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134 慌しい春


 新年開始から4ヶ月。

 本日、4月10日。


 新年を迎え、賢者の象徴でもある桜の開花を見計らっていたレオンガルド王国では大イベントが催されていた。

 イベントの名は『新王国建国祭』


 遂に4人の王達が予てより進めていた東側全王国統一が実現されようとしていた。


 この大イベントは2日間行われ、1日目は新王国アークエル王国の建国祭。2日目は魔工師御影秋斗と4人の婚約者の結婚式が催される予定となっていた。


 レオンガルド王国王都には、新王国樹立であり東側全国統一という電撃発表が成された1週間前から続々と人が集まり始めた。


 建国祭当日の大通りは多くの人で犇き、家の屋根に登って式典を眺める者まで出るほどの盛り上がりを見せている。

 そして祭り開始の午前10時。

 

 4ヶ国の騎士団30名に囲まれ、最初の5人に倣った5種族の代表がレオンガルド王国入場門に立っていた。

 フリッツ、セリオ、エリオット、ルクス、ヨーゼフの5名はこの日の為にエリザベスが高級素材で作り上げた礼服に身を包み、大通りの中央を一列で歩いて行く。

 

 彼らの左右には4ヶ国の騎士が入り交じり、胸の前に剣を掲げながら王と共にレオンガルド王国王城エリアにある円形広場を目指す。

 5人は威厳溢れる姿を集まった東側の住人に晒しながら、ゆっくりと目的地まで歩く。


 王城エリアの門を潜ると、そこからは各国から集まってきた賢者教の聖職者達が通りの左右、地面に膝をついて5人を迎える。

 彼らの祝福を受けながら円形広場まで進むと、広場中央にある1本の桜の木と石碑の前には2人の賢者と賢者の友が立っていた。


 中央に秋斗が立ち、右にアドリアーナ、左にグレン。彼ら3人から斜め後ろに賢者教の大司祭エミルが控える。

 5人は秋斗達の前まで行くと、膝をついて頭を下げると控えていたエミルが王達へ声を掛ける。


「種族を代表する5人よ。此度はどのような用件で参られた」


 エミルが仰々しく王達を見下ろしながら問うとフリッツが5人を代表して答え始める。


「偉大なる賢者様。この度、失われし大国の名を持つ国を建国する事になりました故。ご報告とご許可を賜りに参りました」


 エルフニアで行った儀式のように、王の上に位置する賢者へ建国の許可を貰いに行くという設定だ。

 建国祭の大よその日取りが決定した際に、賢者教が絶対やります、と言い出してから2ヶ月間。


 秋斗達は空いた時間でこの儀式の練習をみっちり行ってきた。


「よくぞここまで民を率いてくれた。5人の功績を称え、古の時代より栄えた伝説の国の名を名乗ることを許そう」


 秋斗が威厳たっぷりに告げると、5人は「ありがたき幸せ」と言って手を祈るように組んだ。


「今日を持って東側をアークエル王国と名乗ることを認めます。そして、ここレオンガルド王国王都を改め、アークエル王都とします」

 

 大司祭エミルは手を空へ掲げながら宣誓した後に、祈りを捧げた。

 

 こうして東側はアークエル王国と正式に名乗ることができるようになり、5人の代表が恭しく礼をした後に広場から去って儀式は終了。

 秋斗達もその場から退場して、本日のお勤めは終了なのだが……秋斗はここからが本番であった。


 屋敷に戻れば、屋敷の主人が戻ったというのに気付かないほど慌しく動き回るメイドと執事達。

 そんな中で唯一平常運転しているアレクサが秋斗を玄関で出迎える。


「おかえりなさいませ。早速ですが、エリザベス様が明日の衣装を持っていらっしゃっていますので試着をお願いします」


 屋敷内が慌しい理由。

 それは明日、秋斗と婚約者達の結婚式が行われるからだ。


 アレクサに急かされて秋斗は自分の執務室へと向かう。

 執務室のソファーに座って眉間を揉み解していると、扉がノックされ返事を返すとアレクサがエリザベスを連れてやって来た。


「ハァ~イ。お待たせェ~」


「おお、エリー。悪いな、折角の建国祭だってのにウチで拘束しちゃって」 


 エリザベスは2ヶ月前から御影邸へ何度も訪問し、婚約者4人のドレス製作について本人達と打ち合わせをしていた。

 その後ドレスが完成してからも細部の調整などがあるため、ここ最近はずっと御影邸で婚約者達のドレス製作しかしていない。


 店も閉めたままであるし、今日も建国祭だというのに朝から御影邸で働かせっぱなしだ。

 さすがに秋斗も申し訳なくて堪らない。


「何言ってるのよン。賢者様のお相手のドレスを作ったとなれば私の名もググーンと上がるんだからン」


 もう既にかなりの有名人だと思うが、明日の結婚式のドレスを手掛けたのはエリザベスだと王都でも大変な話題となっている。

 屋敷のメイドの話によれば世の女性達はリリ達と同じドレスを着て結婚式を挙げる、というのは目標に追加されたようだ。


 因みにドレスの素材は超高級な魔獣素材等を使用しているのでお値段なんと一着で一般年収5年分になる。

 秋斗の婚約者4人分のドレスを合算すると御影邸を建設したお値段の7割に相当するという、最高権力者らしい値段のドレスだ。

 

 嫁入り衣装という事で各婚約者達の実家から捻出されたポケットマネーで支払ったが、家で代々受け継いでいかないと元が取れないレベルでお高い。

 婚約者達と彼女らの母親は「子や孫が女の子なら着せる」と言っていたが……。


「これ、明日の衣装ねン。試着して貰って変なところがなければOKよん」


 手渡された白のタキシードを受け取り、鏡の前でエリザベスに補助してもらいながら試着する秋斗。

 

「うん。大丈夫そうねン。貴方の私服を作って今度は結婚式の衣装まで作るなんて……なんか感動しちゃうわン」


「出会った頃は既にリリとソフィアと婚約はしていたが……まさか俺も婚約者が4人になるなんて思ってもみなかったな」


 鏡の前で出会った当時を思い出しながら語り合う2人。

 この時代に目覚め、右も左もわからなかった秋斗であったが今思い返せば本当に運が良かったとしみじみ思う。


「ふふ。大切にしなきゃダメよン。アキトの子供のベビー服もデザイン考えているから任せてねン」


「はは、よろしく頼むよ」


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