫の空いたグラスへおかわりを注ぐ者。


 秋斗も妻の親達に話しかけられ、会話に花を咲かせていると突如食事コーナーの辺りが騒がしくなった。

 どうした? と誰もが様子を伺うと、そこには口を押さえているリリの姿が。


「おい! リリ!」


 秋斗の脳裏に嫌な予感が過ぎる。

 まさか、毒か? と。まさか国内に敵が紛れ込んだのか? と様々な憶測が過ぎった。


 そんな事を思いながらもリリへ駆け寄るが、彼女は口を押さえたまま部屋の外へと走って行く。


「アドリアーナ!」


「わかってる!」


 アドリアーナはリリを追いかけて外へ出て行き、秋斗は急いでスキャンの術式を起動してリリの食べていたと思われる食事の皿を調べ始めた。

 しかし、毒物の類は検出されない。


「あ、秋斗様……」


 顔を真っ青にしたロイドがフラフラと歩み寄るが、秋斗は首を横に振って答える。


「毒じゃなさそうだ。検知されなかった」


 秋斗の言葉にホッとするロイドであったが、原因がわからないのはマズイ。

 リリを追いかけたアドリアーナが何が原因なのかわかればいいのだが、と思いながら秋斗も2人を追いかけようとするが、それよりも早くリリとアドリアーナが戻って来た。


「大丈夫なのか?」


 秋斗は2人に声を掛ける。

 リリはハンカチで口元を押さえているが、アドリアーナは特に深刻そうな顔もしていない。むしろ、笑顔であった。


「大丈夫よ。ほら、リリ。貴方の口から教えてあげなさい」


「うん」


 リリは秋斗の傍へ歩み寄り、秋斗の手をとって自身のお腹に当てる。


「できた」


「何が?」


「秋斗の赤ちゃん。赤ちゃんができてた」


 リリの言葉を聞いて、室内はシーンと静まり返る。

 秋斗もポカンと口を開けたまま硬直していた。


「うおおおおおお!!! やったああああ!!」


 静寂を破ったのはロイドの雄叫びとガッツポーズだ。

 彼に続いて他の皆も正気に戻って「やった! やった!」と喜びの声をあげた。 


「やったじゃないか! 秋斗!」


 グレンに肩を組まれ、祝福の言葉を受けるが秋斗は短く「ああ」としか返せなかった。


「嬉しい?」


 未だ頭の整理が追いつかない秋斗へリリが問う。

 

「嬉しい。けど、なんか……。あんまり実感が湧いてこないな」


 困ったように笑う秋斗だが、既に父親であるフリッツ達が秋斗へ「そんなものです。生まれたら実感するものですよ」と声を掛けた。


「はいはい。秋斗の奥さん、リリ以外はこっちに集合よ。他の子も妊娠していないか調べるから私に付いて来なさい」


 アドリアーナがパンパンと手を鳴らして言うとソフィア、エルザ、オリビアは「はーい」と元気な声をあげてアドリアーナへ付いて行った。

 数分後、彼女達が戻ってくると――


「私も妊娠していました」


 リリだけでなく、ソフィアも秋斗の子を妊娠していた。

 秋斗はリリとソフィアの手をとり、ありがとうと言って2人を抱きしめた。


 この日、ロイドとルクスは肩を組みながらテンションアゲアゲで朝まで酒を飲んで嫁にめちゃくちゃ怒られた。

 秋斗は妊娠していなかったエルザとオリビアに死ぬほど搾り取られていた。


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