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13 再会とお姫様

「賢者様ー! 来たッスよー!」


 草むらを掻き分けて現れたのは再会を約束した相手であるケビン。

 ケビンの姿を確認した秋斗は、身を隠していた崩壊した壁から姿を見せる。


「よう! 約束通り来てくれたんだな!」


 秋斗は手を振って笑顔でケビンに向かって歩いて行く。リリもその様子を見て姿を現し、秋斗の後ろをついていった。


「もちろんッスよ! 約束したッスから! ……あれ、そちらのお嬢さんはリリ様?」


 ケビンも笑顔を浮かべて秋斗に歩み寄ると、秋斗の後ろにいたリリに気が付く。


「ああ、エルフ狩りとやらの被害にあっていたのを保護したんだ」


 秋斗は後ろにいるリリに振り返り、ケビンが去った後に起きた出来事を説明した。


「なるほどッスね~。リリ様は運が良かったッス。帝国のエルフ狩りに遭った者は向こうに連れて行かれて奴隷にされるッス」


 秋斗から説明を受けたケビンは腕を組んで眉に皺を寄せる。


「秋斗がここにいてくれて助かった」


「そうッスね。賢者様がいなければ今頃は帝国ッスよ」


 ウンウンと2人は頷き合う。その様子を見ながら秋斗は再会してから思っていた疑問を口にした。


「ところで、賢者様ってなんだ?」


「え。賢者様ってお兄さんのことッスよ」


 ケビンの言葉に秋斗はリリと顔を見合わせる。


「なんで俺が賢者だってわかったんだ? 後ろにいる奴等と何か関係があるのか?」


 秋斗はクイッと顎でケビンの背後にある草木を示す。


「その事も含めて紹介したい人がいるッス。いいッスか?」


「紹介したい人?」


「自分の先生ッス。あとお姫様ッス」


 ケビンから聞き捨てならない言葉が告げられると、秋斗が答える前にリリが秋斗の腕を引っ張って後ろへ連れて行く。


「リリ、どうしたんだ」


「お姫様って言った」


「ああ、ケビンが言ってたな。なんだお姫様って。エルフの国のお姫様か?」


 秋斗はリリから聞いていた、賢者は国で保護されるという話を思い出す。

 

「多分そう。秋斗に会いに来たんだと思う」


「やっぱりそうか。リリが言っていた保護の話か?」


「うん……。秋斗はどうしたい?」


「俺は……」


 リリが秋斗を見つめながら答えを待つ。

 秋斗は今後の身の振り方について考えを巡らせる。


 自分が現代でどう生きるか。親友との約束を守るにはどう生きればいいのか。

 それを決めるにはこの時代の情報が圧倒的に足りない。


 情報を得る為に国という組織の中に入るのも悪くはないだろう。リリの話を聞く限り、エルフの国やその周辺にある国は悪い国ではなさそうだった。


 それにケリーという賢者の事もある。恐らく知人だと思われる賢者ケリーの生涯を知るのも、今後の生き方を決める為の材料として得たい情報の1つでもある。

 

 それに、ここでリリと共に暮らすというのは限界がある。今まで街で暮らしていたであろう彼女に対して今のような不自由な生活をさせたくない。

 リリと暮らした数日はとても心地が良かった。


 初めは彼女の事を理解し、受け入れられるのかという懸念もあったが――秋斗の心にはリリという存在が必要不可欠だと思えるほどリリへの想いを自覚している。


 一緒に暮らしてたった数日だが、彼女と離れたくない、とその気持ちが強くなっていくのが秋斗にはハッキリと認識できていた。

 自分が親友と約束した幸せを得るには彼女が必要だ、と秋斗の心が叫ぶ。


「俺はリリといたい。国に理不尽を押し付けられたら、リリと逃げたいんだが……ついてきてくれるか?」


 秋斗はまっすぐ、リリを見つめて告げる。

 その言葉に、リリは頬を赤く染めて頷いた。


「うん。どこへでも付いて行く。旦那様」


 リリは秋斗に抱きつき、胸元に顔を埋めた。


「あのー。そろそろ良いッスかー? 後ろの人呼んでいいッスかー?」


 2人のイチャラブを遠目で見ていたケビンは『これ終わらんわ』と察知して長くなる前に空気を読まず叫ぶ。ここで呼ばないと姫様に自分が怒られてしまうのだ。

 ケビンの叫びを聞いて、ラブコメ空間から帰還した秋斗とリリはケビンの下にいそいそと戻る。


「よし。準備は良いぞ。呼んでくれ」


「わかったッス。先生ー! 姫様ー! 来て下さいッスー!」


 ケビンが後ろに向かって叫ぶと、ガサガサと草木が揺れる。

 現れたのは老人のエルフが1人と綺麗な白いドレスを着た女性とその護衛らしき女騎士が5名。

 最初に口を開いたのは老人のエルフ。


「失礼致します。私はアランと申します。まずは、私の弟子がお世話になったようで。お礼申し上げます」


 アランと名乗った老人エルフは秋斗に綺麗なお辞儀しながら礼を述べる。


「いや、そこまで大した事はしていないんだが……」


 秋斗は思っていた以上に丁寧な礼を述べる老人に驚きつつ、その横で自分を物凄く凝視するドレスを着た女性の視線に困惑する。


(ヤベェよ。この女めっちゃ見てくる。ガン見どころじゃねえよ)


「ところで……こちらを見て欲しいのですが」


 秋斗が困惑の元に感想を浮かべていると、アランはページの開かれた一冊の本を秋斗に差し出す。

 差し出された本を受け取り、開かれたページを見ると秋斗にとって懐かしい内容だった。


「これ、俺が初めてインタビュー受けたやつだ。懐かしいな。確か魔工師の称号を国から貰った時のやつだな」


 開かれたページには、秋斗が魔工師という称号を得た際に初めてインタビューを受けた時の記事が写真付きで載っていた。


 月刊サイエンスという最新技術や理論の論文も掲載する専門誌で、今後どのような研究をするのか等の質問を記者から受けたのを思い出す。


「はは。俺、すっげえ緊張してる。これを研究所の奴等に見られてめっちゃ笑われたんだっけな」


 秋斗は、緊張で顔が強張っている自身の写真を見ながら当時を思い出して感想を告げる。


「それにしても、こんな雑誌よく残ってたな。保存の魔法掛かってるし」


 秋斗は本の状態を見ながら感心する。持ち主は何重にも保存の魔法を施して新品状態を維持していたようだ。

 1000年以上経っても新品同様なんて、やはり魔法ってヤツはすごい。


「こちらにも見覚えがありますか?」


 次はドレスを着た女性が見せてきたのは1枚の金属製カード。

 こちらも秋斗には見慣れた物だった。


「これは……。第6研の認証キー? ケリーのか?」


 金色をした金属製のカードには麦畑が刻印されていた。

 それはケリーが所属していた第6研究棟に割り振られた農業技術研究所にある所長室に入退出に使用する認証カード。


 秋斗が研究所のセキュリティ問題を改善する際にケリー専用に作ったカードで、存在を知っている者はごく僅か。

 作った本人である秋斗、もしくは各研究所の所長であるアークマスター達のみがカードの意味を知っている。


「やはり……」


 秋斗がカードの正体を告げると、アラン達全員は片膝を付いて秋斗に向かって頭を垂れる。

 突然の事に驚く秋斗を余所にドレスを着た女性が口を開いた。


「アークマスター。魔工師であらせられる御影秋斗様。数々のご無礼、お許し下さい。そして……お会いできた事に感謝を」


「はっ!? えっ?」


 跪くエルフ達に困惑しつつ、リリに視線を送る。

 リリは腕を組んでムフーと自慢気に跪くエルフ達を見下ろしていた。うちの旦那スゴイでしょ? と言わんばかりの姿に秋斗は彼女に頼るのを諦めた。


「と、とりあえず落ち着け。ドレスが汚れるから立った方が良い。他のみんなも跪くのはやめてくれ」


 秋斗は一先ず現場の改善に乗り出す。跪かれるなんて経験が初めてでアークマスターとしての威厳など微塵も無く若干アタフタしてしまう。


「ありがとうございます。秋斗様」


 顔を上げて立ち上がったドレスの女性は目をキラキラさせながら秋斗を見つめる。

 他のエルフ達も尊敬の眼差しを秋斗に向けていた。


「ま、まずは自己紹介からで……。俺は御影秋斗。魔工師。26歳です」


「はい、秋斗様。私は、エルフニア王国第一王女 ソフィア・エルフニアです。207歳です」


 ソフィアと名乗った女性の見事なお辞儀に『これはご丁寧に』と秋斗もお辞儀をする。


「ところで……秋斗様の後ろにいるのは、リリ?」


 ソフィアがリリに視線を向けると、リリは秋斗の横に並び立つ。


「うん。ソフィー。久しぶり」


「貴方が何故ここに? 叔父様がリリが消息不明だと心配していましたよ?」


 ソフィアがリリが居る事に疑問を口にすると、リリは秋斗の腕に抱きついてソフィアに告げる。


「私、秋斗の妻になりました。ウフ」


 秋斗の腕がむにゅんとリリの胸に埋まると、周囲は静寂に包まれる。

 サアアアアアアという春の風が木々を揺らすと――


「ほげえええええええええええええ!!!!」


 エルフニア王国第一王女であるソフィア・エルフニアの絶叫が響き、白目を剥いて気絶した。


-----



「改めまして。エルフの国、エルフニア王国で宮廷魔法院の長をしております。アランです。弟子のケビンはご存知でしたね。こちらの女性は近衛騎士団所属、姫殿下専属護衛隊隊長のジェシカ殿です」


「あ、ああ、よろしく。つーか、あれは大丈夫なのか……?」


 アランが改めて自己紹介と他のメンバーを紹介した後、秋斗が目線で示す先には盛大に気絶して復活したお姫様が離れた場所で体育座りしつつ目が虚ろになっている。


 そして、それを囲むように護衛しながら彼女に対してどうしていいのかわからない表情を浮かべる騎士。なんとも痛々しい光景に秋斗も困惑を隠しきれない。


「あちらはお気にせず。ちょっとした手違いです」


 ジェシカはサッと秋斗の前に移動して視線を遮る。


「そ、そうか。一先ず、そちらがここに来た理由を知りたいんだが」


「はい。アラン殿とケビン殿。ご説明はお任せしてもよろしいですか? 私は姫様を見てきます」


「わかりました」


「賢者様。失礼致します」


 ジェシカはアランにその場を任せ、秋斗に一礼すると闇を展開する一角へ歩いていく。

 その場に残った者達は歩いていくジェシカを見送った後、会話を再開する。


「ゴホン。まずは私達が賢者様の下へお伺いした経緯ですが……ケビンに食料を持ってきて欲しいと依頼したようですが合っていますか?」


「ああ、あの時は俺一人でここに居てな。持っていた食料も少なかったんで頼んだんだ。その後、リリと出会って彼女が狩りをしてくれたおかげで余裕が生まれたが」


「そうでしたか。ケビンから賢者様との話を聞きまして、我々は食料を持ってきました」


「手間を掛けさせてしまったようで申し訳ない。ケビンも約束を守ってくれて助かった」


 秋斗は頭を下げて謝罪する。 


「やめて下さいッス! 魔道具を直して貰ったお礼ッスから気にしないでほしいッス!」


「そうです。我が弟子をお助け頂いたのですから……私からも改めてお礼申し上げます。偉大なる魔工師、御影秋斗様から直々に魔道具の修理をして頂けるなんて……これ以上にない程の事です!」


 アランは秋斗の謝罪以上に腰を折って深々と頭を下げる。


「いや、本当はあの程度どうって事ないんだがな……」


 秋斗はアランや他の人達が見せる態度に困惑してしまう。それと同時に、自分が今後どのような扱いを受けるかという事に多少の不安を覚える。


「ここに来たのは食料をお持ちしたのもありますが、他にも理由がありまして」


 会話が再開し、アランの切り出しに秋斗は本題が来たなと心の中で呟く。


「よろしければ、我が国の王都へご同行して頂けないでしょうか? 魔工師である御影秋斗様を見つけたら保護してほしいと、豊穣の賢者であるケリー様からのご依頼が遺言として伝わっております」


「賢者ケリーとは、ケリー・オルソンか?」


 秋斗は確認の為にかつての同僚のフルネームを口にする。

 少し前から一緒に暮らすリリからもケリーが同一人物なのか何だかんだタイミングが合わずに聞けなかった。


「はい。豊穣の賢者ケリー・オルソン様です。こちらにケリー様の写し絵が」


 アランはケビンの肩に掛かっているショルダーバックから一枚の巻かれた紙を取り出す。

 彼が、やや古ぼけた紙を慎重に広げると秋斗のよく知るケリー本人が肖像画として描かれていた。


「ああ。俺の知るケリーだ。ケリー・オルソン。そうか……。あいつはもう逝ったか……」


 秋斗は共に切磋琢磨し、知識を磨き上げてきた同僚を思い出す。

 特に技術院で生徒時代の頃に同期だった彼とは様々な思い出がある。


 卒業した後、技術院の研究者になった後も新種の野菜を作り出す為にその研究機材を一緒に作ったり。

 種を量産する為のプラントを設計するのに何日も一緒に徹夜したり。休みの日には他の者達も誘ってキャンプへと一緒に出掛けた思い出もある。


 思い出せばキリがない程に過ごした時間は長い。

 そして、同僚としても友としても仲が良かった彼はもうこの世にいない。


「……はい。ケリー様の最後は、お孫様達に囲まれて安らかに逝かれたと伝わっております」


「そうか……。あいつは結婚したか。ハハ、当時は研究に没頭しすぎて研究所で野菜を抱えて眠ってたクセに」


 あの光景はよく飲み会のネタになっていたな、と秋斗は肖像画に描かれた凛々しい賢者からは想像もできないケリーの姿を思い出す。

 彼との思い出を思い出しながら、彼の最後を聞いて目頭が熱くなるのを感じる。


「そうなのですか。ケリー様の直系の子孫は人族の国であるレオンガルド王国におります。一度お会いになってみては如何ですかな」


 アランも秋斗の心中を察してか、笑顔で答えてくれる。


「そうだな。あいつの家族に会ってみたいなぁ……ってそうだ。ケリーの依頼で保護するってのはどういう事なんだ?」


 秋斗は腕で目をゴシゴシと拭いた後、話の続きを聞くべくアランへ問いかける。


「ああ、そうでした。実は、そのケリー様の直系の子孫であるオルソン家からケリー様の遺言という形で東側にある各国に伝わっておりまして。古の時代より目覚めた賢者様の保護、特に秋斗様のようなアークマスターと呼ばれる方々が見つかったら保護してケリー様の残した物を見せて欲しいというのが内容です」


「ケリーの残した物?」


「はい。何やら秋斗様に残した手帳があるとか」


「俺とケリー以外は見つかっていないのか?」


「はい。ケリー様より、他のアークマスターである方々の名前や風貌であったり容姿なども伝わっておりますが、長き眠りから目覚めたと伝えられているのはケリー様と今現在お目覚めになられた秋斗様のみです。もしかしたら、アークマスターの方々や他の方は遥か昔にお目覚めになられて記録や伝承に残っていないだけかもしれませんが……」


 アランの答えに、秋斗は顎に手を当てて考える。

 現在の技術レベル等を考えても他のアークマスターが目覚めていたのなら、もっと技術の進歩か伝説のような物が残っていてもおかしくない。


 ケリーを筆頭にアークマスターの技術や知識は強烈だ。人格も強烈な奴もいるが、リリに聞いた文明のレベルから考えると目覚めてはいないのではと考える。

 もしも、他のアークマスターの中に自分と同じように生きている者がいたとしたら。


 ケリーの遺言というのも気になるが、秋斗の頭の中に他のアークマスターを探すという目的も生まれた瞬間だった。


「うーん。他の奴等を探す、か……。ともかく、情報収集するにも人がいる所には行こうと思っていたんだ。ケリーの子孫にも会いたいし、まずはエルフの王都へ行こうと思う。リリもそれで良いか?」


 後ろで秋斗のシャツの端っこをちょこんと摘むリリに振り返りながら問いかける。


「うん。私は秋斗についてく」


 リリもコクリと頷き、秋斗の王都行きは決定した。


「おお! それは良かった! きっとケリー様のご家族もお喜びになられますよ!」


 アランも秋斗の同行にホッとした様子で喜ぶ。


「秋斗、王都に行くなら荷物を纏めないと。あと、ご飯がまだ」


 リリの指差す先にはフライパンの上で放置されたロース肉。幸い、火にはかけていないのでコゲにはなっていない。後は焼くだけという状態で放置されている。


「ここまでは馬車で来たので荷物は載せられますし、今日はもう遅いですから明日以降に移動しましょう。食料も多めに持ってきておりますので、ゆっくりご準備なさって下さい」


 アランは顎鬚を触りながら笑顔で告げる。

 

「んじゃ、メシ食おう」


 秋斗は新たな仲間達と共に食事の準備に取り掛かる。

 仲良くなる第一歩は共に食事する事だろう、と出会ったばかりのケリーに言われた言葉を思い出して笑みを浮かべた。

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