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130 帰還の旅


 アドリアーナがリリを抱きしめた後の事を一言で説明すれば、リリを大変気に入って離れなくなった。

 そして、怪訝な表情を浮かべていた他の者達へアドリアーナは笑顔を浮かべながら――


「アドリアーナ・ヘルグリンデよ。秋斗のお母さんみたいなものだからよろしくね?」


 と言い放ったものだから、さぁ大変。

 唯一この場にいる現代の王族代表エリオットが秋斗へ「マジ?」という目線を送り、秋斗が頷きで彼女の言葉を肯定すると、未だ中腰状態で抱きしめられているリリ以外の全ての者が片膝を付いて頭を下げた。


「偉大なる賢者、聖母アドリアーナ様! 大変失礼致しました!」


 遂に3人目のアークマスター登場だ、ヤバイ、尊い、なんて可憐なお姿だ、とラドール騎士団の騎士達も口々に感想を漏らす。

 

「……どういうこと?」


「ケリーのせいだ。話しただろ」


 いきなり頭を下げられたアドリアーナは困惑しながら秋斗へ視線を向け、秋斗は溜息を漏らす。


「ああ! なんと! 秋斗様とグレン閣下だけでなく、聖母アドリアーナ様までお目にかかれるとは!」


 アランなど目からだくだくと涙を流して一生の宝じゃあ! と祈るように叫んでいた。


「そ、そう……。何というか複雑ね……」


 自分達が身勝手に作り出した生命達が異種族だ。

 アドリアーナは罪悪感と罪の意識を持っていたが、当の異種族の子孫からこのような扱いをされるとは思ってもみなかったのだろう。


 どのように彼らの気持ちを受け止めて良いかわからず、複雑な表情を浮かべていた。


「まぁ、とりあえずこの後の事だが――」


 秋斗はエリオット達を早々に立たせ、アドリアーナをレオンガルドへ連れて行く旨を伝えた。

 洞窟内にある転移門だが、アルフレッドが門番としてここへ残ると言ってくれているのでそれに甘えることにした。


 彼がここで転移門を守護し、秋斗とアドリアーナがレオンガルドに戻った際に転移門を設置。

 レオンガルドの門を通ってアルフレッドに伝えて、アルフレッドが洞窟の転移門を解除してレオンガルドへ船で向かうという手筈だ。


「そろそろ夜です。夜間の移動は魔獣が現れて危険ですから、ここで野営して朝から移動しましょう」


 アルフレッドを残し、ラドール王都へ戻るのだが空の色は既に茜色から黒に変わりつつある。

 残っていたエリオット達も秋斗が戻ってくるまでどれだけ時間が掛かるか不明であった為、数日分の食料や野営セットを持って来てくれていたようだ。


 空間魔法で作った空間の件は王家とグレンにのみ伝えようと事前に打ち合わせ済みだったので、一先ず伏せておいてエリオットの提案通りに今日は洞窟前で野営となった。


 騎士達が野営の準備をしてくれている間、アランやエリオットはアドリアーナに色々聞きたいようであったが、彼女はリリの横に座って離れない。


「秋斗はよくしてくれている? 何かあれば私に言うのよ?」


「大丈夫。秋斗はすごく優しい。奴隷となった人達も解放してくれたし、この前も――」


 アドリアーナはリリへ秋斗との出会いから今まであった事を詳しく聞いて盛り上がっていた。

 その様子を離れた位置から見ていた秋斗は、腕を引っ張られて連れて来られた後にエリオットから質問責めされていた。


「秋斗さん、どういう事なんですか? 秋斗さんしか経緯をしらないんですから、私の父と他の王家に説明する為にも事前に説明を下さい」


「いやーそれが、その……。俺みたいに生きていたっていうか……そのぉ……」


「いやいや、アドリアーナ様は秋斗さんより年上の女性なのですよね? でも少女の姿ですよ? 賢者時代だと普通なのですか? スキンケア技術ですか? それはそれで妻達が恐ろしいのですが……」


 秋斗はアドリアーナの見た目を上手く説明できず、助けて欲しいと当の本人に視線を送るが気付いてもらえない。

 エリオットはエリオットで最早頭が混乱状態になっていた。


 特に賢者時代という技術を極めた時代に安易な方法で若返りの技術がある、と知れば世の女性から圧力が掛かるのは目に見えている。

 アドリアーナのソレは安易な方法ではないのだが他ならぬ賢者の秋斗から、とにかくアドリアーナが特別なのだという言質を取っておきたかった。


「見た目の件はまだ詳しく話せない。スキンケア技術じゃない。あれは魔道具技術とは全く違うし実現不可だ。つまり、アドリアーナがスゴイという事にしておいてくれ」


 言質が取れたエリオットはホッと胸を撫で下ろす。


「そうですか。アドリアーナ様の件は秋斗さんにお任せしますよ? 私は王家にアドリアーナ様がお目覚めになられた、とだけ先行して伝えておきます」


「ああ、それで良いと思う。アドリアーナはレオンガルドに行くと言っているが、彼女の行動やこれからの事はもう少し本人と相談しないとだしな」


 秋斗とエリオットはリリと楽しくお喋りするアドリアーナへ視線を向ける。


「それで、ソフィアと婚約した。その後にオリビアっていう獣人の子と模擬戦をして――」


「そうなのね。ふふ。秋斗がお嫁さんを4人も貰うなんてね。昔の秋斗を知っていたら考えられないわ」 


 アドリアーナは婚約者4人との馴れ初めを聞きつつ、膝の上にハナコを乗せて背中を撫でていた。


「私も昔の秋斗を知りたい。私達は秋斗の過去を知って、これからも支えてあげたいから」


「ふふ。レオンガルドに行ったら話してあげる。本当に貴方は良い子ね。他の子達にも早く会いたいわ」


 アドリアーナは慈しむようにリリを見つめながら彼女の頭を撫でる。

 その様子を見た秋斗は余計な事を言わないよう釘を刺さなくてはと思うが、恐らく無駄に終わるだろうと半ば諦めの心情も抱いていた。



-----



 洞窟前で野営した一行は翌日の朝からラドール王城に戻ると、先日のうちに王城へ報告しに戻った騎士から事情を聞いた先王によって迎えられた。

 ラドールの王都を観光見物していたダリオとダリオの護衛で王城に残っていたオリビアも既に事情を把握しており、王城玄関先で恭しく跪く団体にアドリアーナも驚きを隠せない。

 

 本人の抱える罪の意識と現代人達によって向けられる尊敬の眼差しが彼女の中で入り混じり、跪く王城の者達を見た瞬間にアドリアーナの表情が無になっていた。

 これでわかっただろう、俺の苦労を身を持って体験しただろう、と言う秋斗の言葉に対してアドリアーナは無言で頷くのみ。


 先王との会話中に流石に慣れて来たのか落ち着いてはいたが、客室に通された瞬間に大きな溜息をついて頭を抱えていた様子は目覚めたばかりの秋斗を思い出させる光景だ。


 王城で先王を交えて話し合いをした結果、早急にレオンガルドへ戻るべきだとなった。

 僅かな滞在日数であったがラドールへは何度でも訪れられる、と先王の言葉もあって秋斗達はアドリアーナを連れてレオンガルドへ戻る事に。


 ラドール王城で一泊した後にレオンガルドへ向けて出発した。

 出発後の行程は行きと大体同じだ。


 魔獣が活発化するど真ん中の時期であるが、傭兵や騎士団が街道を巡回しているおかげで遭遇率も高くない。

 現れてもせいぜいC等級程度の魔獣で騎士団やオリビアがいれば問題なく、秋斗が手を出すまでもない状況であった。


「オリビアちゃん、良いわね」


 王城でオリビアと出会ってから、アドリアーナはリリだけでなくオリビアとも積極的に触れ合っている。

 特に獣人のモフモフ感を味わってからは特に意味も無くオリビアの尻尾を抱きしめている時が多い。


 オリビアが魔獣を倒した後、秋斗達のもとへ戻ってくるなり彼女の尻尾を抱きしめながらオリビアの戦いを称えた。


「あの、アドリアーナ様。その……」


 そっと尻尾を抱きしめるアドリアーナへ強く言えないオリビア。

 魔獣と遭遇した際もアドリアーナに尻尾を抱えられて戦いたくても戦えない、という状況が何度も生まれた。


 この様子に喜びの声を挙げたのはグレンが教導する特殊騎士団達。

 彼らは魔獣を相手に訓練しようにも良い所を見せたいと息巻いていたオリビアに活躍の場を奪われていた者達であった。


「オリビア姫は行きに倒しまくったんニャから大人しくしてるニャ。アドリアーナ様万歳だニャ」


 アドリアーナに拘束されるオリビアを見たアリーチェは意気揚々とスナイパーライフルを抱えて列の先頭へ向かおうとするが――


「貴方の猫尻尾も良いわね」


「んにゃぁ~……」


 すっかり尻尾の感触にハマったアドリアーナにオリビアと揃って拘束されてしまった。


 結局は特殊騎士団の男性陣が魔法剣の試験も兼ねて倒す事になり、帰り道ではオリビアとアリーチェの出番はほとんど失われたのだった。


読んで下さりありがとうございます。


明日は昼頃に投稿予定です。

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