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104 水着と4人目


 ついに水遊びの日がやって来た。


 周囲は木々に囲まれ、目の前には大きい湖。

 湖の水は底が見えるくらいに透き通っていて、とても綺麗な水なんだと十分に思わせる。水面には今日も暑くギラギラと輝く太陽を映し出して、早く飛び込んで涼みたいという気持ちが溢れそうだ。


 秋斗と婚約者達とペットのハナコはレッシーナ領にあるレッシー湖に到着していた。

 同行メンバーはイザーク夫婦、エリオット一家、エルザとアデル、2人の専属メイドと執事。秋斗の専属メイドであるアレクサも加えたメイドと執事隊10名 + 宮廷料理人2名。

 

 その他にも護衛として同行した騎士達が20名。相変わらずであるが、ただ単に遊びに行くだけでこの大人数になってしまった。


「では、コテージに行きましょう」


 秋斗達は荷物を運んでくれている執事の先導で湖の周辺に建てられたコテージに向かう。

 外観はログハウスのような木製コテージであるが、内部の家具や内装も王城の部屋と遜色ないくらいに良いモノが取り付けられている、王家専用の宿泊コテージが滞在中に寝泊りする場所だ。


 元々ここはレオンガルド王家の避暑地としても使われているので王家宿泊用コテージの他にも、同行して来た宮廷料理人が十分に腕を振るう為の調理場やメイドや執事が寝泊りする建物なども存在する。

 少し離れた場所には湖と施設を管理維持する者達の家も建てられており、十分に整備された土地だ。


 荷物を置き、コテージ内の部屋を見学し終えた秋斗達は同行している他のメンバーと合流。


 現在の時刻はお昼前の11時。

 秋斗達は早速湖で遊ぶ事にした。


 そうとなれば、賢者の叡智と最高の裁縫職人によって生み出された水着の出番だ。

 男女別々のコテージで水着に着替える。

 

「アデルは?」


「アデルはまだ準備中のようです」


 ただ下を履くだけの男達は早々に着替え終わり、世間話をしながら女性陣を待っていた。

 アデルは初めての水着に手間取っているのだろうか。それとも、事前に秋斗が渡していた浮き輪を膨らませているのだろうか。アデルの水着もトランクスタイプなので、恐らく後者だろう。


「貴方様。お待たせして申し訳ありませんわ」


「パパしゃま~!」


 男3人で最近の事について情報交換を行っていると、イザークの妻ナディアとエリオットの妻カーラがクラリッサを抱いてやって来る。


「どうでしょうか? ヘンではありませんか?」


 イザークに問いかけるナディアは薄い緑色をしたフリフリ付きのワンピースタイプの水着を着用している。

 

「いいや。すごく似合っているよ」


 イザークの返答は本心だろう。

 純粋培養された高貴なお嬢様は水着を着用しても高貴さが溢れ出ていて、大変よく似合っている。


「カーラもクラリッサもよく似合っているよ」


 エリオットが褒め称えたカーラの水着は露出を抑えたセパレートタイプの水着で、下はスカートタイプの可愛らしいものだ。

 クラリッサは秋斗がエリザベスにネタ枠で教えた紺色のスクール水着だった。しっかりと胸に取り付けられている名札には『くらりっさ』と名前が記入されている。


「お、お待たせしました」


 秋斗が2家のやり取りを横目で見ていると、遂に秋斗にも声が掛けられる。

 声の方向に振り向けば、そこには白い競泳タイプの水着に身を包みながらモジモジと恥ずかしがっているエルザの姿が。


 まさかの白色競泳タイプ。スレンダーなエルザが着ればもはや凶器だ。

 ぴっちりと肌に密着したそれは、ビキニよりも凶器感が増すと言わざるを得ない。言わざるを得ない!!


「へ、ヘンでしょうか?」


 秋斗が心の中で紳士的な賞賛を思い浮かべていると、秋斗の沈黙が不安になったのか問いかけるエルザ。


「似合ってる。素晴らしい」


「本当ですか? 良かったです」


 素晴らしい、大変素晴らしい、と脳内で賞賛を送りながらニコリと爽やかに微笑む秋斗を見て、エルザも安心したのかようやく笑顔を浮かべた。


「旦那様。待たせたな!」


 次にやって来たのはオリビアだ。


 彼女はスポーツタイプのビキニで、上がスポブラタイプになっている水着を選んだようだ。

 その選択は正しいと言えよう。彼女の引き締まった体と程好く膨らむ胸を敢て抑える事で、逆に想像を膨らませてしまう。

 そして、恥ずかしがらずに堂々と腰に手を当てながら見せ付けるようにする態度がオリビアらしい演出だ。


「よく似合っているじゃないか」


「そ、そうか!?」


 秋斗は再び脳内に浮かぶ本性を隠して爽やかに微笑む。

 オリビアは秋斗の言葉を受けて、嬉しそうに笑みを浮かべながら尻尾をブンブンと振っていた。


「お待たせ」


 この声はリリだ、と思いながら振り返る。


「どう?」


 相変わらずクールに問うリリであるが、彼女の水着は振り返った秋斗が絶句するほど凄まじかった。

 黒いマイクロビキニ姿の彼女は刺激が強すぎる。しかも下はローライズで後ろを向けば尻がとんでもない事になっているだろう。

 大きな胸は当然隠しきれず、今にも零れ落ちそうだ。

 

「ヤバイ……」


「ふふ」 


 銀髪、褐色の肌、黒いマイクロビキニ。秋斗君のムッツリが隠しきれない程の衝撃を与えたリリは妖艶に笑う。


「………」


 破壊力抜群なリリの水着姿を見たエルザは、眉間に皺を寄せながらペタペタと自分の胸を触っていた。


「あとはソフィアだけか。着替えに――」


「秋斗さまぁぁっ!」


 残り1人のソフィアはどうなのか、とリリに問いかけている最中に丁度良く彼女の声が聞こえてくる。

 そちらに視線を送ると、リリ以上に凄まじいモノを見る事が出来た。


 ばるん、ばるん。


(リリと同じくマイクロビキニ……? いや、違う!? 胸が大きすぎてハミ出ているだけか!!)


 ばるんばるんと揺れる胸。その胸を覆い隠そうと必死に頑張る白いビキニのトップス。

 キュッとしたクビレと健康的な臀部を隠すフリル付きの可愛らしいパンツ。

 

 エルザはソフィアの揺れる胸を見て、自分の胸に手を当てながら死んだ魚の目をしていた。


「秋斗様。どうでしょう?」


「ありがとうございます」


 秋斗が思わず礼をしてしまうくらいに破壊的だった。

 ありがとう。ありがとうビキニを開発した人。



-----


 

 女性達の素晴らしい水着姿を拝見した後は全員合流して湖を満喫。

 昼まで水の中で遊びながら涼み、同行した宮廷料理人の作った昼食を食べて一休み。


 その後は各自好きな事をして午後を過ごす事となった。


「ちゅめた~い!」


「あはは~! これプカプカ浮いてすごいー!」


 チビッコ組はエリオット夫婦が面倒を見つつ、浮き輪やゴムボートに乗りながら楽しむ。


「ふふ。休暇って良いな~」


「貴方様。飲み物をお持ちしましたわ」


 イザーク夫婦はパラソルの下に置かれたイスで寝ながらゆっくりした時間を過ごす。


「リリ姉様! 競争しよう! 競争!」


「うん」


「あまり離れちゃダメよ~」


 リリとオリビアは泳ぎながら遊び、泳ぎ疲れたソフィアはゴムボートの上で浮かびながらハナコと休憩。


 秋斗とエルザは座りながら湖の中に足だけを入れてのんびりしていた。

 話題は王都デートの件や魔法について。


 秋斗との会話は楽しく、身構える事がない。エルザは夕方まで秋斗の傍から離れる事無く過ごしていた。


(今日の夜。今日の夜に話そう)


 そして、彼女はこの湖に来る前に家族全員とリリ達に自分の決意を伝えてからやって来ている。 

 家族達からは頑張れと背中を押され、リリ達は大丈夫だと笑顔で応援していた。


「秋斗さん。今夜、寝る前に……私に時間をくれませんか?」


「……ああ、良いよ」


 緊張しているのか、エルザの声は震えていた。 


 秋斗もエルザの様子から内容を察する。さすがに4人目ともなればエルザが自分に何を伝えたいのか気付くことができるようになっていた。

 それに他の3人と比べてエルザは接している期間も長く、彼女の他人への態度を見る機会は多かった。


 王城での彼女は基本的に男性に近づかないし話しかけない。王城の者達も理由を知っているので緊急時以外は話しかけない。

 それくらいの男性不信でありながら、王城内で普通に接している男性は彼女の家族と自分だけだ。

 

 最初は賢者だから無理しているのか、とも思っていたが、特に気負って話している様子は無く王都の案内も普通にしてくれた。

 さらには王都の案内をしてもらった日の夜から婚約者達に「エルザってどう思う?」などのエルザに対する質問の多さ。


 嘗ては恋愛経験値不足のチョロ賢者な秋斗であったが、3人の婚約者と過ごす間に人並みくらいには成長できたのだった。


「………」


「………」


 エルザは緊張から、秋斗は察してしまったからか黙ってしまい沈黙が2人の間を支配する。


「秋斗。エルザ。一緒にあそぼ」


 そんな2人に気付いたリリはスィーと泳ぎながら2人に接近し、雰囲気の改善を良い方向へ図るべく遊びに誘った。


「そうだな」


「ええ。行きましょう」


 秋斗とエルザはリリに連れられ、ソフィアとオリビアとも合流して楽しい時間を過ごした。



-----



 夕方まで遊んで過ごした後、夕飯は同行した騎士達が湖周辺に生息する魔獣を狩って得た肉を焼くバーベキュー大会だった。

 一番の大物を獲った騎士がイザークとエリオットに表彰され、騎士隊やメイドと執事と料理人も交代で仕事をしながら皆で楽しく食事をした。


 食事も終わり、全員の腹も膨れたところで本日はお開き。

 泊まるコテージへと戻って行き明日の予定に備える。そんな中、秋斗はリリ達に外に出てくると一言告げてコーテジから出て行った。


 エルザとの約束を交わした場所まで向かうと、湖の傍に佇む1人の女性。

 月明かりと空に輝く星が水面に反射する幻想的な景色をバックに、秋斗を待つエルザは湖を見ながら立っていた。


「すまん。今回も待たせちゃったな」


「いえ」


 秋斗は湖の見るエルザの背中に声を掛けるが、彼女は一言だけ短く返事をして秋斗へ振り向く事無くそのまま湖へ体を向けている。

 その後もエルザは緊張でドキドキとうるさいくらいに鳴る心臓を手で押さえながら真っ赤になった顔を見られないよう、緊張しているのを悟られないよう、黙ったまま湖に視線を送り続けた。


 秋斗も彼女の反応を静かに待ち続け、5分程経ったところでエルザから口を開く。


「秋斗さん。話があります」


「うん」


 エルザの言葉に秋斗が穏やかな声音で返すと、エルザは一拍置いてから言葉を続ける。


「秋斗さんも既に知っているかと思いますが、私は王族の女として問題を抱えています。家族には申し訳ない気持ちでいっぱいで……でも、何で私がとか。あの日、あの場にいなければとか。理不尽な出来事を恨みました。いっぱい苦しかった」


 秋斗もリリ達やイザークからエルザのトラウマについて聞いた際は帝国に対し怒りを覚え、それと同時に理不尽な出来事によって狂わされた彼女の気持ちが理解できた。

 何故なら、自分も同じだからだ。

 

 戦争というモノに参加させられ、親友達を失った。

 自分1人の力ではどうしようもない、理不尽な力によって大切な物を失った。


「でも、私は知りました。秋斗さんが過去に何を経験したのかを。それは、私と同じようで私よりも辛い出来事です」


 エルザの苦しみは他人が思う以上に辛い事だっただろう。

 秋斗は自分と比較されたことで、そんな事はないと言いたかったが口にせずに黙ってエルザの言葉を待つ。


「そんな経験をした秋斗さんが、みんなの為に頑張っているのに。あんなに心を傷つけながら戦っているのに。私も前に進まなきゃいけない、私以上に辛そうにしている秋斗さんを支えたいって思うようになったんです」


 エルザはぎゅっと胸の前で手を握り締める。


「秋斗さんに対して私が抱えている気持ちの発端は、似たような苦しみを持つ者同士だからと共感できたかもしれません。私の抱いた気持ちは、不純なのかもしれません。歪んでいるのかもしれません」


 そう言った後、エルザはくるりと秋斗の方へ体を向ける。

 彼女は月明かりに照らされながら。


「でも、今の私は秋斗さんが心の底から好きです」


 エルザ・レオンガルドは想いを告げる。


「普通の女の子みたいにデートしてくれて。デート中、ずっとドキドキしていて……。私が諦めていた恋を、諦めていた気持ちを、もう一度感じさせてくれた秋斗さんを愛しています」

 

 エルザは顔を赤くしながら微笑を浮かべる。


「俺は君が経験してきた苦しみが理解できる。俺も同じく理不尽な出来事で人生を歪められた。共感できるというのがおかしいと言うならば、エルザに対して共感を覚えた俺もおかしいのだろう」


 体験した出来事、負った傷の大きさは違うのかもしれない。それでも、秋斗もエルザも第三者の理不尽な事によって何を失った。恐怖を植えつけられた。

 理不尽によって人生を狂わされた者同士。

 

 エルザが言うように、共感するのが不純ならば、歪んでいるのならば秋斗も同じだ。

 それに、エルザと一緒にいて安心感を覚えるのは秋斗も同じ。秋斗も彼女と触れ合う間に自然とエルザへ好意を抱いていた。


「エルザに好きと言われて嬉しいよ。俺も、その、君の事は好きだ」


 秋斗の言葉を聞いて、エルザは秋斗に近づく。


「私のこと、お嫁さんにしてくれますか?」


 エルザは声を震わせながら問いかける。


「ああ。こちらこそ、頼むよ」


 秋斗はエルザの問いに、笑みを浮かべながら頷いた。


「トラウマ持ちの、面倒くさい女ですけど良いですか?」


「構わない。俺の方がもっと面倒くさい」


 エルザは秋斗の言葉を聞いた後、胸に飛び込んで胸元に顔を埋める。


「安心させて下さい」


「え?」


 エルザは抱きつきながら秋斗の顔を見上げ、顔を真っ赤にさせて告げる。


「お姉様達と同じように、私も貴方のモノだという証拠を私の体に下さい」


「そ、それって……」


 秋斗はゴクリ、と喉を鳴らす。

 

 いつものように家族からの了承が無ければ、と告げるが今までの婚約者達から情報を得ていたエルザから「既に了承済み」と先回りされてしまう。


 エルザの粘り強い説得に諦めた秋斗と彼の手を強く引く顔を真っ赤にさせたエルザは、他の婚約者達の待つコテージへと戻って行った。


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