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97 ポンコツじゃない弟


 ソフィアの弟であるリゲルと初めてであった日の翌日。

 またしても秋斗の部屋には来客がやって来ていた。


義兄上(あにうえ)様! 義兄上様! お話を聞かせて下さい!」


 ソファーに座る秋斗の右に座り、話をせがんでいるのはイザークとエルザの弟で6歳になるアデル。


 アデル少年との出会いはレオンガルド王城で開かれた食事会で済ませており、その際に銀食器を術式で盾の形に変形させる魔法を見せたり、兄であるイザークとの旅の話を聞かせたらとても懐かれた。


 それ以降、廊下や食堂で会う度に「話を聞きたい」とせがまれていたのだが、重要な会議もあったので秋斗の予定が空くまでおあずけ状態になっていた。

 しかし、本日の予定が1日何も無い秋斗の部屋へイザークとエルザに連れられて、ようやくアデルの念願が叶ってテンション高めだ。


「にいたま。にいたま」


 そのテンション高めのアデルの反対側にはエリオットとカーラの娘であるクラリッサが座って、小さな手をゴキゲンな笑顔でパチパチと鳴らしながら「にいたま」と秋斗を呼ぶ。

 因みにそう呼ぶよう仕組んだのは母親のカーラだ。


 クラリッサとはエルフニア北街で出会いを済ませており、金貨を髪飾りに変形させてプレゼントして以降懐かれている。

 壁の設置をするべくエルフニアで一時別れたが、エリオット一家と共にレオンガルドへやって来たので再会を果たした。


 彼女もエルフニアで別れて以降会いたいと言っていたらしく、秋斗の予定が空いている日とエリオットの休日が重なった本日に狙いをつけて会いに行こうと秋斗の自室へと向かった。

 その途中でイザーク一行と出会い、一緒にやって来たのだ。


 アデルとクラリッサは許婚で、親同士の取り決めで将来を約束した仲だ。

 本人達も仲が良く、アデルはクラリッサの事を妹のように可愛がっているし、クラリッサもアデルを兄のように慕っている。

 まだ1歳半のクラリッサは許婚というモノを理解しているのか不明だが、アデルは既に理解しておりクラリッサを嫁として娶る事に反対はしていない。


 他人から見れば父親はイケメン、母親は美人と将来は超絶美少女に成長するのが目に見えてわかるほどの組み合わせから生まれたクラリッサを嫁として娶るアデルは『超勝ち組』と言わざるを得ない。

 クラリッサだけでなく、アデルもモテモテな兄に負けずこのまま成長すればイケメンになるだろう。

 将来有望な幼いカップルだ。 


「何の話が聞きたい?」


 秋斗も幼少期は孤児院で過ごした経験から、小さな子供の世話は得意な方だ。暮らしていた孤児院では自分よりも年下の子の面倒見るルールだったし、戦争に徴兵される前までは孤児院の最年長者として多くのチビッコ達の世話をしていた。


「北街でイザーク兄上様達を助けた話が聞きたいです!」


「ききちゃ~い!」


「そうか。北街ではな、俺と――」


 秋斗が北街での話を始めると、アデルは現代で本当に起こった英雄譚に目をキラキラさせながら熱中。

 クラリッサは話の意味を理解しているかは不明だが、秋斗の話を聞けた事とアデルが話を聞いて喜んでいるのを見て終始ニコニコ。


「可愛いですね」


「うちの娘、マジ可愛い」


 そして、そんな3人を見つめる保護者と秋斗の婚約者達。

 和やかムードな3人を特に熱心に見つめるのは、将来こんな家庭が築きたいと思っているソフィアと娘超絶ラブなエリオットだ。


「アデルもクラリッサちゃんと仲が良いし、問題無さそうだね」


 イザークとエルザは自分達の弟が既に許婚として決まっている相手であるクラリッサと仲睦まじく過ごす様子に安心しながら笑みを浮かべる。


(それにしてもアデル。ちゃんと姉の為に秋斗を義兄上と呼ぶとは……さすが僕の弟だ!)


 アデルが秋斗を兄上と呼ぶ理由。それはイザークがアデルに「エルザ姉様と秋斗が結婚したら秋斗は義兄上(あにうえ)になるんだけど、どう思う?」という言葉を聞いたからだ。

 正しくは叔父上だが、叔父と呼ぶには秋斗はまだ若い為に義兄呼び。


 彼はまだ6歳であるが同年代の子供と比べて頭が良い。王城で母から教育を受け、さらには色々な大人を見たり父親の仕事場をたまに見学している事もあるのだろう。

 特にアデルは王族として、母から「人が言う言葉の意味をよく考えなさい」とよく言われて教育されていた。

 

 そんな6歳児アデル君は兄の言う義理の兄になる相手をどう思うか、という質問からイザークの真意を探る。


 姉には未だ婚約者がいない。男嫌いと言われている姉が王城のパーティーで秋斗と仲良くお喋りしていた事。兄からの秋斗を義理の兄としてどうかという質問。


 むむむ、と王城にある自室のベッドの上で腕組しながら考えた結果――


(エルザ姉上様は賢者様が好きなんだ!!)


 ピコーン! とアデルの頭上に豆電球が浮かんだ瞬間だった。どこかのポンコツ弟エルフとは違って優秀な弟である。


 そして、辿り着いた答えを持ってイザークのもとへ。


「ふふ。アデルは本当に優秀な弟だ。エルザと結婚したらアデルは秋斗の事をなんて呼ぶんだい?」


「義兄上様です!」


「今からそう呼んでも……大丈夫じゃないかなぁ? 将来に向けての練習って事で呼ぼうね?」


「はい!」


 言い方は悪いが、イザークはアデルを利用して外堀から埋めていく作戦だ。


 全ては妹の幸せのために。


 こうしてアデルは秋斗を義兄上様と呼び始めたのだが、肝心の本人は「小さい子供の言う事だから」と気にもせず、真意に気付いていない。

 今この場で気付いているのはイザーク以外にはエルザとソフィア、リリ、エリオット夫婦だけ。


 オリビアはリリに尻尾をブラッシングされていて気持ちよさから天国に昇天中だ。


「ところで、義兄上様。王都の散策にいつ行くんですか?」


「ん? そうだなぁ。近いうちに行きたいな」


 以前、イザークが妻ナディアと部屋に来て『王都住民を賢者に慣らす為の顔見せ』作戦は行っている。しかし、それは多数の護衛騎士に囲まれながら外を短時間だけ散歩する程度。

 本格的な街の観光は未だしていなかった。


「だったら、エルザ姉上様に案内してもらうと良いですよ! 僕もたまにエルザ姉上様に街へ連れてってもらうんです! 前は美味しいお菓子が売っているお店に連れてってもらったんですよ!」


((( アデル!! ナイス!! )))


 6歳児の自然なハイパーアシストに数名の大人が心を1つにした。


「そうだね。エルザは最近まで学園にも通っていたから王都にも詳しい。秋斗、王都散策はエルザと一緒に行くと有意義に過ごせますよ」


 弟のアシストに透かさず言葉を重ねるイザーク。ニコリと笑って爽やかさも忘れない。


「そっか。ならエルザが良ければ案内してくれると助かるんだが」


 アデルとイザークの言葉を受け、秋斗はエルザに顔を向けて確認を取る。


「は、はい! 任せて下さい!」


 王子兄弟の推しもあって、秋斗から一緒に来て欲しいと提案されたエルザはほんのり頬を赤く染めながら了承する。


「ありがとう。予定を確認してお互い空いている時に行こう」


 秋斗はそう言った後、再びチビッコ2人と話し始める。


「……やったわね」


「はい……」


 計画が上手くいった事にカーラは小声で祝福をしながらエルザを肘でツンと突くと、エルザは頬をさらに赤らめて目を伏せながら喜びに浸る。


「アレクサ」


「はい、姫様。承知しております」


 やり取りを見ていたソフィアはアレクサへ『2人の予定を近日中に空けるように』という意味を含めて彼女の名を口にする。


 室内で皆の世話をしながら全てを見ていたアレクサもソフィアから自身の名を呼ばれた意図を理解して、胸元から手帳を取り出して最重要任務としてシュババッと手を高速で動かしてメモをする。

 この部屋の中には優秀な者が揃っている。


「ここ? ここが気持ちい?」


 ブラッシングするリリ。


「おふぅ……。リリ姉様、うまい……。おふう……」


 涎を垂らしながら昇天するオリビア。


「我が娘、マジ天使」


 自分の娘を見ながらイザークに娘自慢をするエリオット。


 この部屋にいる者は全員優秀なのだ。



-----



「グレン様。一部ですが、各国の騎士団から推薦された者達の経歴書が届きました」


 王城内に新設されたグレンの執務室では、机に向かって淡々と計画を練るグレンの姿と持っていた数枚の書類を机に置くジェシカの姿があった。


「ありがとう。どれどれ……」


 グレンは書き途中の『新設部隊用装備案』と題名の書かれた書類から目を離し、ジェシカの持ってきた経歴書の1番上を手に取って目を通し始めた。

 手に取った書類には名前と歳から始まり、身長や体重などの身体データと所属していた騎士団での経歴や戦果、得意な武器などが書かれていて、最後の欄には騎士団長から推薦した理由が添えられている。


 1枚、2枚……と書類に目を通していくグレン。

 戦闘経験が豊富で部下への指示出しにも慣れているベテランからまだ所属したての期待の新人など、様々な人材が推薦されている。

 推薦された人物達の年齢や所属年数にバラつきはあるが、騎士団長からの推薦理由にはグレンの要望する人材に適している特性が全て書かれていた。


 グレンの要望は2つ。

 厳しい訓練に耐えられる根性と協調性が高い、という事だ。

 正直な話、それ以外は特に重視していない。


 新設される特殊部隊には要求される作戦に応じた訓練を1から行うし、使用する武器や防具なども現代で使われている一般的な物とは言えない物を使う。

 今まで騎士団で経験してきた訓練とは全く違うものとなるし、扱う武器も道具も違う。訓練方法も現代式ではない。


 全員がゼロからのスタートだ。

 アークエル軍で軍人募集をする際に最も基本となる2つの要項を告げて集めてもらったが、過去にはいなかった異種族という要素もあり、集まった彼らが訓練後にどうなるかはグレンにも未知数であった。


「ジェシカ君はどう思う?」


 グレンは手に持っていた書類をジェシカへ手渡す。


「……この人はガートゥナの第一騎士団の小隊長ですか。第一騎士団はエリート揃いですし、指揮能力は申し分ないと思います」


「経歴もある程度重要だが、私としては異種族としての特性をどうするかが悩みどころだ」


 現代で暮らしているのは人間だけではない。異種族という個性が豊かすぎる(・・・・・)種で溢れている。

 異種族としての特性を上手く活かしつつ、弱点を埋める形で編成しなければならない。これらは上手く纏めないと部隊の足並みが揃わず、作戦遂行に支障も出るし、人としての不満も出るだろう。

 

 各国から提出してもらった現代に生きる全種族の特性や特徴の資料も貰っているが、特化されている能力が多すぎて困っているのが現状だ。

 特に魔人種は種族も多いので頭を悩ませる。逆に言えば人族は平均的で扱いやすく、獣人族は身体能力が優れている特性が多いので直接戦闘を行う部隊に配置しやすい。

  

「細かく兵科で分けるか」


「兵科?」


「第一弾で編成しようとしている実働部隊の編成には使わないが、戦争時に『防御科』や『魔法科』などと細かく部隊の班を作って……例えば防御科に所属するのは体格の大きいオーガ族。彼らに大盾を持たせて前線で防御線を構築してもらう。そして、彼らが防御する後ろから魔法が得意な種族に攻撃してもらうんだ」


 現代の基本戦術に似ているが、現代の騎士団に兵科という概念は無く人員配置は結構適当な面がある。


 レオンガルド騎士団を例に挙げれば、レオンガルドはケンタウロス族しか騎士団に異種族が所属していないのでケンタウロス族は自動的に騎馬隊。

 他は全員人族なので個人適正などはあまり重視せずに軽く模擬戦をした後に、模擬戦の際に特出した『何か』が無ければ人員の少ない隊から順に割り振られる。


 だが、東側を統一後はそうも言っていられない。

 軍は1つになり、異種族が交じり合って戦うのだ。そうなれば、部隊編成は重要なモノになるだろう。


「なるほど。種族特性で特化した部隊を編成するんですね」


「そういう事だ」


 他にも素早く背の小さいゴブリン族で偵察部隊、尋問部隊として心を読む能力を持ったイービルアイ族による部隊、先程例に挙げた魔法隊は魔法使いとしての強い適正を持つ種族のサキュバス・インキュバス・妖狐などだろうか。


「特殊部隊以外の編成は統一後でしょうね」


「そうだな。現在進行中の計画が落ち着いたら少数の試験部隊から始めるか……」


 グレンはたった今決まった案を紙にメモしていく。


「あ、そうでした。彼らは来週にはレオンガルドに到着しますが、大丈夫ですか?」


「問題無いよ。全員が揃ったら早速始めよう」


 ジェシカの問いにグレンはすぐさま頷く。


「秋斗様達と水遊びしないで良いんですか?」


 ジェシカは仕事熱心なグレンに対し、気になっていた事を投げかける。 


「この歳で水遊びをしてもな……。秋斗は婚約者達とのコミュニケーションの一環だろうし。むしろ、君は行かなくていいのか?」


 グレンの問いにジェシカは少し困ったような表情を浮かべる。


「私も姫様の護衛任務はしばらくありませんし。むしろ、姫様に付いて行くと独り身の寂しさが刺激されて……」


「ならば独り身同士、留守番といこうか」


「そうしましょう」


 グレンとジェシカはお互い顔を見合わせた後に苦笑いを浮かべた。

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