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96 原因とポンコツ


 秋斗が大遺跡で頭を押さえながら突然苦しみだした翌日、グレンは朝食を摂るために食堂で着席していた。

 メイド達の配膳が終わるまで用意されていたレオンガルド王国で週1回発行されている新聞( のような情報紙 )に目を通しながら待っていると、食堂の扉が開かれる。


「おはよう」


 食堂の扉を開けて現れた秋斗は、室内にいるグレンを見つけるといつも通り朝の挨拶を告げる。秋斗の後ろにはリリとソフィアが同行していて、一緒に食堂の席へ座った。


「大丈夫なのか?」


 昨日の秋斗の苦しみようとその報告を受けた城内の騒然さを見たグレンとしては当然の台詞だろう。


 秋斗を背負って大遺跡から戻るとまずは城門警備をしていた兵士が大騒ぎ。その後に城内が伝染するように大騒ぎ。


 報告を受けたレオンガルド王フリッツは大慌てで医療院から院長を呼び出して秋斗の診察をさせた。

 汗まみれになりながら大急ぎで走ってきた院長が診察するも原因不明。本人の頭痛がするだけだ、という言葉を信じて頭痛に効くと言われるハーブを処方。


 秋斗は処方されたハーブを煎じたお茶を飲みつつ、ソフィアから身体回復促進の魔法を受けながらベッドで朝まで寝ていた。

 朝起きてみると頭痛は止まっており、どこか別なところが痛いなどという事もなかったので日常に戻って今に至るわけだが――


「なんで頭が痛くなったんだ?」


「いや、それが……」


 秋斗の中で思い当たる原因はグレゴリーのメモだ。

 あのメモに書かれた内容を考え、彼の残した文字からナニカ(・・・)を探ろうとすると頭痛が起きる。


 原因が特定できたのはグレンに背負われてベッドに運ばれ、診察を受けた後であった。頭痛に効くというハーブティーを飲んで少し頭痛が治まってきた頃に、もう一度頭痛が起きる前まで考えていた事を考え始めると再び頭痛が強くなった。

 

 頭痛が始まると痛みで頭が割れるかのような苦痛に襲われて思考を強制的に中断させられる。まるで、グレゴリーの残したメモから導き出されるモノ(・・・・・・・・)へ至らせないように。


 その事をグレンに伝えると、彼は眉間に皺を寄せながら頷く。


「なるほど。グレゴリー博士が何かに気付いたが、それが頭痛の原因かもしれないというわけか」


「ああ。……ッツ」


 秋斗が詳しく語ろうとすると、再びピリッと微弱な電流が流れたような痛みが秋斗を襲う。


「考えるのはやめておけ。原因は特定できたかもしれないが、対処法が無い現状では頭痛が起きる先に何が起こるかわからん。無理をして脳をやられた、なんて事になったらマズイぞ」


「わかった……。お前もやめておけよ」


 グレンの言葉に顔を痛みで顰めながら頷き、グレゴリーの残したメモの内容を知っているグレンに警告する。警告されたグレンは「そちらを考えずに、騎士団の件だけ考えておく」と真剣な表情で返事を返した。


 そんなやり取りをしていると、秋斗の左右に座るリリとソフィアは秋斗の手とふとももに触れながら身体回復促進の魔法を発動させる。


「グレンの言う通り、対処法がわかるまでは考えるの禁止」


「無理をしてはいけません。秋斗様に何かあれば、皆が心配しますよ」


 秋斗が素直に2人の言葉に頷くと、傍に控えていたアレクサは頭痛に効くハーブティーを秋斗の前に配膳してくれた。


「わかっているよ。俺も今は魔道具の件だけ考えておく」


 アレクサの淹れてくれたハーブティーを飲みながら心配する2人へ返答した後に配膳された朝食を4人で摂った。



-----



「というわけで、研究所は敷地内の空いている場所に建てようと思う」


 朝食後、リリとソフィアと別れて会議室へ。自分の無事を知らせるついでに王達とヨーゼフが集う会議に出席して昨日起きた出来事を彼らに全て話した。


「そういう訳でしたか。確かに、グレン様の言う通り対処法が無い今は危険を冒さぬ方がよろしいでしょう」


 フリッツは秋斗から昨日の騒動について聞き終えると、グレンの意見に同意を示す。


「大遺跡も歴史的建造物と認定されていますからね。出来るだけ残した方が良いでしょうし、頭痛の対処法がわかったら再び調べる事もできるように現状維持ですね」


「うむ。空いている場所ならばこちらで選定しようか?」


 ルクスとヨーゼフも秋斗の意見に賛同しながら話を進める。


「いや、後で俺がもう一度選定してくる」


「わかった。建設準備を始めるのは早い方が良い。できれば、来週までに場所の選定と建設する研究所の詳細を教えて欲しいのだが大丈夫か?」


「了解。欲しい間取りを書いてそれを渡すよ」


 ヨーゼフと研究所について話を進め、他の王達とも今後の予定を確認して会議は終了。


 席を立ち、部屋に戻ろうとしたところでルクスにソフィアの居所を問われる。この後に合流する予定だったので一緒に行こうと返答して一緒に会議室を後にした。

 

 ルクスと共に世間話をしながら秋斗の自室へ続く廊下を歩いていると――


「父様! ここにいましたか!」


 背後から若い声が廊下に響き、ルクスと背後を振り返ると若いエルフの青年――見た目は15歳程で人族よりも特別若く見える――が立っていた。

 廊下の先から声を掛けたであろう若いエルフ青年は秋斗とルクスを直視しており、自分達に声を掛けたのだと認識できる。


 だが、秋斗に息子はいない。

 という事は彼の言う『父様』という相手はルクスになるのだが、肝心のルクスは相手が誰だかわからない、といった表情で頭に疑問符を浮かべている様子。

 しかし、それも一瞬の出来事でルクスは青年を思い出したのかすぐにハッとなって返事を返した。


「お、おお。我が息子、リゲル。久しいな。元気だったか?」


「今、僕の事忘れてませんでしたか!?」


 廊下の先から父親の様子を見ていたリゲルという青年は、近づいてくるなり父親の態度に疑いの叫びを上げる。


「まさか。息子を忘れるわけがなかろう。うん。うん」


「ですよね! 忘れてませんよね! と、こちらの方は?」


 微笑ましい(?)親子のやり取りに何も口を出さず横で見ていた秋斗であったが、リゲルが父親と共に並ぶ存在に気付いて問いかける。


「こちらは偉大なる賢者様。御影秋斗様だ」


「――ッ! 失礼致しました! お会いできて光栄です! 賢者様! いえ、義兄(にい)様!」


 リゲルは父親から賢者を紹介されると、瞬時にその場に跪いて頭を下げた……と思いきやすぐに顔を上げ、目をキラキラとさせながら秋斗を義兄様と呼んだ。

 

 ソフィアからは弟がいると聞かされていたし、ルクスが息子と呼ぶのだからリゲルはソフィアの弟なのだ、と秋斗も一連の流れで理解した。

 リゲルとは初めて会うが秋斗を『義兄様』と呼んだので、ソフィアとの関係は既に何らかの形で知っているのだろう。


「初めまして、だな。御影秋斗だ。よろしく」


「はい! 僕のことはリゲルとお呼び下さい!」 


 秋斗はリゲルを立ち上がらせた後に握手を交わす。


「今から秋斗様とソフィアのところへ行くんだ。リゲルも来なさい」


「わかりました」


 ルクスの言葉に頷いたリゲルも伴って、3人でソフィアの待つ秋斗の自室へ向かった。



-----



「秋斗様おかえりなさいませ。あら? お父様も。と、そちらは……?」


「弟のリゲルだよ!?」


 秋斗が自室の扉を開き、2人を招き入れた直後であった。

 父親同様、姉にも存在を忘れられるリゲル。父親はすぐに思い出したが、姉は容赦の無い態度。


「ふ、ふふふ。忘れていないわ。冗談よ。冗談。久しぶりね」


 口元に手を当ててお上品に笑うソフィア。


 しかし、実の弟に向かって小声で「誰でしょう? 見た事があるような」と漏らしたのを秋斗は聞き逃さなかった。

 影が薄いのか、それともレオンガルドへ留学していると聞いていたので留学期間が長くて忘れられたのか。秋斗的には前者だと思いたい。


 因みにリリはリゲルという単語が聞こえてくるまで終始首を傾げていた。


「ソフィア。この書類が秋斗様の屋敷に関するやつだ。目を通しておいてくれ」


「わかりました」


 ルクスの用件は近いうちに建てる屋敷の件だったようだ。

 

 新しく建てる御影邸の間取りなどは全てソフィアに一任されている。これは秋斗も他の婚約者達も了承済みで、理由は現代生活における多くの家事をこなせる者がソフィアしかいないからだ。


 勿論屋敷にはメイドであるアレクサや他のメイドも常駐する予定なのだが、彼女達は仕える主人の屋敷に口出しはできない。仕える主人達が暮らしやすい屋敷を建て、どんな構造をした屋敷であっても完璧に仕事をこなすのが彼女達メイドの役目だからだ。


 それ故に、ある程度メイド達の動きやすさや家事のしやすさを考慮にいれたい、という気持ちもあって花嫁修業で家事を学んだソフィアが考える事になった。


 ソフィアも自分達と旦那が永く暮らす屋敷となれば気合を入れて考えている。ソフィアに任せると話が纏まった日からノリノリで考えた間取りなどを紙に描いて皆に披露していた。


「リゲル。学園はどうだ?」


 全員でソファーに座り、お茶を飲みながら雑談へ。

 話題は娘への用事が済んだルクスが提供し、息子の近状報告を聞くべくリゲルへ話を振った。


「色々学べて楽しいですよ。昨日までの魔獣討伐授業は大変でしたけど……」


 リゲルの話ではレオンガルド王立学園のカリキュラムには一般教養や政治に関わる事が主で、運動系の授業として剣術などの武術を学ぶ。


 魔獣討伐も課外活動の一環として行われ、王族や貴族など上位に立つ家の出身者も有事の際は先頭に立って戦うので教師や学園に雇われた傭兵のサポートを受けながら生徒主体で戦う。

 

 といっても、最初は低等級の魔獣が相手で生き物との戦闘に慣れる為の意味合いが強い。卒業間際の高学年の者になれば、C等級魔獣と3人チームで戦う授業もあるようだがリゲルは卒業まであと3年あるのでまだ先の話。


 因みに学園は教会で行われている基礎課程を卒業した10歳から入学可能で、入学から卒業までは5年間。リゲルは今2年生。


「技術系の学び舎を作る為にも一度学園に見学に行きたいなぁ」


 現代にある学園を見学し、どのような建物があるのか、どのような授業風景なのかを確認するのは大事だろう。

 秋斗にとっても、現代にとっても技術専門の学園創立なんて事は初めての試みなので、なるべく現代様式を参考にしつつ認知・認識されやすい体制を作るのが望ましい。


「え!? 義兄様が来て下さるんですか!? いつですか!?」


 そういった意味でポツリと呟いた秋斗であったが、呟きを聞いたリゲルは目からキラキラを大量に飛ばして大興奮。


「うーん。いつだろう?」


 秋斗はルクスに顔を向ける。


「会議の進み具合にもよりますが、本格的に創立計画が始動するのは9月前じゃないですかね?」


 ルクスは現在開かれている王会議の進行具合を思い浮かべつつ予定を告げた。


「クラスメイトと楽しみにしています! いやぁ、あの妄想好き(・・・・)引き篭もり(・・・・・)な姉様がようやく結婚するのも嬉しい事でしたが、今日は嬉しい事がいっぱいだなぁ」


 ニコニコとしながら告げるリゲルであったが、彼の発言を見逃さない者が1人。


「リゲル? ちょっとお話しましょうね?」


 ふふふ、と笑いながら弟を見つめるソフィアであるが目は笑っていなかった。

 ソフィアはスッと立ち上がった後に、ソファーの一番端に座っていたリゲルの腕を掴んで廊下へ。


「え……?」


 静かに笑う姉に腕を掴まれながら連れて行かれるリゲルは訳がわからない、といった表情を浮かべていたが、部屋を出る頃には姉がキレている事に気づいて顔を真っ青にさせながらぷるぷると震えていた。 

 

「………」


 2人を黙って見送った後にチラリ、とソフィアの父親であるルクスに視線を送る秋斗。


「ははは。姉弟仲が良くて。ははは」


 視線を向けられたルクスは笑いながら首を振るだけだった。


「リゲルは昔から思った事をすぐ口に出すポンコツ。空気も読めない時があるから注意」


 リリはそんな事を言いながらテーブルに置いてあったお菓子をもきゅもきゅと食べていた。

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