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125 計画2


「待て待て待て、一先ず未来予知の件は置いておこう。先にメールの内容だ」


 既に頭が混乱状態のヘリオンはどんどんと先を話すグレゴリーを制止し、自身の気持ちも落ち着かせる。


 まずはイチロウ、と思われる相手から送られてきたメール文の内容。

 それは賢者時代で世界的に有名な宗教組織が人工神の創造に成功した、という旨の内容であった。


「これって……確かアルカディア工業の3代目が組織の幹部だと疑われた過激な思想を掲げる宗教組織か?」


「そうだ。メールにはアルカディア工業が宗教組織の母体らしく、企業の金で神の創造――神と同等の力を持ったマナマシンの開発に成功したと書かれている」


 創造実験の始まりはオーソン大陸でアルカディア工業の起こした魔法事故だ。

 あれは神の創造をしようとして失敗し、大被害を引き起こしたとメールに書かれている。


 その後、その失敗したデータを活かして神の創造に成功したという。


 グレゴリーが話の続きを語ろうとするが、ここでアドリアーナに手で制される。


「待って、そもそも貴方は認識阻害をどうやって解除したの? 今、私達は認識阻害を受けていないの?」


「ああ。認識阻害の正体は空気中に漂う魔素に人間には感知できない魔素波だ。そこに認識阻害――人を洗脳する魔法の波形が乗せられているようでな。まぁ、要するに人には聞こえない音の魔法と捉えてくれて構わない。それを聞くと、空気中の魔素と結合して人の体内に微小な魔素の塊が作られて体内に宿るんだ。魔素の音が人間を蝕む寄生虫を生み出すんだよ」


 寄生虫の素となる魔法を魔素の波に乗せて空気中に散布し、人類は気付かないうちに寄生される。


 体内に寄生した魔素の寄生虫――魔素虫は人の体内に脳内に留まって受信機の役割をこなす。そして、それが人工神の発する認識阻害の命令波を受けて人の脳に干渉するという仕組みだった。


 しかも、寄生されたところで人が死ぬわけでもなく、寄生された者達はいつもと同じ日常を過ごすだけ。


 病で寄生された人が死んでも、魔法によって新たに作られた微小な魔素の塊は発見例が無いので、検査等で気付かないし発見されない。

 人工神の発する魔素波も人が今まで到達できなかった大魔法で発生させているので発見できなかった。


 氷河期というのは人に世界が滅ぶという世界の終末を信じ込ませる為の偽装。

 本当の狙いは偽装による混乱状態の誘発と認識阻害による人類の洗脳。


 認識阻害による洗脳だけでは不可思議な点に気付く人間が出て来るかもしれない。

 目の前に演出による世界の終わりを突きつけ、洗脳の強度を高める2重作戦。


 これが人類滅亡の正体であるとグレゴリーは言う。


「今、この部屋には人工神の発する魔素波を遮断する空間魔法を張っている。だから干渉は受けていない」


 それと、とグレゴリーは言葉を続けた。


「私が認識阻害に気付いたのはそのメールだ。本文を見た際に頭痛がしてな、頭痛に苦しんでいたら本文にあった術式が自動で起動したんだ」


 本文の中盤に記載されていた魔法術式。

 それはメールを開いてから15分後、という時限式の魔法起動式まで組み込まれていた。


「自動で起動した術式は私の部屋に魔素波を遮断する空間魔法を施した。頭痛が治まり、本文を読み続けたら阻害魔法の件が書いてあったのだ」


 メール本文にはグレゴリーの身に起きた頭痛の件が、まるでその場にいて見ていたかのように詳しく書かれていた。

 それに加えて頭痛の正体である認識阻害の詳細が書かれ、時限式の術式で空間魔法が起動している、ともあった。


「じゃあ、その寄生虫を除去すれば認識阻害は受けなくなるのよね?」


「ああ。それでだ。その寄生虫除去も含めて私の計画に協力してほしいという訳だ。ここからは私が時空魔法で見た未来の話になる」


 彼等の話し合いはようやく最初に繋がった。

 

「まず、敵の目的は信者以外の人間を一掃する事だ。現在、人が外で争いを起こしている。これは魔素波を受けて人が凶暴化しているのだ。そして、次は信者達が残った人間と宇宙に逃げた国の重鎮達を殺しにかかる」


 雪の降っている中、食料を求めて殺し合いをしている住民達。

 宗教団体の過激派集団は地上の人間を殺す。そして、各国にある軌道エレベータを破壊して宇宙ステーションを地上に落とす。

 

 宇宙ステーションは大気圏に突入するのを想定して作られていない為、地上に降りてくる際にステーションが自壊し、中の人間も死ぬという寸法だ。


「その後、星を覆う雲は晴れるが信者達が軍用マナマシンを使って地上の人間を滅ぼす。すると、地上に残ったのは過激な思想の持ち主――自分は神によって選ばれた者だと考える馬鹿な奴等のモノになる」


 彼等の最終目的は自分達以外の人類を滅ぼし、星をリセットする事だ。

 残された自分達、そして自分達の子孫が地上の支配者となって世界――この星を手にする。


「何という馬鹿げた事を……」


 ヘリオンもアドリアーナも敵の抱く目的に唖然としてしまう。

 そんな馬鹿げた事を実現させる為に、多くの人間が死んだ。


「彼等の思想は確かに異常で馬鹿げている。だが、それを可能とする力を得てしまった。我々が抗えないほどの、大きな力を」


 彼等が開発した人工の神。

 馬鹿げた目的を達成させる為の認識阻害という大魔法行使を可能とする大いなる力。


「じゃ、じゃあ! その人工神を破壊すれば良いじゃない! それこそ軍用マナマシンを使って!」


 アドリアーナが立ち上がって叫ぶがグレゴリーは首を振った。


「ダメなんだ。私もそれを真っ先に考えたよ。そして、その方法が成功するかどうかをこの術式――時空魔法を使って未来を覗いた」


 グレゴリーが言うには、人工神を破壊しようとするも失敗に終わると言う。

 

「そんなの! やってみないとわからない!! それに、その術式だって! 時空魔法だって間違っているかもしれないじゃない!!」


 声を荒げるアドリアーナにグレゴリーは目を伏せながら再び首を振った。


「アドリアーナ。これは、完璧(・・)なんだよ。この術式は私が見る限り、完璧に出来上がっているんだ。恐らく、秋斗が見ても同じ意見だろう。私と秋斗が協力しても、これ以上の術式を作る事はできない。これは完璧な時空魔法――未来予知の術式なんだ」


 秋斗の開発した術式に技術協力したのはグレゴリーだ。

 当然、彼も術式の理論やらは熟知している。


 むしろ、秋斗が術式理論を完成させた時は胸を震わせるくらいに感動的であった。

 秋斗の開発した術式理論はまさに魔法技術が1歩先に、否、数歩先までいくほどの技術革新だった。


 グレゴリーも歳に似合わず大興奮し、秋斗と何日も徹夜しながら術式開発を行ったのだ。

 そのグレゴリーが見ても、メールに記載されている時空魔法の術式はどう見ても『完璧』と称するしかない程の出来であった。


「私はこの未来予知を使って未来を覗いた。どうすれば人類が滅亡しないのか、どうすれば人工の神を倒せるのかを模索した」


 グレゴリーの使用した未来予知。これは未来の情報とその過程の選択肢を提示すれば結果が示されるというモノだった。


 人類滅亡と人工神を打倒するには、この先の未来で『~が起こったら?』と思い浮かべると結果がビジョンとして脳内に浮かぶという。


 例に挙げるとすれば「明日に人工神をミサイルで攻撃」と思い浮かべると「信者に阻止させる」という未来のビジョンが浮かぶ。

 次に「明日に人工神の居場所を探る。探るには軍用マナマシンを使う。見つけ次第攻撃」と思い浮かべると「居場所が探れず人類が信者に殺される」という未来のビジョンが浮かんでくる。


「じゃあ人類の滅亡は避けられないの?」


 アドリアーナが再びソファーに腰を下ろして問いかける。 


「ある意味、そうだ。メールにも書かれているように現在の文明は終わる。これは確定だ。抗えない」


 イチロウ本人かどうかは不明であるが、メール本文には人工神は厳重に隠されており見つけるのは困難。

 見つけようとしている間に宗教組織の計画にグレゴリー達の存在を察知されて殺される。


「それでだ。私は選択肢を追加して、追加して……人工神を破壊するビジョンに辿り着いたのが今から2700年後の未来だ」


「なんだよ、それは……」


 2700年。

 どう考えても自分達は生きていない。途方も無く先の未来。


 ヘリオンが脱力しながらソファーに背中を預けるが、グレゴリーは彼の目を見て告げる。


「2700年後の未来で人工神を破壊するのは――秋斗の子孫だ」

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