表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

139/160

133 一年の終わり

 

 会議の後はアドリアーナを歓迎するパーティが開かれ、王都に住む全貴族が召集されるほどの盛大な催しとなった。

 特にケリーの子孫であるカールと顔合わせをした後、彼女は嬉しそうに生前のケリーとの思い出話をオルソン家の者達に語ってパーティを過ごしていた。


 翌日、秋斗とアドリアーナは主要メンバーを引き連れて空間魔法で作られた空間へ接続する転移門の設置に取り掛かる。

 設置場所は御影邸の裏庭だ。


 転移門の守護は御影家の役割とし、御影邸の裏庭に設置した転移門を囲うように小さな小屋を後で建てる予定となっている。

 今日は転移門を設置してアルフレッドに知らせたらグレゴリー達の棺をケリーの墓の近くに埋葬する作業を行う。


「これで設置完了よ」


 アドリアーナと秋斗が転移門のパーツを組み上げ、アーチ型の門を完成させる。

 門の側面に触れると門の中央に魔素が集まり始めて異次元への入り口が起動した。


「じゃあ中に入ろう」


 秋斗を先頭に王家とグレン、数名の騎士を連れて中へ。

 誰もが空間魔法で作られた世界に驚きを隠せず騒いでいるうちにアドリアーナはアルフレッドを呼びに向かった。


「では、向こうの門は回収します。レオンガルドに着いたら御影邸を訪問致します」


「うん。気をつけて」


 アルフレッドは4人の王から身分の証明書と王達の発行した特別通行書を受け取った後に洞窟側へ渡っていった。

 彼が受け取った書類はラドール王都の港で見せれば最優先で船に乗り込む事ができ、レオンガルド東街の馬車組合に見せればタダでレオンガルド王都までケンタウロス馬車を利用できる。


 レオンガルド王都に到着すれば、身分証明書を門番に見せると御影邸まで案内してくれるという至れり尽くせりな書類だ。

 4人の王にしてみれば賢者の従者である最初の5人の一員であるアルフレッドならば当然の待遇なのだろう。


 一方で、レオンガルドの騎士達はグレゴリー達の棺を慎重に運び出していた。

 過去に存在した偉人達の遺体搬出ともなればレオンガルド王国騎士団総長が直々に指揮を執っている。


 運び出された棺は一時御影邸の裏庭に並べられ、そこで賢者教の司祭と大司祭エミル達による死後の旅を祝福する祈りが捧げられる。


「この御方が秋斗様の師にして魔王グレゴリー様……」


 エミル率いる聖職者達はグレゴリーと研究員達の顔を見てから、膝をついて祈りを捧げ始めた。

 その傍らで、秋斗はアドリアーナへ質問を投げかける。


「ヘリオンはどうしたんだ?」


「彼は……いないわ。私が眠る前に別れてね。行方不明」


 秋斗は彼女へ疑問を告げるが、答える側であるアドリアーナはこれ以上語らなかった。

 知っていれば既に語っているだろうし、それ以上の事は本当に知らないのだろう、と秋斗も問うのを止めてエミル達が捧げる祈りへ視線を戻した。


 エミル達の祈りが終わった後、棺を持ってケリーの墓がある叡智の庭へ向かう。

 そこでは既にケリーの子孫であるカールとオルソン家の者達が棺を納める穴を掘り終えて整列していた。


「皆様。ご用意は出来ております」


 事前に打ち合わせた通り、グレゴリーの棺はケリーの隣。

 他の研究員達もその近くに埋葬されるよう準備がされていた。


 全員で少しずつ棺へ土をかけて埋葬した後に、ヨーゼフ達の力を借りて秋斗が一晩で製作した墓石を設置する。

  

「ありがとうよ。爺さん」


 埋葬し終えて設置した墓石の前に花束を置く秋斗の瞳は寂しそうに揺れた。



-----



 グレゴリー達の埋葬が終わり、賢者教による厳かな葬儀が終了した翌日には全員日常へ戻っていった。

 王家は国の統一へ向けて国政や制度の改正などを進め、秋斗とヨーゼフは魔道具作りと平行して技術学園の設立に関する事項を関係者と本格的に詰め始める。


 グレンは特殊部隊の魔法剣等の新装備をテストしながら、全国の騎士団を少しずつレオンガルドに召集して新戦術と新装備の取り扱いについて指導。

 アドリアーナは医療院にて医療技術の授業と奴隷被害にあった者達の診察と処置をレオンガルド王都から始めていった。


 各自仕事をしつつ日常を過ごし、早くも年末へ差し掛かる。

 王家と御影家、アドリアーナ、グレン、ジェシカは王城に集まって、身内だけで催す今年最後の会食兼年越しパーティを楽しんでいた。


「今年もあと3時間で終了ですか。来年は忙しくなりそうですね」


 東側では1年の最後を12月31日とし、新年は1月1日からだ。

 1~3日まではどの商会も休みとなるため、12月27日くらいからは食材等の買い溜めも始まってどの街も年末最後の盛り上がりを見せる。

 

 秋斗も婚約者達とメイド執事を引き連れ街で食材やお菓子の買い溜めを行い、3日までは家でゆっくりと過ごす予定となっている。

 それは王家も変わらず、4日には全貴族が王城に集まって新年の挨拶などを行う仕事始めまで政務を忘れて家族水入らずで過ごすようだ。


 よって、本日の家族も参加する年越しパーティが終わったら4日までは何事も無ければ顔を合わせる事はないだろう。


 御影家の女性陣はパーティが始まるとアドリアーナへ殺到し、何やら相談をしているようであった。

 年末に近づくにつれて女性陣がローテーションだの、1日目は私、などと相談事を連日行っていた事を目撃した秋斗は、少々嫌な予感がしながらも31日を迎えてグレンやエリオット達と酒を飲み交わしていた。


 31日が終わるまであと1時間となったところで、エリオットとイザークが2人の肩に手を乗せる。


「秋斗さん。グレンさん。頑張って下さい」


「武運を祈ります」


 秋斗とグレンは顔を見合わせて疑問符を浮かべる。

 そんな彼らに2人から特別なドリンクが入った瓶を3本ずつ紙袋に入れて渡された。


「まさか……」


 ドリンクの原料はかの偉大な賢者、ケリー・オルソンが栽培を始めたビンビン草。

 東側に住む肉食系女子に捕まった男性の強い味方だ。


「年始は3日間家に篭りますよね? 何故だと思いますか?」


「子供がいる家は普段触れ合う時間の少ない家族と過ごします。では、子供のいない家は?」


 秋斗とグレンの顔は絶望に染まってゴクリ、と喉を鳴らした。 


「私はクラリッサがいるから平気ですけどね」


「僕も2人と一緒です。頑張りましょう」


 イザークは既に全てを諦めていた。

 愛しの妻が既に3日間外に出なくても良いように、食事の時間から入浴の時間まで細かくスケジュールを組んだ紙を寝室の壁に貼り付けていたからだ。


「お互い、生きて会いましょう。特に秋斗は……」


「ど、どうにもならんのか……?」


 湖で過ごした夜の再来を感じた秋斗は、戦友達の顔を一人一人見つめるが誰もが首を横に振った。


「……カーラの話によると、既にあの4人は準備万端なようです」


「うちの妻も嫁会議に参加した、と言っていましたよ」


「私もジェシカが鼻歌交じりに準備をしていた。理由を問えば頬を赤らめて言ったんだ。アドリアーナ博士と御影家の4人から色々聞いた、とな」


 最近幸せを掴んだグレンも秋斗の苦労を知った。そんなグレンはニコリと笑みを浮かべながら「お前は偉大だ、尊敬すべき男だ」とガチな本音を零した。


 3人からの激励を受けた秋斗はグラスに酒を注ぐ。

 他の者達も酒を注いでから4人はグラスを掲げた。


「生きて再会しよう」


 秋斗が言うと、3人は頷いた後に全員でグラスをチン、と音を鳴らしながら触れ合わせた。


「「「「 乾杯 」」」」


 ハッピーニューイヤー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ