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106 屋敷と顔合わせ


 エルザと婚約者同士になってから1週間。

 彼女も王城にある秋斗の自室で暮らし始め、5人の仲は良好。


 そんな5人のもとにフリッツがやって来ていた。

 用件は秋斗達が住む屋敷の件だ。


「この前頂いた屋敷の間取りで決定しました。3日後から着工しますので」


「わかった。代金はどうすれば良い?」


 現在は王城暮らしである秋斗だが、エルフニアで販売を開始した魔道具の権利料が既に支払われているので自分で稼いだと言える金は持っている。


 御影家の金銭管理はソフィアに一任されているので秋斗本人は正確な金額は知らない。一般年収の10年分くらいはあると以前ソフィアが言っていたので当分は困らない額だろう。


 しかし、屋敷の建設費用がいくらなのかを知らない秋斗は少々ビクつきながらフリッツへ問いかけた。


「はっはっは! エルザの夫である秋斗様から金は取れませんよ」


「いや、しかし……」


「いえいえ、婚約祝いと思って受け取って下さい」


 金はいらない、というフリッツへ申し訳無さそうに苦笑いを浮かべる秋斗であったがフリッツに先手を取られてしまう。

 

「それに、これから国の事でご迷惑をおかけしてしまうのです。これくらいはさせて下さい」


 これ以上言っても譲らないだろう、と思った秋斗はフリッツの提案に頷く。


「うーん。わかった。ありがたく受け取ろう」


 秋斗が折れた事でフリッツも胸を撫で下ろし、ニコニコと笑顔を浮かべる。


「ところで、使用人達はどうしますか?」


 使用人ってなんだ? メイドと執事か? と何もわかっていない秋斗は顔をソフィアとエルザに向けると2人が解説してくれる。

 

「メイドと執事、守衛。あとは庭師とかですね。料理人は私がやりますので不要ですよ」


 ソフィアは基本となる使用人の役職を上げながらも、料理は自分ですると宣言。


 ソフィアの言った通り雇う使用人はメイドと執事、来客を最初に迎える門番の守衛、庭を手入れする庭師、馬を管理する飼育員などが定番だろう。料理人も本来は必要だが、料理はソフィアが担当するので除外。


 他にも貴族であれば私兵の騎士団を設立したりするのだが、御影家は少々特殊だ。主である秋斗が賢者なので王家よりも上の地位だが貴族でも王族でもない。

 

 故に騎士団設立は無いので、嫁となる彼女達に付ける護衛の騎士を数名くらいだろうか。

 尚、秋斗本人の護衛はない。むしろ、秋斗を害する存在が国内に入り込んでいたら緊急事態でそれどころじゃない。


「メイド長はアレクサですが他にも必要でしょう。お父様、門番と護衛騎士はどうしますか?」


 エルザが既に御影家のメイド長として仕える事が決定しているアレクサをチラリと見た後、父であるフリッツへ騎士関係について問いかける。

 

 こちらも自領持ちの貴族ならば先代から引き継いだ騎士団から採用するし、王都勤めの貴族ならば王都戦力の騎士団から引き抜くのが通例だ。

 

「うむ。グレン様が採用した騎士達以外の者で秋斗様とグレン様の屋敷に勤める者を全国で選出している。各国から推薦された20名ずつが下の訓練場で勝ち抜きトーナメントをしているぞ」


 フリッツの話では偉大なる賢者様の屋敷に仕える者選手権が開催されているらしい。

 

「前から考えてたんだが、うちで雇う人達は奴隷被害に遭った人達じゃダメか?」


「奴隷被害に遭った者達ですか?」

   

「ああ。たぶん、元の職場復帰が難しい人もいるだろ? ウチの使用人として働くならそこまでシビアに仕事しなくても構わないし」


 他の貴族や王家に仕える者となれば一定の水準が求められるし、採用に対して何かしらのルールがあるだろう。

 しかし、御影家は新規に立ち上がる家だ。さらには主人が秋斗なので「仕事は緩くて良い」と言えばそれが現実となる。


「ついにで研究所で雇う人手や魔道具の販売店には、被害にあって職が無い者や現状の雇用では身体的に厳しい者を国の福祉の一環としても良い。とにかく優先的に雇いたい」


 秋斗は奴隷被害者を救出した時から考えていた構想をフリッツへ語る。


 奴隷被害に遭った者は首輪の効果で身体的に何か重荷を背負ってしまった者やお金に困っている者もいるだろう。

 勿論、現状でも国は手厚い保護と一定量の資金を毎月給付したりと色々な対策はしている。


 助かったとはいえ、あれだけ酷い環境に連れて行かれたり絶望しかないような仕打ちを受けた者達だ。そんな辛い経験をした者達へ、優先的に職を斡旋したり彼らの状況を加味してくれる場所があっても良いと秋斗は思っていた。


「確かに被害者達への救済手段になりそうですな」


 未だに医療院で治療中の者もいるが、彼らが回復して社会復帰する際に斡旋できる場があるに越した事は無い。

 それに、魔道具関連の職はこれから最も伸びる業種になるだろう。人手が足りなくなるのは目に見えている。


「お父様、良い案ですよ。未だショックで医療院から外に出たがらない方もいると聞きます。しかし、秋斗さんが近くにいる職場だと言えば安心してくれるかもしれません」


 フリッツは娘であるエルザの言葉に頷く。

 この世で最も安全な場所と言えば賢者である秋斗の近くだ。王都や街の中も安全ではあるが最強の賢者が近くにいるという事は『安全』という言葉の重みが全く違う。


「アレクサも良いか? 教育を任せる事になると思うが……」


「問題ございません。如何様にも、ご主人様の望むままに」


 アレクサは秋斗の問いに頭を下げて了承を示す。


「では、そのように動きます」


 フリッツは早速とばかりに他の王達との打ち合わせに向かった。



-----



「グレン様。推薦された人員が揃いました。第二訓練場に召集させています」


「わかった。向かおう」


 グレンは執務室で書類の作成をしていたがジェシカの報告に頷き、ペンを台座に差してから立ち上がる。


 予てより募集していた特殊部隊の人員がようやく揃う日となった。

 レオンガルドとガートゥナから推薦された者は既に王都へやって来ていたが、北街の復興と国内警戒に人を割いていたエルフニアとレオンガルドまで距離のあるラドールの者が先日レオンガルドに到着。

 

 本日は全員の顔見せとして王城隣にある第二訓練場へ召集をかけたのだ。

 グレンとジェシカは王城の庭を通り、第二訓練場へ向かう。


 訓練場には5名の男女の騎士が談笑をしながらグレンを待っていた。

 彼らは訓練場入り口に姿を現したグレンを見つけると、綺麗に背筋を伸ばして整列する。 


 グレンは彼ら1人1人を見渡してから自己紹介を始める。


「待たせてしまったな、申し訳ない。私の名は雨宮・グレンだ。既に諸君らが集められた理由は知っていると思うが、私が諸君らの教官となる。まずは、1人ずつ自己紹介をしてもらいたい」


 グレンはそう言うと、列に並ぶ左端にいる男性に視線を送る。

 男性もグレンの視線に含まれた「君からだ」という意図を理解して自己紹介を始めた。


「名前はアンソニーと申します。種族は人族。レオンガルド近衛騎士団に所属、第三小隊で隊長をしておりました。軍将閣下の教導を受けられる事、光栄に思いますッ!」


 彼はレオンガルドの推薦枠から採用した者で、この5名の中では唯一隊長役職を経験したことがある者だ。


「名はクライグ。白エルフです。エルフニア第二騎士団所属。よろしくお願いします」


 クライグはエルフであるが人族基準に換算すれば5名の中で一番若い。口数も少なく、大人しい印象を受ける。


「自分はカイと申します。種族は獣人、灰狼族。ガートゥナ王都第一騎士団所属、役職はありません。軍将閣下。若輩でありますが体力には自信があります。よろしくお願いします」


 カイはアンソニーよりも少し年下であるが若手以上の戦闘経験をした隊長一歩手前、といったところか。ガートゥナ推薦枠の中で一番体力がある体力馬鹿と一言添えられていた者である。


「アタシの名前はアリーチェだニャ。獣人種、猫人族だニャ。ガートゥナ近衛騎士団所属、元オリビア姫護衛だニャ。脳筋姫様がようやく嫁入りしたので解任されたので推薦されたニャ。よろしくお願いしますニャ」


 アリーチェは彼女の言う通り、元オリビアの護衛騎士で弓の名手。オリビアにも彼女の事を聞いたが、弓の腕はオリビアが認めるほど優秀で後方からの援護は彼女の弓が一番安心できるとの事。


「私の名前はオレールと申します。魔人種、インキュバス族です。ラドール王都騎士団魔法部隊所属でございます。閣下、お会いできて光栄です」


 オレールを採用した決め手はインキュバス族の中でも一番魔法が得意な事で、魔法部隊の中でも最高位に評価されていた。



 以上が各国からの推薦枠より一次採用した者達だ。

 

 まずは全国の騎士団から5名採用し、種族を越えて協調できるかを図る。その為、まずは少数かつ各国よりなるべく1名ずつ採用した。

 獣人が2名なのはカイとアリーチェが得意とする武器が近接、遠距離と分かれていた為だ。


「ありがとう。まずは試験分隊からの運用として君達を採用させてもらった。細かい規則は後ほど説明する。君達に求めているのは様々な種族が混成された部隊が運用できるかどうかの判断材料。そして、私の所属していたアークエル軍で運用していた戦闘戦術が現代でも通用するかの検証だ」


 グレンはそう言った後に全員を見渡し、言葉を続ける。


「これから君達には様々な特殊訓練を行ってもらう。最終的には王都直轄部隊として新設する特殊部隊の隊員となり、後続の新人に訓練を施す教官にもなってもらう予定だ」


 グレンが説明した後、ここまでで質問は? と問うとアリーチェが手を上げる。


「混成部隊が失敗したら国に戻されるニャ?」


 もう国で王妃様のスパルタ訓練はしたくないニャーと付け加えると、同じガートゥナ王都所属だったカイもビクリと震えた後にガクガクと体を震わせ始めた。

 脳筋姫の母親はどれだけキツイ訓練をさせていたのだろうか。


「いや、失敗というのは語弊があるな。混成部隊がダメなら種族毎に部隊を作るし、そもそも混成部隊のテスト中に何か問題が生じれば随時調整をする。なので、国の部隊に戻る事はないだろう」


 グレンが質問に答えるとカイの目に生気が戻った。


「他に質問は? ……無いのであれば、本日は解散して体を休めてくれ。明日から運用テストと訓練を始める」


 召集された5人は返事をした後に騎士礼をし、グレンが立ち去るのを見送った。


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