表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

129/160

123 正体


「お前……本当にアドリアーナか?」


 秋斗は自分の名を呼んだ少女の顔をまじまじと見つめながら問いかける。

 確かに彼女の容姿にはアドリアーナの面影があった。


 だが、アドリアーナ・ヘルグリンデは秋斗よりも年上だ。

 しかもグレゴリーと同期。


 医療のアークマスターだが、薬品や生体研究をこよなく愛するイカれたババア。

 黒いローブに三角帽子を被ってれば、誰もが彼女を『悪い魔女』だと言うくらいには魔女という単語が似合うババアだ。


「その顔、酷い事考えてるわね? 貴方は何年経っても変わらないのね」


 そこが愛らしいのだけど、と言いながらアドリアーナはバスタオルを抑えながら上体を起こす。


「そのガキ扱いは確かにババアだ」


 呆れ顔を浮かべた秋斗は溜息を漏らした。


「ババアじゃないわ。見なさい。立派なレディに逆戻りよ」


 彼女は目覚めたばかりだというのに、少女とは不釣合いな妖艶な笑みを浮かべた。

 

「んな事はどうでも良い。どういう事だ。そもそもアンタが――」


 秋斗が早速とばかりにワケを聞き出そうとするが、アドリアーナは少女らしい小さな手を秋斗に向けて言葉を遮る。


「ちょっと隣の部屋で待ってなさい。着替えたら話してあげる」


「……わかったよ」


 秋斗がブツブツと何か言いながら部屋から出て行くのを見送ると、彼女はアルフレッドへ顔を向ける。


「計画通りにしてくれたのね。ありがとう。アルフレッド」


「……はい。母様」


 アドリアーナはアルフレッドを手招きし、彼の顔を抱きしめた。

 アルフレッドは彼女の胸の中で涙を流し、アドリアーナは彼の髪を優しく撫でながら抱きしめ続けた。



-----



 秋斗が隣の部屋――玄関からすぐある扉の右側の部屋に入ると、そこは本棚が壁際に並べられていて部屋の中央には白いテーブルと白いソファーが置かれている部屋であった。


 部屋のソファーに腰を下ろして20分程度待っていると少女の見た目になったアドリアーナとアルフレッドが入室してくる。


「お待たせ」


 アドリアーナは白と黒のゴスロリ服を身に纏い、長い金髪を揺らしながら秋斗の対面にあるソファーへ腰を下ろす。

 アルフレッドは座らずにアドリアーナの斜め後ろに立って待機する。


「おい、とにかくワケがわからん。お前も俺みたいに睡眠カプセルで寝たのか? 何で若返ってやがる? そもそもこの世界はどうなってんだ?」


「はいはい、慌てないで。ちゃんと話すから」


 アドリアーナは言う事を聞かない子供を見るように、困ったような表情を浮かべた。


「まずはそうねぇ。貴方の今いる世界、時代。これはグレゴリーの計画通りに進んでいるって事ね」


「爺さんの?」


「そうよ。私達の時代――賢者時代と呼ばれる時代は氷河期の到来で滅んだ。そう言われてる。それは貴方も知っているわよね? なんたって、私達が解決は無理だと決定を下したんだから」


 氷河期。空を覆って太陽の光を遮り、雪を永遠と降らせた続けた異常気象。

 マナマシンを使って雲を吹き飛ばしても翌日には元通り。打つ手無しとグレゴリーが判断し、他のアークマスターである秋斗達もグレゴリーの意見に賛成して終わった。


「おかしいわよね? 何でギリギリまで気象の変化を観測できなかったのかしら? 何で科学と魔法の頂点たるマナマシンを使っても解決できなかったの? 何故私達は簡単に諦めたのか――」


 そこまでアドリアーナが口にした時、秋斗はアドリアーナへ待ったをかけた。


「待て、それ以上思考すると――」


 しかし、秋斗の制止をさらにアドリアーナが制止する。


「謎の頭痛に襲われる、でしょう?」


 アドリアーナは秋斗の言わんとする事を先回りして口にした。


「あ、ああ……」


「大丈夫よ。ここ(・・)ならね」


 アドリアーナは微笑んだ後に言葉を続ける。


「ここはね、グレゴリーの作った魔法の領域にあるの。外の世界とは隔絶された空間。だから干渉(・・)を受けないのよ」


「干渉だと……?」


「そうよ。干渉。話の続きだけどね。私達の技術が通用しなかった理由。簡単に諦めた理由。それはね、私達はとっくに答えを出していたのよ」


「答え?」


「ええ。私達が諦めて技術院に戻って……グレゴリーが世間に私達の文明の余命を発表してからの間、私達は何をしていたかしら?」


 グレゴリーによる余命の宣告。

 この世界はあと2年で終わる、という記者会見の後だ。


 秋斗達は人類を生かす術を模索したがどれも時間が足りなかった。

 

 秋斗のように人類全員を生体マナマシンと融合させて生かすには時間が到底足りない。

 宇宙にあるステーションへ逃がそうにも人類全員を収容する事は出来ないし、人類全員を収容できる宇宙ステーションを作るのも時間が足りなかった。


 最終的に秋斗が取った手段である、睡眠カプセルも生産が追いつかなかったし氷河期が終わるまで眠ったまま過ごせるか、再び起きられるかという疑問に対する検証時間は不十分で生き残れる確約はできなかった。


 そして、人類選別が政府によって行われて一握りの者だけが生き残れることとなったが……それも暴動によって混乱を極めた。

 

 もはやこれまで、と決めたグレゴリーを除くアークマスター達は最後の仕事とばかりに異常気象に対する考察や議論をして残された時間を過ごしたのだが――

 

「まさか……やっぱりそうなのか?」


 秋斗は当時の議論を思い出し、さらにグレゴリーの残したメモを思い出して脳内で付け加える。


 氷河期の到来を予見する気象変化に、何故もっと早く気付かなかったのか。

 何故、科学と魔法が融合したマナマシンを駆使しても解決できなかったのか。


 アークマスター達による議論の結果は?

 いつもなら見解の違いが出るアークマスターの議論会だが、珍しくも最終的な意見が一致した最後の議論会。


 過去では否定した答えであったが、グレゴリーのメモを見て改めて考察すると確信へ変わる――瞬間に頭痛に襲われてしまった。

 あれから考えないようにしていたが、それもアドリアーナの言う干渉なのかもしれない。


「そうよ。秋斗。私達が勝てなかった存在」


 そうだ。秋斗達は、アークマスター達は既に答えを得ていたのだ。


 そんな訳があるか、と一蹴して――否。既にそれ以前から干渉を受け始めていたのだ。


「――それは、神よ」


読んで下さりありがとうございます。


次の投稿は土日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ