表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/160

101 王都案内2


 秋斗が魔法を見せるという話は観客席にも伝わったようで、そちらから聞こえてくるざわめきは一層ボリュームが上がる。

 だが、まずはリゲル達による現代魔法の実演だ。


 リゲルのクラスで魔法を使えるのはリゲルを含めて6人。

 エルザの解説によれば、1クラスに実戦に投入できるレベルで魔法を使える者がいるのは珍しいらしい。


 用意が出来た6人は腕を胸の高さまで上げ、掌を魔法用の案山子へ向ける。


 その後、ごにょごにょと何かを呟くこと3分。まずはリゲルの掌から成人男性の拳くらいの大きさをした火の塊が創造され、案山子へと飛んで行く。

 案山子へ着弾した炎の塊はボワッと強く燃えると着弾部分に黒いコゲを残して炎の塊は消えた。


 その次はリゲルの隣に立っていた女性が水の塊を案山子へ撃つ。こちらも成人男性の拳くらいの大きさで、着弾すると着弾部分がヘコむ。

 他にも風の刃で傷をつけ、土の塊を当てて打撃を加えるなど。賢者時代で言われていた4元素魔法と比べても威力は低い。


 しかし、エルザの解説によると学生としては平均的な威力で一番発動が早かったリゲルは優秀な域とのこと。対魔獣戦であれば威力よりも発動スピードを重視し、牽制として使うのが現代魔法の役割でトドメや致命傷を与えるのは剣や槍などの武器を使用するのが常識らしい。


「エルザが撃つとどうなる?」


 エルザはエルフニアの北街を防衛する際も魔法隊に入って戦闘を行える程の魔法使いだ。

 今は持っていないが、高名な魔法使いにしか与えられない杖――遺跡から発掘した第一世代型マナデバイス――を所持できるほどの腕前。

 

 エルザも的に向かって腕を上げ、ごにょごにょと呟いた後に炎の塊を創造する。

 創造された炎の塊はリゲルが作った物よりも2倍は大きく、案山子へ飛んで行くスピードも早かった。魔法が発動されるまでの時間もダントツで早く、杖を持っていれば即発動――ファンタジー小説でいうところの無詠唱――できるだろう。


 エルザの放った炎の塊が案山子の中央へ着弾すると着弾部分が丸くジュワリと溶けて穴を開ける。

 それを見たリゲル達や観客席の人達は大きく驚愕の声を上げ、学園教師らしき大人達は「流石だ」と言わんばかりに強く頷いていた。


 威力、スピード、発動までの時間は申し分無く、卒業生としての威厳を十分に見せることができてエルザも安心したのか笑顔で秋斗のもとへ帰ってきた。


「どうですか?」


 エルザの問いからは魔法への自信が伺える。


「うん。賢者時代でも4元素魔法といえばエルザくらいの威力が一般的だった」


 秋斗も笑顔で頷き、エルザの魔法を褒めた。

 しかし、リゲルとクラスメイト達は自分達の魔法威力が低いと言われたように思え、ガックリと肩を落として落ち込んでしまった。


「いやいや。君達も悪くない。魔法とはイメージだ。そして、威力は集めた魔素……現代では魔力と呼ばれているんだったか。それを如何に効率良く集められるかだ」


 秋斗は落ち込むリゲル達へフォローを行いながら、魔法への講義を始めた。秋斗が講義を始めると騒がしかった観客席も一斉に静かになって、秋斗の言葉に耳を傾け始める。


「君達は発動させたい魔法のイメージは完成されている。次に威力を上げるには威力の上がった魔法をイメージする。だが、威力を上げるには魔力が必要だ」


 威力や効果を高めようとすれば、それに比例して必要な魔素の量も増える。

 彼らがエルザと同じ威力を出せないのは集めた魔素量が少ないからだ。恐らくごにょごにょと何かを呟いている際に魔素を集めているのだろうが、そのごにょごにょ時間を増やせば威力は増える。


「しかし、そうなると発動までの時間が遅くなる。これは賢者時代でも直面した問題だった」


 魔素を集める時間が長くなれば利便性が低く、使うシーンが限られる。

 それでは魔法というモノを折角見つけたのにも拘らず、価値が低くなってしまう。


「そこで、賢者時代では魔力を集める補助道具を開発した」


 魔法をエネルギーとしての利用以外に、魔法の価値が低くならないよう開発されたのがマナデバイスだ。

 この発明によってエネルギーとしての価値、魔法を道具や日常に利用するという価値が確立された。


「マナデバイスとはエルザの持っている杖がそうなのだが、マナデバイスを使用して魔力を集めるとこうなる」


 秋斗は右腕を案山子へと向け、生体マナデバイスの貯蔵ユニットから適切な量の魔素を抽出してエルザと同じ威力の炎魔法を放つ。

 現代では無詠唱と呼ばれる現象を行使し、エルザと同じ威力の魔法を行使した秋斗へ訓練場にいる全員が驚愕の声を上げた。


「では、杖を持てば誰でも無詠唱で高威力の魔法を使えるのですか?」


 リゲルのクラスメイトである女性が挙手をしながら秋斗へ問う。


「いや、イメージは自身で補完しなければいけないから誰でもってわけじゃないかな」


 なるほどとリゲル達が頷く中、秋斗はエルザを見て次の言葉を発した。


「しかし、賢者時代の魔法技術にはさらに先がある」


「前に教えてくれた魔法の記憶、ですよね?」


 エルザは秋斗の言葉に対し、以前習った第二世代型マナデバイスから可能になった魔法記憶技術を口にする。


「そうだ。任意の魔法を予め記憶させ、イメージしなくても発動させる事が可能になった」


 現代には無い、失われた魔法技術を知った者達は驚愕しながら騒がしくなる。

 だが、これで終わりではない。


「しかし、魔法を記憶させるのも万能じゃない。記憶させる数には制限があるし、魔法の効果にバラつきもあった。記憶させるには専門技術が必要で誰でも出来ることじゃなかった」


 秋斗は一拍置いた後に再び語り始める。


「俺自身、その煩わしい状況を変えたかった。自由に魔法を創造し、自由に魔法を使いたい。そして開発したのが術式だ」


 秋斗はAR上にしか表示されない術式を皆が見えるように可視化させる。これも術式による魔法だ。


「4元素魔法である火、水、風、土。これを術式化させ、接続式というモノで組み合わせる」


 すると、風のカマイタチと水の塊が創造されて2種同時に魔法を発動させて見せる。

 

「他にも自分のオリジナル魔法を創造し、自分で考えた魔法を術式にして行使できるし、記憶した魔法を後からカスタマイズするのも可能だ」


 次は案山子へ剣の形をした雷を降らせて全体を黒コゲにする。

 その後にコンソール画面を可視化させて、エルザとリゲル達に見せた。


「あ、術式は賢者時代でも未発表の技術だ。発表する前に滅んだからな」


 勢いで重いワードぶっこんだ秋斗だったが、誰もが現代では到達できない技術に度肝を抜かれて唖然としてしまっていて話が耳に届いていなかった。 


「すごい……」


「なんという……」


 ある程度、事前に秋斗からマナデバイスや賢者時代の魔法技術について教えられていたエルザも実際に術式という技術を目にして言葉を失くしてしまう。

 リゲル達は何がなんだか理解できず、もはやついて行けない、といった状態だった。


「まぁ、そのうち魔法技術も術式に関してもヨーゼフ達へ教えてマナデバイスが開発されるだろう。でも、マナデバイスや術式があったとしても『イメージ』というのは魔法にとって一番大事なんだ。とにかくイメージを明確にする訓練を行うと良い」


 魔法を創るのもイメージ。威力を上げるのもイメージ。威力や効果を上げつつ、燃費を良くするのも発現したい現象への理解度とイメージだ。

 秋斗も師であるグレゴリーから暇な時はとにかくイメージトレーニングをしろ、と強く言われていた。


「なるほど。先程の2つ魔法を同時に撃つのもイメージですか?」


 エルザは秋斗のアドバイスに頷いた後に問いかける。


「あれは術式の同時起動だな。マナデバイス内に貯蔵されている魔素残量が十分ならば、2つ以上もできるぞ」


 そう言って、秋斗は2つだけでなく20の術式を可視化させてスタンバイさせる。


「こ、これ、全部いっぺんに発動するんですか!?」


「そうそう。もっと出せるよ。撃つと壁壊れちゃうかもしれないから撃たないけど」


 20の術式を自身の周囲に展開させていた秋斗だったが、さらに30追加して50個の4元素術式――どれも円の中に発現する魔法の文字が書かれたモノ――が浮かび上がる。

 簡単な4元素魔法であるならば50以上を同時に起動させるのも可能だが、もっと複雑な魔法となるとここまでは同時起動できない。

 

 特に工作魔法は精密な動きを要求するので魔素の使用量が意外と高く、魔素残量がフルであっても同時起動数は10程度に限られる。


「………」


 エルザとリゲル達以外にも観客席から見ていた生徒や教師達も、全員が言葉を失くしながら口を半開きにしていた。


「とまぁ、俺の魔法は道具に頼ったズルなんだよ。だから大して凄くはない」


 その道具を作れんのがおかしいんだよ、と誰もがツッコミたくなったがぐっと我慢。


「今すぐマナデバイスを作って配るのは無理だから、グレゴリーが教えていたトレーニング法を伝授しよう」


「ま、魔王様のですか!?」


 それを聞いた誰もが耳を傾け、教師陣に至ってはどこからかメモと羽ペンを取り出して準備万端だった。


「まず、魔法のイメージは文字に起こす。火の塊が出て当たると爆発、なんて感じにな。細かく詳細に書ければ尚良い。その次は文字に起こした魔法の絵を書く。十分にイメージが固まったら魔法として実戦するんだ。魔力を集めるのも、掌に『魔法の素』が集まるようなイメージを浮かべて練習しよう」


 これは魔王グレゴリーが賢者時代で、教育機関に入ってから初めて魔法の基礎を学ぶ8歳児向けに開発したトレーニング法で書店にはトレーニング法が図解付きで解説されている本まで売られているくらい一般的なものだった。


「早速、授業に取り入れます!!」


 賢者直伝のトレーニング法に教官も興奮しながら叫び、観客席にいる教師陣も勿論だと大声で叫んでいた。


「よぉし! このトレーニング法でもっと強くなります!」


 リゲルも握り拳を掲げてやる気十分。


「うん。まぁ、威力を上げて訓練場を壊さないようにと怪我には注意するんだぞ」


 安全対策も教えた方が良さそうか、と思いながら秋斗は教官も含めてまずは事故への注意を言って聞かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ