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122 任務完了


 停まった馬車からアルフレッドに続いて外へ出ると、後続車に乗っていたエリオットとハナコを抱えたリリ、エリザベスも外へ出て来た。


「ここからは歩きになります」


 彼は馬車の停まった場所、目の前にある木々が生い茂る森を指差した。

 その森には道が無く、木も密集して生えているので馬車は通れない。歩き、というのも納得できる光景であった。


 森の中をアルフレッドの先導に秋斗達とラドール騎士団50名ほどが後ろを付いて行く。

 そして、到着した場所には木や背の高い草が密集して隠された洞窟。


「この中にゲートがあります。ここからは私と御影様のみで。貴方達はここで待機していて下さい」


「それは……」


 アルフレッドの提案に難色を示すエリオットだったが、秋斗が手で制して止める。


「大丈夫だ。何かあったら戻ってくる」


「わかりました……。お気をつけて」


 秋斗はエリオットに頷きで返し、アルフレッドと共に洞窟内へ進んで行く。

 洞窟内は進めば進むほど光は無くなり、2人の周囲は既に真っ暗。

 

 秋斗は右目の暗視機能を起動しながらアルフレッドの背中を追いかけ、洞窟内を進むこと15分。

 行き止まりと思われる終点にあったのは年季の入った灰色の上部がアーチ状になっている門であった。


「これは……?」


「転送門です。起動します」


 そう言ってアルフレッドは門の右側面に触れる。

 すると、門の中心――洞窟の壁だった場所がぐわんぐわんと歪み出し、果てには魔素が充満して楕円形に発光する現象が起こった。


「転送門ってまさか」


「はい。グレゴリー様の空間魔法を使った技術。ワープ装置のような物です」


 先に行きますので、とアルフレッドは門の中にある楕円形の光へ足を進めてズブズブと体が消えていく。


「マジかよ……」


 目の前で人の体が消える。

 賢者時代にも無かった転移魔法、ワープ装置などと呼ばれて物語の中にしか無かった技術が秋斗の目の前に存在していた。


「仕方ない」


 呆けていても仕方がない、と秋斗は覚悟を決めて門の中へ飛び込んだ。

 泥の沼に沈んで行くような感覚を感じながらも、秋斗の目には真っ白な光が飛び込んで来た。



-----



 門に飛び込み、泥の中に沈んで行くような感覚を感じていると次に訪れたのは『壁を抜けた』というような感覚だった。

 ストッと地に足が着いたのを感じて目を開くと目の前には驚愕の景色が広がっていた。


 先ほどまでは暗い洞窟内だったというのに、目の前にあるのは太陽の光が降り注ぐ長閑な風景。

 果樹園や肥やされた畑、色とりどりの花が咲く花畑。その先にあるのは一軒の大きな屋敷。

 

 本当に別の場所へ転移したのか、と心の中で感想を浮かべているとアルフレッドが秋斗を先へ促す。


「こちらです」


 彼の後に付いて行くと、やはり目的地は大きな屋敷であった。

 玄関ドアまで進み、アルフレッドが懐からカギを取り出して玄関のカギを開ける。


 彼はドアを開けて秋斗を屋敷内へ招き入れた。

 玄関すぐにある左右のドアの左側を開けたアルフレッドに着いて室内へ入ると、そこには大きなカプセル型の培養槽が6つと簡素なテーブルとイス。


「おいおい……」


 秋斗が室内を見渡せば、壁際には数冊の本が詰まれていたり壁の上にはカウントダウンタイマーが取り付けられている。


「こちらが、アドリアーナ様です」


 アルフレッドの指し示すカプセルに視線を向ける。

 中には1人の少女。そして――


『第2素体 レイチェル・ヘルグリンデ』と書かれたプレートがカプセル下部に取り付けられていた。


「レイチェル……?」


 ケリーの残した手記の中にあった試験管のラベル。

 そこに書かれていたのも『レイチェル』だ、と秋斗は思い出す。


「彼女がアドリアーナ様です」


 手記の事を思い出している秋斗へアルフレッドは告げる。


「どういう事だ? アドリアーナはこんな子供じゃなかったぞ? レイチェルって……」


 秋斗は次々と押し寄せる事実に困惑するが、アルフレッドは1度だけ頷いて再び口を開いた。


「私に問うよりもアドリアーナ様を目覚めさせて、直接お聞きになった方が良いでしょう。それに、この体を活性化させなければいけない期限が迫っています」


 アルフレッドは秋斗をカプセルの横に連結されている端末へ導く。

 彼は端末のキーボードで少しばかり操作をした後に秋斗へ場所を譲る。


「ここで網膜スキャンをすれば目覚めます」


 網膜スキャンをするマナマシンに顔を近づけるとピピピ、という電子音が鳴る。

 端末の画面には『データ一致』と赤色の文字で表示されていた。


 すると、ヴヴヴと隣のカプセルが起動し始めて中に満たされている液体がゴボゴボと泡立ち始めた。

 

「御影様が本物であれば起動するよう設定してあります。あと数分もすれば……か、母様が……」


 アルフレッドの目から一筋の涙が流れ落ちた。

 2000年。長い年月を生きた彼は遂に任務をやり遂げる。


 母であるアドリアーナに創造された5人のホムンクルス。 

 年月が過ぎ去って行く間に1人、また1人と消えていき、遂には自分1人になった。


 4人に託された想い。その想いが遂に叶う。


 カプセルの中の泡立ちが収まると、次も再びゴボゴボと音を立てながらカプセル内の液体が徐々に減っていく。

 そして、液体が減って行くと同時に直立状態だったカプセルが動き始めて平行状態にスライドしながら動き始めた。


 完全に床と平行になる頃には中の液体は半分になり、全ての液体が無くなる前にカプセルの蓋がプシュッと音を立てて開き始めた。


 カプセルの中には長い金色の髪を生やした全裸の少女。

 見た目的には10~12歳程度だろうか。


 アルフレッドはカプセルの下部にあるスイッチを押す。

 すると、カプセルの一部が開いて中には衣服やタオルが収納されていた。


 彼はバスタオルを一枚取り出して金髪の少女の体へかける。

 それと同時に少女は「うぅ」と呻き声を上げながら身動ぎを始めた。


 それから数分、秋斗は彼女の挙動を見守りながら待っていると少しずつ彼女の瞼が開かれて行く。

 何度かパチパチと瞬きをした後に、秋斗とアルフレッドの方へ顔を向けてぼんやりと見つめてきた。


 そして、モゴモゴと口を動かした彼女はゆっくりと口を開く。 


「……おはよう。秋斗」


読んで下さりありがとうございます。


次回の更新は木曜日です。

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