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113 色々な事情


 8月末。夏の暑さもだいぶ和らぎ、秋が顔を出し始めた頃。


 レオンガルド王城会議室では4人の王と秋斗、婚約者達4人が席に座ってテーブルを囲んでいた。

 議題は結婚式について。


 秋斗と婚約者達の結婚式についてだ。

 住む為の屋敷も完成し、アレクサを筆頭に奴隷被害に遭った者達を積極採用した御影邸の生活リズムもだいぶ落ち着いてきた。

 

 そうなれば、次に浮かぶ事は1つしかない。

 国の統一などの計画があって未だ目処が立っていなかった事であるが、流石にそろそろ式の事を考えないといけない。

 

 というか、婚約者達がそれぞれの母親を味方に付けて父親へ圧力を掛けた。

 一緒にいるのは変わりない、と圧力をかけなかったのはリリくらいだ。


「と、いうわけで結婚式は来年の新生王国誕生が済んだらという事になった」


 娘達の圧力に負けた王である父親達はめちゃくちゃ頑張った。

 睡眠時間を削って部下達とスケジュールの調整も、予定している様々な計画の前倒しも検討しながらめちゃくちゃ頑張った。


 だが、結果は東側統一後アークエル王国が誕生してからでないと難しいという結論に。

 時間的な問題に加え、秋から冬になれば一部の魔獣が冬眠前のエサを求めて活発期に入る。


 それらの脅威に対して街の防衛もしなければ為らず、各街の代表や賢者教の司祭達も防衛に加わるので結婚式に参加できない。

 賢者である秋斗の結婚式に街の代表である貴族や賢者教の司祭が参加しない、という行為は秋斗は気にしないでも王達にとっては宜しくない事だ。


 特に賢者教の者達は最上位に崇める賢者の事ならば最優先にしてしまいがち。

 それで街に被害が出て、一般人が害されれば秋斗は気を病んでしまうだろう。


 そういった事を丁寧に説明し、逸る気持ちを抑えきれない娘達を説得しているところであった。


「まぁ、そりゃそうだ。俺も研究所や学園の事もあるし。来年で良いんじゃないか?」


「でも、それでは私達の夢である子を成すということが……」


 婚約者達が早く早くと言う理由は以前に話した秋斗の過去について、思うところがあったからだった。

 死んだ仲間の夢を叶え、次は婚約者である自分達との夢を叶えて幸せになる。


 彼女達はこの目標に向かって日々邁進しているのだ。


「まぁ、まぁ。確かにそれも大事かもしれないけど、皆にしっかりと祝福されないのはみんなも嫌だろう? こういうのはしっかりと準備をしてやるものだ」


 既に生活と家の事を掌握し始めた優秀な婚約者達の機嫌を損なわせないよう宥めつつ、そうだろう? と義理の父になる王達にもしっかりとフォローを入れる秋斗。


 王達はその通りだ、賢者様の言う通りだ、と何度も強く頷きながら娘達の焦りが落ち着いていく様にホッと胸を撫で下ろす。

 結局はわかりました、と渋々ながら婚約者達が折れた。


「因みに、子は式の前に作っても大丈夫ですから」


 これは既に彼女達から聞いていたことであるが、婚約済みで既に結婚する事が親の同意を得て決まっていれば子供が宿ってからの結婚も問題無いらしい。

 

 秋斗は知っていた事であるが、敢て王達が繰り返し言ったのは早く孫の顔が見たいからだろう。

 この前もルクスから「孫って良いですよね(チラッチラッ)」と言われた。


 と、ここで結婚式の件は終了であるが秋斗には王達へ伝える話があるので会議は継続。


「新しい武器を作る事にした」


 新設の部隊を作っているグレンとの話し合った結果、魔法銃のみの運用は厳しいとなった。

 理由としては弾を生成する外付けエネルギーユニットの生産が現状では人手が足りず難しい事、魔石を使ったカートリッジで代用しようとするとB等級以上の魔石をカートリッジ化しないと賢者時代と同等の戦闘継続時間が確保できない事。


 2つの理由からシェオールや基地より回収してきた魔法銃を使うよりも、魔石カートリッジを採用した武器を1から設計した方が早いという結論に至ったのだ。


「魔法銃タイプの物も作るが、基本的に遠距離攻撃は魔法で。近接戦闘は今まで通り剣や槍で行う。だが、今まで魔法を使えなかった兵士も魔法を使えるようにする武器を作り上げる」


 魔法を使うならばマナデバイスが一番なのは間違いない。

 だが、現状の技師達が高度技術の塊であるマナデバイスを製造するのは、未来的には可能だろうが今すぐというのは難しい。

 

 秋斗ならば作れるが秋斗1人で何万もいる兵士分のマナデバイスを作るのは流石に辛い。

 よって、マナデバイスを簡易化した装置を既存の武器種に組み合わせた新装備を作り上げる。


「魔法武器。刃に四元素魔法を纏わせ戦い、纏わせた魔法を発射できるモノを作る」


 秋斗の作った第3世代型マナデバイスは自由に魔法を創造できるがこれは難しい。


 既存の武器に『魔法を記憶している魔石』と『魔石カートリッジ』『制御装置』の3つを小型オンボード式で組み込み、スイッチ1つで起動する汎用性を高めた物。

 

 欠点は武器に搭載するので大きな装置は使えない事と、核ありの魔石を使っているので魔法が1つしか使えない事だ。

 だが、核あり魔石に内包されている魔法には結構なバリエーションが存在するし、今後の技術力が上がれば核あり魔石を記憶装置に置き換えて汎用性を上げられる。


 新たに秋斗が考えた魔法剣は第2世代型マナデバイスの簡易版といった位置づけだろうか。


「まぁ、魔法剣は近接用で遠距離用には別の物を用意している」


 遠距離用は魔法銃の大型版や魔法の補助装置である杖型――第1世代型と第2世代型マナデバイスの中間のようなモノ――などを用意しているのでグレンに各種テストしてもらって正式採用になるだろう。


 とりあえず採用見込みがあるのは魔法剣だけ、といった状況だ。


「司令官用――王専用の装備も作るから楽しみにしててくれ」


 量産品はコスト的な意味で性能はやや落ちるが、専用装備というカテゴリの上位版も用意するつもりでいた。

 王専用などとなれば秋斗が作る個数は減るので時間は掛からないし、何よりこういった専用装備という響きが好きな秋斗の提案であった。


 ニヤリと笑いながら言う秋斗の言葉を受け、王達は大興奮。


「楽しみですなァ」


「全くだ。早く使いたい」


 一部戦闘狂の王2名は獰猛な笑みを浮かべて戦場に立つ気満々。

 娘達に諌められていたが、恐らくその時になれば率先して戦場に立つのだろう……。



-----



 会議が終わった後に、秋斗は1人でグレンのいる執務室を訪ねた。


「おおい、試作品持ってきたぞー」


 午後ならいつでも良い、とグレンから言われていたので扉の前でやや大きめの声で用件を告げた後に、中からの返事を待たずに入室しようと準備をする。


 秋斗は扉のドアを捻って少しだけ開けた後に両手で木箱を抱え、腰でドアを開きながら入室。 

 横を向きながら入室し、前を向いていたわけではないのでハッキリとは見えなかったが視界の端で何かが素早く動いた気がした。 


「どうした?」


 振り向き、室内に体を向けるとグレンとジェシカが並んで立っていた。


「い、いや。お茶を入れようと思ってな」


「そ、そそ、そうなんです」


「あ、そう。頼まれてた試作品、持って来たぞ」


 何やら2人が慌しくしていたが秋斗は気にせず木箱を降ろして蓋を開ける。


「これが近接武器に埋め込む装置か?」


 グレンが取り出したのは長方形の装置。

 

「一応それは魔法剣の中核部分なんだが、実際は柄部分が装置になってトリガーが取り付けられる。トリガーを握ると魔法が発動する感じかな?」


 現在はヨーゼフや武器職人達と相談中だが剣の柄部分が銃のグリップとトリガーのような形になって、セーフティーを外すとトリガーを握り込む事が出来るようになる。

 

「なるほど。遠距離はどうだ?」


「注文通り、ワンオフ品の大口径型のスナイパーライフルタイプは製作中。他の魔法隊が使うヤツは大砲型にした方がいいかもしれない」


「大砲型?」


 コトリ、とジェシカが入れてくれたお茶のカップが3つ置かれてお茶を淹れていたジェシカも話しに加わるべくグレンの横に座った。


「ああ。個人個人で魔法を撃つよりも魔石カートリッジを何個も装着できる動力――バッテリーを作って固定砲台にした方がいいかもしれない。ただ、大型化して重量が増すから数人での運用になる」


 秋斗は旧時代にあった大きな鉄の弾丸を撃つ大砲のような絵が描かれたイメージ図を取り出して机に広げる。


「一応、小型化やマナデバイスの簡易版も考えているけど、これの方が単にカートリッジのソケット増やすだけだし簡単で作りやすいんだよ。城壁に並べて撃ち込む感じかな」


 カートリッジを複数差し込めるソケットを用意した動力で装置自体は大型化したがカートリッジが増えた分、威力も上がった。

 敵陣に魔法の撃ち込み、カートリッジが空になったら別の物を挿入してリロード、といった流れだ。


「なるほど。これなら魔法部隊に限らず誰でも使えるか」


「個人用の簡易マナデバイスも用意するけど、大砲と併用するのが良いかもな」


「わかった。そのつもりで準備しておこう」


 グレンが頷き、秋斗はジェシカが淹れてくれたお茶を飲む。

 半分ほど飲んだ後、秋斗はカップを置いて今後の予定を述べる。


「それと、ヨーゼフ達に今回の件を教え終わったらラドールへ行って来る」


「ラドール? 魔王国か。何かあるのか?」


「ああ、エリオットが一度見に来てくれって言っているのと魔王国に異種族発祥のヒントがあるらしくてな。グレゴリーの件もあるし、それを見に行ってくる」


「頭痛の件か……」


 グレンも眠った後に何があったのか、グレゴリーが残したメモは何なのかは気になる。

 だが、動けないほどに頭痛で苦しむ秋斗を見てからは追求する事に不安しかなかった。 


「大丈夫だろう。グレゴリーの件よりも異種族が生まれた方の調査だ」


 ここでジェシカが何かを思い出したかのように告げる。


「あ。もしかして、アラン殿がこちらに来るのも?」


「そうそう。あっちでの仕事も落ち着いたようだし、前に約束してた歴史調査だ」


 なるほど~。と言ってクッキーを口にするジェシカ。

 どうやらアランが来る事は知らされていたようだ。


「戻る予定はいつだ?」


「滞在は2週間くらいの予定だ。出発する日は事前に教えるよ」


「了解した」


 その後は世間話をしながらお茶を楽しみ、秋斗は退室していった。


「……ふう。危なかったな」


 秋斗が退室していった後、ソファーに身を預けながらホッと息を吐くグレン。


「ええ。もう、この部屋では止めた方がいいのではないですか?」


 ジェシカも安心したように胸を撫で下ろした後に頬を赤く染めながらグレンを見やる。


「いや、まぁ、そうなのだが。ともかく、まだ秘密だ。バレたら絶対大騒ぎになって秋斗にネタにされる……」


 グレンも気恥ずかしそうにしつつ、今はまだ秘密を隠し通す気でいた。


「確かに……。私も姫様に絶対何か言われます」


 2人は容易く想像できる未来に再びハァ、と溜息を零した。

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