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124 計画1


「なんとなくは気付いていたのでしょう?」


 対面のソファーに座るアドリアーナが薄く笑みを浮かべた。


「まぁ……マナマシンでも解決できない、魔法でも解決できない、となればな。魔法は万能だ。人のイメージ次第で常識を覆すのだから。じゃあ、常識を覆す力を使っても覆されないモノとは? と考えれば行き着く答えは神しかない」


 神。それは常識の外にある絶対的(・・・)なモノと昔から伝わる存在。

 技術者たる秋斗達にしてみれば「そんな不確かな存在は認めない」と言いたい。


「でも、考えたら頭が痛くなったでしょ? それは神という答えに至らせない為の干渉なのよ。まぁ、正確には干渉というよりも思考の制限と言うべきなのかしら?」


 神という答えに至り、それが本人の中で確信に至ると頭痛が始まるらしい。

 過去の時代でアークマスターが一度は神という答えに至ったが、あれは「まさか」と誰もが確信も持たずに笑い話のような感覚で言ったから頭痛は始まらなかったと彼女は言う。


 その後もアドリアーナは話を続けた。


「といっても、私達が思っているような『神』じゃない。人によって作られた神。神に近いナニカね」


「人によって作られた……?」

 

「そう。自然現象で私達の時代は滅んだんじゃない。全て裏で手を引く人間がいたの」


 事の発端はアドリアーナにもわかっていない。

 だが、氷河期を何とかしようとアークマスター達が動き出していた時には既に干渉は始まっていたという。


「干渉があったから私達は解決できない、と結論付けた。簡単に諦めてしまった」


 その後は秋斗が知っている通り、雪が降り続いて人々の混乱が始まった。

 そして秋斗は睡眠カプセルで眠るのだが、アドリアーナは秋斗が眠った後の事を話し始めた。


「グレゴリーが貴方と最後の別れを交わした後……私とヘリオンはグレゴリーの部屋に呼ばれたわ。そして、彼から真実と未来への計画を話された」


 

-----



「2人とも呼び出してすまない」


 アドリアーナとヘリオンはグレゴリーの執務室に呼ばれ、室内にあったソファーに腰を下ろして彼と対面していた。


「単刀直入に言おう。氷河期は仕組まれたモノだ」


 最後の別れの挨拶でも交わすのかと思っていたアドリアーナとヘリオンだったが、彼の口から飛び出してきたのは予想を超えるモノであった。


「な、何を言っているんだ?」


 ヘリオンは驚愕の言葉を口にし、隣に座るアドリアーナは黙ったまま目を見開いた。


「驚くのも無理はない。だが、時間が無いんだ。私に協力してくれ」


 グレゴリーは己の知る全てを2人に語り始めた。


 まず、氷河期を引き起こしたのは神である事。

 全人類に認識阻害の魔法を掛けて思考の制限をし、氷河期の訪れに疑問を持たせないようした事。


 さらに。


「これは明確には氷河期じゃない。偽装だ。確かに太陽の光が遮られて雪が降っているが、目的は人類を混乱に陥れて争いを起こさせる事だ」


 人類滅亡という誤認識を叩きつけ、人類を混乱に陥れる。

 そして機能しなくなった国の行政や法的機関。世界全体を無秩序状態にして人が人を殺し、奪う状況を作り上げる事が目的。


「で、でも! なんでそんな事を?」


 アドリアーナがグレゴリーに問うと、彼は彼女の目を見つめて告げる。


「世界征服だよ」


 技術が発達し、魔法まである世界。この世界をどこぞの組織が牛耳ろうなどとするのは不可能だ。


 例えば戦争を起こして世界征服。国連が動き、即座に鎮圧されるだろう。

 何より御影秋斗という切り札を持つアークエルが最大の障害となって相手も多大な被害を受ける。


 そうなってしまえば組織的な力が削がれ、完全な世界征服とはいかない可能性が高い。


 例えば殺人ウィルスで世界征服。これも厳しい。アドリアーナという天才がいる。彼女を上回る技術を持った者がいなければ達成はできない。


 アークエルの魔法科学技術院はあらゆる分野で世界最高峰の研究者達を抱える施設だ。

 この魔法科学技術院を封じなければ世界征服は達成できない。


「となれば、敵は私達を封じるしかない」 


 魔法科学技術院のアークマスターや研究員達を封じる手段。

 発達した科学や医療では無理だ。最後に残るのは未だ全てが解明できていない技術である魔法しか無い。


「魔法ならば私達を封じられる」


 魔法を極めた、と世間で言われているグレゴリーでさえ『全て』の魔法が行使できるわけではない。

 魔法とはイメージだ。イメージする者の数だけ魔法が生まれる。


「敵は我々の、いや、人類全ての思考を制限した。不可思議な点があったとしても、それを思い浮かべなければ犯行はバレない」


 おや? と思う部分があってもその先に至らせなければ良い。

 そもそも『不思議に思う事を不思議に思わせなければ良い』のだ。


「そんな全人類に作用する魔法を行使するなんて無理だ! そんな大規模な魔法は人の身で発動する事はできない、と結論付けたのは君じゃないか!!」


 グレゴリーの話を聞いていたヘリオンは眉間に皺を寄せながら叫ぶ。


 現代の人が行使している魔法。

 その人が行使できる範囲を超えたモノを大魔法と定義しているのだが、これはマナデバイスがあろうと人の力では行使できないと数々の実験を経て証明されていた。


「そうだ。ではそれを行使できる存在は何か。それは神だ」


 大魔法を行使できるモノ。それは人を超えたナニカだ。

 人を超えるモノなどそれほど多くはない。


「正確には神というよりも大魔法を行使できる装置だ。神という名のマナマシン(・・・・・)だよ」


「それこそ馬鹿げている。マナマシンで大魔法を行使しようとしたら……そもそもマナマシンでも無理だったじゃないか」


 ありえない、と首を振るヘリオン。


「そうだ。だが、それを可能にしたらしい」


 グレゴリーはポケットから2枚の紙を取り出す。


「これが私のもとに届いたよ」


 グレゴリーが取り出した1枚目の紙はメールが印刷されたモノ。

 2枚目は丸い円のような模様が2つ書かれた紙だった。


 1枚目のメールを印刷したモノをヘリオンが受け取る。

 2枚目をアドリアーナが机から拾いながら、彼女はヘリオンの受け取った紙を横から覗き見た。


「おい……嘘だろう?」


「これって……」


 紙の冒頭に書かれているモノを見たヘリオンとアドリアーナは、最早頭が混乱して何が何だかわからなくなりそうだった。


「イチロウ。最初の魔法使いから、メールが届いた」


 紙に印刷されたメール文。

 その送信者に書かれた名は『イチロウ』


 最初の魔法使いと言われ、何年も前に忽然と姿を消した人物。


「根拠は? 本物という根拠だ!」


 ヘリオンは手をテーブルに叩きつけてグレゴリーを睨む。


「これ……秋斗の術式?」


 ヘリオンがグレゴリーを睨みつける隣で、もう一枚の紙へ視線を落としていたアドリアーナが呟く。

 グレゴリーはヘリオンから視線を外し、彼女の呟きに頷いた。


「そこに書かれているのは魔法術式。秋斗が最近開発した術式だ。あれは未発表のモノであり、私達アークマスター以外に誰も知らない。さらに、その術式は時空魔法の術式だよ」


 時空魔法。

 それは所謂、時間を操作する魔法だ。


 ファンタジー小説によく出てくるような、未来予知や過去、未来へ移動する魔法の類が時空魔法にカテゴライズされる。

 魔法研究のトップであるグレゴリーでさえ使えなかったカテゴリの魔法。


「未来予知の術式だ。私もメールの送信者がイチロウだとは完全に信じていない。だが、メールの内容を……私はメール文の最後に記載された術式を起動して、見たんだ」


 グレゴリーは秋斗が作った試作型の第3世代型マナデバイスをテーブルに置いて告げる。


「術式を使って、私は未来を見たんだ」 


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