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131 閑話 もう1組の


 一方、レオンガルドでは。


「あのぅ。姫様。なんで私がここに呼ばれたのですか?」


 御影邸のリビングにあるソファーにはソフィアとエルザに視線を向けられ、2ヶ国の姫に縮こまりながら1人用ソファーに座るジェシカがいた。

 

「そんなの決まっているじゃない。グレン様との馴れ初めを聞くためよ?」


 ああ、遂にこの時が来たとジェシカは観念するようにうな垂れる。

 愛しの相手となったグレンから「御影家にバレた」という報告を受けて以来、いつ聞かれるかとビクビクしながら過ごしていた。


 しかし、彼女もささやかな抵抗として過密なスケジュールを組んで「忙しいアピール」をしていたのだが、労働者に優しい東側の労働規定では週に1回は休みを取らなければならない。

 忙しいアピールついでにここ最近溜まった業務を消化していたが、それを読んでいたソフィアが王族命を使って彼女を屋敷に招集。


 雇用主には逆らえない、たった4日間の虚しいアピールタイムに終わった。

 

「うう、やっぱり」


「いいじゃない。やっぱり気になるわ。それにグレン様の妻となるのですから、先人たる私達が気構えを教えてあげましょう」


 そう言うソフィアだが顔はニマニマと笑っていた。

 偉人の妻となる気構えを教えるのは本当の話なのだが、今回のメインはやはり馴れ初めの件についてだ。


「ええっと……事の始まりは皆様が湖に遊びに行った時で」


「「うんうん」」


「最初は独身同士ですから仕事に集中しないとーって話をしていたんです。特殊部隊設立の件で忙しく、毎日夜遅くまでお互い同じ部屋で仕事をしていて」


「「ふんふん」」


「私がお茶を淹れたり夜食を作ってあげたりしていたのですが、特殊部隊の件が落ち着いた頃にグレン様が日頃の礼と言って食事を奢ってくれまして。今思えばそれが切っ掛けだったと思います」


 ポワポワポワ~ン、とジェシカの脳内で回想が始まった。


 ジェシカの話では、その一件以来外で食事を共にする機会が増えたと言う。

 最初の1回目はお礼を兼ねた食事会、次はこの時代の料理に興味を持ったグレンへ美味しいお店を教える為に。


 最初は純粋に食事がメインであったが、ジェシカもグレンへ美味しいと評判の店を紹介するのが楽しくなり、ガイドブックを買って休日には一緒にあれこれ言いながら店を巡っていた。

 

 2人の会話は当然共通の知人である秋斗達の話だ。

 そうなれば婚約している秋斗達と自分達の現状を比べてしまうのは当たり前の事だろう。


 何度か食事をしている際にグレンからジェシカへ質問が投げかけられた。


「ジェシカ、君は婚約者はいないのか?」


「え? いませんよ? なんでですか?」


 この時、ジェシカはレオンガルドガイドブックに載っていた手羽先屋で特製タレに塗れた手羽先を2本食いしていたという。

 とてもじゃないがロマンチックな状況じゃない。


「いや、婚約者がいたら私との食事に付き合わせては悪いと思ってね。私が相手では断れないだろう?」


 これはグレンは自分の立場を考え、純粋にジェシカを気遣っての問いだった。


「はは。まさか。私なんかに婚約者なんていませんよ。ずっと騎士団に所属していますし、恋愛なんて」


「そうなのか? 君は仕事ができるし、気遣いもできる。君は良い奥さんになりそうだが……」


「ぐ、グレン様はどうなのですか? お見合いや婚約の申し込みのお話がきているのでは?」


 グレンからの評価にどこかくすぐったくなったジェシカは身を捩りながらグレンへ問い返す。


「いや、話はきていない。そもそも私も仕事一筋だったからな。堅苦しい男はダメだ、と自分でも思っているのだが」


「そうですか? 仕事中のグレン様、カッコイイですよ?」


 既に何日も同じ部屋で仕事をしていて心を許していたせいか、ジェシカはついつい本音で答えてしまった。


「そ、そうか」


 どこか照れるようなグレンの表情と言葉を受け、ジェシカは自分の言った言葉を思い出して顔が赤くなる。


「は、はい」


 この日から2人はどこかギクシャクしてしまい、仕事に集中できない日々が続く。

 今思えば手羽先屋で食事をした日からお互いに意識してしまっていたのだろう。


 そんなモヤモヤするような、ギクシャクした日々が続いたある日、グレンに再び食事へ誘われた。

 場所はレオンガルドでも高級な部類に入る一流レストラン。


「最近、仕事が捗らない。理由はわかっているんだ。あの日から君の事を考えてしまう。君と過ごす日々が楽しいと感じているんだ」


 グレンはレストランの個室で正直な気持ちをジェシカに伝えた。

 

「わ、私もなんです……」


 ジェシカも同様に。

 彼女の気持ちを聞いたグレンは安心したように笑顔を見せた。


「もしよければ、私と付き合ってくれないだろうか? 君と一緒にいると安心するんだ。公私共に一緒にいてほしい」


「は、はい!」


 ポワワ~ン。回想終了!


「なんて感じです」


「「普通かよ!」」


 2人の感想はごもっともであった。

 これはよくある職場恋愛のような話だ。


「もっとロマンチックだったり、対魔獣訓練中にドキッ! な感じかと思ったわよ! まさか手羽先屋でって!」


「びっくりするほど普通の職場恋愛ですね」


 意外と普通な馴れ初めにソフィアは物足りない様子だが、勝手に期待はずれ感を出されたジェシカもソフィアへ意見をする。


「むしろ、姫様なんて出会ったその日に婚約の申し込みしてたじゃないですか! 姫様が異常なんですよ!」


「違いますぅー。私は200年前から片思いしてたんですぅー」


 英雄譚を初めて読んだ時から秋斗の虜となったソフィアはぶーぶー言いながら反論した。


「まぁまぁ。それで、お付き合いが始まってどうですか?」


 エルザが2人を宥め、話を続きを促す。


「いやぁ、それがお付き合いを始める際に公私はしっかり分けようって話だったんですが。好きな相手が同じ部屋にいるじゃないですか。休憩中に手を握ったりしたら、その……」


 キャァ! と赤くなった頬に両手を当てて体をクネクネと揺らすジェシカ。


「それでそれで?」


 キャッキャッと騒ぎながら3人の女子会は夜まで続く。

 妻の気構え、という事に関しては一言たりとも発言されなかった。


読んで下さりありがとうございます。


次回更新は水曜日です。

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