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98 閑話:エルフニア国営店


 エルフニア王都。


 現在、王が不在のエルフニア王都であるが全体の指揮を執っているのは大公家でもあるリリの父親のロイドである。

 彼は王城の誰もが有能と認めるほどの男で、王である兄が不在であっても問題無く国の舵取りを行っていた。


 しかし現在、彼の顔が引き攣るほどにピンチを迎えていた。

 彼の目の前には1000を越える人が長蛇の列を作り、人が生む喧騒がエルフニア王都に響き渡る。


「これは……どうする?」


「どうしましょう……」


 ロイドの立っている場所は国営商店前。取り扱う物は新規に開発された魔道具が主力商品の商店。

 その商店前でロイドは部下と共に、王都入場門まで続く長い列を見て絶望していた。


「在庫、300ずつしかありませんよ」


 部下から伝えられる在庫数(げんじつ)が耳に入って来ない。何か手を打たなければ間違いなく騒動へ発展する。


「スタートまで後1時間ある。少し考えよう」


 何故、こんな事になっているのか。

 

 それは、魔工師によって改良された新型機構搭載の魔道具がエルフニア国内で発売される日だからだ。

 本日は王都のみで先行販売される日であり、王都ではまず開発費の回収として国営商店で取り扱われる事となった。

 

 別の街で売られるのは2日後からというのもあってか元々王都住まいの者が並ぶのは勿論の事、先行販売を聞きつけた熱心な客がわざわざ王都まで足を運んだりと、朝から入場門の兵士から応援依頼が飛んで来る程に賑わっていた。


 今日のロイドは王城には向かわず住んでいる屋敷から直接、先行販売を行う国営商店に足を運んでいた為王都にやって来る人が多い状況を知らなかった。商店に到着後は店のバックヤードで商品の確認を部下達やヨーナスと共に行っていて、店の前に列を作る人の数を確認できなかったのだ。

 

 その後、店内に見本となる商品を並べようとバックヤードから出た際に、外の喧騒が激しいのに気付き今に至る。


「ロイド様。何かヒントになるかと思って、外の客に何故各街の販売を待たないのか聞いてきました」


「何と言っていた?」



 1 魔工師様の作った魔道具が欲しい。全種買う。



 2 たぶん初日に並んで買わないと英雄譚みたいに売り切れて手に入るのが来年とかになりそう。全種買う。



 3 王都住民です。全種買う。



 4 傭兵活動に便利な魔道具が出ると聞いて。全種買うと思う。



 5 魔工師様のファンなので全種類欲しい。観賞用、使用する用、保管用で3つ欲しい。


 

 全然ヒントにならなかった。特に5番目の意見は酷い。 


 今回売られる魔道具は『火起こし用魔道具 ライター』『携帯用給水魔道具 魔法の水筒』『氷製造機』の3つ。製作室が全力で作り上げたのが王都も含め各街に1商品につき300個ずつ。


 しかし、外には推定で1000人以上並んでいるし、お一人様各1つずつに制限しても全然足りない。

 住民達による賢者の人気は理解している。先行販売分は売り切れるだろうとは思っていたが、魔道具の価格はそこそこ高価な為に緩やかなスピードで売れて行くだろうと予測していたのだが。


「今日の日の為に給料貯めていたって人が多かったです」


 実は王都に設置した新型給水魔道具の使いやすさから住民達の反響が良く、本日発売を告知されていた魔道具も素晴らしい物なのだろうと住民達は密かに期待していたのだ。

 というか、賢者の作った魔道具――実際に作ったのは製作室メンバーで秋斗は設計しただけ――なのだから凄いに決まっている、世界が変わる、と思っている住民がほとんどであった。


 今回販売する魔道具の価格は金貨1枚から7枚の価格幅。金貨7枚ともなれば一般的な月収を越えているのだ。


 即完売で有名な英雄譚の価格は銀貨5枚。銀貨5枚の物であれば、大人数が買い求めて即完売なのは理解できる。それなのに、こんな強気の価格設定にしている高価な物にも拘らず節約してまで全種類買うという意見がほとんど。

 

「どうすりゃいいんだ……」


 ロイドは頭を抱えて悩む。

 そんな時、ポンと背後から肩を叩かれた。振り返れば髭を生やした男。ドワーフ族のヨーナスが1枚の紙を持ってニコリと微笑んでいた。


「安心してくれ。こんな事もあろうかと、事前に賢者様から販売方法を聞いておいた」


 ヨーナスは紙を見せながらグッとサムズアップする。


「おお、救世主よ!!」


 ロイドはヨーナスから受け取った紙を早速読み始める。


 内容は至って簡単であった。


 抽選にして当選者が買える。買えなかった客は予約制として予約用紙を渡す。

 他の街から先行販売目当てで来た客は王都で買えなければ自分の住む街で再び並ぶだろうし、そちらの街で対応。特に販売日が夏に近いため氷製造機を買い求める客は多いであろう、と注意書きが添えられている。


 後は気合で増産しろ、とありがたい賢者の言葉が書いてあった。

 

「開店までに全力で抽選券を作れ! 予約用の木札もだ!!」


 ロイドは部下や店員達に指示を出した後に、自らも抽選券作りに加わって開店準備を急いだ。



-----



「えー。本日は新型魔道具の先行販売に足を運んで頂き、誠にありがとうございます。並んでいるお客様にお知らせがあります」


 ロイドは開店10分前になると、遺跡から発掘された魔道具である拡声器を使いながら列を作る客へ声を掛け始めた。


「用意している商品には限りがあります。残念ながら全員が購入できる程の数はありません。今回の販売は抽選とさせて頂き、抽選に漏れた方は予約をして頂いて生産が済み次第後日販売となります」


 ロイドの告知を聞いた者達はざわざわと騒ぎ始めるが「しょうがない」や「そりゃそうだよな」「この人数じゃ仕方ねえ」などと好意的な意見が多い。

 そんな聞き分けの良い住民達にロイドはホッと胸を撫で下ろす。


「えー。では、これから並んでいる順に1ずつ抽選券を引いて頂きます。当たった方は店内に、外れた方は列からズレて下さい」


 ロイドがそう言うと、彼の横には抽選券を入れた箱を持った部下が立つ。


「では、1番先頭の方からどうぞ」


「はい。いざ!」


 一番先頭に並んでいたのは中年のオーク族男性。製作室のメンバーが急造した丸く口の開いた木箱に手を入れて、中に入っている三角にカットされた大量の紙片の中から1つ掴む。


「これだあああああ!!!」


 ハズレ。


「あああああああ!!!」


 オーク族の男性はハズレの文字を見て絶望しながら泣き崩れた。


「あ、あの。他の街から来てるならば、2日後に各街の国営店で販売が始まります。王都住まいであれば予約もできますから」


 オーク族の男性が醸し出す絶望感を不憫に思ったロイドの部下は、彼の肩を叩きながら告げる。


「王都住まいですうううう!! 予約しますうううう!!」


 オーク族の男性はだくだくと涙を流しながら、ロイドの部下へ縋りつく。


「おわあ! こ、こっちへどうぞ。商品の見本を見せながら説明しますので……」


 ロイドの部下は縋りつくオーク族の男性を予約客を対応するスペースへ誘導し始めた。


 次の人。


「当たりだああああ!!」


 列の2番目に並んでいた人族の青年が引いた抽選券は『当たり』と書かれた紙片であった。

 彼の喜びを聞いたロイドは手持ちベルをカランカラン、と鳴らして祝福する。 


「おめでとうございます。では、店内へどうぞ」


「ひゃっほおおおお!! パパはやったぞおおおお!!」


 2番目に並んでいた人族の青年は若いから新米パパなのかもしれない。

 彼は店内へ入って行き、店内にいる店員から商品の説明を聞いて購入する物を決め始めた。


 こうしてロイドは列を消化し始めた。



 .

 .

 .

 .



「あ、ありがとうございましたー!」


 朝から店を開店させ、今は既に夜と呼べる時間。ようやく全ての客を裁く事ができた。

 

「ああ……。ようやく終わった……」


 ロイドの部下が疲れ果てて床に座り込む。

 

「予想通りであるが完売か」


「そうだなぁ。さすが賢者様の考えた新魔道具だ!」


 ロイドとヨーナスも疲労困憊になりながら棚が空っぽになった店内を見渡しながら話し合う。

 どの魔道具も人気でライターや水筒は傭兵家業の者に人気で、氷製造機は一般家庭や料理関係の店を経営する住民、王都に拠点を持つ傭兵からも大人気で1番最初に完売した商品だった。

 予約も盛況で特に多かったのは、やはり氷製造機。今からの季節で、いつでも氷を作って冷たい水やジュースを飲めるのは魅力的だ。


「他の街も大変だろうな……」


 ロイドは各街の販売でも抽選券を用意するべきだ、と決めて街の領主達へ至急連絡を送る手段を考え始めた。


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