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112 この先の目標


「と、まぁ、そんな出会いだったわけだ」


 なんて明るく自分の過去話を閉めた秋斗だが、秋斗以外は沈痛な面持ちを浮かべる御通夜状態だった。


「トリスタンか。確か、死んだと言われていたな」


 そんな中、会話を続けるのはグレン。

 彼も軍に入ってからしばらくして『トリスタン』という男の話をよく聞かされていた。


 戦争ならば報酬次第でどこでも構わず参加し、高い戦闘能力を持った傭兵集団。

 しかし、彼らは敵軍の街で略奪を行い、女子供でも容赦なく辱めた後に殺害する最低最悪の集団と呼ばれていた者達。


 彼らはある時期から姿を見せなくなり、死んだという話が持ち上がったのだ。

 その時期というのは、アークエル軍がグーエンドに行った報復作戦の時。秋斗がグーエンドの街を1つ消した時であった。


「グーエンドの街にいたんじゃないか、と言われていたな。死体は出なかったがあれ以降姿を見なくなった」


「ああ。俺も納得はできなかったが……爺さんに言われてな。そろそろ前向きに生きた方が良いって」


 師であり、父のような存在になっていたグレゴリーにグレイの為にも『自分の未来のために生きろ』とその時期から言われ続けていた。

 

 仲間を殺した者への復讐が終わったとは言い難い。

 しかし、グレゴリーは復讐の為だけに生きる秋斗を見続け、秋斗自身のためにも区切りをつけろと言い出した。


 グレゴリーの言葉を受け、秋斗は親友の言葉を思い出す。


『幸せになれ』


 幸せとは人それぞれだ。

 自分自身の幸せとは何なのか。自問自答を続け、導き出したのは嘗ての仲間の夢。


『結婚して、教師になって、マナマシン作って、アークマスターになる事』


 彼らの夢を、自分の夢にして。自分自身の幸せの目標にする。

 がむしゃらに復讐を目指して突き進んでいた秋斗は皮肉にも彼らの夢の大半を達成していた。


 残りはルカの言う『結婚』であったが、当時の復讐に燃える秋斗は愛想が無く怖いと評判の男。

 この事を新たにできた親友、ケリーに相談したら親身になって相談に乗ってくれた。


『まずは、人並みのコミュ力をつけよう』


 そう言ってケリーは秋斗をプライベートでも連れ回し、人並みの感情を取り戻させた。

 秋斗が笑うようになり、人から変わったと言われるようになったのはこの頃からだ。


「結婚。それも達成できる」


 そう言ったリリは秋斗の腕を持って抱きしめる。


「確かに」


 リリを見て笑顔を浮かべる秋斗。


 氷河期が訪れず、あのまま生きていたら秋斗は最愛の者と出会えたのだろうか?

 それはわからない。


 しかし、2000年経った未来で嘗ての仲間が目指した夢を全て達成できる兆しが見えた。


「私達が秋斗を離さないから。達成は決定事項」


「そうか。そうだな……」


「次は子供ですね」


 感傷に浸っていた秋斗にソフィアが次なる目標を告げる。


「秋斗さんが失った仲間の方々の夢。それを達成したなら、次は秋斗さんと私達の夢の達成が目標です」


「そうですね。お姉様の言う通りです。だから、まだ終わりじゃありませんよ」


 エルザもソフィアの提案に同意する。

 秋斗はきょとん、としながら2人の顔を眺めた後に笑みを浮かべる。


「そうだな。みんなで頑張ろう」


「ええ。屋敷も完成した事ですし、そろそろ本気で考えなくてはいけませんね」


「うん。本気出す」


「私も旦那様の子が欲しい」


「わ、わたしも……」


 秋斗が同意すると、婚約者一同やる気を出し始める。

 本気を出す、と恐ろしいことを言いながら。


 男性陣は全員戦慄した。

 身を持って体験している秋斗は勿論の事、秋斗が搾り取られてフラフラになっている様子を知っているイザーク達。

 

 あれ以上はどうなってしまうんだ、あれ以上は秋斗が死んでしまう、と背筋に冷たいものが流れる。


 もちろん、秋斗の目は死んでいた。



-----



「ところで、グレゴリー博士の話を聞いて思い出したのだが」


 婚約者達が気合を入れた後、もうすぐ夕飯の時間帯に差し掛かった時。

 秋斗とグレンだけがリビングに残って世間話を続けていた際に、グレンが先ほどの話の内容で気になった事を投げかけた。


「昔、軍の上層部が総入れ替えになった時期があったんだ」


 丁度、秋斗がグレゴリーに師事し始めた頃の事だ。

 まだ階級の低かったグレンでも驚くような、当時の軍上層部の人間が1人も残らず辞職するという事件があった。

 

「ああ、それね。後に聞いたけど爺さんだよ。アークエルの政府の政権交代で爺さんの知り合いが国のトップになって……」


 グレンも秋斗に言われて思い出す。

 大きな政権交代で国が賑わう最中に、世間では騒がれなかったが軍上層部の総入れ替えが起こったのも同じ時期。


「なるほど。博士の養子の……」


 養子を切り捨てた復讐。

 政権交代の際も力を貸したのだろう、とグレンは簡単に納得できた。


「しかし、何故博士の養子が戦争に? 政治家と親交があれば身内を戦争に向かわせる事なんて無かったのでは?」


「なんでも、グレイが自分から志願したらしく……。ついでにグレイはグレゴリー家の正式な養子じゃなくて爺さんが預かっていたって扱いだったんだ。それで、グレゴリー姓じゃないし書類上は一般人だから……」


 これは秋斗が後に聞いた話であったが、グレイは育ての親であるグレゴリーの職場によく連れて行ってもらっていたらしい。

 そこで子供がいなかったグレゴリーは親友の息子であるグレイに甘く、彼がグレゴリーの使う魔法を見て憧れていくのを止められなかった。

 

 グレイの中ではグレゴリーが魔法で全てを解決するヒーローのような存在になり、自分もそうなりたいと決意して戦いの場を求めた『何もしらない男』だったようだ。


「書類上は一般人、だから学徒兵として使われて軍の身内贔屓が効かなかった?」

 

 グレゴリーはアークエルで最も有名な魔法研究者で、魔工師が誕生する前の――アークエルにとっての切り札だ。

 当然、国政に関わる大物とも面識があると容易に想像できる。


 しかし、グレイはグレゴリーの戸籍に入っていない一般人。

 彼がアークエルの切り札の養子、という立場が明確になっていれば結果は違っていただろう。


 そうして彼の身に悲劇が起こり、グレゴリーも後悔とやりきれない思いを抱えてしまった。

 ここまでなら良かったのかもしれない。


 だが、実際に軍の行った行為は学徒兵を使い捨てる様に兵器を撃ちこんで敵兵ごと消滅させようとしたのだ。

 その行為を隠蔽し、被害者の親族には適当な理由を付けて死亡したと報告した。


 グレゴリーは自身が持つコネやツテ、自身の力と権力をも使って無能な軍上層部を根こそぎ掃除したのだ。


「結構、博士も過激だったのだな」


「そりゃそうだ。俺の師匠だぞ」


 秋斗は笑いながらグラスを傾け、グレンは明らかになった真実に溜息を零した。

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