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119 ラドールへ 道中


 カートリッジ式の新機構を採用した魔法銃を構えながら地に伏せるアリーチェ。

 見た目は完全に対物ライフルで、銃の中央よりややストック寄りの部分に5本の魔石カートリッジを挿入する専用カートリッジマガジンが装着されている。


 彼女は魔法銃のスコープ越しに900m先にいる魔獣の様子を覗き見ていた。


 彼女の隣にいる秋斗は片膝立ちになりながら望遠鏡で同じ魔獣を窺う。


「………」


 射撃タイミングはアリーチェに任せているので、秋斗の他にも周囲で見守っている者達は言葉を発さない。

 すると、魔法銃の引き金に指を掛けていたアリーチェが指を引く。


 ドン、と鈍い音を鳴らして魔法弾を発射。


 地に伏せているアリーチェの体が少し後方へ揺れるが、魔法銃に備わっているリコイル制御の魔法術式が起動してアリーチェの体への負担を減らす。

 リコイル制御が終わると魔法銃は内部の冷却を開始し、魔法銃の外側側面から蒸気が勢いよく排出される。


 肝心の撃った弾はというと。


「当たってる」


 秋斗の見る望遠鏡のレンズ越しには魔法弾が900m先の魔獣に当たり、魔獣は爆散していた。


「すっごい武器だけどォ……魔獣の素材は取れないわねン」


 秋斗に望遠鏡を借りて使っているエリザベスは魔法銃の凄さに感心するが、折角の倒した魔獣から素材が取れない事に複雑な気分になっていた。

 

「まぁ……オーバーキルすぎるわな」


 このタイプの魔法銃が本来搭載しているエネルギーユニットと同等の威力を出そうとするとC等級魔石カートリッジが5本。

 しかも1発撃てば5本全てのカートリッジがカラになるという効率の悪さ。


 アリーチェは伏せていた状態から立ち上がり、魔石カートリッジの入ったマガジンを引き抜く。

 魔法銃本体を秋斗に渡し、秋斗は本体の点検を始めた。


「燃費は悪いけど本体は問題無さそうだし、一応は完成かな。燃費問題は今後の課題にしよう」


 恐らくB等級魔石カートリッジを使えば解決するのだろうが、そもそもB等級魔獣を倒すのが難しい。

 供給量的にも釣り合っていないので、コストと見合った運用を行うならばエネルギー変換の部分を弄らなければ根本的な解決にはならなさそうであった。


「旦那様。次は私がやっても良いか?」


 魔法銃の点検をしている横ではオリビアが双魔剣――秋斗の作ったオリビア専用の魔法双剣の柄をサワサワと触りながら体をウズウズと揺らす。

 誰がどう見ても落ち着きが無かった。


「良いけど魔獣の素材が欲しいから手加減しなさい」


「わかった!」


 オリビアは秋斗から許可を貰うとパァと顔を明るくして尻尾をパタパタと振りながら自分の馬がいる場所へ走って行く。

 

「オリビアちゃんの双剣はどんな武器なのン?」


 走って行くオリビアを見送りながらエリザベスが秋斗に問う。


「オリビアの魔双剣は刀身に風を纏わせて切れ味が上がるんだ。アダマンタイトすらぶった斬るぞ」


「……手がつけられなくなりそうねン」


 魔双剣を持たなくともガートゥナでは2番手に強いとされていたオリビア。

 最近は母オクタヴィアの教えと父であるセリオとの模擬戦もあってかメキメキと腕を上達させている。

 

 そのせいもあってか、最近は戦うのが楽しいらしく戦闘狂の気が益々滲み出てきている。

 そこに性能の良い新しい武器を加えれば彼女がどうなるのかは想像するに容易いだろう。


「……リリが止めるでしょ。たぶん」


 何だかんだ婚約者に甘い秋斗は、婚約者の中でも特にオリビアの「そんな……」というシュンとした顔と垂れ下がる尻尾を見ると強く言えない。

 一方で、オリビアを小さな頃から見ていてお姉さん的なリリとソフィアは、ダメなモノはダメと結構言う時はしっかり言うのだ。


 危険そうならば秋斗も止めるが、なるべくリリに期待したい秋斗であった。

 

 

-----

  


 魔獣が現れる度に足を止める秋斗達一行であるが魔獣の対処をオリビアに任せた事で彼女とラドールの騎士が行く先を先行し、魔獣を狩って行くおかげでスムーズに街道を進んで行く。

 

 特にトラブルが発生することも無く、一行は予定していた距離よりもだいぶ進んだ所で1日目の野営を過ごす。

 

 街道の横で天幕を張り、ラドールの騎士達が交代で見張りをしてくれているので安心して眠れる夜であった。

 翌日の朝から出発を開始してその日の夕方にはレオンガルド王国領内の東街へと到着。


 領主に迎えられながら、その日は領主邸で一泊させてもらう。


「ラドールの船はもう来ているのか?」


「ええ。既に港に停泊していますよ」


 領主邸で朝食を摂った後に秋斗達は港へ向かう。

 東街の散策は帰りに、というスケジュールだ。


 折角の旅だというのに結構せかせかしたスケジュールなのには理由がある。


「ラドールまでは良い風が吹いていれば船で2時間程度ですが、夜になってしまうと海の魔獣に襲われる可能性があるので素早く出航しなければいけないんですよ」


 ラドールの船は大きい帆船。

 今でこそ秋斗が開発した魔石カートリッジという魔素の動力が登場したが、秋斗が目覚めるまでは当然存在しなかった。

 

 故に、船は風を受けて進む帆船が一般的だ。

 風が無ければ動かない。が、王家所有の帆船には必ず数名の魔法使いが同行して風が止んだ時に無理矢理魔法で風を起こして進むという力業を使う。


 これは夜の海は海に住む魔獣に襲われる可能性が上がるからであり、そんな危険な海の上に王家を置いておけないという理由だ。

 じゃあ船を使うなと、言ってもラドールからレオンガルド側に渡るには船しか手段が無い。


「そのうち橋でも架けるか」


 ラドール魔人王国のある島はレオンガルド東街からなんとか肉眼で見える距離だ。

 大量の資材とマナワーカーがあれば長い橋で島を繋ぐのも可能だろう、と秋斗は考えていた。


「橋ですか。使うのは壁を作った例のマナマシンですかな?」


 今回の旅に同行しているアランが秋斗の隣にやって来て問いかけた。

 秋斗が頷いて詳細を語ろうとしたが、それはエリオットに止められた。


「確かに橋が架かれば陸の運送が使えますから助かりますけど……今は無理です」


 技術的に、資材的に、ではなく国の国政的にという意味でエリオットは保留の意思を示す。

 国の統一を控えているので時間も人手も足りない状況だ。


 そんな状況で「橋を架けるわ」なんて言い出したら他の王達や文官にエリオットがボコボコにされる。

 隣で話を聞いていたダリオも笑顔から一変して真顔になっていたので、秋斗とアランは背中に冷たいモノを感じながら黙った。


「陛下! お待ちしておりました!」


 港に到着すると、ラドール王家の所持する大きな帆船をバックに魔人族で構成された船乗りと片目に眼帯を付けた船長が一列に並んで秋斗達を迎える。


「船長。出迎えありがとう。国まで頼むよ」


 まずはエリオットが船長に挨拶。


「ハッ! お任せ下さい! 賢者様と陛下の送迎、我等一同の命をかけて遂行させて頂きます!」


「よろしくお願いします」


 船長が敬礼した後に、秋斗が一歩前に出て船長と握手する。


 ラドールの騎士団所属である船長は秋斗との握手を感激しながら交わし、一行を船内まで案内した。

 同行者全員と荷物を全て運び終えると船長と船乗り達は出航の準備へ取り掛かる。


 全ての準備を終えて、畳んでいた帆を降ろすと帆には角の生えた悪魔のシルエットと両脇に剣が並ぶラドールの紋章が描かれていた。


「野郎ども!! 出航だ!!」


「「「オオオッ!!」」」


 筋肉モリモリでバンダナのような赤い布を頭に巻いた船乗り達。

 荒々しい怒号を上げ、ラドールの紋章が刺繍されたの三角帽子を被った眼帯船長。


 海賊か? と首を傾げる秋斗であった。

読んで下さりありがとうございます

しばらく週3更新になりそうです。変更するかもしれませんが原則水土日で投稿します。

詳しくは活動報告にて。


今後ともよろしくお願い致します。

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